=== 随筆・その他 ===

シリーズ医療事故調査制度とその周辺(14)

医療事故調査制度の施行に係る検討会(3)
−医療事故発生時の報告・支援団体役割拡大,センター業務さらに4%暴言−




 中央区・清滝支部
(小田原病院)  小田原 良治

 2014年(平成26年)12月11日,第3回医療事故調査制度の施行に係る検討会(以下,施行に係る検討会という)が開催された。前回が11月26日なので,極めてタイトな日程であった。事前打ち合わせも含めると鹿児島から参加することは,頭脳も体力も,かなりのストレスである。
 第3回施行に係る検討会の論点は,@医療事故発生時の報告,A院内調査,Bセンター業務,Cセンター調査であった。この検討会に筆者は2つの意見書を提出している。今回は,筆者が第3回施行に係る検討会に提出した意見書の概要とその意図したものを記載した後,議事概要を記載することとしたい。

1. 筆者提出意見書@
 (医療法施行規則第9条の23について)

 参考資料として,以下のとおり医療法施行規則第9条の23の条文を紹介した。提出した条文を記載し,意見書提出により,意図したことの説明を行いたい。
 医療法施行規則(昭和23年11月5日厚生省令第50号)
 第9条の23 法第16条の3第1項第7号に規定する厚生労働省令で定める事項は,次のとおりとする。
一 次に掲げる体制を確保すること。
 イ 専任の医療に係る安全管理を行う者及び専任の院内感染対策を行う者を配置すること。
 ロ 医療に係る安全管理を行う部門を設置すること。
 ハ 当該病院内に患者からの安全管理に係る相談に適切に応じる体制を確保すること。
 二 次に掲げる医療機関内における事故その他の報告を求める事案(以下「事故等事案」という。)が発生した場合には,当該事案が発生した日から2週間以内に,次に掲げる事項を記載した当該事案に関する報告書(以下「事故等報告書」という。)を作成すること。
 イ 誤った医療又は管理を行ったことが明らかであり,その行った医療又は管理に起因して,患者が死亡し,若しくは患者に心身の障害が残った事例又は予期しなかった,若しくは予期していたものを上回る処置その他の治療を要した事案
 ロ 誤った医療又は管理を行ったことは明らかでないが,行った医療又は管理に起因して,患者が死亡し,若しくは患者に心身の障害が残った事例又は予期しなかった,若しくは予期していたものを上回る処置その他の治療を要した事案(行った医療又は管理に起因すると疑われるものを含み,当該事案の発生を予期しなかったものに限る)。
 ハ イ及びロに掲げるもののほか,医療機関内における事故の発生の予防及び再発の防止に資する事案
2 事故等報告書には,次に掲げる事項を記載するものとする。
 一 事故等事案が発生した日時,場所及び診療科名
 二 性別,年齢,病名その他の事故等事案に係る患者に関する情報
 三 職種その他の事故等事案に係る医療関係者に関する情報
 四 事故等事案の内容に関する情報
 五 前各号に掲げるもののほか,事故等事案に関し必要な情報
 この条文は,今回の医療事故調査制度から「管理」に起因するものが除外されていることの根拠条文である。厚労科研費研究(西澤班)が混迷を極めた一因である大坪寛子医療安全推進室長発言のように「医療に管理も含まれる」との暴論(本誌51巻9号,本シリーズ7参照)が飛び出さないように楔を打ち込んでおいたものである。上記,医療法施行規則第9条の23第2項第2号イ及びロでは,「行った医療又は管理に起因し」た死亡と記載してあり,「医療」と「管理」を明確に区分してある。今回の医療事故調査制度では,「提供した 『医療』 に起因」と定義されており,管理は除外されているのである。法律用語としての「予期しなかった」との表現の出所も,この医療法施行規則にあるようである。また,上記,イ及びロには,「誤った医療」との表現があるが,今回の改正医療法第6条の10第1項には,「誤った医療」との表現はなく,過誤類型が除外されている。このために,分かりやすい制度となったというべきであろう。

2. 筆者提出意見書A
 (センターが行う調査についての意見)

