=== 新春随筆 ===

       迷わない・怒らない・諦めない
(昭和33年生)



南区・谷山支部
  (総合病院鹿児島生協病院) 神渡 幹夫

 5年前に体調を崩し産科をやめ,健診や産業医活動の日々である。そして還暦を迎えた。これまでなんとかやれてきたのも,たくさんの方々の支えがあればこそであり,今後もなんとかやっていければと思っている。
 人生は選択の連続であり,日々決断を迫られていることが多い。仕事の上ではなおさらである。判断材料がたくさんあって決断に迷うことは多々あり,結果次第で後悔することもある。そこで,ますます迷いが生じ決断を鈍らせてしまう。二つの選択肢で迷った場合,大抵困難と思われる選択が正しいことが多い。「狭い門から入りなさい。滅びに至る門は大きく,その道は広いからです。そして,そこから入って行く者が多いのです。(新約聖書マタイの福音書7章13節)「楽な道よりも困難な道を選べば,大きな報いがありますよ」という意味らしい。自分でもある程度の正解はわかっているが,困難でイヤだなと思っていることが迷う原因であるようにも思う,些細なことに迷わずに信念を持って生きていきたいものだ。
 最近は,キレる人が高齢者に多いらしいが,患者さんだって,ニコニコしていた人がいきなり怒り出すことはある。原因は自分の言動にあったのかと深く反省することもあるが,理不尽な要求などのこともある。その後に関係ない人まで当たり散らしてしまうこともあり,さらに深く深く反省し後悔してしまう。テレビでお笑い芸人が言っていた。「人を怒らすことは簡単だが,人を笑わすのは難しい」と。『孫子・謀攻』に「彼を知り己を知れば百戦殆からず。彼を知らずして己を知れば,一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば,戦う毎に必ず殆し(敵と味方の実情を熟知していれば,百回戦っても負けることはない。敵情を知らないで味方のことだけを知っているのでは,勝ったり負けたりして勝負がつかず,敵のことも味方のことも知らなければ必ず負ける)」とある。診察前にできる限り情報を得て,冷静に分析できる状態(体調や心理)を保たなければならない。さらに,気心が知れている人と油断して落とし穴が待っていることもある。家に帰っても同様である。「いつも笑顔で」などといわれても自分にはできそうもないが,怒らないように日々過ごせればと切に思っている。週に一回の訪問診療で施設入居者の中では,ニコニコしている方は人気者だ。
 事を成し遂げるには,あきらめないことが必要だ。この世に生まれてきたからには,何らしかの役割があるはずだ。生きているだけでもよい。人のために役に立てればそれでもよい。人の役に立つような仕事ができればさらによいと思う。産業医の業務で長時間労働や高ストレス者の面接指導というものがある。心血管疾患・脳血管疾患・精神疾患(うつ病)などへの対策が目的であるが,対象者は睡眠時間は五時間もなく,半日以上を仕事せざるを得ない状況である。必要に応じて医療機関への受診などについての意見をのべ,残業時間を減らす対策を提案することになる。もちろん,事業所側もよくわかっているが,人手を増やせず,人材もおらず,短期間の解決は困難である。医療機関の医師労働などをみれば明らかともいえる。労災の起こりにくい職場,健康で働ける職場,年齢・性別にかかわらず働ける職場,病気を療養しながらでも働ける職場,夢のような話ではあるが,そのような職場環境づくりに少しでも関われたらと思っている。
 少子高齢化・自然災害など今後の生活は不安ばかりである。あとどれくらい仕事できるか,生きているかわからないが,「迷わない・怒らない・諦めない」でやっていければと思う。




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