[緑陰随筆特集]
夏 は ビ ー ル
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東区・郡元支部
(デイジークリニック) 武元 良整
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7月からすでに「猛暑日」が続く今年の夏を乗り切るには,「夏はビール」でしょうか?しかし,「ビール」でも疲労回復しない「寝ても寝ても,眠い」と感じる「疲労,頭痛」が主訴の3症例について,報告いたします。
症 例:40歳代女性
主 訴: 活気が出ない,頭痛,下肢掻痒感
病 歴: 健診で貧血を指摘された事がある
背 景: 育児環境がストレス。先月,勤務先の職場を退職。10年前に禁煙。飲酒歴は毎日ビール350~700ml。既往歴に子宮筋腫と円形脱毛あり。過多月経あり。身長150cm,体重44kg,BMI:19.5
検査成績:図1
図1は来院時の末梢血液像です。血液像-大小不同1+あり,多染性1+にて典型的な潜在性の鉄欠乏状態の末梢血液像,小球性低色素性赤血球と正常赤血球さらに大球性の赤血球が混在。その結果,MCV(平均赤血球容積)は90.3とみかけ上,正常範囲。
経過:血液生化学検査にて低フェリチン(10.2)と血色素(Hb:14.3)は正常である事から典型的な「潜在性の鉄欠乏」と診断。これは「かくれ貧血」とも呼ばれます。貧血治療指針1),2)によるとフェリチン値は12.0未満ですから治療対象です。ビタミンB12欠乏の自覚症状(鹿児島市医報,第56巻第7号,47ぺージを参照)を複数認め,ビタミンB12を検査したところ,163pg/mL(基準値180-914)と著明に低値。その後,鉄剤治療開始と同時にビタミンB12投与し,治療開始。1カ月後には体調回復しています。
最終診断:①潜在性の鉄欠乏症,②ビタミンB12欠乏症
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図 1
(末梢血液画像は鹿児島市医師会臨床検査センター血液検査室へ依頼し撮影いただきました) |
「疲労・頭痛」の3症例
疲労を訴え,「寝ても寝ても,眠い」という表現で来院された典型的な3例を表1にまとめました(症例2は呈示例)。3例とも,Hb値やMCV(平均赤血球容積)から貧血とは診断できません。表1に赤字で示しますように原因の一つとして,ビタミンB12低値があります。3例共に,肝機能値は正常範囲です。甲状腺機能低下症は問診から否定的。アルコール中毒というほどの高度な飲酒歴ではありません。症例1は週に3回,ビール350ml。症例2は毎日ビール350~700ml,症例3は機会飲酒です。慢性肝疾患や甲状腺機能低下症と同じようにビタミンB群の低下は「疲労,頭痛」を訴える場合の鑑別すべき因子として重要です。
「ビタミンB12の吸収を阻害する因子」
文献によると3),①飲酒,②アミノサリチル酸,③コルヒチン,④H2阻害薬やPPI(胃酸抑制薬),⑤喫煙,⑥一部のピル(避妊薬)など,数多くあります。ビタミンB12は,体内に約5年間の蓄えがありますが,肝臓に障害があればビタミンB12を蓄えられなくなります。完全な菜食主義や乳製品のアレルギーなどによる摂取不足でもビタミンB12欠乏症の原因になります。野菜でもビタミンB12摂取は可能です。生産業者がビタミンB12を大量に含んだ「かいわれ大根」の量産化に成功し,店頭で販売されています。ビタミンB12は体内で合成されません。食事をバランスよくしっかり摂る事が基本です。
終わりに
「寝ても寝ても,・・・」という訴えの症例で貧血は認めず,ビタミンB12欠乏が原因であった3症例を報告しました。
文 献
1. 日本鉄バイオサイエンス学会治療指針作成委員会編:鉄剤の適正使用による貧血治療指針. 2009
2. 張替秀郎:鉄代謝と鉄欠乏性貧血---最近の知見---. 日内会誌 104:1383-1388. 2015
3. Hesdorffer CS & Longo DL: Drug induced megaloblastic anemia. N Engl J Med 2015; 373: 1649-58

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