=== 随筆・その他 ===


シリーズ医療事故調査制度とその周辺(8)

-厚労省に提出した日本医療法人協会
「医療事故調査制度に関する見解」-
中央区・清滝支部
(小田原病院) 小田原良治

 今日の医療事故調査制度を形作ることとなった「医療事故調査制度の施行に係る検討会」(施行に係る検討会という)について記述するまえに,施行に係る検討会のたたき台となった日本医療法人協会医療事故調ガイドラインについて記載しなければならない。この日本医療法人協会医療事故調ガイドラインの原型は,西澤班開始の冒頭に厚労省からの求めに対して提出した意見書にある。西澤班に会長代理として出席した筆者が厚労省に提出した,日本医療法人協会「医療事故調査制度に関する見解」を本稿に記載したい。「医療事故調査制度の基本理念・骨格」部分についての厚労省担当者との見解の相違については,前号に記載したので,本稿では,厚労省の見解は省略して,日本医療法人協会(医法協という)の見解として記した部分のみの記載としたい。厚労省から提示のあった課題部分は,解りやすいように,太字(ゴシック体)とした。

0. 医療事故調査制度の基本理念・骨格
1)この議題の見解を述べる前に
(1)「医療事故調査制度」については,2013年(平成25年)1月23日に四病協合意,同年2月22日に日病協合意が発表され,病院団体としてのコンセンサスは得られている。その骨子は,医療安全・再発防止の制度と責任追及(紛争)の明確な分離であり,WHOドラフトガイドラインに基づくというものである。
(2)2013年(平成25年)11月8日の第5回社保審医療部会に提出された「医療事故に係る調査の仕組み等に係る論点」において,「医療の安全を確保するための措置として…」と医療安全のための法律であることを明記している。
(3)上記内容は,2013年(平成25年)11月6日行われた,保岡興治衆議院議員,厚労省,医法協の三者会談で厚労省より示されたものであり,この内容を受けて法案成立への協力を約したものである。
(4)2014年(平成26年)3月14日の勉強会での当協会の意見は,まさに,この点を指摘したものであり,この論点を整理し,「3月14日事前勉強会論点の整理」として同年4月9日の当会議に提出したものである。前文に記してあるように,「医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方」(5月29日「厚労省とりまとめ」)の後,日本医療法人協会との会談・社保審医療部会・橋本岳議員とのQ&A・自民党社会保障制度特命委員会厚生労働部会合同会議・閣議決定へと進歩して法案化に至っている。簡単に見ただけでも以下の如く,違いがあるため,法案を基に検討を行うべきである(以下の相違点は省略)という当然のことを提起したい。
(5)即ち,0番として記してあるごとく,ガイドラインの検討を進めるための共通認識としての提示であるならば,この0番にあるごとく,「基本的な考え方(医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方(抜粋))」が記載されているのは問題がある。ここに,記されるべきは,「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律(抜粋)」であるべきである。
(6)法案を基礎とせず,5月29日の「厚労省とりまとめ」を基礎とするということは,国会軽視にもつながり,政治・行政のあり方に関わる問題となる可能性がある。
(7)以下は,議論の基礎としてではなく,単なる「医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方(抜粋)」についての意見として記載する。
2)「医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方」についての見解
