=== 随筆・その他 ===

シリーズ医療事故調査制度とその周辺(15)

医療事故調査制度の施行に係る検討会(4)
−「医療事故の定義」の確立を確認し,とりまとめに舵を切る−




 中央区・清滝支部
(小田原病院)  小田原 良治

 2015年(平成27年)1月14日,第4回医療事故調査制度の施行に係る検討会(以下,施行に係る検討会という)が開催された。年明け早々の会議開催であった。この第4回施行に係る検討会は,将に,医療事故調査制度の根幹部分の論議であり,天王山であった。「医療事故の定義」と「医療事故の定義について,当該死亡または死産を予期しなかったもの」の省令案がテーマであったからである。前述したとおり,「医療事故の定義」図は,筆者らが厚労省に持ち込んだものであり,「当該死亡または死産を予期しなかったもの」の省令案は,事前協議で,筆者が二つ返事でOKを出したものである。これを如何にして原案に近い状態で通すかということである。この部分については,厚労省ともほゞ話のついている部分であり,法令条文どおりに解釈すれば筆者らの主張に到達することは明白であった。従って,筆者らの意見の主張は控えて,とりまとめのサポートに徹した。施行に係る検討会前半は,筆者らの意見を声高に主張して,検討会の議論を引っ張ったが,後半は一転,主張を最低限に抑えて,取りまとめのサポート役に徹した。しかし,要所要所は,解釈がぶれないようにしつこくダメ押しの質問をするという展開になった。「医療に起因し,又は起因すると疑われるもの」も大きな議題ではあったが,この部分は,省令事項ではなく,通知事項である。通知部分については,問題はないと考えていたが,直前に「判断の支援のための考え方」として,西澤班資料が提出されることが分かった。この資料は合意されたものではなかった。また,細かいことまでがんじがらめに通知で規定することに筆者は反対であった。細かいことまで縛りを入れれば現場は機能しない。従って,筆者は対案として医療法人協会案を出すとともに,西澤寛俊構成員提出資料を,通知以下の参考資料に留めるべく主張を行った。筆者の意図が分かったのであろう。山本和彦座長から,発言の意味を確認する質問があった。
 中島和江参考人からは,医療安全の的確なレクチャーがあり,施行に係る検討会の議論を正しい方向に導くために効果的であったが,遺族側構成員から不愉快な質問が浴びせられた。招聘した筆者としては,中島和江参考人に気の毒に感じたところであった。この部分の議事については,議論の流れにも影響しないこともあり,不適切な発言であるので,敢えて,記載しないこととした。

第4回施行に係る検討会議事概要
 筆者と厚労省は,すでに事前打ち合わせ済みであったので,第4回施行に係る検討会は,結論をいかに原案に近く持って行けるかがポイントであった。次に,この重要な議事内容を要約したい。
山本和彦座長
 医療事故の定義の部分と医療機関あるいはセンターが行う調査に関する部分。
大坪寛子医療安全推進室長
図1 「医療事故の定義」条文およびポンチ絵

「医療事故の定義」
 医療事故の定義を示す改正医療法第6条の10の条文と,省令事項,通知事項該当部分を示す。その下に「医療事故の範囲」として示している図(図1)は,条文にある2つの判断軸「医療に起因し,又は起因すると疑われる死亡又は死産」「管理者が予期しなかったもの」この2つの軸が交わるところが制度の対象事案になるということを示している。3つの論点につき議論いただきたい。
1.「医療に起因し,又は起因すると疑われるもの」の考え方。2.「当該死亡又は死産を予期しなかったもの」についての考え方。3.「死産について」の考え方。「医療に起因し,又は起因すると疑われるもの」は省令事項ではないので,通知で解釈を示す。「当該死亡又は死産を予期しなかったもの」は省令事項。これについて,厚労省案を示す(図2)。