(1)センター調査の依頼について
 ・医療機関の管理者が医療事故としてセンターに報告した事案については,センター調査の依頼ができること等
(2)センター調査の内容について
 ・院内事故調査終了後にセンターが調査する場合は,院内調査の検証を中心に行う。
 ・関係者のヒアリング情報その他の医療安全活動資料は,当該病院等からセンターへ提供しない等
(3)センター調査結果報告書の記載事項について
 ・調査結果報告書には,診療経過の客観的な事実記載の検証結果のみ記載し,再発防止策は記載しない。
 ・当該病院等の実情にそぐわない医学的評価や再発防止策は,当該病院等や医療従事者に対する名誉棄損や業務妨害の結果を招くおそれもあるので,細心の注意を払うべきである。
 ・当該医療従事者名及び患者名は匿名化し,調査結果のみ記載することとして,その議論の経過や結果に至る理由は記載せず,再発防止策(改善策)も記載しないこととする。
 ・センターは,当該病院等,遺族,裁判所・検察庁・警察署・行政機関その他一切の公的機関・その他のいかなる者に対しても,調査結果報告書以外を開示できないものとする。
 ・調査結果報告書は,民事訴訟,行政事件訴訟,刑事訴訟,行政処分の証拠とすることができないし,センターは公表することもできないものとする。
 ・センターは当該病院等に対し,事前に告知して報告書の確認を求め,当該医療従事者の意見を聴取し,報告書に反映させなければならない等
(4)センター調査結果の医療機関への説明について
(5)センター調査結果の遺族への説明について
(6)センター調査結果報告書の記載事項

 ・医療機関名/所在地/連絡先
 ・日時/場所/診療科
 ・患者情報(性別/年齢/病名等)
 ・診療経過(客観的事実の経過)
(7)以上を踏まえて,センター調査の乱用防止規定及び,調査者の厳重な守秘義務規定の要望
 最後に,中島和江大阪大学教授,池下久弥医師の招聘を要望した。

3. 第3回施行に係る検討会議事概要
 以前にも記したように第4回施行に係る検討会までは,この医療事故調査制度の議論の方向性を決める重要な会議であった。当時の状況を理解していただくために,議事概要を記載したい。
田上喜之補佐
 資料確認。医療事故発生時の報告,医療機関が行う医療事故調査,センターが行う整理・分析,センターが行う調査。
山本和彦座長
 医療事故発生時の報告に関する論点について
大坪寛子医療安全推進室長
 論点につき説明。
小田原良治構成員
 前回話したように,センターが2つの機能を持つのは適切でない。相談業務は支援団体の仕事である。前回,加藤構成員から条文にセンター業務として書いてあるという指摘があった。再確認したが,第6条の11に,支援団体の働きとして「医療事故調査に必要な支援を行うものとする。」が入っている。当然,ここに医療事故であるかどうかの判断が入ると思う。第6条の16にセンター業務が書いてあるが,ここで書いてあるのはセンター調査についての事項である。センター調査であることを受けて,5項に「医療事故調査の実施に関する相談に応じ,必要な情報の提供及び支援を行うこと」と書いてある。条文の流れから考えて,当初の事故の判断は支援団体が前提の記載であろう。センターは,センター調査を行う場合に,実施に関する相談に応じ,必要な情報の提供及び支援を行うと読めるのではないか(図1)。