(1)原因究明及び再発防止を並列で同時に行う仕組みは機能しない。医療の内(再発防止)と医療の外(紛争)は明確に切り分けるべきものである。医療安全のための仕組みであるならば,医療安全・再発防止を図り,再発防止のために原因分析を行うとすべきである。
(2)再発防止のための仕組みであれば,行政機関への報告は必要ない。法案にある通り,行うべきは,院内事故調査である。院内事故調査委員会までをも設置して院内事故調査をするか否かは,当該管理者自らで決することである。助言を求めるか否かも,当該管理者自らの権限と責任において判断すべきことである。
  第三者機関が助言すべきことは,「死亡又は死産を予期しなかったもの」の定義の説明,報告等の事務手続き等であるべきである。報告は,法案にもあるように,当該管理者の権限と責任において行われるべきである。
  この時点の,遺族への説明は,報告後に院内事故調査を開始するものであるので,医療事故調査制度と今後の見込み,医療事故調査制度の仕組みの概要と今後の手続きの流れの説明にとどめるべきである。
(3)院内事故調査に納得が得られない場合は,遺族のみでなく当該医療者にとってもあり得ることである。したがって,納得が得られない場合は,遺族・当該医療者ともに管理者に申し出るべきものであり,管理者が管理者の判断で第三者機関に申請を行うべきものである。遺族・当該医療者等が納得せず,管理者が申請を出す状況にない場合は,既に紛争状態にあると考えられ,「再発防止の仕組み」である医療事故調査制度が関与するべきものではない。
  当該医療者の医療事故調査における免責なくして,再発防止の仕組みは機能しない。
(4)法案にあるとおり,行うべきは,院内事故調査であり,院内事故調査を行う手法として,院内事故調査委員会を設置して院内事故調査をするか否かは,当該管理者の判断である。外部の専門家の支援を求めるか否かも,当該管理者の判断である。また,当該医療者の責任追及の結果をもたらさないよう秘密保持に留意する。
  また,院内事故調査は,できる限り当該病院等のスタッフで調査を完結できるよう努める。自立性と自律性の原則に鑑み,安易に,第三者の専門家に丸ごと依頼するようなことは避けるべきである。
  院内事故調査は中立的に行うべきものではないし,完全に中立な人間など存在しない。院内事故調査は,再発防止・医療安全の推進を目的として行われるものであるから,現場の実態に即して密着して行うものである。医療の専門家には,当該専門領域の専門家,当該病院等と共通の現場・地域性に通じた専門家あるいは病院規模・経営主体により適切な人材が異なるなど種々のケースが考えられる。医療の専門家とは,専門医あるいは学会関係者のみではない。専門家の支援を求める際には,管理者は,当該事案に適した専門家を求めるよう努めるべきである。依頼すべき外部の専門家としては安全工学の専門家は必要であろうが,法律家は必要ない。法律家を必要とするのは,紛争処理であり,医療安全の組織においてではない。
(5)院内事故調査の報告は,遺族に十分説明すべきであるが,報告書は開示すべきではない。開示を行えば,再発防止の仕組みではなくなり,紛争と混乱が起こる。秘匿性・非懲罰性の原則は必須である。
(6)第三者機関は複数の民間機関であるべきである。唯一の組織であってはならない。
(7)本制度は医療安全・再発防止の仕組みであり,医療事故に関わった医療関係職種の責任追及・過失認定の結果をもたらしてはならない。秘匿性・非懲罰性は厳格に守らなければならない。
(8)第三者機関は複数認定すべきである。本制度は当該病院等の自主性・自律性に基づく院内調査を中心とするものであり,第三者機関を中心とするものではない。第三者機関の調査は,院内事故調査に優越するものではない。あたかも,第三者機関が優越するがごとき状況をつくってはならない。
(9)第三者機関関係者には厳密な守秘義務を課すべきであり,個別事例につき,警察その他行政機関への報告を行ってはならない。医師法第21条に関しては,田原克志医事課長発言,大坪寛子医療安全推進室長発言に基づき,厚労省は誤解の解消に努め,死亡診断書記入マニュアルの法医学会ガイドライン参照文言を削除すべきである。