図2 「当該死亡または死産を予期しなかったもの」の省令案

 「当該死亡又は死産が予期されていなかったものとして,以下の事項のいずれにも該当しないもの」としてはどうか。
1.「管理者が,当該医療の提供前に,医療従事者等により,当該患者等にたいして,当該死亡又は死産が予期されていることを説明していたと認めたもの」
2.「管理者が,当該医療の提供前に,医療従事者等により,当該死亡又は死産が予期されていることを診療録その他の文書等に記録していたと認めたもの」
3.「管理者が,当該医療の提供に係る医療従事者等からの事情の聴取及び,医療の安全管理のための委員会(当該委員会を開催している場合に限る。)からの意見の聴取を行った上で,当該医療の提供前に,当該医療の提供に係る医療従事者等により,当該死亡又は死産が予期されていると認めたもの」
 この事項のいずれにも該当しない場合に予期しなかったものとしてはどうか。いずれかに該当した場合には事前に予期をしたとする案。3号については,緊急時等説明や文書記載など余裕がなく,処置や手術等に入る場合があるであろうから,こういう場合を考えていれた。
 死産については,日本産婦人科医会と産科婦人科学会意見と医法協の小田原常務理事の意見をそのまま記載した(図3)。

図3 「死産について」厚労省論点整理

西澤寛俊構成員
 「医療に起因し,又は起因すると疑われるもの」の範囲について,議論継続中の資料(図4)を提出。医療の範囲は何かを整理するための資料で現在検討中のもの。

図4 西澤構成員提出「医療に起因する死亡又は死産の考え方(案)」

 「医療に起因し,又は起因すると疑われる死亡又は死産(@)」と「@に含まれない死亡又は死産(A)」の2つに分類。@について,左点線枠内「提供した医療」の考え方。右側点線枠内は,死亡または死産の要件を網羅的に整理することを現在試みている。あくまでも参考例。左点線枠内「療養に関するもの」とあるが,医療に該当することを明記した方がいいという意見があったために,療養を「その他」のところに記載した。左側の医療を提供した際に,右側の要因により発生した死亡または死産が「医療に起因し,又は起因すると疑われる死亡又は死産」に該当するのではないかと考えている。右側「@に含まれない死亡又は死産(A)」は含まれないと整理できる死亡または死産。下の方のグレーボックスは@にもAにも該当し得るものであって,状況によって医療に起因して発生したかどうか,管理者に判断が求められる場合がある。「自殺に関連するもの」は患者の意思行動であるため,表から削除するという意見もあったが,可能性が低くても医療に関連することが疑われる自殺もあり得るということで残した。※2@Aのいずれに該当するかを考えるに当たっては,疾患や,医療機関における医療提供体制の特性だとか専門性について考慮することが必要。今,研究班で議論している途中。
高宮眞樹構成員
 自殺は,今回の医療事故調査制度の目的とはならないと思う。拘束・隔離というのは精神科特有の医療行為であるが,身体抑制というのは,精神科以外の医療において,安全管理なので,拘束・隔離と身体抑制は内容が違う。
小田原良治構成員
 西澤班で検討中という紹介だったと思う。意見としては,西澤構成員の個人的意見として聞いた。この表は1月8日午後9時に日本医療法人協会にメールで送られてきている。翌,1月9日の日本医療法人協会の医療安全部会にこの表が出てきて,いろいろ問題があるということで,われわれの意見をまとめたので,次回の西澤班で検討されると思う。日本医療法人協会への連絡と同時に厚労省にこの表が提出されているので,この時点ではまだ不完全な案だと思う。
 因みに,われわれも,医療起因性の検討は,運用段階の話として検討に入っている。その結果,この表の下のグレーの部分は,当然,医療から外れると考えている。
山本和彦座長
 通知の中身として,ここで議論する話ではないという意見の趣旨は?
小田原良治構成員
 通知になじまない。実際の細かい,どれを対象とするかという問題であるということが1点。西澤班提出という形になっているが,西澤班でまだ今後検討余地があって,日本医療法人協会も次回の西澤班に,これについては意見を出すことになっているので,その話が決まった後の話であろうと。
高宮眞樹構成員
 小田原構成員はかつては西澤班の研究委員だった。12月24日に今日の西澤構成員提出の資料がこの研究班で議論になったときに,小田原構成員は参加していないようだが,日本医療法人協会からも参加していて,12月24日の会議のときにこの確認をしているので,当然,この案は小田原構成員のところに連絡が行っていると思うのだが。
小田原良治構成員
 伊藤常務が西澤班に参加しているが,その日は,伊藤常務は欠席だったようだ。この案が来たのは1月8日の夜,メールで届いている。翌,9日の医療安全部会で検討して,これはちょっと違うのではないかという話になって,医療法人協会案として図5をとりまとめた。次回の西澤班で,これはしっかりと検討すべきだということになっている。次回西澤班で検討されると思う。この表自体が8日の夜9時にできあがった資料であり,(その後,まだ西澤班は開かれていないので),合意資料とは思えない。

