=== 随筆・その他 ===

シリーズ医療事故調査制度とその周辺(12)

医療事故調査制度の施行に係る検討会(1)
−医法協ガイドラインを引っ提げ,検討会に切り込む―




 中央区・清滝支部
(小田原病院)  小田原 良治

 2014年(平成26年)10月27日,医療事故調査制度の施行に向けて,厚生労働省令,厚生労働大臣告示,通知などを策定するために,関係者の意見を聴取し反映させることを目的に,医政局長の私的諮問機関としての検討会が設置された。同年11月14日,「医療事故調査制度の施行に係る検討会」(以下,施行に係る検討会という)の第1回会議が開催され,これから翌年の2015年(平成27年2月25日)の第6回会議(最終回)まで,タイトな日程で,論戦が続いたのである(図1)。合意寸前であった施行に係る検討会は,最終回の第6回会議が大荒れに荒れて合意できない事態となった。結局,再度の会議を開くか否かも含めて調整することとなり,第6回会議後,厚労省の必死の調整が続いたのである。その結果,なんとか合意に達して,2015年(平成27年)3月20日,施行に係る検討会とりまとめ(「医療事故調査制度の施行に係る検討について」)が公表されることとなった。施行に係る検討会は医政局長の下に設置された検討会であるが,略,全過程,橋本 岳政務官,二川一男医政局長が出席するという異例の検討会であった。筆者は,施行に係る検討会に構成員として参加し,医法協案の説明を行った。今回,第1回の施行に係る検討会について記述したい。検討会の議事録全文は厚労省ホームページ(*)に掲載されているので,参照いただきたい。検討会構成員は図2に示す(図2)。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-isei.html?tid=228657

図 1 医療事故調査制度の施行に係る検討会開催日程

図 2 検討会構成員

第1回医療事故調査制度の施行に係る検討会
 2014年(平成26年)11月14日,厚労省第12会議室において,施行に係る検討会の第1回会議が開催された。医療関係・報道関係他数多くの傍聴者の中での,全面公開の検討会である。議事録も公開が予定されていた。日本医療法人協会医療事故調ガイドライン(現場からの医療事故調ガイドライン検討委員会最終報告書)(医法協案という)が検討資料として採用された(図3)。厚労科研費研究中間議論の整理も検討資料として採用されているが,これは,論点整理に留まるため,完成版である医法協案が中心となり,議論は進行して行った。筆者は,検討会のあらゆるメンバーから集中砲火を浴びることとなる。しかしながら,これは,裏を返せば,医法協案がたたき台になったということであり,医法協案を如何に修正するかのバトルとなった。筆者が戦場のど真ん中に一気に切り込んだため,不意を衝かれて,皆が,筆者を討ち取るべく集まって来て,一気に乱戦となったということである。当時の記録を基に,筆者の側から検討会の状況を振り返って記述したい。
 第1回施行に係る検討会は,厚労省事務局から資料確認の後,橋本 岳政務官から挨拶があった。橋本 岳政務官は,自身の経験から,システムエンジニアリングの世界で言われるKISSの法則(Keep it simple and short(or small))を紹介し,システムは簡潔にコンパクトに造りなさいという教訓であると述べた。また,医療事故調査制度にも言及し,今回成立した医療法では,医療事故調査制度の目的はシンプルなものであること,この法律に基づいて,具体化するための検討をお願いしたいと明確な挨拶であった。
 座長の選出に当たり,田邉 昇構成員(医師・弁護士)の意見書が紹介された。今回の座長は,第三次試案・大綱案時の関係者は不適任であるという意見であったが,結局,互選の結果,厚労省シナリオの通り,山本和彦構成員が座長に選出された。以下,議事録要約を記す。

図 3 医療法人協会医療事故調ガイドラインが検討資料として採用された。

第1回医療事故調査の施行に係る検討会議事
大坪寛子医療安全推進室長
 医療事故調査制度について,これまでの検討の経緯,医療事故に係る調査の仕組みをポンチ絵(図4)で説明,関係する医療法,及び附則の説明があった。

図 4 医療事故調査制度の仕組み(厚労省提示ポンチ絵)

