本誌,55巻11号の,熊谷輝雄,米盛公治両理事の「鹿児島県地域医療構想策定」に至る詳細な報告を拝読した。われわれ,一般会員にとって貴重な情報であった。市医師会主催の報告会で,筆者も鹿児島県の状況を初めて知ったが,今回の記事を読めば,第3回報告会で池田琢哉県医会長の発言にあった,鹿児島市医師会員の行動が,「エゴだ」「恥ずかしいことだ」との発言が的外れであることがわかる。改めて,原点に立ち返って,本当はだれの「エゴ」か,なにが「恥ずかしいこと」なのか明確にする必要があろう。「恥ずかしいこと」は,正当な議論を拒否することである。今回の市医師会理事の方々の情報提供に感謝するとともに,県医臨時代議員会開催請求に尽力された先生方の努力と識見に敬意を表したい。「恥ずかしいこと」ではなく,「誇るべきこと」である。
米国大統領選で,クリントン候補の応援に駆け付けたオバマ大統領の演説の最中,一人のトランプ候補支持者の退役軍人が抗議の声を上げた。群衆はブーイングを発するとともに,警備員がその退役軍人を連れ出そうとした。オバマ大統領は警備員と群衆を制して,「退役軍人の過去の功績に敬意を払おう」「米国は民主主義の国だ。自由な言論を制してはならない」と語りかけた。言論を封じ込めることは,民主主義の否定である。今回,会員に状況説明をし,正論を述べ,県医臨時代議員会開催への道筋をつけた市医師会理事の行動をつぶしてはならない。
鹿児島県地域医療構想案パブコメ
鹿児島県は,地域医療構想案を発表するとともにパブリックコメントの募集を行った。鹿児島県地域医療構想案に至るまでに,何があったのか,なぜこのようになったのか,両理事の記事に詳細な記載があるが,筆者も経過の理解はないながらも,構想案に対する意見を提出した。以下,その内容を要約して記載したい。
鹿児島県地域医療構想案に対する意見
必要病床数の算定にあたって,高度急性期・急性期は医療機関所在地ベース,回復期・慢性期については患者住所地ベースとするとの決定には,疑義があり,反対である。原則通り,急性期,慢性期いずれも医療機関所在地ベースとするべきである。
(1)本構想事務は,国の関与が想定される事務に相当するものと思われる。今後とも将来にわたり,何らかの国の関与が想定される。国は将来必要量の推計にあたり,医療機関所在地ベースを原則とし,流入・流出を加味することにより推計値を出そうとしている。推計作業につき,それぞれの地域の特性を生かす形の独自の変形は認めているが,関係者の調整(全員一致を想定)が可能であった場合であり,調整困難な場合は原則通り医療機関所在地ベースとするとしている。
今回鹿児島市医師会での説明会の席上の意見は医療機関所在地ベースとすべきというものであり,出席の池田県医会長も調整不能を認め,両論併記である旨を述べている。
このような,意見不一致の状況下で,原則と反する「回復期・慢性期は患者住所地」ベースとするからには,どこで,いかなる討議が行われ,だれがどのような意見を述べたのか,全員一致であったのか,だれの責任でこのような原則と反する決定を行ったのかを明確にするべきである。
本構想は,国でもいまだに諸々の意見があり,必ずしも集約できていない。今後の検討課題であり,将来不透明であることを考えれば,今後問題が発生した時を想定して責任体制を明確にしておくべきである。
(2)国の今回の構想については,医療圏の見直しも含まれている。鹿児島県は,鹿児島保健医療圏とその他医療圏の人口その他に大きな開きがある。国の原則に反し,独自の指標を用いるのであれば,まず,適切な医療圏の設定そのものを根本的に見直すべきである。現状の医療圏の流入・流出だけで,現医療圏が適切と言えるのであろうか。現状を可としてスタートする以上,原則にのっとって,医療機関所在地ベースとするべきであり,木に竹を接ぐような政策を行うべきではない。
(3)国は地域医療構想は,あくまでも将来の推計値を示したものであり,病床削減ありきではないとし,このことは通知等で示されている。今回,より病床削減が大きくなる方式を,あえて採用するということは,すなわち,鹿児島県は病床削減を目標として地域医療構想を策定しようとしていると認めることであろう。
(4)回復期・慢性期を患者住所地ベースとする根拠を地域包括ケアシステムとしているが,疑問である。鹿児島県の地方の高齢者の独居率,高齢者二人所帯は圧倒的に多い。鹿児島市のみが同居が多い。患者住所地ベースとすることは,あるべき姿とは真逆の高齢者一人住まいを押し付ける政策となろう。地域包括ケアシステムは,その地域にそれなりに元気で暮らす人を対象としたシステムであろう。急性期経過後の不安定な患者に同居を否定し,独居を迫るような政策が評価される政策であろうか。
(5)各地域で暮らせる仕組みということについては,賛成である。しかし,これは,地域包括ケアシステムのみの話ではない。いかなる都市をつくるかの都市計画が先行しての話である。患者住所地ベースとするのであれば,その前提の地方の町づくりを明確にすべきであろう。仕事,人,若者,教育,保育環境,どれだけの予算でどのように整備するのか。そこを明確にしたうえで,初めて,国の想定と異なる患者住所地ベースを採用すべきである。
(6)医療従事者の問題はどのような前提での構想であろうか。この職場は女性職場である。女性には結婚,家庭生活,出産,育児が避けて通れない課題である。近隣に男性の職場が必要なことは言うまでもない。地方の町づくりとしての職場の確保計画なくして,地域包括ケアシステムとの関連性,地域医療構想との整合性はないと言うべきであろう。
(7)今回の地域医療構想案は,上記,諸課題を何ら記載しておらず,単に,地域包括ケアシステムというお題目だけを掲げたのみである。ただ単に,口とは裏腹に病床削減のみをねらった政策と言わざるを得ない。今回の,原則に反した木に竹を接ぐような鹿児島県独自の政策には反対である。なお,鹿児島市医師会の説明会においては,本構想に関しては批判続出であった。鹿児島県医師会もこの方式は提案しておらず,池田県医会長も単に両論併記であると述べている。だれの,どの意見をもって,皆の納得の得られた意見なのか明示されたい。
熊谷理事が,行き先の見えない消費税問題を取り上げ,論考を述べておられる。最初の「ボタンの掛け違い」が,いかに大変なことになるかということである。消費税問題が俎上に上がった時,まだ,売上税として提案された当時から,筆者は評議員として,日本医療法人協会評議員会に出席していた。消費税3%が議論されていた時代である。会議の席上,間接税は増加してくる可能性があり,「非課税」にすべきではないと主張したが,一顧だにされなかった。当時は診療報酬が伸びていた時代であり,日医が既に合意していたからである。後でわかったことだが,日医は合意していたのではなく,日医から「非課税」のお願いをしていたのである。その後,消費税問題に永く関与してきたが,財務省(旧大蔵省)との折衝では,つねに,「先生方からの要望でこのようにしたのですよ」「われわれは,それでいいのですかと何回も念を押したのですよ」と言われ続け,今日まで何ら進展していないのである。先の展望が見えない状況で目先の見栄で中途半端に制度をいじることがいかに危険かということである。今回の顛末を記載された先月の記事は重要な意味をもつであろう。

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