=== 新春随筆 ===
繋 ぐ
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中央区・城山支部
(国立病院機構鹿児島医療センター) 吉永 正夫
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慌ただしく1年が過ぎようとしている。この1年に3回も入院することになり,3回目は急な入院であった。大酒のみが4カ月,3カ月と2回も長い休肝日を経験することになった。落ち込んだ時もあったが,考えてみると幸運というよりほかにない。退職後,娘がしつこく検査を勧めてくれなければ,今頃長期入院で退院できないままだったかもしれない。
捨てる神あればやはり拾う神もいるらしい。1回目と2回目の入院の間に,投稿中だった論文を採用するというメールが欧州心臓病学会誌(European Heart Journal)から入った。学校心臓検診システムを利用したQT延長症候群の頻度に関する論文である。Impact Factorが高い雑誌なので,これだけでも十分すぎるほどなのに,すごいおまけ付きであった。私たちの論文に対するEditorialが付いていた。日本の学校心臓検診は法律により1995年から小学1年,中学1年,高校1年の全生徒に行われている。毎年,300万人以上の心電図が記録されてきたはずである。ところが外国の循環器学会に出かけると,日本の学校心臓検診の存在を知っているのはほぼ皆無という状態であった。主要な循環器系のJournalが心電図による心臓病スクリーニングという特集を組んでも,話題になるのは欧米のシステムだけ,日本の学校心臓検診については欧州系のJournalで1行程度,スクリーニングのきらいな米国のJournalでは無視同然だった。
Editorialを読んでいて,大声で叫びたくなった,涙が出そうになった。最後を次の文章で締めくくっていた。『日本の学校心臓検診システムは称賛に値する。重症になりうる疾患の研究・早期発見への意欲や方法を提供し,少数ではあるが被害を受けやすい集団生活の質を向上させる機会を与えている』。驚くことにEditorialを書いているのが米国の先生である。世界が日本の学校心臓検診を認めた,と感じた。もう国際学会で日本の学校心臓検診をくどくど説明する必要はない。なに,日本の学校心臓検診を知らないだと,European Heart Journalをごろうじろ。
よく考えてみると,Editorialの著者は日本の学校心臓検診システムを称賛しているわけではない。論文に詳述した鹿児島市医師会のシステムを称賛しているのである。小・中学生では,二次検診に抽出する場合は数人以上の循環器小児科医の合議で決め,二次検診は同一の医療機関(市医師会病院)で行い,三次検診は決められた病院に紹介するというシステムを先達から受け継ぎ,向上させてきた。これからは私たちが次の人たちに繋ぎ,日本全国に広げていくことが求められている。それまでは私の命も繋いでいきたい。

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