図 1 医療事故に該当するか否かの相談業務が支援団体の業務であることを主張した。
   相談業務をセンターの独占業務とした厚労省案に反対した。

大坪寛子医療安全推進室長
 第6条の11は,病院等の管理者が,医療事故が発生した場合に,速やかにその原因を明らかにするために行う調査のことをこの条文で「医療事故調査」と言っているので,第6条の16の医療事故調査は,院内調査のこと。
小田原良治構成員
 ということは,第6条の16の3項に「次条第1項の調査を行う」と書いてある調査とは違うという意味か?これが第1点。もう一つ,仮に大坪室長発言の通りだとしても,これは医療事故調査の実施に関する相談である。さきの規定は全体に対する相談である。医療事故であるかどうかの判断は,支援団体の仕事ということであろう。
大坪寛子医療安全推進室長
 ご指摘のとおり,1つ目の論点「次条第1項の調査」というのはセンター調査,次条のことを指している。第6条の11の支援団体の医療事故調査に必要な支援ということと,第6条の16のセンター業務で言うところの医療事故調査の実施に関する相談は,医療事故全般の相談ということで,どちらも医療事故の判断に関しての相談ということとも広く読める。
松原謙二構成員
 この第6条の11と第6条の16の大きな違いは,支援なのか,相談なのかということ。支援の中に相談が本来含まれるのであって,その相談の中で,医療事故調査をすることになる,あるいはしなければならないかということの相談は第6条の16の5項で読める。しかし,医療事故の調査を本来すべきかどうかということを相談するには,センターに直接申し込むのでは現実問題として成立しない。現実問題として医療機関はまず支援団体とよく相談して,支援団体との結論が,センターに報告すべきものだとなった時には医療事故調査の実施をしなければならないので,これについてのやり方をセンターに聞くのが本来の書き方である。したがって,相談をその支援団体がしてはならないというのは大きな間違い。
小田原良治構成員
 第6条の16という中に7項ある。3項の調査と,5項の調査が別だというのは不自然な解釈ではないか?これは,「実施に関する」と書いてあるので,医療事故であるかどうかの判断は実施ではなかろう。医療事故かどうかの判断は支援団体の役割と読むのが素直ではないか。
山本和彦座長
 前段については,法律の書きぶりとして「次条第1項の調査」というものと「医療事故調査」と裸で書いてあるが,これは結局,第6条の11の第1項で定義しているところの医療事故調査と,法律の見方としてはそういうことにならざるを得ない。条文の解釈としては,第6条の16の4項ないし5項の医療事故調査というものは,第6条の11の第1項に言うところの調査,即ち院内調査を指すと,法律の解釈としては恐らくそうなるだろう。
 医療事故調査の実施に関する相談というものに,医療事故調査をすべきかどうかについての相談が含まれるのかというのは一つの論点としてあり得るだろう。
小田原良治構成員
 医療事故であるかどうかの判断は,実施ではなかろう。
山本和彦座長
 それは,あり得る考えだろう。
松原謙二構成員
 相談をセンターでしかしてはいけないと言う言い方をされたので,それは違うだろうと。それで理解はいいか?
山本和彦座長
 それはそういうことでしょうね。
松原謙二構成員
 要するに,相談をセンターだけしかできないという法令の読み方は,違うだろうと思う。
山本和彦座長
 どちらにも相談できる。ただ,現実にそれがどういうふうにワークして,現実にどちらのほうに相談することになるのかというのは,それは動き出してみないとわからないだろう。どちらかに相談してはいけないという議論はあるのか?
松原謙二構成員
 表の中に,案としてセンターにしか○がなかったから,この話をした(図2)。