1. 事案発生から届出までの流れについて
(1)事案の標準化のための具体的な届出基準・事案の例示等の考え方
 標準化や例示等は必要ない。
 理由:個別患者の症状,医療従事者の知識・技術・経験,医療従事者と管理者の位置関係,病院の規模・経営主体・体制など状況が異なり,標準化は困難であり弊害がある。
 医療安全は,個々の現場の実情に応じて推進することが肝要であり,標準化すると現場との間に齟齬が生じる。
(2)「死亡又は死産を予期しなかったもの」の一定の定義
 当該医療従事者も当該管理者も共に,現実に,死亡又は死産を予期しなかったものであり,あくまでも現場の当該医療従事者や管理者の実際の認識に基づいて判断されるものである。
(合併症との違いの明確化)
 「死亡又は死産を予期」したか否かと合併症か否かは別物である。
 予期の対象は,あくまでも「死亡又は死産」そのものであり,その原因ではない。
 予期したものの中にも予期しなかったものの中にも,合併症がある。
(3)事案決定プロセスの標準化
 法案にあるとおり,行うべきは,院内事故調査であり,院内事故調査を行う手法として,院内事故調査委員会を設置して院内事故調査をするか否かは,当該管理者自らで決することである。
 センターの助言を求めるか否かも,当該管理者自らの権限と責任において判断すべきことであり,センターが助言すべきことは,上記「死亡又は死産を予期しなかったもの」の定義の説明,報告等の事務手続き等であるべきである。予期の有無等につき,センターが一般的な立場から助言しうることではない。
 当該管理者や医療従事者の参加の是非についても,同様に,病院等によって一律ではない。当該病院等の自主的な判断によって決まることである。ただし,当該医療従事者については,法的な利害関係を有する人権問題でもあるので,意見陳述・事情聴取や委員就任も含め,黙秘権を告知した上で,適切な手続きの下で,参加するようにすべきである。
 事案決定プロセスに関しては,当該管理者や病院等の自律的な運営に任せるべきであり,センターは,事案決定プロセスに対しては不介入の立場をとるべきである。
(4)届出に際して
 届出者:届出(報告)は,法案にもあるように,当該管理者の権限と責任において行われる。
 届出先:届出(報告)は,当該管理者が直接センターまたは,医療事故調査等支援団体に届け出る(報告する)。
 届出事項:当該医療事故の発生日時,発生場所,発生状況(当該事故に係る患者に関する情報,当該事故に係る医療関係者に関する情報)を届け出る(報告する)ものとする。ただし,届出(報告)後に院内事故調査を開始するものであるので,事故の概要,発生場面・内容に関する情報,当該事故の内容に関する情報(実施した医療行為の目的,事故の内容),発生要因,事故の背景・要因,改善策は届出事項(報告事項)とはしない。
 届出方法と届出期限:届出(報告)の方法は書面または口頭。届出期限(報告期限)は,医療事故が発生したことを当該管理者が知った時から1週間程度を目安とする。
 遺族からの届出依頼の扱い:遺族からの届出依頼(報告依頼)は,当該管理者を拘束するものではなく,当該管理者が届出(報告)の要否を判断する際の一つの参考である。
(5)遺族への事前説明事項
 遺族の範囲は,死亡した者の法定相続人,死亡した者と生計を同じくしていた者,療養看護に努めた者の全部または一部を遺族とする。ただし,当該病院等から行う遺族への事前説明は,遺族の一部に対して行うことをもって足りる。
 事前説明事項は,センターへの届出事項(報告事項)と同一のものとする。
 医療事故調査制度と今後の見込みとしては,医療事故調査制度の仕組みの概要と今後の手続きの流れを説明する。
 解剖の承諾については,当該管理者が解剖を必要と判断した時は,病理解剖の担当機関,場所,遺族が負担すべき費用の額を示して,遺族の承諾を得るよう努めるものとする。ただし,遺族の一部が異議を述べた時は,病理解剖を実施してはならない。

