=== 新春随筆 ===
親身なドクターの逸話
消毒液臭より人間くささ歓迎
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新年早々,この鹿児島市医報に拙文を寄せさせてもらうことになった。というのも,転載してある弊紙・南日本新聞の二つの記事(コラム)を,あらためて多くの人に読んでほしいと思ったからだ。いずれも医師や病院にまつわるエピソードである。
知人らから聞いた話を読者・県民にどうしても紹介したい,こんな親身な医師がいることを知ってほしい−。そんな思いから新聞記事にした。読んでいただければ分かるとおり,心温まる逸話だった。
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図1 記者の目・親身さが心にしみた
(平成27年10月15日付 南日本新聞)
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図2 風向計・着信履歴からの電話
(平成28年11月7日付 南日本新聞)
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診察終了後の夕方,遠く離れた入院先の病院まで出向いて,患者の病歴や手術歴,投薬歴を担当医に伝えてくれた開業医(図1),休診日の夕方わざわざ問い合わせの着信履歴に電話をかけ直してまで診察に来るよう勧めてくれた院長(図2)−。どちらの話にも感動して頭が下がる思いだった。
二つの記事とも掲載直後,多くの読者から連絡や感想をいただいた。「立派な医師がいるものだ。とても感心した」「多忙な医師がここまで親切に対応してくれるとは」などなど。中には「どこの病院か教えてほしい。その病院に通いたい」という読者もいた。
高齢者の中には「○○時間待って,3〜5分診療が当たり前の病院が多いのに,こんなドクターもいるんですね」と皮肉を込めた声もあった。
また世間では「患者の顔を見ない医者が増えている。パソコンや分析データばかり見て,『薬を出しておきます。ハイ,次の患者さん』という例もある」と聞く。
病気に苦しむ多くの患者が待合室で順番を待つ病院では,1人の患者の診察に長い時間をかけるわけにはいかないだろう。1人でも多くの患者を診察して救ってあげたい思いも強いはずだ。
限られた外来診察時間の中では,「3分診療」になるのも仕方ないのが現状なのか。医療機器の進歩に伴い,各種データをどう見極めるかの重要度がますます増しているのもうなずける。
そうしたなか,先のコラムを読んだ読者は,そんな日常の通院風景とギャップを感じたのだろう。かといって,自らの通院時の不満だけではない。どこかホッとした思いがして新聞社に感想を寄せてくれたのだと思っている。
病気になったり,慢性の持病を抱えると,医師や病院スタッフが頼りだ。医療面はもちろん精神面でもそうだ。医師やスタッフの一言,対応次第で,気分が楽になったり滅入ることもあるという。それだけに親身な医師や病院の逸話に,心救われた思いがしたのではないかと思う。
殺人やいじめ自殺など悲惨な事件事故が相次ぐ。新聞紙面でもそんな記事が多いだけに,そうした「ホッとする」逸話に,皆が飢えているのかもしれない。
最近,医療現場を取り上げたテレビドラマを見ている。他の病院で手に負えない患者だったり,原因不明の症状に悩んだりの連続。ときに,思いがけない病巣が潜んでいて,手術中に術式を変えたりとなかなかおもしろい。ドラマなので結局,最後には病因を解明し,無事に手術を成功させるストーリーが多い。
ワンパターンと言えばそれまで。だが,いくつかのドラマには共通する部分がある。病気や患者に真剣に向き合って治療し,治してあげたいとひたむきに取り組む医師やスタッフの姿だ。それだけに,つい見入ってしまう。
テレビ局の知人に以前聞いたところでは,医療ドラマは視聴率を稼げるということだった。そうかもしれない。医療の詳しい現場や裏話,医師やスタッフの苦労話などを,患者や一般の人が知るはずもない。珍しいし,なるほど興味をそそられるはずだ。
そんなエピソードを新聞は取り上げて書いてきただろうか。病気についての専門家のアドバイスを載せたりするコーナーはある。折につけて医療や保険のニュースも載せてきた。だが,医療スタッフの人間くささ的な一面を書くことはほとんどなかったように思う。
コラム「風向計」に書いた休診日の診察の逸話も,「うちでも,何回も同じようなことをしている」という病院もあるかもしれない。親身な,プロ意識の強い医師には当たり前のことで,日常的なことなのかもしれない。
それでも知らない人は多い。新聞記者も担当分野以外になると,人脈のパイプは細くなる。特に医療関係になると,医療担当記者でないと,医師やスタッフから心温まるエピソードを聞くチャンスはほとんどないと言える。
患者や家族,地域との信頼関係を築くためにも,そんな逸話があれば,紙面でも紹介したい。患者の中に,医療への「安心感」が広がるかもしれない。記事がそんな一助になれば幸いと考えている。
そこで,別のエピソードを一つ紹介したい。今度は3分診察の逆をいくドクターだ。
地方で開業する知り合いの整形外科医は,診察時間が長いといって地元では有名だ。椅子の座り方,姿勢,歩き方など患者の悪い癖がつい気になって指導が始まるのだという。結局1人当たりの診察時間が長くなる。10分,15分はざら。看護師は待合室の患者数を見ながらハラハラするらしい。長くなる診察に対し,「先生,仕事があるので,今日はこれくらいで帰してください」とある患者は懇願したほどだ。
私自身も猫背気味だと指摘された。「年取ったら困るよ。日常的に気をつけて」と会う度に指導される。酒席でもソファに座ったり立ち上がったり実演して見せ,腰や脚に負担をかけない座り方を教えてくれる。酒席での「ボランティア指導」は有名だ。
この院長も自らの仕事に誇りを持っているのだと思う。さらに足腰を痛めて,将来,治療が必要にならないようにしてあげたいというプロ意識が根底にあるからだろう。
医師やスタッフのこうしたエピソードを知ると,親近感に加えて安心感がわいてくる。病院独特の消毒液臭よりも,医師らのこうした人間くささの方が患者や家族にはありがたい。診察待ちの時間も案外短く感じるかもしれない。

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