図 2 支援団体とセンターの役割分担(案)として,厚労省は,
相談窓口をセンターのみとして提示した。

宮澤潤構成員
 支援センターに統一すべき。1つのところに集約して判断していくのが正しい。
山本和彦座長
 第6条の11の3項の解釈として,「医療事故調査に必要な支援」の中には,相談に応じて助言をするということは含まれないという解釈か?
宮澤潤構成員
 はい
山本和彦座長
 第6条の11の3項は,医療事故調査支援団体の業務というか,役割について規定しているが,その中で「医療事故調査に必要な支援を行う」というものが支援団体の任務になっているが,このなかには相談に応じて助言をするということは必要な支援に含まれないと解釈することになるのか。
宮澤潤構成員
 基本的には,これは医療事故調査が始まった中での問題である。医療事故調査を始めるかどうか,実施の可否についての判断,医療事故として考えるかどうか,届出をするかどうかというのは,この中に含まれないと考える。
山本和彦座長
 厚労省の説明とはちょっと違う。
山本和彦座長
 法律の解釈の問題について,若干,構成員の間に認識のずれがあるので,次回以降。厚労省で整理。
小田原良治構成員
 前回の9ページ(図2)の(「医療事故の判断など制度全般に関する相談」部分の)○は(支援団体まで)全部○でいいですね。
大坪寛子医療安全推進室長
 前回の9ページの,支援団体案のリスト(図2)。下の方。これは案として示したもの。どちらも相談を受けるということは可能。そこについては両方○
小田原良治構成員
 (センターも支援団体も)全部○ということでいいですね。
大坪寛子医療安全推進室長
 はい
小田原良治構成員
 それだけ確認しておきます。
 (「医療事故の判断など制度全般に関する相談」を厚労省は,センターの独占業務として提示して来た。「医療事故の判断」がセンター業務となると,将に,センターが「医療事故」か否かを判断し,センター報告を促し,センター調査を行うというセンター独裁体制になってしまう恐れがある。これに対し,筆者は,条文の解釈上,「医療事故の判断など制度全般に関する相談」は支援団体業務であり,センターが独占するのは利益相反の疑いがあると論陣を張った。結果としては,センター・支援団体双方の業務ということで決着し,センター独占が回避されたのである。
 これにより,各医療機関にとって,「医療事故」に該当するか否かの判断が,自主的に行えることが担保されたのである。「医療事故であるかどうかの判断は,実施ではなかろう」と食い下がったのは,センター業務を追い込み,支援団体にまで業務範囲を拡げるための方策であった。
 ここでも,自称医療側弁護士の宮澤潤弁護士の発言は不可解なものであり,「医療側」とはとても思えない発言であった)。
松原謙二構成員
 遺族への説明事項について。これは省令事項で義務化するのではなくて通知事項で,こういうふうにするのが望ましいとしてほしい。
永井裕之構成員
 死亡事例の中の合併症みたいなことも説明されて,予期した合併症であると説明されることも多々あるのではないか。説明だけでなく,遺族側がどう疑義を抱いているかということについて,遺族のヒアリングを入れてほしい。
山本和彦座長
 この部分は,病院等の管理者が医療事故であるということを判断して,センターに報告するという,その前の段階で遺族に対して説明をすることになると思うが。
永井裕之構成員
 医療側が判断し,支援団体と相談してと言うだけで終わってしまう時に,やはり,患者・遺族も含めたところのヒアリングをすべき。
山本和彦座長
 医療事故かどうかという判断をする,むしろ前の段階のところでということ。
大坪寛子医療安全推進室長
 「死亡事例発生からセンター報告までの流れと論点」ポンチ絵(図3)。
 今回の制度では,死亡事例が発生した後,この制度に言うところの医療事故に入るかどうかを判断してもらう。そこに入ったものについて,センターに報告してもらう。その前に,あらかじめ遺族に説明する。その事項が今の検討課題。永井構成員の話は,最初の段階で亡くなったとか合併症とか,そのような話は通常の診療の中でやられていることで,今回の制度の外でされていること。この赤で点々で矢印で示しているのが,亡くなった当日,速やかに話をするということ。
 今の議論は,医療事故と判断した後に,センターへ報告する前に何を説明するかということ。

