緑陰随筆特集

サントリーホールでの“モーツァルト・レクイエム”から
“ヴェルディ生誕200年記念コンサート”まで
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科
腫瘍学講座 人体がん病理学 教授      米澤  傑
 
 2008年8月の「鹿児島市医報:緑陰銷夏号」に,「私の歌との関わりあい−これまで,いま,これから−:参照HP-1」を,昨年8月の「鹿児島市医報:緑陰銷夏号」に「私の歌との関わりあい−その後−:参照HP-2」をご報告いたしました。今回は,その後日談から今後の音楽活動をまとめてみます。
 昨年は,夏から秋にかけて,8月26日から10月24日までの2カ月間に10回のコンサートで歌うというコンサートラッシュでした。おかげさまで全てが無事終了しました。その後,12月7日に宇都宮で歌い,「第九」で年を越しました。
写真 1 昨年9月13日に開催された
サントリーホールでのコンサートのお知らせ


 上記の10回のコンサートのちょうど中程,昨年9月13日にサントリーホールで開催されました「難民を助ける会」主催のチャリティーコンサートでの「モーツァルト・レクイエム」のテノールソリストで,大好評をいただくことができました(写真1,参照HP-3)。
 このコンサートには,皇后陛下がご来臨になり,終演後に,貴賓室におきまして,皇后様から直接お言葉を賜り,大変なお褒めをいただくという至高の光栄を賜りました。皇后陛下は,サントリーホールの貴賓室で,30cmの至近距離でお声をおかけくださいました。「すばらしいお声で」というお褒めをいただきました上,皇后様との面会にあたり,前もって宮内庁に提出いたしておりました私のプロフィールもすでにご存じでいらして「お医者様でいらっしゃるのですね」というお言葉もおかけくださいましたので「鹿児島大学医学部で病理学の教授をいたしております」とお答えしたところ,主催者の会長ご夫妻から「学問の面でも大変なご業績で」と紹介くださいましたので「日本病理学賞をいただき,がん発見の目印になるがんマーカーの研究論文で日本人トップの世界第6位になりました」とちゃっかり宣伝をしました。「いつ練習をなさるのですか」とのお訊ねもありましたので「ふだんは大変忙しいので週末だけの練習です」と現実をお伝えしました。なお,すでに,私のCD「誰も寝てはならぬ/米澤 傑 テノール・オペラアリア集(G. ステーファノ指揮・ソフィア国立歌劇場管弦楽団)」や,私が主役のカラフ王子を演じています「トゥーランドット」(ベリオ版・日本初演,全3幕,総監督:畑中良輔,指揮:若杉 弘,演出:栗山昌良)のDVD等をご献上用に主催者にお渡ししてありましたので(さすがに直接の手渡しは,警護のシステム上できないとのことでした),「私のCD等をお預けしてございますので,どうぞお楽しみください」と申し上げました。
 指揮者やソリスト一人ひとりと大変丁寧にお話をしてくださいました後,お帰りの前には,再度,一人ひとりにお声をかけられ,私は「くれぐれもお身体をおだいじになさり,ますますご活躍ください」との旨のお言葉を賜りました。
 皇后様は,とても生き生きしていらして,表情も豊かで,お声も芯のあるよく通る綺麗なお声で,私は,つきなみな表現ですが「とてもステキな女性」という言葉がぴったりと感じました。そして,すなおに「日本のお母さん」と感じました。
 私をソリストにご推薦くださいました高名な音楽評論家の先生から,以下のメールをいただきました。
  
米澤 傑先生
 素晴らしいコンサートでした。
 関係者の一人として,最高の感激でした。
 それにしても,米澤先生の歌唱力にはいまさらのように驚倒しました。言葉は良くないのですが,「プロ殺し」です。
 最近,上杉先生もバッハの平均律クラヴィーア曲集第一巻のCDをリリースされ好評を得ておられますが,プロの音楽家のお世話係である私に言わせますと,「神様は不平等」の一語に尽きます。でも,これはどうにもならない遺伝子レヴェルの話ですね。
 またお目にかかり,超人的な歌唱に触れることの出来る日を楽しみに致しております。
 奥様によろしくお伝えください。
  
