=== 随筆・その他 ===


め   ま   い
-貧血検査の意義-
東区・郡元支部
(デイジークリニック) 武元 良整

はじめに
 3月は多忙な時期です。外来には「立ちくらみ,めまい」を訴える症例が多く来院します。そこで,この時期に多い「めまいの症例」を血液生化学所見から血液内科的に診断した3例をご紹介いたします。

症例 1
症例 1
 20歳前半,女性。公務員,事務職。
 主訴めまい,たちくらみ,頭痛,手指のしびれと吐き気
 病歴:水泳練習中に上記症状があり来院。肩こり,浮腫は1年中。いつもは35.0度台と低体温。手足の冷えがあり,夏も冬も氷を食べている。定期的に(3日/週)プールへ通っているが,1年間で体重増加6kgあり。過多月経あり,凝血塊も多い。婦人科で「過多月経」「双角子宮」と診断されている。貧血治療は受けたことがない。
 背景:身長166cm,体重69.0kg,BMI:25.0,喫煙歴なく,非飲酒。
検査成績
 末梢血CBC:全血算(complete blood count)は以下です。

RBC:422万/μL,Hb:10.3g/dL,Ht:31.6%,MCV (mean corpuscular volume:平均赤血球容積):74.9f L,MCH(mean corpuscular hemoglobin:平均赤血球血色素値):24.4pg,PLT(血小板数):35.5万/μL

血液生化学:
血清鉄:34μg/dL(基準値40-158μg/dL),フェリチン:3.5ng/mL,(12.0以下は鉄欠乏:WHO基準)ビタミンB12:176pg/mL(基準値180-914pg/mL),葉酸:4.9ng/mL(基準値4.0ng/mL以上)

 検査診断:Hb値の低下(貧血診断基準WHOでは12.0未満が貧血)と小球性低色素性の所見から典型的な「鉄欠乏性貧血」と診断。なお,スポーツ愛好家に多い「オーバートレーニング」によると考えられるビタミンB12と葉酸の低値も顕著。
 末梢血血液像:図1では多くの小球性低色素性の赤血球(鉄欠乏を意味する)とビタミンB12低値を反映した大球性赤血球が散見される。

図 1 症例 1
(末梢血液画像は鹿児島市医師会臨床検査センター
血液検査室へ依頼し撮影いただきました)

 臨床診断:鉄欠乏性貧血,ビタミンB12欠乏症,葉酸低下
 治療効果:治療開始から7日間で氷食症は消失。治療(鉄剤とビタミンB12は静注,葉酸内服も併用した)4週後のHb値は11.7と改善し,めまいも消失。その後の水泳大会で優勝と報告受けた。

症例 2
 30歳前半,女性。幼稚園教諭。
 主訴めまい,頭痛,生理痛,多夢。便秘や下痢で定まらず
 現病歴:昨年の4月から新しい職場に異動。6月から体調不良で3月に来院。加味逍遙散などの漢方薬治療を近医で受けるが改善なし。健診で貧血を指摘されたことはない。
 背景:既往に起立性調節障害,子宮内膜症の指摘あり。乗り物酔いしやすい。ピル内服したことはない。身長154cm,体重43.2kg,BMI:18.2,喫煙歴なし,非飲酒。
 運動:学生時代,ソフトテニス
検査成績
 末梢血CBCは以下。

RBC:449万/μL,Hb:13.8g/dL,Ht:40.3%,MCV:89.8f L,MCH:30.7pg,PLT:20.4万/μL

血液生化学:
血清鉄:28μg/dL,フェリチン:69.0ng/mL,ビタミンB12:191pg/mL),葉酸:8.4ng/mL)網状赤血球1.2%

 検査診断:Hb値は正常範囲。血清鉄とフェリチン値は軽度低値,ビタミンB12は低値。
 漢方的診断:水滞,血虚,瘀血,気虚,気逆
 末梢血血液像:図2では軽度の大小不同あり。貧血からの回復期と考えられる。ビタミンB12低下の影響と考えられる大球性赤血球を軽度に認める。

図 2 症例 2
(末梢血液画像は鹿児島市医師会臨床検査センター
血液検査室へ依頼し撮影いただきました)

 臨床診断:下痢型過敏性腸症候群,ビタミンB12欠乏症
 治療効果:ビタミンB12の補充を静注で開始する。遠方にて通院困難のため,2週後でも腹痛や頭痛の改善なし。漢方治療(水滞+気逆)も追加し外来観察中。慢性の下痢によるビタミンB12の吸収不良がビタミンB12低下原因のひとつと考えた。

症例 3
 40歳前半,女性。地方公務員。
 主訴めまい
 現病歴:昨年から歩行できない程のめまいあり。冷え,肩凝りもある。寝つき不良,トイレ目的で数回の中途覚醒あり。生理痛,こむらがえりもある。乗り物酔いあり,体が重い。
 背景:仕事が多忙にてお昼の時間が不定。身長160.1cm, 体重48kg,BMI:18.7,非喫煙,機会飲酒。
 運動:学生時代はバレーボール,陸上,サッカーなど。
検査成績
 末梢血CBCは以下。

RBC:412万/μL,Hb:13.0g/dL,Ht:38.2%,MCV:92.7f L,MCH:31.6pg,PLT:22.3万/μL

血液生化学:
血清鉄:31μg/dL,フェリチン:10.3ng/mL,ビタミンB12:363pg/mL,網状赤血球0.9%

 検査診断:Hb値は正常。血清鉄とフェリチン値は低値(潜在性の鉄欠乏状態:かくれ貧血),ビタミンB12は軽度低値。
 漢方的診断:水滞,血虚,瘀血,気虚。
 末梢血血液像:図3にて赤血球の大小不同あり。小球性低色素性赤血球も散在。

図 3 症例 2
(末梢血液画像は鹿児島市医師会臨床検査センター
血液検査室へ依頼し撮影いただきました)

 臨床診断:潜在性の鉄欠乏性貧血(低フェリチン,かくれ貧血)
 治療:鉄剤内服困難のため,鉄欠乏状態に対して鉄剤投与を静注で開始。外来観察中。

終わりに
 7年前,「漢方内科」と「貧血外来」で開業した時に(3月)主訴:ふらつき,めまいの40歳代女性来院。漢方治療開始。2週後に全く改善なし。そこで,初めて血液検査施行し,Hb:低値(9.0g/dL)が判明し,愕然とした事を思い出しました。「貧血」がめまいの原因でした。恥ずかしい話です。その後は,貧血の有無を確認するため,しっかりと問診するようにしております。今回は季節の影響の一つである気象病ともいえる「めまい,たちくらみ」などの訴えが,①鉄欠乏性貧血とビタミンB12欠乏:症例1,②潜在性ビタミンB12欠乏:症例2,そして③潜在性鉄欠乏性貧血:症例3,と診断出来た3症例を報告いたしました。



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