図 3 死亡事故発生からセンターへの事故報告(発生報告)までのフローと条文の関係

宮澤潤構成員
 省令にいれるべき。
加藤良夫構成員
 省令にいれるべき。通知に落とすべきではない。
田邉昇構成員
 遺族が予期しないのではなくて,法律の規定は,管理者が予期しないである。第6条の10の規定は,患者情報を第三者の機関,民間機関に通知することについての許容を求めるという記載であるので事故の内容その他,いろいろ省令に書き込んで義務化する必要はないのではないか。
 要するに事故の特定と,これを遺族に対しては第三者の機関に報告するという2点を言えばいい。その他遺族の気持ちとか被害性とか,そのような説明は,仮に報告しないような場合であっても,医療機関とか医師の義務として,顛末報告義務の一環として行えばいい。松原構成員の意見に賛成。
米村滋人構成員
 センシティブな情報をセンターに報告するということが制度化されるに当たっては,その前に遺族に,こういう情報がセンターに行くということを予め話しておくことは必要。この規定はそのような趣旨。遺族の精神的ケアとか,通常の医療の一環としての説明その他は,この法律が求めている説明の内容とは別に通常の医療の経過においてなされるもの。田邉構成員の言うとおり。「遺族への説明事項について,センターへの報告事項と同様とする」との論点は,「原則的には同様」とするのが望ましい。
小田原良治構成員
 田邉,米村構成員の言うとおり。「同様とする」というのはどういう意味で書かれているのか?概略が同じならいいのか?同様の範囲はどうなのか?
大坪寛子医療安全推進室長
 報告内容について,遺族に説明する内容と,センターへの報告内容の整合性の検討という意味での提案である。
山本和彦座長
 一言一句同じでなければいけないということではもちろんないということですね。
小田原良治構成員
 こういうことを報告しますということを話すということでいいのか。
米村滋人構成員
 基本的には,その趣旨。説明の仕方,出す情報の細かいところは,基本的には現場の裁量。
小田原良治構成員
 米村構成員に賛成。今のことをきちんと書いてほしい。
山本和彦座長
 基本的には,センターへの報告事項と遺族への説明事項は,その説明の仕方,その情報の詳細という点については違いがあるにしても,基本的にはセンターに対して報告する事項について,小田原構成員はその概要と言ったが,それを遺族に対して説明することが望ましいということ。
山本和彦座長
 つぎに,報告期限の問題について。
 法律用語として,この「遅滞なく」というのは,判例等では,合理的な理由,あるいは正当な理由がある場合には少しおくれても仕方がないということをあらわす法令用語。逆に言えば,正当な理由もなく,合理的な理由もなく,漫然とその期間を費やした,これは遅滞なくとは言えない,これは遅滞があったということ。
小田原良治構成員
 「遅滞なく」に賛成。
大磯義一郎構成員
 「遅滞なく」でいい。「医療機関の判断プロセスにつぃて」(図1)相談は相談。予期したかどうか最終決定者は管理者である。通知で判断を断定的に伝えてはならないこと,管理者が判断することである旨記載してほしい。秘匿性の担保をしてほしい。実際の事例として,相談段階で情報が漏れている。
山本和彦座長
 そのとおりだ。
小田原良治構成員
 センターへの報告事項について。
 資料(筆者提出意見書A)を添付した。発生時点の報告なので,中身まで必要ない。「その他必要な情報」ではなく「その他管理者が必要と判断した情報」としてほしい。以前言ったように,上の4項目だけでいいのではないか。
大坪寛子医療安全推進室長
 「再発防止については必須事項とせず,管理者の判断に委ねる」という案で提示したが,議論してほしい。報告書の取扱で,「調査の結果は内部資料に含まない」ということで。
加藤良夫構成員
 「再発防止については必須事項とせず」というのがあったが,再発防止策が浮かんだら積極的に書いていくべき。
小田原良治構成員
 医法協ガイドラインp25図(図4)。再発防止策は医療事故情報収集等事業の医療機能評価機構の方でやるということ。今回の制度で行うと,非懲罰性,秘匿性の担保が問題になる。個人が特定されるという問題がある。他のヒヤリ・ハット事例と同様に従来どおりやるべき。