2. 医療事故調査項目・支援体制について
(1)実施調査項目

①臨床経過:客観的に事実を記載する。
②提供医療や投薬等との関係等の事実関係確認等の具体的事項
 医療安全・再発防止のための仕組みであることに留意し,関係者のヒアリングに際しては,責任追及の結果をもたらさないよう秘密保持に留意する。ヒアリングを行う担当者,ヒアリングされた関係者の供述等の資料は,医療安全活動資料として,病院等の外部に開示・漏出しないよう,秘密保護措置を講じるべきである。診療録等の記録については,誤記・脱漏がないか否かを病院等でチェックし,誤記・脱漏があった場合は,訂正・補正等の追加記載をし,記載した担当者,日付けを必ず記入するべきである。
(2)調査に際する手順や具体的資料等
 医療安全の推進,再発の防止を目指すための調査であることに留意し,なぜ予期しなかったのか等の再発防止に資する調査に重点を置く。過誤の有無に着眼した調査であってはならない。
(3)解剖の必要性とその体制,AIの必要性とその体制
 中核となる病院においては,当該病院等で行う体制を整える。中小病院等においては,中核病院の協力のもと,地域ごとに連携できる体制を整える。
(4)調査期限
 院内事故調査の終了は6カ月を標準期間とし,これを目安とする。ただし,病理解剖を実施した場合には,剖検報告の入手に要した期間は,この期間に含めない。
(5)調査進捗状況報告
 院内事故調査を中心となって行っている者は,当該管理者に必要に応じて調査の進捗状況の報告を行うものとする。
(6)センターへの院内調査進捗状況の報告
 標準期間内に調査が終了しない可能性が生じた場合,剖検報告に多くの時間を要している場合には,当該管理者は,既に報告をしたセンターもしくは支援団体,及び遺族に対して,調査終了が遅延する旨を報告するよう努めるものとする。
(7)医療の専門家による支援を求める場合の依頼やその調整方法
 できる限り当該病院等のスタッフで調査を完結できるよう努める。自立性と自律性の原則に鑑み,安易に,第三者の専門家に丸ごと依頼するようなことは避けるべきである。
(8)支援団体のそれぞれの特性,専門性,地域性等による役割分担
 医療の専門家には,当該専門領域の専門家,当該病院等と共通の現場・地域性に通じた専門家あるいは病院規模・経営主体により適切な人材が異なるなど種々のケースが考えられる。専門家の支援を求める際には,管理者は,当該事案に適した専門家を求めるよう努めなければならない。
(9)院内調査の中立性のために留意すべき事項(調査者の重複等)
 院内事故調査は中立的に行うべきものではないし,完全に中立な人間など存在しない。院内事故調査は「予期しなかった死亡又は死産」に対して,再発防止・医療安全の推進を目的として予期を高め制御可能性を高めるために行われるものであるから,現場の実態に即して現場に密着して行うものである。科学性,公平性は確保しつつも,現場から離れた立場で行うものではない。
(10)支援団体への業務委託
 医療以外の専門家としては,必要と判断した時には,安全学の専門家の派遣を要請すべきである。医療安全・再発防止のための仕組みであるので,過誤や過失と関わるものではなく,院内事故調査そのものは直接に遺族に開示するものでもない。法律家の参加は不要である。
(11)外部支援不要な場合
 当該病院等が自主的・自律的に当該病院等のレベルに相応しい調査を行う場合には,当該管理者が外部支援を不要と判断した時は,当然に,外部支援を要しない。

3. センター業務(院内調査に係る事項)について
(1)院内調査結果報告の整理業務(充足度等)
①院内調査結果報告書の充足度

 院内事故調査結果報告書の充足度については,形式的整理と文面の検証にとどめ,当該病院等の実情に応じた自主性・自律性を尊重する。
②院内調査結果報告書の相談・確認
 当該病院等の自主性・自律性を尊重することを主旨とする。調査内容介入にあたる相談・確認は控えねばならない。
(2)院内調査結果報告の分析業務(類似事案の整理等)
①類似事例の整理

 匿名化・一般化を行い,類似事例を集積し,共通点・類似点を調べ,傾向性と優先度を計る。
②類似事例の再発防止策の提案
 集積されていて優先度の高いものにつき再発防止策を提案し,当該病院等その他の医療機関に提案する。ただし,当該病院等の実情にそぐわない再発防止策の提案は,当該病院等や医療従事者に対する名誉毀損や業務妨害の結果を招く恐れがあることに留意し,細心の注意を払わなければならない。
(3)院内調査結果報告の整理・分析結果の報告(医療機関・遺族への還元方法等)
①調査の充足度