 また,私のまったく存じ上げない音楽愛好家のインターネットサイトに,「モーツァルト・レクイエム」に関する詳細な論評が書かれていました。以下はその抜粋です。
  
【音楽は人々をひとつにする】
 魂の入った演奏は,人々をひとつにする。そこには皇后陛下のような日本国民の象徴にして,日本国民統合の象徴という不思議な存在もいらっしゃれば,私のように,社会のなかで問題にならないほど下賤なる者もいた。その間には様々なる階層,年齢,社会的背景をもった人々が,たくさん詰めかけていたはずだ。しかし,少なくとも,ここに流れた音楽の前では,そうしたちがいは何程のものでもない。歌い手,そして,それを支える音楽家の伝えようとするメッセージに対して,皆が必死に耳を傾けているだけだ。そして,私たちはきっと,同じようなものをこころのなかに拾って帰ったにちがいない。
 モーツァルトの『レクイエム』K626の演奏は,もう,しばらくは他では聴きたくないと思わせるほどの,素敵な演奏であった。
(中略)
 なお,正真正銘のプロである4人のソリストは,声楽アンサンブルに安定感をもたらして素晴らしかった。ソプラノの澤畑恵美と,テノールの米沢 傑が特に優れた歌唱を聴かせ,特に鹿児島大で癌のリサーチをしていたドクター出身の,米沢の声が凄い。彼はその気になれば,堂々,ひとりでアンサンブルを引き上げるようなアクションをすることも可能だろうが,そこは抑えて,全体をどう持ち上げるかというアイディアに知恵を絞っていたようにみえる。バリトンの河野克典だけは清らかな歌声だが,低音がいかにも弱かった。
  
 「同じホームページのツィッター欄」に,以下の書き込みもありました。
  
 ソリストも素晴らしかったが,以前から評判も芳しかった米沢 傑さんのテノールをはじめて耳にした。彼の歌声の美しさは,ハッキリ抜きん出ているけれど,アンサンブルのなかでは出すぎずに,どうやって周りの表情を生かすかということを優先しているようだ。この声で,オテロでも聴いてみたいところ。
  
 とのことで,大変ありがたい「第三者評価」もいただけているようで,安堵いたしました。ただ,私は「鹿児島大で癌のリサーチをしていたドクター出身の,米沢・・・」と書かれていて,もう医学部教授からテノール歌手に転向したように,この筆者には思われていて,痛し痒しです。
 最近は,このように,一回一回のコンサートについて論評されますので怖いものがあります。でも,人前で歌うということは,それだけの「覚悟」を持って,ということかと思っております。
 その2週間後の9月28日(金),鹿児島県民交流センターでの「米澤 傑・悦子デュオコンサート:ミュージカル・映画音楽・カンツォーネ」でも大好評をいただけました。なお,このコンサートには,札幌,富山,千葉からもお客様がお越しくださいました。
 10月4日(木)には,京都での国際膵癌シンポジウムで,高名な膵癌研究者のお名前を冠した「Daniel S. Longnecker Lecture」という招待特別講演を無事に終え,講演後には,全員の前で顕彰の楯も贈呈いただき,沢山の質問や問い合わせ,共同研究の申し込みをいただきました。10月5日(金)の夜にはテノール歌手に変身し,同シンポジウム主催の「Vocal Music Concert」で家内と共演しました。プログラムの6曲のあと,4曲のアンコールを歌うほど盛り上がりました
 10月7日(日)大阪「中之島国際音楽祭2012:参照HP-4」での「米澤 傑 テノールリサイタル」でも,「冷たき手を」のHi-Cや「誰も寝てはならぬ」のVincero!もきっちりと決まり,「ブラボー」と「キャーッ」という黄色い声援を沢山いただきました。
 今年になりましてからは,2月中旬に「第19回チャールズハイデルベルガー国際がん研究シンポジウム:参照HP-5」を開催いたしました。現在の抗がん剤の基礎であり,今も医療の最前線で使用されている抗がん剤の「5FU」を発明なさったチャールズハイデルベルガー先生のお弟子さんを中心に,世界的な研究者が,鹿児島大学医学部に集結しました。
 私と家内は,2月13日のホテルでのVIPのお出迎えに始まり,私は,14日〜16日までの国際シンポジウム本体と,16日午後の関連市民公開講座で,鹿児島大学医学部の会場にへばりつき,家内は,奥様方を案内し,鹿児島の素晴らしさを紹介する役にまわりました。
 13日の夜のウエルカムパーティに始まり,14日の居酒屋での肩の凝らない夕食,15日のバンケットでは,フランス料理のフルコースに,私どもの歌という「高級ディナーショー」に,皆様大満足でした。まず,乾杯のご発声の直後に「乾杯の歌」の二重唱,しばらくお食事をしていただいてから,「誰も寝てはならぬ(伊語):傑」,「踊り明かそう(英語):悦子」,「君は我が心のすべて(独語):傑」,「アメージングレース(英語):悦子」と歌い,お食事を進めていただき,その後,「グラナダ(スペイン語):傑」,「メリーウイドウワルツ(日本語で):二重唱」を歌い,アンコールに,「オーソレミオ(伊語):傑」と「禁じられた音楽(伊語):二重唱」で,全員総立ちのスタンディングオベーションでした。国際学会のホスト夫婦が,メインバンケットの歌手も兼ねるというのはめずらしいかもしれません。リハーサルなしの,会議場からの「ジャンピング・オン・ステージ」でした。
 17日の日曜日には参加者全員で,知覧武家屋敷ならびに指宿の砂蒸し温泉を楽しみ,その夜にはコアメンバーによる国際組織委員会を伝統的な薩摩料理のお店で行い国際シンポジウムを締めくくり,ご出席の皆様から「パーフェクト」とのお褒めをいただきました。
 皆様大満足でそれぞれのお国へお帰りになり,以下のような御礼と賛辞のメールを世界中からいただきました。
  