図 4 医法協ガイドラインで提示した再発防止策検討の仕組み

田邉 昇構成員
 特定個人の技量であるとか,そのような再発防止案を書くぐらいならない方がいい。必須的記載事項には強く反対。任意的記載事項ならいい。
加藤良夫構成員
 産科医療補償制度では再発防止策も書いている。
大磯義一郎構成員
 産科医療補償制度は問題の大きい制度。事故調査の20%に有責判断疑いの報告書あり。4%が警察による捜査の端緒となった。再発防止策を書くと,現状では,訴訟誘発,場合によっては刑事事件化の危険がある。
 現状では書くべきではない。
大磯義一郎構成員
 小田原構成員の意見に賛成。
宮澤 潤構成員
 再発防止策は書くべき。項目を設けておかないと,再発防止を行おうというインセンティブがなくなってしまう。
小田原良治構成員
 必須的記載事項は問題。任意的記載事項とすべき。
大坪寛子医療安全推進室長
 「原因を明らかにするために必要な調査」となっているので,原因分析まではこの調査の範囲に明確に含まれている。
小田原良治構成員
 原因を明らかにするために必要な調査が任意とは言っていない。記載事項を任意的記載事項にしてくれということ。
田邉 昇構成員
 小田原構成員の指摘の懸念はある。通知の中で個人の責任を特定し,あるいは追及のための記載でないことを明記。原因分析というのは犯人探しではないと明記。
西澤寛俊構成員
 原因究明は決して責任追及につながらないという意見が多数ある。原因究明という言葉が入ってもいい。
田邉 昇構成員
 制度のたてつけがそうであっても,産科医療補償制度のようなものでも訴訟とか刑事告訴に至る例は枚挙にいとまがない。宮澤構成員の,訴訟が減ったというのは,3,000万円渡すから減っているだけの話で,議論の前提が違う。当該従事者が技術未了と書けば,当然,次に刑事事件になる可能性が高いので,そのような記載をするべきでない。
大坪寛子医療安全推進室長
 「センターが行う整理・分析について」(図5),前回,小田原構成員からのポンチ絵の修正意見部分を修正した。
 「センターが行う調査の依頼について」,法律上は,院内調査の終了前後を問わず,センターへ調査依頼は可能。「安易な依頼をさけるための調査対象の選別や基準や手だてが必要ではないか」との意見があった。院内事故調査終了後にセンターが調査をする場合は,院内調査の検証が中心。調査に協力してほしいとの通知イメージ。院内調査が終了する前にセンターが調査する場合については議論あり。基本的には医療機関が行う調査が基本。