小田原良治構成員
 医療事故に係る調査の仕組みのポンチ絵(図4)@報告とあるが,下に括弧書きで「事故発生の届出」とある。この届出というのは,法的強制力のある届出という意味か?報告ではないのか?実質的に報告と同じと捉えていいか?
大坪寛子医療安全推進室長
 報告である。
大磯義一郎構成員
 医療法は公法だと思うが,医療事故調査支援センターは民間施設という立てつけになっている,病院等と医療事故調査支援センターという私人間の義務を定めているものではないという理解でいいか?
土生栄二総務課長
 直接に何か罰則があるといった構成にはなっていない。医療法上の義務,管理者の義務として定められている。
有賀 徹構成員
 今の医療事故に係る調査の仕組みのポンチ絵(図4)のDの依頼は,@ABCがあって,その後Dがあるので,@の報告を抜きにして,D依頼だけが突然生ずることはないとの説明であったが,どの条文にあるのか?
大坪寛子医療安全推進室長
 医療法第6条の17に「医療事故調査・支援センターは,医療事故が発生した病院等の管理者又は遺族から,当該医療事故について調査の依頼があったときは,必要な調査を行うことができる。」との規定がある。
西澤寛俊構成員
 厚生労働科学研究補助金による研究事業の10月23日中間的議論の整理について説明。
小田原良治構成員
 日本医療法人協会医療事故調ガイドライン(現場からの医療事故調ガイドライン検討委員会最終報告書)を説明。
 現場に受け入れられない制度は到底成功するとは思えないので,現場目線でとりまとめた。「臨床現場の医療従事者が判断に迷わないよう,また,臨床現場に過剰な負担が生じ,このために,医師等の患者さん方に割くべき時間がとられ,患者さんが危険にさらされることのないよう,改正医療法の条文を原則論から解説するとともに,本制度の実施・運用のあり方について提言を行う。
 「当ガイドラインの原則」の原則@として「遺族への対応が第一であること」としているが,これは医療者の大原則であり,患者さん死亡時に迅速にすべきことは遺族への対応,遺族に対する説明であり,センター報告ではない。遺族への対応,説明は,医療安全の確保を目的とする本制度の外にあるものであるが,医療の一環として大事な事であり,遺族とのコミュニケーション不足が予想外の紛争を招き,遺族にとっても,医療従事者にとっても不幸な事態となることから,原則@遺族への対応の重要性を強調した。原則Aは「法律にのっとった内容であること」,原則Bは「本制度は医療安全の確保を目的とし,紛争解決・責任追及を目的としない」,原則C「WHOドラフトガイドラインに準拠すべきこと(非懲罰性・秘匿性を守るべきこと),原則D「院内調査が中心で,かつ,地域ごと・病院ごとの特性に合わせて行うべきであること」,原則E「本制度により医療崩壊を加速してはならないこと」。
 再発防止策は,個々のケースから短絡的に行うべきではなく,死亡に至らないケースや,ヒヤリ・ハット事例も含めて,従来通り,院内医療安全委員会で検討すべき。既存の医療事故情報収集等事業(日本医療機能評価機構)を活用すべき。
山本和彦座長
 あと,2−3分でまとめを
小田原良治構成員
 「予期しなかった死亡」の定義について,「予期しなかった死亡」とは,「亡くなるとは思わなかった」という状態であり,「死亡という結果」を予期しなかったものである。定義すれば,「通常想定しないような死亡」である。「予期しなかった死亡」は「予期」という要素だけに着目して小さく狭く制度を開始すべきであり,医療法も,病院管理者の主観に「予期しなかった死亡」の判断を委ねている。
佐藤一樹参考人(田邉 昇構成員代理)
 WHOドラフトガイドラインが明言するように,いわゆるアカウンタビリティのための事故調査制度と,学習によって事故再発を防止し,もって安全な医療を国民に提供する事故調査制度は両立しない。
 「国民の理解が得られない」といった発言をする識者や,医療団体の方もあるが,国民の事故調査制度理解度調査は行われておらず,今回の改正医療法に基づく医療事故調査制度が,アカウンタビリティのための制度でない以上,係る議論は非建設的である。
加藤良夫構成員