 調査自体についても上記の院内事故調査結果報告書の充足度と同じである。
②類似事例の医学的評価と再発防止策
 診療ガイドラインとの対比における医学的評価や再発防止策であるならば,それは不要である。なお,前述の如く,当該病院等の実情にそぐわない医学的評価や再発防止策は,当該病院等や医療従事者に対する名誉毀損や業務妨害の結果を招く恐れもあることに留意し,細心の注意を払わなければならない。
③医療機関・遺族への還元方法
 再発防止や医療安全の推進が目的であるので,当該病院等その他の医療機関に還元すべきであるが,遺族には還元してはならない。

4. センター業務(センター調査に係る事項)について
(1)求めに応じて行われるセンター調査業務
①申請される状況
(ⅰ)院内事故調査実施中

 院内事故調査を実施している最中で,標準期間内の場合もしくは標準期間を経過するも正当理由がある場合には,遺族も医療機関もセンター調査を依頼することができない。本制度は当該病院等の自主性・自律性に基づく院内事故調査を中心とするものであり,センター調査中心ではないからである。
(ⅱ)院内事故調査終了後
 この制度は,医療安全・再発防止のための制度である。したがって,遺族が「当該病院等を信用できない」こととか「院内事故調査の結果に納得がいかない」ことを理由とする場合には,既に,紛争状態にあるため,センター調査を依頼することができないし,センターは,依頼を受託してはならない。遺族と当該病院等が対立的になっている状況の下でセンター調査が行われると,センターが双方当事者に対して事実上の裁定を下す結果になってしまうからである。センター調査は法的に院内事故調査に優越するものではない。あたかも,実際上,優越するかのような状態を出現させてしまってはならないし,また,不当である。
 第三者の意見が聞きたいというケースがありうるのは,遺族や当該病院等だけでなく,当該医療従事者の場合もある。したがって,遺族も当該医療従事者もすべて当該病院等を通じてのみ調査の依頼ができるとする運用にすべきである。そうすれば,調査依頼の費用も当該病院等に一元化できるというメリットもあるであろう。
②調査依頼の方法(申請方法と期限)
 センター調査の依頼は,遺族または当該医療従事者もしくは当該病院等の申出に基づき当該病院等に一元化して行う。期限は,院内事故調査結果の遺族への説明があった日から1カ月以内とする。
③調査内容と方法
 センター調査は,院内事故調査が適切な手続きで行われたか否かを検証することに重点をおいて行うべきであり,問題がある時には原則として院内事故調査の補充またはやり直しを行うべきとの結論を出すべきである。したがって,自ら新たな調査を一から行うのは,院内調査結果に重大で明らかな誤りがあって,かつ,当該病院等自身ではやり直しが著しく困難であるという特段の事情が存在する場合に限られるべきである。
④医療機関から提供頂く資料
 医療安全・再発防止のための仕組みであることに鑑み,関係者のヒアリング情報その他の医療安全活動資料は,当該病院等からセンターへ提供しない。
⑤外部支援への業務委託のあり方
 業務委託は,個々の支援団体との協議に基づき,それぞれの支援団体の特性等に応じた範囲等で行うようにすべきである。
⑥医療機関に対する説明聴取,資料提供等の調査協力
(ⅰ)院内事故調査実施中で標準期間内または標準期間を経過するも正当理由がある場合は,センターからの調査協力の求めに対して,病院等の管理者はこれを拒むことができるし,そもそもセンターは調査協力を求めることができない。
(ⅱ)院内事故調査終了後においては,センターは当該病院等の院内事故調査の医学的評価の結果を検証し,院内事故調査の補正ややり直しの結論を出すことができる。ただし,センターが自ら医学的再評価の結論を出すことができるのは,院内事故調査の医学的評価の結果に重大で明らかな誤りがあって,かつ,当該病院等自身ではやり直しが著しく困難であるという特段の事情が存在する場合に限られる。センターは,当該病院等の管理者に対し,関係者のヒアリング情報を除いて,合理的な範囲の追加情報提供の依頼をすることができる。
(2)医療機関名等を公表すべき協力拒否の程度及び公表事項
①公表すべき協力拒否の程度