図 5 センターが行う整理・分析業務について,法律に沿った形でのポンチ絵の
修正がなされた。

松原謙二構成員
 第6条の11は原因を明らかにするために必要な調査を行わなければならないということであって,原因を明らかにして,その結果を書けとはどこにも書いてない。
大磯義一郎構成員
 民事,刑事,行政のところでブロックすることが省令上できないなら,報告書の記載内容に非懲罰性,秘匿性が強く求められてくる。最終的に法律の構造上,非懲罰化を貫くために,書かないという選択肢は考えなければいけない。
山本和彦座長
 この調査結果報告書,院内調査とセンターの調査は,ある程度パラレルになっているわけだが,書く主体が違うので,任意的記載事項であるという意味は,院内調査の場合とセンター調査の場合とかなり違う。院内調査は病院が自分で決められるのに対して,センターが書いても書かなくてもいいということになるかもしれない。そうすると,センター調査の結果報告書としては,原因分析とか,再発防止策とか書くべきではないという意見か。
大磯義一郎構成員
 産科医療補償制度においては,実際に4%刑事訴追を受けてしまっている。やはり,現段階で書くのは時期尚早。
宮澤 潤構成員
 刑事訴追をされるのが4%あるからという話もあったが,ごくわずかな例外をもって制度全体の構造を考えるのは,制度全体を考える上で誤りなのではないか。
田邉 昇構成員
 異議あり
 (宮澤構成員の4%発言に,暴論であるとして,筆者を始め,医療側から一斉に異議ありの手が挙がった)
田邉 昇構成員
 宮澤構成員の意見に対して,4%の刑事事件化がそんなまれなことと言われては到底,医療界としては容認しがたい。4%刑事訴追されるとなったら,だれも分娩しない。そんなことも解らずにここで議論していること自体信じられない。医療関係者は解ると思う。
 もう1点,センターの原因分析について,センターはいろいろな医療機関から多くの事例を集める。そこにセンターの主眼がある。多くの事例を集めて,その中で提言,原因分析,これがセンターの機能である。個々の報告に対して,それぞれに対して評価を加えるのはセンターの機能として適切なのか?
 産科補償制度は3,000万円渡しているのに4%刑事訴追される。これでは医療者は完全に萎縮する。
山本和彦座長
 原因分析を否定しているのではなくて,調査報告書に記載することが問題という指摘か?
田邉 昇構成員
 複数の事案を,分析・検討する中で,こういうことが原因ではなかろうかと検討するのは必要。個々のケースの原因がどうこういうことは必要ない。
米村滋人構成員
 田邉構成員の発言趣旨も小田原構成員の趣旨も理解しているが,日本の法は基本的にはヨーロッパ大陸法の系統で,証拠制限するという仕組みがもともとない。ただ,裁判官の自由心証主義という形がとられているので,証拠として採用しないとか,仮に,証拠として採用されても重視しないということはある。従って,仮に採用されたとしても,これは訴訟案件の解決と直接関係のない文書であることがわかるような形で成文化するのが望ましいのではないか。今回,その趣旨をしっかりと周知し,それをまた報告書の内容にも反映させる。センター報告書も当然,この法律の趣旨にのっとって,それに必要な記載をするものと確信している。この制度は責任追及のための制度ではない。報告書を責任追及の手段に使わないようにしっかりと話すことが大事。
小田原良治構成員
 「センターが行う整理・分析」の資料と「センターが行う調査の依頼」の資料が一緒にでているので,先ほどから出ている分析が必要とか,整理が必要とかいう話について確認したい。分析が必要という話は「センターが行う整理・分析」の話で,話はついていると思う。即ち,報告書をセンターに上げて,センターが分析,整理して,ポンチ絵のとおり,その中から得られた,普遍的なものを,報告した全部の医療機関に返して役立てるということは,既に整理済み。「センターが行う調査の依頼について」は,センターが各医療機関に入って直接調査するセンター調査の話なので,別の話だということを確認しておきたい。
山本和彦座長
 それはそのとおりなのではないか。
有賀 徹構成員
 米村構成員に補足。国立国際医療センター造影剤誤投与事件を引用すると,医療は単純に1人の人がやっているという問題ではなくて,多くの人が重なり合うようにやっている。チーム医療とは,それぞれの役割が相当程度に折り重なっている。X君が悪いとかY君が悪いとかいう問題ではない。医療は複雑系を成している。それぞれの部署と部署とが極めてきつい結合によって成り立っている。そういう様を理解すれば,米村構成員の話が立体的に理解できると思う。
山本和彦座長
 本日はこれまで。皆様,よいお年を。

おわりに
 第3回施行に係る検討会で,医療事故に該当するか否かの相談窓口が,センターのみではなく,支援団体にまで拡げられたのは,大きな成果であった。
 医療事故の発生報告,報告前の遺族への説明も妥当なものとなり,報告期間についても「遅滞なく」ということに収斂した。
 センター調査のポンチ絵も,第2回の施行に係る検討会で,筆者が指摘した通りに,普遍的な分析結果を,報告した複数の医療機関に報告するという形に修正された。
 この第3回施行に係る検討会でのハプニングは,常に「医療側弁護士の・・・」と自己紹介し,実際,医療側弁護士として構成員に選任されている宮澤潤弁護士の,到底,医療側とは思えぬ発言である。常々,医療側とは思えぬ発言を繰り返している自称「医療側弁護士」であったが,今回の施行に係る検討会でも,「医療側」とは考えられない発言を連発していた。その極めつけが,「4%の刑事訴追」を「ごくわずかな」と発言したのである。さすがに,一斉に,抗議の手が挙がった。指名された田邉昇医師・弁護士が,「4%も刑事訴追されれば,だれも分娩にタッチしない。そんなこともわからずに議論しているのか」と痛烈に批判したのである。宮澤 潤弁護士は,某病院団体の顧問弁護士である。医療団体・医療機関は,顧問弁護士の考えをチェックしておく必要があろう。医療団体執行部,病院管理者は弁護士の考えをチェックできる程度の法律知識は必須と言うべきかもしれない。
 師走まで議論を続けた,施行に係る検討会は,年明け早々,1月14日に最大の山場である第4回施行に係る検討会を迎えることとなる。




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