 「日本医療法人協会医療事故調ガイドライン」について,過誤類型が基本的に削除されていると書かれているが,過誤の類型が排除されることになると,都立広尾病院事件が落ちてしまう。社会常識的に見て,到底了解できる話ではない。当然,過誤類型も含まれている。
 管理の問題でも,日本医療法人協会のガイドラインは西澤構成員の報告と内容的に違っている。管理というものを完全に除外することは現実の問題としても難しい。
山本和彦座長
 小田原構成員,当然反論はあると思うが,多くの人の意見を聞きたいので・・・
小田原良治構成員
 私を指名しての意見なので・・・
山本和彦座長
 簡略に
小田原良治構成員
 都立広尾病院事件の話が出たが,今回,医師法第21条は議論しないという話であった。都立広尾病院事件は明らかに外表異状が見られる事例であり,これは,医師法第21条の範疇の話であり,今回の医療事故調査制度の話ではない。
 改正医療法の旧案である「大綱案」の条文では,報告の類型として,@「誤った医療行為による死亡」と,A「予期しなかった死亡」の2つが挙げられていた。改正医療法は,@「誤った医療行為による死亡」の文言は削除されて,Aの「予期しなかった死亡」類型のみが法文になった。改正医療法の文言では,「過誤」「過失」に触れた文言はない。「過誤」の類型は本制度の対象から除かれ,「予期しなかった死亡」類型のみが対象となった。
 「管理」に起因するものも報告対象ではない。改正医療法では,「管理」に起因するとの文言は除かれている。医療法施行規則第9条の23第1項第2号イ及びロでは,「行った医療又は管理に起因し」となっていたが,今回改正医療法では「管理」の部分は削除されている。法律文言の推移と,他の法文との対比からしても,「管理」に起因する死亡は本制度の対象から除かれ,「医療行為」に起因する死亡のみが本制度の対象となったことは明らか。
高宮眞樹構成員
 小田原先生に伺いたい。予期しなかった死亡が起こって,それを調査し,検討した結果が,過誤・過失があったということになるのであって,最初から過誤・過失というのは,なかなか判断ができないのではないか。だから,予期しなかった死亡で調査・検討した結果,過誤・過失,これはやはり医療事故として報告すべき。
 管理についても,精神科では,興奮・混乱が激しいとか,精神症状によって安全が保てないために,我々は拘束・隔離といった医療行為をするが,そういった医療行為中に転倒・転落が起こった場合には,「管理」として除外するのはいかがなものか。
小田原良治構成員
 要するに,基準は予期しなかったものを報告すると言っている。過誤とは関係なしに予期しなかったら報告するのだ。最初から,そう説明している。
 「管理」も,単純な管理が外れるという話をしているのであって,例えば,医療にまつわる,術後管理のなかで,点滴管理のなかで,ある薬剤の点滴速度を大幅に間違えてしまって起こった。これは,明らかに医療であり,そういう部分の管理は含まれると言っている。
 私が言っている管理は,単純な管理,例えば,転倒,患者間のトラブル,そういう単純な管理は外れると言っているのである。この通知の文言もそのようなものを管理と規定してあるので,それに基づけば,単なる管理は対象外である。小田原がと個人的な意見のように言われたが,ちゃんとそのように書いてあるので,それに従ってやるべきということ。平成16年9月21日,医政発第0921001号,厚労省医政局長通知において,管理上の問題として,入院中の転倒・転落,感電,熱傷等,入院中の身体抑制に伴う事故,等が挙げられている。
鈴木雄介構成員
 「管理」の問題について,厚労委員会での具体的な,もっとリアルな説明,解釈のなかでの意図,温度感というのはどのような状況だったのか?
土生栄二総務課長
 「医療に起因し,または起因すると疑われる死亡又は死産」ということで,過誤があったかどうかとか,管理が含まれるかどうかということは,この判断の軸には入っていない。医療に起因し,または起因すると疑われるかどうかということで,入口のところは判断することになっている。逆にいうと,医療の外にある,医療に含まれない,単なる管理というのは,法律上,対象とならないということで,厚労委員会では説明している。
大坪寛子医療安全推進室長
 付帯決議で,「調査制度の対象となる医療事故が,地域及び医療機関ごとに恣意的に解釈されないよう,モデル事業で明らかとなった課題を踏まえ,ガイドラインの適切な策定等を行うこと。」となっている。