図5 「医療に起因する死亡又は死産の考え方」日本医療法人協会案

(この議論の背景)
 (ここで,簡単に,高宮構成員とのやりとりの背景について述べておく。厚労科研費研究班(通称西澤班)の日本医療法人協会選出の委員は日野頌三会長であったが,本シリーズ(本誌第56巻第9号)で述べたように,筆者が代理で出席していた。「医療事故調査制度の施行に係る検討会」発足からは,筆者が検討会構成員となったことから,伊藤常務理事が西澤班に出席している。ただ12月24日は欠席であった。西澤班が途中から厳しい代理・随行規定を布いたため,12月24日の第11回西澤班には,日本医療法人協会からはだれも出席していない状態となった。日本医療法人協会に図4が送られてきたのは,2015年(平成27年)1月8日夜である。高宮構成員から,筆者が図4を12月24日に了解していたはずだとの発言があったが,12月24日時点の図は,図4ではない。
 図4に修正されたのは1月8日のことである。第12回西澤班は1月21日であり,この議論がなされた第4回医療事故調査制度の施行に係る検討会の開催日は,1月14日である。西澤構成員提出の表が西澤班の合意事項ということはあり得ないのである。因みに,筆者は,隔離・拘束,身体抑制をいずれも医療起因性なしと主張し,基本的に医療起因性なしで決着している(図6)。しかし,精神科病院協会代表の高宮眞樹構成員が精神科の隔離・拘束は医療と主張しているので,精神科領域の隔離・拘束については,医療起因性について配慮が必要であろう)。

図6 「医療に起因する死亡又は死産の考え方」施行に係る検討会とりまとめ

松原謙二構成員
 高宮構成員に聞くが,病院で自殺を見つけたときには,具体的に今,どうしているのか。
高宮眞樹構成員
 警察に届ける。
松原謙二構成員
 自殺は,この研究班の中のこのシステムの中で検討するのは危険。不慮の外因死,窒息死とかも,外表を見て,何か通常の医療に起因して起こるべきではないものを見つけたときにはこれも届け出る。これがまさに,医師法第21条の本質。自殺,不慮の外因死,その他については,今回の制度の対象ではなくて,警察に届けて対応すべき。
大磯義一郎構成員
 療養に関するもの,転倒・転落・誤嚥とか入浴とかいう看護領域の事故が今回の範疇に入っているのに驚いている。これは入れるべきではない。平成16年9月21日の厚労省医政局長通知(*)に,医療と管理に関する具体的事例が別紙参考1,2を参考と書かれているが,参考2の事故報告範囲具体例(図7)の「管理上の問題に係る事例,その他」として,転倒・転落,感電等とか,入院中に発生した重度な褥瘡とかが入っている。これらは管理に分類されており,医療ではない。

