[緑陰随筆特集]

さらに安心な鹿児島市を築くために

     鹿児島市消防局長 中薗 正人

(はじめに)
 鹿児島市医師会の皆様方には,常日頃から本市の救急業務をはじめとする市政の各面にわたり,ご理解とご協力をいただいておりますことにつきまして衷心より感謝申し上げます。
 私は本年4月に消防局長を拝命し,これまで市民局,福祉部等で国民健康保険事業や障害者・障害児医療,生活保護関係医療など様々な分野で市医師会の皆様には大変お世話になりました。消防行政につきましても引き続きご協力を賜りますようよろしくお願い申し上げます。

(桜島の大量降灰対策について)
 さて,平成27年8月15日に桜島の噴火警戒レベルが3から4に引き上げられ,一部地区の住民が一時的に避難しましたが,その際に多くの課題が浮き彫りになりました。将来予想される大正噴火級の爆発が起こったときに,台風等の災害が重なった場合の避難,長期にわたるであろう避難生活への対応などのほか,市街地側への大量降灰も検討すべき課題として取り組むこととなりました。
 大正3年1月12日は,西の風で灰は大隅半島側に降りましたが,これが夏場に多い東からの風で,最も厚く堆積する事例では,鹿児島中央駅の辺りで噴火開始2時間後には約1cm,6時間後には約10cm,16時間後には約1mに達するというシミュレーションがあります。1cm積もると普通の自動車は通行不能になると言われています。少し事例が違いますが,次頁,国土交通省大隅河川国道事務所によるマップを参照ください。
 シミュレーションでは,全ての交通機関は止まり,停電,上下水道の停止,通信の不具合などインフラへの影響も可能性があるとされています。また,家屋倒壊,健康被害,経済活動の停止,農林水産物への被害,降雨時の土石流なども想定されています。
 これらを踏まえ,本市では庁内の関係課に加え,市医師会を含む関係機関で大量降灰対策の分科会を設置し,救急医療,降灰除去,ライフライン,土石流・河川氾濫の4つの作業部会で対策を検討し,今年度中に本市の地域防災計画に反映することとしています。
 救急医療の部会では,灰が除去されるまでの一定期間はスタッフも患者さんも病院内に閉じ込められることが想定される中で,停電による医療行為への影響をはじめ,救急車による搬送不能,物流停止による医療品の不足,さらに市民の健康被害や事故の多発など様々な事象への対策を検討することとしています。
 非常時電源がどのくらい持つか,医薬品や食糧,飲料水はどれだけ必要か,入院患者さんの安全な地域への事前の転院が必要か,またその場合の受け入れ先があるかなど,課題は尽きません。
また,救急関係ばかりでなく一般の病院においても甚大な被害や影響が発生する可能性があり,同様の問題が発生するものと思われます。
 BCP(事業継続計画)の策定や,予備電源の確保,医薬品や燃料等の備蓄などの対応を検討することとしております。
 火山噴火予知連絡会は,本年2月に「姶良カルデラの地下深部の膨張が続いていることから,桜島の噴火活動が再活発化する可能性がある。」とし,京都大学火山活動研究センターは「姶良カルデラ下のマグマの蓄積は2020年代には大正噴火が起こる前のレベルまでほぼ戻ることが推定され,大正噴火級の大噴火に対する警戒を要する時期に入った。」とされています。
 103年前は市街地において大噴火に伴うマグニチュード7.1の地震による家屋倒壊などがあり,20人以上の死者が出ており,大量降灰がなくても地震や津波への対応も必要です。幸いにも桜島の観測体制は,世界の火山の中でも最高水準と言ってよいほど整っており,このようなレベルの大噴火であれば,地震など多くの前兆が発生し,遅くとも36時間前には噴火の予測ができるということなので,事前の十分な準備や訓練を行うことで被害は最小限に止められるものと思われます。
 桜島を擁する鹿児島市は,火山噴火災害への対策に万全を期すことを求められており,市民の安心安全を守るために市医師会をはじめとする関係の皆様と十分,連携しながら取り組んでまいる所存です。
 次に,市医師会と消防局とは様々な連携を行いながら,市民福祉の向上に努めておりますが,その中の数点につきまして改めてお願いをしたいと思います。



(救急業務の協力協定書に基づく取組について)
 本市と市医師会は,平成18年12月26日に「救急業務の協力に関する協定書」を締結しており,この中で救急業務現場において傷病者救護のために早期の医療介入が必要かつ不可欠と判断した場合に,本市が市医師会に医師及び看護師の協力を要請することとなっています。
 平成20年5月28日に七ツ島一丁目で発生した交通事故をはじめ,平成25年度までに合計15の事案で要請を行い,うち4症例で協力をいただいております。
 しかし,過去10年間で15事案と症例が少なく,平成26年度,27年度においては協力がないことから,28年度に市医師会事務局及び担当理事から積極的な協力体制を構築していきたいとの提案を受けて協議を行いました。その結果,29年度から市医師会に協力要請のためのホットラインを設置し,救急車を保有する医療機関を選定して,いついかなるときでも消防局からの協力要請に応じることができる体制を整えていただいております。
 本年度に1件協力要請する事案は発生しておりますが,救急救命体制の更なる体制充実が図られており,今後は協力要請事案の推移を分析しながら,交通事故などの事案における外傷性ショックの傷病者等に対しても協力要請を検討していきたいと考えております。

