緑陰随筆特集
私 の 歌 と の 関 わ り あ い
−これまで、いま、これから− |
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鹿児島大学大学院医歯学総合研究科
先進治療科学専攻腫瘍学講座人体がん病理学教授
米澤 傑
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「私の歌との関わりあい」の“これまで(過去)、いま(現在)、これから(未来)”について、総説論文風にまとめてみました。
1. これまで
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図 1. CD「誰も寝てはならぬ / 米澤 傑 テノール・オペラアリア集」(ジョヴァンニ・ディ・ステーファノ指揮・ソフィア国立歌劇場管弦楽団)。これまで、タワーレコードのウイークリーチャートで3回第1位になりました。鹿児島では「十字屋CROSS」で販売されています。下記タワーレコードのサイト(「米澤傑タワーレコード」で検索)でも購入可能です。
http://www.towerrecords.co.jp/sitemap/CSfCardMain.jsp?
GOODS_NO=774579&GOODS_SORT_CD=102 |
中学3年生の時、音楽の先生の「下命」により、非積極的に歌うことを始めてからもう40年以上になります。高校生の時の「気まま」に歌っていた頃を経て、鹿児島大学医学部の2年生から本格的に声楽の訓練を始め、30歳代前半でオペラ「蝶々夫人」や「カルメン」の主役を演じ、30歳代半ばで、「かごしま県民第九」のソリストをしたことが縁となり、高名な指揮者・井上道義氏(現在、大河ドラマ「篤姫」のテーマ音楽の指揮者として、毎週日曜日にお名前が出ます。)に登用され、全国放送であるNHK教育テレビ「第九をうたおう」にソリストとして出演したのをきっかけに、全国各地や海外の演奏会でも歌うようになりました。故郷・徳島県鳴門市の「第九」のソリストをした折(鳴門市は、松平 健さん主演の映画「バルトの楽園」でも紹介されたように、ベートーベン「第九」の日本初演の地であり、「第九」愛好者の聖地となっています。)、共演した世界的ソプラノ歌手・松本美和子氏(3大テノールのホセ・カレラスさんをはじめ世界的に高名な音楽家と共演されています。)から、本気で「イタリアでのテノール歌手としてのデビュー」を勧められた頃から、自分も少しは歌えるのかなと思い始め、世界的に著名な指揮者や音楽家と一流の劇場で共演するようになり、ヨーロッパで録音した本格的CD(図1. CD「誰も寝てはならぬ / 米澤 傑 テノール・オペラアリア集」(ジョヴァンニ・ディ・ステーファノ指揮・ソフィア国立歌劇場管弦楽団)をリリースし、最も壮大で最も難しいオペラの一つである「トゥーランドット」の主役・カラフ王子を、イタリアと日本で演じることまでしてきました(図2. 神奈川県藤沢市でのオペラ「トゥーランドット」の舞台写真。舞台装置だけで8,000万円、総額は億単位の費用のかかったオペラです。図3. オペラ「トゥーランドット」のDVD)ここまでが、私の歌の関わりの「これまで」です。(表1. 米澤 傑(テノール)の音楽プロフィール)
2. い ま
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図 3. オペラ「トゥーランドット」のDVD。
鹿児島では「十字屋CROSS」で販売されています。 |
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図 4. 米澤傑・米澤悦子ジョイントリサイタル
(チケット:十字屋CROSS・山形屋プレイガイト) |
本年9月19日鹿児島でのジョイントリサイタル「SEKISUI HOUSE MUSIC SALON」(鹿児島県民交流センターホール。ソプラノ:米澤悦子との共演。ピアノ:渋谷順子。企画:アート音楽企画株式会社)(図4. 米澤 傑・米澤悦子ジョイントリサイタルのポスター)の準備におおわらわです。正直申しますと、この「総説論文」は、このジョイントリサイタルで、できるだけ多くの方々に私どもの歌を聴いていただきたいという気持ちで書いております。
3. これから
9月19日の米澤 傑・米澤悦子ジョイントリサイタルの後は、2008年だけでも下記のような演奏予定で、年末の「第九」まで一気に行ってしまいそうです。来年はじめのコンサートから、そろそろ来年の年末の「第九」のソリストのお話もいただいています。
●10月10日名古屋音楽大学での公開講座(昨年は、ピアニストの仲道郁代さん等が担当。米澤は“歌ってお話をして”という企画。)
●10月19日鹿児島県東市来でのコンサートへのゲスト出演
●「平成20年度徳島県民文化祭」のテノールソリスト:11月1日むらさきホール(徳島文理大学内)、11月8日海南文化会館、11月9日池田総合体育館。11月1日は、秋山和慶氏の指揮、11月8日と9日は、増井信貴氏の指揮で、徳島交響楽団+東京交響楽団との共演で、瀬戸内寂聴さん作詞の「しあわせは」という組曲と、各ソリストのオペラアリア演奏によるガラコンサート
