=== 随筆・その他 ===
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鉄 欠 乏 性 貧 血
-鉄分以外にも不足している造血成分- |
東区・郡元支部
(デイジークリニック) 武元 良整 |
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「健診で貧血を指摘されました」という訴えで来院の方に病歴を尋ねると2年前からとか,5年前から,時には20年来という方もおられます。鉄欠乏状態であっても仕事を休むことなく頑張る女性(貧血外来の98.4%は女性)が多いという事から「貧血大国・日本」1)という本もあります。この現状は驚きでもありますが,貧血治療は内科医の責任でもあります。
今回は血色素(Hb)値が6.0g/dL以下の鉄欠乏性貧血7例についてご報告いたします。
症 例
Hb値が4.6g/dL,しかし,通常勤務できていた「鉄欠乏性貧血」の症例を提示します。
症 例:45歳女性
主 訴:易疲労感,動悸,息切れ。貧血治療希望
病 歴:健診で貧血を指摘され来院。20歳のころから,貧血の治療を繰り返しうけていた。
背 景:職業はオペレータ,PC操作を終日。非喫煙・飲酒せず,身長156cm,体重49.1kg。
経 過:治療開始2週間後にはPC操作前に行う指先による静脈認証ができるようになった。
Hb:4.6の初診時には指先が冷たくて指紋認証ができるのに常に10分程度の時間を要していた。その後,婦人科にて子宮筋腫・子宮腺筋症と診断される。
貧血治療後は婦人科通院,ホルモン治療中。
検査成績
末梢血検査:図1
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図 1 治療前後の末梢血塗抹標本
(末梢血液画像は鹿児島市医師会臨床検査センター血液検査室へ依頼し撮影いただきました) |
| CBC(complete blood count:全血球計算) |
| RBC:343万/μL,Hb:4.6g/dL,MCV (mean corpuscular volume:平均赤血球容積):51.9f L,MCH(mean corpuscular hemoglobin:平均赤血球血色素値):13.4pg,PLT(血小板数):56.6万/μL |
図1は来院時と治療27日後の末梢血液像です。来院時は典型的な鉄欠乏性貧血の末梢血液像,小球性低色素性です。
治療により成熟赤血球の増加を認めます。
Hb値が6.0g/dL以下の鉄欠乏性貧血の7例
全例が「健診で貧血を指摘され来院」という理由でした。つまり,Hb値が6.0g/dL以下にもかかわらず,全員が通常勤務しています。長年の貧血症状があり,鉄剤内服困難の既往があり,静注による治療としました。また,血液生化学では,表1のようにフェリチン値だけでなく,造血に必須とされるビタミンB12,葉酸も低値でした。ビタミンB12は5年の貯蔵が可能で,葉酸の備蓄は3年間と教科書的には記載されています。裏を返せば3年から5年間の貧血歴があれば,ビタミンB12,葉酸ともに消耗・消費の結果,その後,低下する事になります。丁度,悪性貧血症例をビタミンB12単独で治療開始,1カ月後にフェリチン値が低下し,鉄剤補給が必要になるのと同じ理由です。
ビタミンB12の低下は表2の症状を問診するとよくわかります。この質問表から2項目以上が該当する時,ビタミンB12欠乏性貧血を考え,治療を始める事があります。


終わりに
鉄欠乏性貧血,Hb6.0以下では治療開始前から「ビタミンB12」などが低下傾向にあり,鉄剤治療後にビタミンB12が低値となります。丁寧な問診(表2)もその診断に有用です。
文 献
1. 山本佳奈:貧血大国・日本光文社新書 2016年4月初版

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