 センターが公表できるのは,当該病院等の協力拒否に正当な理由がない場合に限られるし,その程度も何らの合理的な理由もなく悪質な場合に限られる。
②公表事項
 センターは,医療機関や管理者は原則として非公表とし,医療機関が協力を拒否した範囲の事項についてのみ公表することができる。ただし,当該病院等や管理者に対する名誉毀損や業務妨害の結果を招くおそれが強いので,公表に先立って,センターは必ず弁明の聴取手続きを踏むと共に,当該病院等の弁明の要旨も併せて公表しなければならない。
(3)調査結果報告書記載事項
①記載事項及び様式
(ⅰ)記載事項

 報告書には,診療経過の客観的な事実記載の検証結果,及び,診療行為の医学的評価の検証結果のみを記載する。
(ⅱ)様式
 報告書の様式は,センター(もしくは業務委託先の支援団体)に所属している調査チームの長とメンバー全員の連名による作成名義とし,当該病院等の管理者及び遺族を名宛人とし,調査結果のうち診療経過と医学的評価を記載したものとし,部数を2部作成して,一括して当該病院等の管理者に交付する。
 ただし,診療ガイドラインとの対比における医学的評価や再発防止策であるならば,それは不要である。なお,当該病院等の実情にそぐわない医学的評価や再発防止策は,当該病院等や医療従事者に対する名誉毀損や業務妨害の結果を招く恐れもあるので,細心の注意を払うべきである。
②秘匿性
 調査結果報告書には,当該医療従事者名及び患者名は匿名化し,調査結果のみ記載することとして,その議論の経過や結果に至る理由は記載せず,再発防止策(改善策)も記載しないこととする。センターは,当該病院等,遺族,裁判所・検察庁・警察署・行政機関その他一切の公的機関,その他のいかなる者に対しても,調査結果報告書以外を開示できないものとする。ただし,調査結果報告書も,民事訴訟・行政事件訴訟・刑事訴訟・行政処分の証拠とすることができないし,センターはこれを公表することもできない。
 関係者には,厳密な守秘義務を課すべきである。
③再発防止策の記載
 調査結果報告書には再発防止策(改善策)を記載しない。ただし,センターは,調査結果報告書とは別に,当該病院等の管理者の同意を得た上で,当該病院等の管理者に対してのみ,再発防止策(改善策)の提言を伝えることができる。
④調査報告書事前確認(医療機関)
 センターは,調査結果報告の概要が整った時点で,当該病院等に対し,事前に告知してその確認を求め,当該病院等の管理者から意見を聴取し,これを調査結果報告書の記載に反映させなければならない。
(4)遺族及び医療機関への説明のあり方
 センターは,調査結果報告書2部を当該病院等の管理者に対して交付することだけをもって,当該病院等の管理者と遺族に報告したものとする。当該病院等の管理者は,遺族に対して調査結果報告書に基づき,その内容を説明しつつ報告するものとする。
(5)遺族が負担する費用の程度
 遺族はセンター調査の費用を一切負担しない。センターの定めるところにより,当該病院等が負担するものとする。
(6)ADR機能の可能性
 センターはADRの機能を営んではならない。ADRは紛争解決の手段であり,医療安全・再発防止のための仕組みと共存してはならない制度であるからである。

5. センター業務(研修・普及啓発に係る事項)について
 省略

6. 院内調査について(一部再掲)
(1)院内調査業務
 調査期限
:院内事故調査の終了は6カ月を標準期間とし,これを目安とする。ただし,病理解剖を実施した場合には,剖検報告の入手に要した期間は,この期間に含めない。
 調査進捗状況報告:院内事故調査を中心となって行っている者は,当該管理者に必要に応じて調査の進捗状況の報告を行うものとする。
 支援団体への業務委託:医療以外の専門家としては,必要と判断した時には,安全学の専門家の派遣を要請すべきである。医療安全・再発防止のための仕組みであるので,過誤や過失と関わるものではなく,院内調査そのものは直接に遺族に開示するものでもない。法律家の参加は不要である。
(2)調査結果報告書記載事項
①記載事項及び様式