●11月29日ゲルハルト・ボッセ指揮・東京アカデミッシェカペレ演奏会「F. メンデルスゾーン:最初のワルプルギスの夜」(Bunkamuraオーチャードホール)
(詳細は下記URLでご覧になれます)
http://www2s.biglobe.ne.jp/~kapelle/
●12月14日カンツォーネフェスティバル(鹿児島県文化センター)
●12月21日熊本「第九」ソリスト(熊本交響楽団、熊本県立劇場)
●12月26日大阪「第九」ソリスト(大阪シンフォニカー、大阪シンフォニーホール)
●12月27日長崎「第九」ソリスト(長崎交響楽団、長崎ブリックホール)
4. 考 察
私自身も、大学の定年退任までもう7年を切り、あと残された時間で、これまで30年以上続けてきた研究をどのように、一つのまとまりのある形にして後世に残せるかということを想いますと、7年という時間はあまりにも短く感じております。
一方で、これまで続けてきました歌を唱うということも、できるだけ長く続けてゆきたいとは希望しておりますが、いくら世界的声楽家の松本美和子先生の薫陶を受け、努力をいたしましても、肉体そのものの運動能力である歌唱の定年は、私の大学の定年よりも早くやってくるかも知れません。「円熟の境地」という言葉を聞きながら唱うことは全く望んでおりませんし、私自身であればテノールの真骨頂であります輝く高音に衰えがでましたら、その時点できっぱりと歌をやめたいと思っています。かつての名テノールのフランコ・コレッリは、聴衆は絶頂期だと感じていたにもかかわらず、自分の中で衰えを察知した60歳できっぱりと引退をしたとのことで、誠にあっぱれというほかありません。私などは、フランコ・コレッリと比較するのもはばかられますが、彼の「美学」には共感を覚えております。
忙しい本職を抱えて、なぜ、プロの歌手と一緒に舞台に立つという苦労をしているのか、とよく訊ねられます。有名な登山家が「そこに山があるから…」という言葉を残していますが、まさに、「そこに舞台があるから…」としか答えが出てきません。私が歌わなければ、誰かが歌うのでしょうが、それは「くやしい」というのもどうも本心のようです。
すでに述べましたように、絶対に肉体の衰えはあるのですから、私の「私の歌との関わりあい」の“これから”は、いつ潔く歌うのをやめるか、ということが主眼になりそうです。「大勢の観客の前で歌うのはストレス解消になるでしょう」ともよく言われますが、「一発本番の舞台」はまさしく「恐怖」以外のなにものでもありません。「恐怖の舞台」の緊張から解放される時がいつやってくるのか、かいもく見当もつきませんが、その時が楽しみでもあり、寂しくもあります。
表 1. 米澤 傑(テノール)の音楽プロフィール
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| 松本美和子氏他に師事。第23回日伊声楽コンコルソ入選、第2回太陽コンコルソ・カンツォーネ・イタリアーナ優勝、第4回日本クラシック音楽コンクール第1位グランプリ受賞。「蝶々夫人」や「カルメン」等オペラの主役、NHK教育テレビ「第九をうたおう」(指揮:井上道義)やNHK-FM「名曲リサイタル」への出演、ベートーベン「第九」(サントリーホール、オーチャードホール、ナポリ・サンカルロ劇場等)、ロッシーニ「スタバト・マーテル」、ヘンデル「メサイア」、ヴェルディ「レクイエム」等のソリストをはじめとする国内外の多数の演奏会において、高い評価を得ている。02年ルーマニアでの「日本・ルーマニア国交100周年記念ニューイヤーコンサート」では「この劇場で歌ったテノール歌手の中で最高」(地元音楽誌)と絶賛され、04年1月東京紀尾井ホールでは「日本人離れした声」と大きな話題になる。04年11月にはイタリアの2人の世界的テノール(N. マルティヌッチ、M. サルタリン)に米澤 傑を加えた3テノールを中心とした「フランコ・コレッリ メモリアルコンサート」(東京芸術劇場大ホール)で大成功をおさめ、05年10月には、同コンサート(Vol.2)にてイタリアの名テノール・G.ジャコミーニ氏と共演。05年8月にはイタリアのサンタマルゲリータ音楽祭にてオペラ「トゥーランドット」(全3幕)のカラフ王子を演じ、05年11月には、藤沢市民オペラ「トゥーランドット」(ベリオ版・日本初演、全3幕、総監督:畑中良輔、指揮:若杉 弘、演出:栗山昌良)のカラフ王子を演じて大絶賛を博した。06年4月、NHK教育テレビ「芸術劇場」の特集「二つの顔を持つ音楽家」に出演し全国的な話題となる。その後も、07年「国民文化祭」での「第九」ソリスト、08年、徳島でのリサイタルで成功を収める。CD「誰も寝てはならぬ / 米澤 傑 テノール・オペラアリア集」(ジョヴァンニ・ディ・ステーファノ指揮・ソフィア国立歌劇場管弦楽団)が04年10月5日にリリースされ好評発売中。また、藤沢市民オペラ「トゥーランドット」のDVDも発売されて話題となっている。平成10年度鹿児島県芸術文化奨励賞受賞。 |

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