=== 新春随筆 ===

鹿児島県における助産師の偏在化


鹿児島大学医学部保健学科教授

     吉留 厚子
はじめに

 わが国の出生数は昭和22年に270万人をピークに徐々に減少し、平成19年には109万1)となり、人口の高齢化及び少産少死の傾向は年々顕著となっています。将来の日本を担う人口を確保するためには母子保健の役割は重大であることは自明です。今日まで、産科医療は「安全な出産」を目標にすすめられて、わが国の妊産婦死亡率や乳幼児死亡率は先進諸国と同様な水準を維持できるようになってきました。しかし、近年、産科医師数の減少、分娩施設もこの10年間で26.5%減少し2)医療水準確保が緊急課題となっています。
 鹿児島県では、平成19年に種子島唯一の産科クリニックが閉鎖する問題が生じ、県をあげて医師確保に奔走したことは今も鮮明に覚えています。その結果、住吉医師が赴任され医師不在の危機を脱出したのですが、ここで、妊娠、分娩、産褥に関わる助産師はどのようになっているのかと疑問に感じました。今回、鹿児島県における助産師の就業状況等を調べましたので報告いたします。

鹿児島県における地域別助産師の就業割合
 表1に鹿児島県における地域別助産師の就業割合を示しました。昭和61年に県で581人の助産師が就業していましたが、平成18年には469人(80.7%)に減少していました。鹿児島市のみ116人から281人(169.3%)と飛躍的に増加していますが、加世田、伊集院、大口、志布志、西之表は30%以下に減少していました。この20年間で鹿児島市に助産師が集中し、それ以外の地域では減少したことが明らかにされ、助産師の偏在化がかなり進行していたことが分かります。

鹿児島県における地域別出産数と1人あたりの助産師の出産数の推移
 表2に鹿児島県における地域別出産数と1人あたりの助産師の出産数の推移を示しました。鹿児島県全体では昭和61年には助産師1人あたりの出産数は36人で、平成18年では32.2人で、大きな変動は見られませんでした。昭和61年に鹿児島県下の地域別では、名瀬の60.7人を除くと、他の地域では助産師1人当たりの出産数は30人から40人でした。平成18年には鹿児島市で助産師1人あたりの出産数が19.9人と減少し、反面、志布志334人、西之表96.7人と著しく増加しました。なお、西之表においては、平成20年に1人の助産師で200人以上の出産に立ち会っていました。異常妊娠・分娩は鹿児島市に集中することを考慮してみても、助産師1人あたりの出産数がこの20年間で大きく変化したことが明らかになりました。

鹿児島県における助産師の偏在化
 ここ20年間の助産師の就業状況が大きく変化したことは、つまり助産師は都市に集中し、過疎地域には十分な助産師の人数を確保できていないのではないかと思います。南日本新聞に種子島で出産したA子さんが助産師について「赤ちゃんや自分のことをいろいろと教えてもらい、助産師のいなかった一人目のときとは安心感がまったく違った」3)述べています。助産師の気持ちとして「妊娠から産後まで患者が必要としている時期に相談にのりたいと考えている。だが、同じ日に出産が何件かあると、立会い処置だけで手いっぱい。産後のケアや新生児の健康チェックを十分にこなせない。お産に対する不安や出産後始まる育児の悩み相談にも対応しきれない。−略―足がむくんだり母乳の出が悪かったりする患者から、もっと早く相談にのって欲しかったと打ち明けられることも、山口(助産師)さんには患者のニーズに応えられていないことが多いのではと歯がゆさがつきまとうと」4)と記載されています。
 今回、助産師の就業状況を分析した結果、助産師の偏在化が鹿児島県においては大きな問題であることが分かりました。偏在化を解消するためには、助産師教育のみではなく行政の支援も求められ、関係者が協力して解決していく必要があると感じています。
 この報告の一部をThe 7th International Nursing Conference(INC2009), October 29- 30, 2009, Seoul, Korea で発表しました。

引用文献
1)わが国の母子保健、財団法人 母子衛生研究会p16、2009
2)平成19年版厚生労働白書、厚生労働省/編、p45、2006
3)南日本新聞 平成21年4月27日 鹿児島医療過疎1 助産師はいま
4)南日本新聞 平成21年4月28日 鹿児島医療過疎2 助産師はいま




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