天
城山古狸庵
横綱ん顔いなっ来た稀勢の里
(唱)自信満々風格も出っ
(自信満々 ふうかっも出っ)
一読して時期的で同感という句で「顔つら」という題にぴったりの句です。句の裏には、今までの稀勢の里は土俵に上がっても自信が無さそうで、日本人をやきもきさせていましたが、先場所の優勝と横綱昇進に自信が出て、顔つきも凛凛しく堂々としてきました。この句には日本人のほっとした、心情も詠み込まれているのでは。単純明快な句です。
地
清滝支部 鮫島爺児医
飲兵衛は乾杯の頃れ顔を出っ
(のんごろは 乾杯のこれ かおをでっ)
(唱)飲んとが大事で会議あ遅刻
(飲んとがでしで 会議あ遅刻)
会議に遅刻しても、宴会の乾杯の頃にはちゃんと席についております。
飲のん方かてな先せん祖ぞ代々遅ち刻こかせじ
という有名な薩摩狂句があります。まさにそんな人です。そんな人に限って、中締めが済んでも一向に腰を上げようとはしません。そうそうそんな人がいるよねと、皮肉も効いてユーモアのある句です。
人
上町支部 吉野なでしこ
どん顔も同じい見ゆいAKB
(どん顔も おなじい見ゆい エーケービ)
(唱)似にたよな化粧で誰が誰やら
(似たよなけしょで だいがだいやら)
顔立ちも似ていて化粧方法も似ているのでしょうか。若いファンならすぐ分かるのでしょうが、あまり興味の無い私みたいな年寄りには、皆同じような顔に見えます。グループ的には没個性的な顔の方が良いのでしょうか。実感句。
五客一席 清滝支部 鮫島爺児医
良か郷句顔を思め出っにかっなっ
(よか郷句 顔をおめでっ にかっなっ)
(唱)あん内気者が凄ぜ変な句
(あんいめじんが わぜそっせなく)
五客二席 川内つばめ
良か顔でキャーキャ言わるっ夢を見っ
(よか顔で キャーキャーゆわるっ 夢を見っ)
(唱)誠て良とこい目がきし覚めっ
(まこてえとこい 目がきしさめっ)
五客三席 城山古狸庵
泣っ顔も可愛ぜち言われっニコッなっ
(なっづらも もぜちゆわれっ にこっなっ)
(唱)女心を少す撫ぜられっ
(おなごごころを ちすなぜられっ)
五客四席 上町支部 吉野なでしこ
顔ん皮伸ばせっみてんまた垂れっ
(顔ん皮 のばせっみてん また垂れっ)
(唱)歳す取っちょって無駄な抵抗
(とす取っちょって 無駄な抵抗)
五客五席 紫南支部 二軒茶屋電停
トランプを測っみろごちゃ顔ん皮
(トランプを はかっみごちゃ 顔ん皮)
(唱)今度だ何よ言か凄ぜ辣韭顔づら
(こんだなよゆか わぜだっきゅづら)
秀 逸
清滝支部 鮫島爺児医
顔ん毛が頭て生えれば言事ちゃ無し
(顔ん毛が びんておえれば ゆこちゃのし)
小児ん病気良う見っ聞けば顔れ書けちゃっ
(こんやんめ ゆうみっきけば つれけちゃっ)
優し顔れ角隠しどま不要こっ
(優しつれ 角隠しどま いらんこっ)
城山古狸庵
優しか顔で裏でな浮気くしっ
(しおらしか 顔で裏でな うわくしっ)
顔丈な若こ化粧ったが五体あ老年
顔ぶんな わこつくったが ごてあとし)
川内つばめ
顔を言っ心根ん良か青年せ嫁は来じ
(顔をゆっ ねすんよかにせ よめはこじ)
休日ちな髭も剃らんじ汚れ顔ら
(きゅうじちな 髭も剃らんじ よごれづら)
綺麗て顔れ化粧が過ぎっ可笑しゅなっ
(みごてつれ 化粧が過ぎっ おかしゅなっ)
今月の投句から
いろいろな顔が出ると思っていましたが、顔という題は難しかったのでしょうか。辞書を引いていただければいろいろな顔が出てきますので、ヒントになると思います。
気になる句がありました。薩摩狂句から薩摩郷句に変えたのは、以前は誹謗や侮蔑など人権を否定した下品な句などが多かったので、故三條風雲児先生が郷土の川柳にしようと郷句にしたものです。内容が良ければ狂句でも構わないという人もいますが、渋柿会は郷句を主張しています。
今月の句に、「そん顔(つら)で議会に出ろちゃ大(ふ)て間違(まっげ)」というのがありました。
「そん顔(つら)」とは、顔の美醜のことなのか、それとも他人に顔向けができないような事をした人なのか分かりません。どうして議会に出るのは間違いなのか意味が不明。美醜のことなら差別用語になりますので気を付けましょう。
下五の止め方で「言(ゆ)こちゃ無(ね)て」という句がありました。以前も書いたと思いますが、薩摩郷句の下五は必ず、終止形か名詞で止めるのが原則です。動詞の場合は必ず終止形で止めてください。一般的に独りよがり的な傾向の句が多いような気がします。句の意図が伝わり難く、何を言いたいのか良く分からない句がたくさんありました。自分の思いを十七音字で他人に伝えるのは大変ですが、ちゃんと読み手に心が伝わるように推敲の手抜きをしないようにしましょう。
薩摩郷句鑑賞 102
顎ひげを剃い残けたままバスを追っ
(あごひげをそいのけたままバスをうっ)
長瀬 慶子
時々、電気かみそりでひげを剃りながら、マイカーを運転しているドライバーを見掛けて、ひやっとさせられることがある。
そんな人に比べれば、ひげを剃り残したままバスを追っかけっる人など、誠にユーモラス。きっと寝過ごしたのだろうが。昨夜の冷たい味噌汁をぶっかけた、汁掛け飯(しゅいかけめし)を流し込んで、とびだしてきたことだろう。しかし、この四月から勤める新人だったら、文句なしに落第である。
左遷じゃろ音もさせんじはっ行たっ
(左遷じゃろ音もさせんじはっじたっ)
平中 小紅
人事異動には、悲喜こもごもがつきもの。栄転だ、抜擢だと喜ぶ人がある反面、努力に報いられなかった人、あるいは左遷雄憂き目にあう人もあろう。そういう人々の思いを秘めて、今盛んに引越し荷がゆききしている。
この句は、ひっそりと荷造りをし、隣近所の人も気づかないうちに、引っ越して行った人への同情的な目でとらえたもの。
※三條風雲児著「薩摩狂句暦」より抜粋
薩 摩 郷 句 募 集
◎6 号
題 吟 「 運(ふ)」
締 切 平成29年5月6日(土) ◎7 号
題 吟 「兄弟(きょで)」
締 切 平成29年6月5日(月)
◇選 者 樋口 一風
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鹿児島市医師会 『鹿児島市医報』 編集係
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