小田原良治構成員
 厚労省Q&AのところのA2のところに,医療に起因し,または起因すると疑われる死亡または死産であって,それ以外のものは含まれませんとアンサーが出ている。参議院厚労委員会で,局長が,単なる「管理」は含まれないと明確に答弁している。
松原謙治構成員
 現場が混乱しないように。萎縮医療になったりしないように。どの範囲のものを対象とするか。3つの論点がある。1.「医療」に関係して亡くなったことを対象にすることを明瞭に。2.「医療」を伴っての「死産」を対象にする。自然な「死産」は含まれない。3.「医療」によって起きた死亡において,「予期しなかった」という言葉を,どういう表現にすべきかを議論すべき。
豊田郁子構成員
 事故調査というのは標準化を図るべきである。「院内調査が中心で,かつ,地域ごと・病院ごとの特性に合わせて行うべき」ということが想像がつかない。
小田原良治構成員
 医法協案の25ページ,「再発防止策の検討・対策の流れ」の図に書いてあるとおり,亡くなった場合に,アドホックな委員会として,院内医療事故調査委員会を立ち上げるが,死亡例は,いろいろなヒヤリ・ハットがあって,たまたま死亡に結びついたと言える場合が多いのであって,医療機関個別のこととかいろいろあるので,他のヒヤリ・ハット事例とともに常設の院内の医療安全委員会で検討すべき。原因は同じかもしれない。同時に検討すべきは「匿名化」。国全体(センター)として行うのは,そのような症例が集まった全体を検討して,大きな解決策を考えるべきということ。院内の話と国全体の話は分けて考えるべきという意味で,院内の部分については,各特性を踏まえた上でやると言っている。
加藤良夫構成員
 個々の管理者である病院長が迷ったりしないよう,また,逆に言えば,恣意的に報告したり,しなかったりすることのないように厚生労働省令,ガイドラインで内容を詰めていくということになるだろうと思うが,「予期しなかった」という要件について意見を述べておきたい。
 死亡事例に限るわけだが,「その死亡以前には,当該患者がこの時期にこのような経過で死亡するとは考え難かったものを言う」と。くりかえすが,「死亡以前には,当該患者がこの時期にこのような経過で死亡するとは考え難かったもの」。こういうものを客観的に管理者として見て,報告してもらうことが,この法律の趣旨だろうと考えている。
大磯義一郎構成員
 入口の議論,要は何を報告するかということよりも,要は出口のところ,報告や説明のところで,非懲罰性とか,秘匿性というものが現場の医療者が十分に安心できるほどの担保がされていればいいので,出口の部分から議論すべき。
有賀 徹構成員
 議事録は残すのか
田上喜之医療安全推進室長補佐
 議事録は出来次第,公開する。
 以上,議事要約を記したが,筆者は加藤良夫構成員の発言に一瞬,身構えた。「その死亡以前には,当該患者が,この時期にこのような経過で死亡するとは考え難かったもの」というのは,何かの判決文に違いないと考えたのである。加藤良夫構成員は,患者側として高名な弁護士である。この議論は用心しなければならない。安易に同意できない。この考えがずっと頭から離れなかった。一刻も気の抜けない会議であり,検討会終了後は一気に疲労感に襲われた。

おわりに
 厳密に言えば,厚労省医療安全推進室お抱えの厚労科研費研究(「診療行為に関連した死亡の調査の手法に関する研究班 議論の整理」)(西澤班,中間的議論の整理)と日本医療法人協会医療事故調ガイドラインの2つが議論のたたき台の資料として施行に係る検討会に提出された。それぞれの報告書の内容の濃さの差は勿論であるが,第1回施行に係る検討会から,筆者が集中砲火を受けたこと,一つ一つに反論していったことから,結果的に,日本医療法人協会医療事故調ガイドラインをたたき台として議論が進む結果となった。第2回目以降の施行に係る検討会は,施行に係る検討会その場だけではなく,厚労省との綿密な事前協議を経て議論が進行して行った。次回は,検討会そのものだけではなく,事前の厚労省とのやりとりも含めて紹介したい。




このサイトの文章、画像などを許可なく保存、転載する事を禁止します。
(C)Kagoshima City Medical Association 2018