図7 平成16年9月21日医政発第0921001号通知

永井裕之構成員
 大磯構成員の話を聞いて,びっくりしている。医療のなかに看護が入らない意識なのか。
鈴木雄介構成員
 転倒・転落や誤嚥は多様な場面を対象とする言葉になる。自由に動けるような人が,何ら転ぶ誘因がない中でつまづいたという転倒もあれば,急性期を越えて,慢性期の回復過程において日常生活動作をどのレベルに設定して回復を目指していくかという医的判断が強くかかわるような場面の転倒になってくると,多くの医療従事者が,医療の判断が介在していると判断すると思う。誤嚥についても同様,医的判断が強くかかわるようなものも出てくる。
葛西圭子構成員
 医療機関,病院,診療所,助産所で行われる医療の提供に関しては,その中に看護,助産が含まれる。妊婦の健康診査というものが医療なのかどうなのかという議論もあるのかな。
宮澤 潤構成員
 医療行為がそもそも何なのか。医療行為は判例上では専門的な知識,能力を有しなければ,それを行うことによって生命,身体に危険を及ぼす可能性がある行為と言われている。項目によってどちらかに振り分けるというのは正しいやり方ではない。
山本和彦座長
 意見の相違があるので,引き続き議論の対象とする。
田邉 昇構成員
 専門家である医療機関の管理者が医療に起因したかどうかを専門的見地から判断していくことが必要。裁量的な記載にとどめる,広い記載にとどめるのがいいのでは。
松原謙二構成員
 自殺については今回の対象としないと明示すべき。
山本和彦座長
 資料(図2)について。
小田原良治構成員
 「省令(イメージ)」(図2)は,1ページの図1と合わせて考えると,よくできているので,これでいいのではないか。
松原謙二構成員
 患者さんの病状に特定したところできちっと予期したかどうかを明瞭にする必要がある。特定の患者さんについての説明ということが大事。
加藤良夫構成員
 カルテに,そういうことがまれにあると記載してあれば,予期していたという話ではない。「当該患者等に対して,当該死亡」と書いてあるので,いろんな場面ごとに,当該経過で死亡するということが具体的に説明されていることが基本的に必要。抽象的,一般的にパーセンテージだけ免罪符的に書いておけばいいということではない。
堺 常雄構成員
 説明された相手の理解が前提。
田邉 昇構成
 医療提供側からみても,死ぬ可能性を仮に予期して,想定していても,口に出してそれを説明する。死亡のリスクはこれぐらいあるよと言うのを,明示的に言っていないから予期しなかったのだというのも,逆に違和感がある。だから,普通の人であれば非常に大変なことが起こるのだなというような認識がきちんと得られるような事項が説明されていれば,省令案の説明の中に含むと考えていいのではないか(この田邉昇構成員の意見は,実務上,現場の考え方として重要である)。
有賀 徹構成員
 あなたにとっては,オール・オア・ナッシングなのだと十二分にわかってからやろうねということ。患者側もバラエティーに富んでいるので。
山本和彦座長
 提示されている省令のイメージ(図2)について,基本的に賛同を得ていると理解した。
山本和彦座長
 死産について。
池下久弥参考人
 妊婦健診では全く医療行為を行っていないので,「医療」ではなくて「管理」に分類される。したがって,妊婦健診で通院している妊婦については,死産が発生しても「医療事故」ではない。自然死産は医療行為中のものであっても,「予期したもの」と認められ,対象外。
岡井 崇参考人
 実際に原因を究明することに意義がある事例に限ったほうがいい。対象は,「妊娠中または分娩中の手術,処置,投薬及びそれに準じる医療行為により発生した死産」。
今村定臣構成員
 死産については,あらたな議論はいらない。このまま(図3)でいい。
田邉 昇構成員
 死産を除外するという結論については異論ないよう。
岡井 崇参考人
 除外しない。
田邉 昇構成員
 要するに,報告対象としては。
岡井 崇参考人
 手術や処置や投薬等,またはそれに準ずるような医療行為によって死亡したものは報告するが,それ以外のものはしないということ。
田邉 昇構成員
