天
上町支部 吉野なでしこ
勝手耳都合ん悪い事ちゃ聞こえんじ
(かって耳 つごんわいこちゃ 聞こえんじ)
(唱)涼しか顔で平然たんしっ
(唱)(すずしかつらで しれったんしっ)
老獪(せなはげ)という言葉もあります。これも処世術でしょう。老練な耳は相手の話に、有利か不利かを一瞬に聴き分けます。それで何十年も生きて来られたのです。今回は同想句の勝手耳が多いでしたが、この句を戴きました。薩摩郷句にはよく出てくる言葉です。薩摩独特の言葉でしょうか。
地
城山古狸庵
福耳ち他人あ褒めてん貧乏所帯
(ふっみんち ひとあ褒めてん びんぶしょて)
(唱)福相じゃっどん運い恵らんじ
(唱)(ふっそじゃっどん ふいのさらんじ)
諺どおりいったら何も苦労はいりません。人相ほど当てにならないものはありません。人相で人間を評価してはいけませんが、他人にはそう思わせておきましょう。何となく身につまされます。
人
清滝支部 鮫島爺児医
膝枕れ耳ぬ任せた甘えごろ
(ひざまくれ 耳ぬまかせた 甘えごろ)
(唱)ふっくらん肌でうっといとしっ
(唱)(ふっくらんはで うっといとしっ)
いいですね。忙中に閑ありとか、ご夫婦だと思いますが、ゆったりとした、二人っきりの至福の時間でしょう「任せた」が、夫婦の愛情がよく表れています。
五客一席 紫南支部 二軒茶屋電停
勝手耳年期が入って上手じ使こっ
(かってみん 年期が入って じょじ使こっ)
(唱)そこがやっぱい婆ん年の功
(唱)(そこがやっぱい ばん年の功)
五客二席 伊敷支部 矢上 垂穗
耳塞ぎチャンネゆ変ゆい悪いニュース
(みんふさぎ チャンネゆかゆい わいニュース)
(唱)どん番組も変わらせんどん
(唱)(どん番組も 変わらせんどん)
五客三席 清滝支部 鮫島爺児医
押し売ゆば耳が遠えでち上手じ逃げっ
(押しうゆば 耳が遠えでち じょじ逃げっ)
(唱)聞こえん真似で婆あ一芝居
(唱)(聞こえん真似で ばあひと芝居)
五客四席 城山古狸庵
丸秘をば誰い聞たたいか地獄耳
(まるひをば だい聞たたいか じごっみん)
(唱)油断も隙も無ち狼狽っ
(唱)(油断もすっも ねちばたぐろっ)
五客五席 川内つばめ
目を瞑っ耳で弾いちょいピアニスト
(目をつぶっ 耳でひいちょい ピアニスト)
(唱)無我ん境地で鍵盤に舞っ
(唱)(無我ん境地で 鍵盤にもっ)
秀 逸
清滝支部 鮫島爺児医
勝手耳都合ん悪い時きゃ平然しっ
(かってみん つごんわいときゃ しれっしっ)
耳が良で覚えも良たろ全部丸
(耳がえで 覚えもえたろ ずるっまる)
聞っ違げを耳が遠えでちけ恍けっ
(きっちげを 耳が遠えでち けとぼけっ)
耳の穴ね虫が入ったち難儀ん処置
(耳のあね 虫が入ったち のさん処置)
良か耳に穴どん開けっ痛て飾い
(よか耳に 穴どんあけっ いて飾い)
伊敷支部 矢上 垂穗
耳朶い真珠がひしゃっ似合た美人
(みんじゃばい 真珠がひしゃっ におたシャン)
城山古狸庵
痛てあ無か大か輪っかを耳み下げっ
(いてあねか ふとかわっかを みみさげっ)
勝手耳悪口ん分な聞っ分けっ
(かってみん あっごんぶんな きっ分けっ)
川内つばめ
柔道家潰れた耳ぬ誇いしっ
(柔道家 潰れた耳ぬ ほこいしっ)
人格者心ん耳で話す聞っ
(でけたひと 心ん耳で はなす聞っ)
作句教室 樋口 一風
耳と鼻ねごろいと臍ずいピアすしっ
(耳とはね ごろいとへそずい ピアすしっ)
美人言てん口鼻耳ち違げあ無し
(シャンちゅてん くっ鼻耳ち ちげあのし)
投句された前記の句について。面白い句ですが、兼題は「耳(みん)」でしたが、先の句は耳以外に鼻、口、臍と部位が沢山読み込まれて、兼題の耳とかけ離れています。
「臍ずいピアすしっ」だから主題はピアスか臍のようです。ピアスの兼題なら優秀作品だと思います。
後の句は顔の美醜を言っているのだろうと思います。耳という題が出たら耳を主題に詠むようにしてください。
ただし他の部位と比較して耳が良いとか、耳を主張すれば、よいと思います。
薩摩郷句鑑賞 97
塗い過ぎっ背中け流れた禿薬
(塗い過ぎっ せなけ流れた はげぐすい)
堂園 三洋
禿た頭に磨きをかけて、それを競い合う人々もあるが、何とか毛が生えてこないものかと、海藻類を食べたり、植毛をしたり、薬を塗ったりする人々もある。この句の場合、毛生え薬を塗ったわけだが、余計に塗れば効果も大きかろうと思うのが人情。ところがその薬が背中に流れ込んだのである。背中にたてがみのように毛が生えたのではないかと想像すると滑稽。
膝枕寝付けば座敷け転ばけっ
(膝枕 寝付けばざなけ ころばけっ)
野間 小爺
時たま飲んで帰ってきた主人に、「私は遣り繰りに四苦八苦しているのに、あんた、いい気なもんね!」などと角を出すのは逆効果。まして、「安給料の癖に」というような言葉を浴びせたら、なお飲みに行きたくなるのが男というもの。膝枕でもさせてやって、上手に舵を取るのが賢い手であろう。寝着いたら、座敷にほったらかしておくとしてもー。
※三條風雲児著「薩摩狂句暦」より抜粋
薩 摩 郷 句 募 集
◎新年号
題 吟 「 挨拶(えさっ)」
締 切 平成28年12月1日(木)
◎2 号
題 吟 「 後悔(くけ)」
締 切 平成29年1月5日(木)
◇選 者 樋口 一風
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鹿児島市加治屋町三番十号
鹿児島市医師会 『鹿児島市医報』 編集係
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