(転院搬送の適正利用について)
 転院搬送の状況については,毎年7月に開催される市医師会との意見交換会の場で,前年の統計をベースに説明をいたしておりますが,昨年は搬送件数のうち約12%が転院搬送となっております。
 転院搬送は,要請元の医師の責任において,緊急性が高い傷病者を高次の医療機関へ移すために本市の救急車を利用するよう,救急車の適正利用のための一定のルールをお願いしております。
 現在の救急車利用状況としましては,概ね適正利用にご協力いただいておりますが,平成28年3月31日付けで,総務省消防庁及び厚生労働省の連名で通知された「転院搬送における救急車の適正利用の推進について」を受けて,平成29年度における本市の転院搬送状況を,市医師会と共同で分析して,より適切なルール作りに取り組もうとしております。
 国の通知では,「近年,救急搬送件数は,高齢化の進展等によりほぼ一貫して増加しており,限りある搬送資源を緊急性の高い事案に優先して投入するためには,救急車の適正利用を積極的に推進していく必要がある。」とされておりますので,今後ともご協力を賜りますよう,よろしくお願いいたします。

(予防救急の取組について)
 救急搬送については,市民の適正利用を進めていくことが大きなポイントとなります。その方策の一つとして予防救急に関する効果的な普及啓発を実施することが,軽傷事案の減少,ひいては出場件数の減少につながると考えられております。
 特に,高齢者や子供の事故に多い「転倒」や「転落」,入浴時の事故など日頃から注意することで未然に事故を防止できます。また,急病の中にも異変に早く気づき,自ら医療機関を受診することで,重症化を防ぐことができます。
 消防局においては,予防救急についてのラジオ放送やホームページへのチラシ掲載,救急講習等でのチラシ配布などを通じて広く周知広報を行っております。
 平成28年度は,7月に市医師会へ「熱中症予防」についてのチラシやリーフレットの医療機関への配付をお願いするとともに,鹿児島市地域保健協議会救急医療小委員会において,予防救急に関する連携について消防局から提案を行いました。
 各委員からは高齢者の転倒防止,時期的に多発する症状(熱中症,ヒートショック等)への注意喚起のチラシをイベント等で配布するなど,予防救急の推進ついて協力していきたい旨の回答をいただいたところです。また,今年の5月に開催された鹿児島市地域保健協議会総会で報告事項として発表されました。
 今年度も予防救急について,積極的に市医師会と連携した取組を進めていきたいと考えております。
 また,本市では「事故やけがは原因を調べ,対策を行うことにより予防できる」との考えのもと,様々な統計データやアンケートなどの分析結果に基づき,地域住民,行政,関係団体などが協働して事故やけがを予防する取組である「セーフコミュニティ」の活動を行っております。交通安全,学校の安全,子どもの安全,高齢者の安全,DV防止,自殺予防,防災・災害対策の7つを重点分野として取組を進めており,平成28年1月29日にWHOが推奨する国際認証を取得しました。
 取り組みの中心となる推進協議会には猪鹿倉会長にも入っていただき,関係分野の対策委員会の委員にも市医師会の方に就任いただいております。
 このような取組も予防救急につながるものであり,今後,市内の各地域・地区に拡大していくこととしております。

(おわりに)
 鹿児島市における平成28年の救急出場は29,509件,医療機関への搬送は26,405人となっており,全国的な動きと同様に依然として増加傾向にあります。
 このような中,消防局では様々な救急需要へ対応するため,平成26年10月には高度救急隊の発足に合わせ,市立病院にドクターカーを配置し救急医療体制の充実を図ったほか,高規格救急車15台の配備,高度救命用資機材の更新,救急救命士の計画的養成,市民等を対象とした応急手当普及啓発活動などに取り組んでおり,これからも更なる体制強化や救命率の向上に努めてまいります。
 来年は鹿児島市消防が発足して70周年を迎えます。これまで消防局が市民の安心安全を守ってこられたのも,市医師会や消防団,関係機関の皆様の多大なご協力やご支援があったからこそであり,改めて心より感謝申し上げます。
 今後も,市民の生命,身体及び財産を守り,社会公共の福祉の増進に資するという消防の使命を果たすために,職員一丸となって取り組んでまいる所存でありますので,市医師会の皆様方には,これまでと変わらずご指導,ご鞭撻を賜りますようお願いいたしますとともに,市医師会の益々のご発展と皆様方のご活躍,ご健勝を祈念申し上げます。



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