 原因不明でなくなったものは除外するということで一致ということか。原因不明であっても,そういったものは医療によっておこったものではないのだから報告しなくていいということですね。
岡井 崇参考人
 そのとおり。
田邉 昇構成員
 死産の場合も,通常の死亡と同じように考えるというのもコンセンサスだと確認。
小田原良治構成員
 とにかく,死産についても,一般の死亡についての定義と同じで支障はないということを確認。
松原謙二構成員
 医療統計の言葉で人工死産と自然死産というのがある。自然死産と書くとわかりにくくなるので,要するに,自然な死産,統計上の話ではなくて,普通に自然に起こる死産を外そうと。ただ,医療に起因して,予想もしなかったようなことが起きた場合には対象とすべきだということ。自然死産ではなくて,自然な死産ということ。
葛西圭子構成員
 妊婦健診中の検査で見過ごした。心拍が悪かったが,何もせずに見落として,胎児が死亡したような例は,準ずる行為と考えていいのか。
岡井 崇参考人
 それは含まない。胎児が元気であるかどうかの判定は難しい。結果が起こってからふり返れば,あの時の所見はおかしかったとなることもあるが,診察段階でひょっとして死亡するかもとはわからない事例が多い。だから対象外。何か行為をしたその結果としたほうがいい(「何か行為をしたその結果」という考え方は重要である。死産が特別なものではなく,一般の死亡と同一の考え方であるということである。これは,裏を返せば,この「何か行為をしたその結果」というのは,一般の死亡についても当てはまるということである。筆者らは,「医療」の範囲を「積極的医療行為」と説明している)。
葛西圭子構成員
 吸引分娩は?
岡井 崇参考人
 それは処置になる。通常の検査とか観察については対象外。
小田原良治構成員
 産科が特殊なわけではなくて,図2の予期しなかった死亡との整合性はとれているのだねということを確認。
山本和彦座長
 予期しなかったという部分に,「死亡又は死産」ということで,この省令のイメージでは当然死産も「予期しなかった」の省令対象範囲ということと理解している。
小田原良治構成員
 そういうことですね。整合性はとれていると。
山本和彦座長
 「医療に起因し,又は起因すると疑われるもの」というところも,大枠としては同じ。あと,文言をどうまとめるかということ(座長発言は,筆者の主張を補強したものである。筆者は産科が特別ではなく,同じ考え方であることをしつこく確認した。即ち,産科の議論で出た考え方は,そのまま,他の死亡事例にも使えるということである)。
山本和彦座長
 死産の部分(図3)は,基本的には大きな異論はないということで。
 「医療機関が行う医療事故調査」について事務局から。
大坪寛子医療安全推進室長
 「医療機関が行う医療事故調査」についての論点3つ。@医療機関が行う医療事故調査の方法等についてA医療機関が行った医療事故調査の結果のセンターへの報告事項についてB医療機関が行った医療事故調査の遺族への説明事項等について。
@医療機関が行う医療事故調査の方法等について(図8)は,法律の条文で,院内調査のことを「原因を明らかにするために必要な調査」と規定している。省令案としては,赤字「当該医療事故の原因を明らかにするために,情報の収集及び整理を行うことにより行うものとする」。情報とは,管理者の判断で選択。解釈通知は,「本制度の目的は医療安全であり,個人の責任を追及するものではない」と明記。「調査については当該医療従事者を除外しないこと」「調査項目については,以下の中から必要な範囲内で選択し,それらの事項に関し,情報の収集,整理を行うものとする」「ヒアリング結果は内部資料として取扱い,開示しないこと(法的強制力がある場合を除く)。とし,その旨をヒアリング対象者に伝える」「遺族からのヒアリングが必要な場合があることも考慮する」など付記した。
  「医療事故調査は医療事故の原因を明らかにするために行うものであること」「調査の結果,必ずしも原因が明らかになるとは限らないこと」「再発防止は可能な限り調査の中で検討することが望ましい」「必ずしも再発防止策が得られるとは限らないことに留意すること」を追加。

