編集後記


 6年振りに診療報酬と介護報酬の同時改定が行われましたが,みなさんの医療機関への影響はいかがでしょうか。私は診療報酬改定のたびに,留学時代に中国からの留学生に教えてもらった「上に政策あれば,下に対策あり」という言葉を思い出しながら,改定に臨んでいます。
 さて,今回の紙上ギャラリーは,久保秀通先生の「春のうたたね zzz」,のんびりと昼寝をしているカンガルーでした。春眠暁を覚えずというように春は眠い季節です。これは冬モードだった基礎代謝を,10%ほど抑えた夏モードにするために必要な時間を確保する生理現象とも言われていますので,眠い時にはゆっくり休んで,早く適応したほうが良いようです。
 論説と話題は,日本医師会の医療情報システム協議会の報告です。個人情報保護法の施行以来,個人情報の管理強化は医療機関では必須ですが,地域医療連携を進めるために複数医療機関で情報共有化を推進するのも大切です。一見,矛盾するような2つを両立させる方策について実践例を含めた講演の要約がメインです。
 私が気になったのは,AI(人工知能)と未来の医療の関係です。一昨年,IBMのWatsonが白血病の難症例患者の正しいタイプをわずか10分で見抜き,患者の命を救ったというニュースが大きく報じられ,医療分野でのAIの有用性が注目されています。論文や資料を含めた膨大な量のデータを読み込んだAIが,客観的に事実だけを取り上げ,全体を理解した上で答えを導く力を上手に利用すれば,経験と勘にたよった医療からの脱却を目指して提唱されたEBM(Evidence-based Medicine)が大きく発展しそうです。
 くすり一口メモは,5年振りに改訂された「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」を踏まえて,脂質異常症の治療薬として最も使用頻度が高いスタチン系薬剤の特徴を整理してありますので,診療の参考にしてください。
 学術で注目したのが,今村総合病院の救急・総合内科の林 恒存先生の「ポリファーマシー(多剤併用)」に関する論文です。処方する薬剤に関して,薬効についての知識と共に可能性の高い副作用や相互作用などについてもよく精通することが大切という意見には大賛成です。ただ,すべての薬剤に精通することは困難なので,他科の処方を含めた多剤併用のチェックにはAI活用が良さそうです。症例1に処方されたPL顆粒は昨夏から市販されているので,高齢男性が服用した場合の尿閉について注意喚起が必要と思われます。
 随筆・その他は,古庄弘典先生の209回目の切手が語る医学,小田原良治先生のシリーズ医療事故調査制度とその周辺(14),武元良整先生の貧血のお話と常連の先生からの投稿が多いのが特徴です。昨年10月2日に逝去された鮫島 潤先生も常連のおひとりでした,多くの玉稿をお寄せくださった事に感謝すると共にご冥福をお祈りいたします。
 そして,リレー随筆は,今回も県立大島病院でリレーされて,研修医の松田大樹先生が「走り」と題して,長距離ランナーの内面が垣間見えるお話を書いてくださいました。
 3月14日に亡くなったスティーヴン・ホーキング博士は,「完全なAIを開発できたら,それは人類の終焉を意味するかもしれない。」と映画ターミネーターのような時代が来ないようにと警鐘を生前発表しています。先日,我が家にAIペット「アイボ」が届きました。名前を呼ぶと近づいてくるので,頭や背中を撫でると嬉しそうに「く〜〜ん」と鳴いて,まるで本物の犬のようで可愛くなっている私は,AIの発展が人類にとって明るい未来を切り開いてくれることを信じています。

                             (編集委員 島田 辰彦


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