 前掲のため省略
②秘匿性
 院内事故調査結果報告書には,当該医療従事者及び患者は匿名化し,調査結果のみ記載することとして,その議論の経過や結果に至る理由は記載せず,再発防止策(改善策)も記載しないこととする。当該病院等は,遺族とセンター以外には裁判所・検察庁・警察署・行政機関その他一切の公的機関,その他のいかなる者に対しても,院内事故調査結果報告書を開示できないものとする。なお,それ以外の資料はもちろん,院内事故調査結果報告書も,民事訴訟・行政事件訴訟・刑事訴訟・行政処分の証拠とすることができないし,これを公表することもできない。これらの秘匿性については,各病院が院内規則で定めを設けて,院内掲示することが望ましい。
 関係者には,厳密な守秘義務を課すべきである。
③再発防止策の記載
 院内事故調査結果報告書には再発防止策(改善策)を記載しない。ただし,院内事故調査委員会委員長は,院内事故調査結果報告書とは別に,当該病院等の医療安全管理委員会委員長及び管理者に対してのみ,再発防止策(改善策)の提言を伝えることができる。
④調査報告書事前確認(医療従事者)
 院内事故調査委員会委員長は,院内事故調査結果報告の概要が整った時点で,当該医療従事者に対し,事前に告知してその確認を求め,当該病院等の医療従事者から意見を聴取し,これを院内事故調査結果報告書の記載に反映させなければならない。なお,センターへの事前確認は不要である。
(3)遺族への説明のあり方
①説明内容

 当該病院等の管理者は,院内事故調査結果報告書に基づき,遺族(一部で可)に対して,診療経過の客観的な事実の結果,診療行為の医学的評価の結果を説明する。再発防止策(改善策)は説明することを要しない。
②説明方法
 当該病院等の管理者は,諸事情に鑑みて適切と考える方法で,口頭または書面にて説明する。
③遺族へ渡す報告書(記載様式等)
(a)口頭にて説明の場合
 口頭で説明した内容をカルテに記載し,遺族の申請があればそのカルテを開示する。 (b)書面にて説明の場合
 書面は,院内事故調査結果報告書自体であるか,院内事故調査結果報告書の趣旨を踏まえて病院等の管理者が新たに作成した見解書であるか,を問わない。
(4)センターへの院内調査進捗状況の報告・管理体制
 院内事故調査を中心となって行っている者は,当該管理者に必要に応じて調査の進捗・管理報告を行うものとする。標準期間内に調査が終了しない可能性が生じた場合,解剖結果報告書作成に多くの時間を要している場合には,当該管理者は,既に届出(報告)をしたセンターもしくは支援団体,及び遺族に対して,調査終了が遅延する旨を報告するよう努めるものとする。

終わりに
 本稿は,厚労科研費研究(西澤班)開始に際し,厚労省医政局医療安全推進室より論点整理として提示された項目に対して,筆者らが,日本医療法人協会見解として提出したものを一部省略して記載した。本稿において,「届け」「届出」の記載があるが,この「届け」「届出」の記載は正しくない。正しくは「報告」とあるべきである。
 医師法第21条は,警察への「届出」である。一方,医療事故調査制度はセンターへの「報告」である。厚労省から提示された論点整理の要請文の記載がセンターへの「届出」とされていることから,日本医療法人協会の見解も厚労省部分はそのまま「届出」を使用したが,今回,回答部分は,「報告」に修正あるいは(報告)と追記した。医師法第21条は,「届出」であるが,医療事故調査制度においては,センターへの「報告」であり,「届出」ではないということを一言追加しておきたい。
 この日本医療法人協会見解の内容は,「現場からの医療事故調ガイドライン検討委員会中間報告」(中間報告)を経て,「日本医療法人協会医療事故調ガイドライン(現場からの医療事故調ガイドライン検討委員会最終報告)」(医法協案)発表へと至る。中間報告もコンパクトで有用であるが,次回は「医療事故調査制度の施行に係る検討会」のたたき台となった「日本医療法人協会医療事故調ガイドライン(現場からの医療事故調ガイドライン検討委員会最終報告)」について記述したい。




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