図8 医療機関が行う医療事故調査の方法等について論点整理

A医療機関が行った医療事故調査の結果のセンターへの報告について(図9),省令案として,「院内調査結果の報告を行うときは次の事項を記載した報告書を医療事故調査・支援センターに提出して行う」とした。個人の責任追及でないということを文言として加えた。「医療事故調査の項目,手法及び結果」とし,結果の中に,調査の概要,臨床経過,原因分析,管理者が検討した場合の再発防止策の検討結果等が含まれるのではないか。
  黒字部分はすでに合意された部分で,修正はない。

図9 院内調査結果のセンターへの報告論点整理

B医療機関が行った医療事故調査の遺族への説明事項等について,「説明の方法やその情報の詳細等については,管理者の裁量に委ねること」とするが,基本的には「センターへ報告する内容を遺族に説明すること」ということでよろしいか?
山本和彦座長
 中島参考人に説明いただく。
中島和江参考人
 本検討会で議論されている医療事故調査制度は,WHOドラフトガイドラインでいうところの「『学習』を目的とした」すなわち医療安全の向上を目的としたものであると理解している。この制度が成功するためには,7つの条件を満たす必要がある。ひと言で言うと,誰が失敗したかということではなく,何が事故をもたらしたのかを解明し,システムに着目した抜本的対策が講じられること。情報収集という入口も大切だが,医療を安全にするという対策,つまり出口はもっと大切。現在の医療安全のモデル,すなわちリニア,直線的モデルの限界が指摘されている。失敗から学ぶことの限界も指摘されている。「後知恵バイアス」も問題。これからの医療安全には,医療が複雑系であるということを前提としたアプローチが不可欠。複雑系の現場では,たった1つのベストの方法などなく,何を優先して何を犠牲にするか,限られた時間,マンパワー,道具で患者をどうやって救命するか。不確実性の中で厳しい決断を迫られる。大抵はうまくいくが,時に失敗する。すなわち,失敗と成功の道筋は同じだということが重要。結果は因果関係では説明できず,予測も困難。株価の日々の変動や大暴落が因果関係では説明できず,予測できないのと似ている。
 やるべきことは,システムが安定に柔軟に動作するように制御すること。
 医療安全の向上には,院内事故調査は必要だが,リスクと限界もある。院内事故調査は症例を見極めて,本当に慎重に行う必要がある。
 沢山事例を集めたら安全になるというのは幻想。理論(セオリー)が必要。一つ一つのケースを丁寧に扱い,複雑系を前提として,サイエンスに基づいて個別の医療機関では対応できない問題に対して,解決策を示し,実際に解決する。ある種の事故は3年後には全くなくなったと言えるような医療事故調査制度になることを期待している。
大礒義一郎構成員
 現場のドクターの負担は?
中島和江参考人
 阪大病院の場合,報告書完成まで2.5カ月。医療安全専従の看護師2人,医師2人と,院内の複数の専門家で対応してそのくらい。複数の外部委員にたのむと,報告書作成まで5カ月。診療関連死モデル事業では,平均16カ月。2年に1件,位がキャパシティの範囲。
小田原良治構成員
 事務局案(図8)はおおむね妥当。(図9)も細かい点は気になるが事務局案に概ね賛成。
田邉 昇構成員
 再発防止策について,書かなければいけないというのは適切ではない。まだまだ複雑系への理解が不十分ななかで犯人捜しになりかねない。
 既に,医薬品・医療機器等安全性情報報告制度とか,消費者庁とか,直接アクションを起こせる立場のところへの報告システムが既にあるので,まずそこに報告するのが大事ではないか。知らない医療機関も多いので,通知その他に書くべき。
大礒義一郎構成員
 報告書に個別の再発防止策,原因究明,医学的評価を記載すると,事故調査報告書を損害賠償請求に使った例があるので,原因分析,再発防止を検討することはやぶさかではないが,報告事項に関してそのようのものを記載,書面を交付することは紛争化を招くので不適切。小田原構成員に賛成。
永井裕之構成員
 モデル事業と産科無過失補償では刑事訴追されたものは一切ない。
田邉 昇構成員
 医療安全調査機構の報告書で「刑事訴追された事例はない」という主張だが,「訴追」というのは,起訴。起訴に至らなくても,遺族が警察に相談に行けば,カルテの任意提出,任意同行で事情聴取。これははっきり刑事手続き。医療者にとっては立派に警察沙汰になったということ。起訴だけの問題ではない。
有賀 徹構成員
 遺族への説明については口頭または書面の適切な方法を管理者が判断するということでないと現場が混乱する。
小田原良治構成員
 緊急を要する,例えば類似薬であるとか,コンセントが合わないとかの不都合によって起こった事故,急ぐものについては,報告した方がいいということには賛成で,書きぶりとしては,事務局案でいいかなとは思うのだが,緊急にそのような事例を報告して,これが例えば類似薬の名称変更あるいは不具合の補正にすぐに結びつくのであろうか?むしろ,現行の副作用情報センターとか,医療機能評価機構に届けた方がいいのではないか。
山本和彦座長
 次回,引き続き検討。

おわりに
 この第4回施行に係る検討会で,「医療事故の定義」「当該死亡または死産を予期しなかったもの」が確定したことは,筆者としては,最大の成果であった。議事録からも分かるように,この2点については,第4回施行に係る検討会で省令部分が確定した。
 ただ,ポンチ絵の変遷の項でも述べたが,「施行に係る検討会とりまとめ」後の,大坪寛子医療安全推進室長の国家公務員法に抵触しかねないようなポンチ絵の改変。省令・通知からの医療事故の定義図の削除等の行為が極めて意図的なものであったのではないかとの疑いを残すものがある。ここに至る経緯も含めて,大坪寛子医療安全推進室長が実は最も納得していなかったのではないかと思われるものがあろう。
 第4回施行に係る検討会までの議論が,最重要部分であるので議事録概要も記載した。第5回,第6回は,「とりまとめ」への道筋なので,その流れを記載したい。施行に係る検討会は結局,第6回(最終回)でとりまとめに至らなかった。また,一部マスコミによる偏向した報道が行われた。永井裕之構成員が正義で,筆者が悪者であるという報道である。真実は,施行に係る検討会議事録として残っているのである。第6回施行に係る検討会終了後も取りまとめに向けての努力が続いた。
 今回,筆者が強調したいことは,この第4回施行に係る検討会で,「医療事故の定義」が確定したものであり,このことは,今回の医療事故調査制度が妥当な制度として出来上がったことを意味している。施行に係る検討会内外の人々の努力の結果の医療事故調査制度であり,これらを踏まえて医療事故調査制度を法令,条文に沿う形で手堅く運用していただきたい。

*平成16年9月21日厚労省医政局長通知(医政発第0921001号)




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