The opera singing by you and your wife and the piano accompaniment was fantastic.・・・Overall, this was one of the very best Heidelberger Meetings that I have attended.
  
I want to thank you for arranging one of the best Heidelberger Symposia ever. It had a most outstanding scientific program. I understood that the meeting lead to a number of collaborations, which is the best indication of a successful scientific event. The organization and social program could not be better. We all loved the feasts and the performance of the Yonezawas. Future Symposia will have a hard time to compete with such an organization.
  
 さて,最近,紀伊國屋書店から出版されました「日本の演奏家」という本に,私も「医学者,声楽家(テノール)」として掲載されています。小澤征爾さん,辻井伸行さんをはじめ日本のクラシック演奏家1,401人の全貌が収録されており,三浦 環,藤原義江,立川清登,東 敦子,畑中良輔,岩城宏之,朝比奈隆,斎藤秀雄,山本直純,山田耕筰・・・といった日本の音楽史を飾る先人も併せて収録されていて,“日本のクラシック演奏家の歴史書”のような側面もある本です。そのような中に,どうして私も掲載されるようになったかは良く判りません。なお,私の最新のプロフィールの抜粋を表1にまとめます。
 本年もこれまでに,鹿児島大学医学部創立70周年・西洋医学開講150周年記念祝賀会や,札幌での第102回日本病理学会総会の最終日6月8日の「日本病理医フィル」の演奏会(写真2)を含め,すでに5回の演奏を終了しました。今後,鹿児島では,今年の9月28日(土)に「ヴェルディ生誕200年記念コンサート:参照HP-6」で,椿姫,リゴレット,アイーダ等を歌います(写真3)。

表 1 米澤 傑のプロフィール
 鹿児島大学医学部卒業,同大学院医歯学総合研究科人体がん病理学・教授。松本美和子氏他に師事。日伊コンコルソ入選,太陽コンコルソ・カンツォーネ・イタリアーナ優勝,日本クラシック音楽コンクール第1位グランプリ。蝶々夫人やカルメンの主役,第九,メサイア,ヴェルディ「レクイエム」,ロッシーニ「スタバト・マーテル」,NHK「第九をうたおう」(井上道義指揮)等のソリスト。ルーマニアで「最高のテノール」,東京紀尾井ホールで「マリオ・デル・モナコの声を持つ医学部教授」と話題になる。イタリアの世界的テノールとの共演や,イタリア(G. プロイエッティ指揮)と日本(若杉弘指揮,ベリオ版日本初演)での「トゥーランドット」カラフ王子で大絶賛を博す。NHKのFM名曲リサイタル,芸術劇場,ラジオ深夜便に出演。2012年4月「日本病理医フィルハーモニー第1回演奏会」(横浜みなとみらい大ホール)で大好評を博し,2012年9月,皇后陛下のご臨席を賜り,東京サントリーホールで開催されたモーツァルト「レクイエム」のソリストを務め大成功をおさめる。2010年病理学会で最も名誉ある「日本病理学賞」を受賞。2001年〜2010年の各種がんマーカー等の論文の著者世界ランキング第6位(日本人トップ)にランクイン。CD「誰も寝てはならぬ/米澤 傑 テノール・オペラアリア集(G. ステーファノ指揮・ソフィア国立歌劇場管弦楽団),検索:楽天市場 米澤 傑」。


  
写真 2 本年6月8日に開催された日本病理医
フィルのコンサートのお知らせ

写真 3 本年9月28日19時開演,「サンエール
かごしま」での「ヴェルディ生誕200年記念コン
サート」のお知らせ


2次元バーコード

〈参照HP-1〉

〈参照HP-4〉
http://www.city.kagoshima.med.or.jp/ihou/558/558-3-8.htm http://harvestconcerts.jp/nakanoshima/index.html

〈参照HP-2〉

〈参照HP-5〉
http://www.city.kagoshima.med.or.jp/ihou/606/606-7.htm http://www.ch-symposium2013.jp/

〈参照HP-3〉

〈参照HP-6〉
http://www.aarjapan.gr.jp/join/event/2012/0913_919.html http://www.kufm.kagoshima-u.ac.jp/~byouri2/staff/yonezawa/img/flyer.pdf



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