=== 随筆・その他 ===
夏 と 貧 血
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東区・郡元支部
(デイジークリニック) 武元 良整
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「貧血治療目的」で外来受診が増えるのは6月から8月の時期です。6月は梅雨の頃でもあり,蒸し暑く体調管理に苦労し,貧血症状が強くなる時期でもあります。図1に外来貧血例の2016年7月症例を100%としたときのグラフを示します。6月と7月に集中しているのがわかります。
症例を振り返ると以下の2パターンが多くみられます。
1.春の職場健診で貧血を指摘され内科受診を指示され,ようやく6月頃に受診。
2.中高生では成長期に加えて部活の夏強化練習などで7-8月貧血症状が顕性化。
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| 図1 貧血治療延べ人数(2016年8月17日現在) |
1.健診で貧血を指摘され,6月に受診された症例
症 例 1:50歳,女性
主 訴:健診で貧血を指摘され受診
背 景:事務職
自覚症状:無症状との申告,よく問診すると以下の症状が軽度にあり。
「倦怠感,不眠,よくコムラガエリをおこす,よく立ちくらみあり,足がむくむ,寒がり,氷食症あり」
検査結果:RBC:339,Hb:6.1,MCV:61.9,MCH:18.0,PLT:37.9,血清鉄:6,フェリチン:1.8
単 位:RBC:/μL,Hb:g/dL,MCV(mean corpuscular volume:平均赤血球容積):fL,MCH(mean corpuscular
hemoglobin:平均赤血球血色素値):pg,PLT(血小板数):万/μL,血清鉄:μg/dL,フェリチン:ng/ml
治療経過:治療開始から約2週間で鉄欠乏性貧血に特徴的な「氷食症」は消失。
その後は徐々に,「立ちくらみ」「倦怠感」は感じなくなってきています。
貧血の原因の一つとして,すでに子宮筋腫を指摘されており,定期的な婦人科受診が必要。末梢血液像は図2に示すように造血亢進によりきれいな正球性正色素性の赤血球がみられ,既存の小球性低色素性のそれと見事な対比が写真で観察できます。このような血液像の変化を外来受診時にみてもらい多忙にて,治療継続できず,再発を繰り返す「鉄欠乏性貧血」の中断例を減らす工夫をしています。それでも,過去2年間で前回同様の症状で,鉄欠乏性貧血の治療に再来という方は,絶えません。注意すべきはHb>12.0以上になっても,MCVが90.0になるまで,治療継続または外来観察をおよそ6カ月間続ける事が必要です。最終的に貯蔵鉄とされる「フェリチン」値を検査し貧血の治療終了となります。
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図2 左(Day 0):初診時の末梢血液像です。赤血球形態は小球性低色素性が明らか。
右(Day 26):1カ月後の末梢血液像では正球性正色素性の赤血球が出現,網状赤血球1.5% |
2.大会前の部活練習で息切れ,倦怠感で練習できず来院
症 例 2:15歳,中学3年生,女性
主 訴:立ちくらみ,倦怠感,生理不順
背 景:バスケットボール部
自覚症状:いままで,学校健診で貧血を指摘されたことはない。以下の症状が軽度にあり。
「集中力がない,目が疲れる,気力がない,倦怠感,不眠,からだが重い感じがする,よく立ちくらみあり,冷房はキライ,寒がり,手のひら足のうらによく汗をかく」
検査結果:RBC:420,Hb:11.8,MCV:86.2,MCH:28.1,PLT:25.8,血清鉄:97,フェリチン:16.8,ビタミンB12:209,血清ハプトグロビン2-1型:35(66-218:正常)
単 位:ビタミンB12:pg/ml,血清ハプトグロビン2-1型:dL
治療経過:過去に貧血の既往は無いが,運動継続できなくなる原因の一つに「スポーツ貧血」「行軍血色素尿症」が疑われるため,貧血の有無と「血清ハプトグロビン」-溶血性貧血で低下する-を検査した。その結果,血清ハプトグロビン低値にて行軍血色素尿症と診断。さらにHb:11.8g/dLと貧血を認めた(WHOの貧血基準:男性<13.0,女性<12.0)。なお,身長の伸びる時期で,運動量も多く,発汗の影響などによるビタミンB12欠乏の有無を検査。ビタミンB12は209pg/mlと基準値180以上ではあるが,立ちくらみ・倦怠感の見られやすい300以下と低値であった1)。
貧血の原因の一つとして,生理不順も疑われ,「血虚」「水滞」の漢方治療の適応と考えたが,貧血治療を優先した。末梢血液像は図3に示すように,治療期間15日では著変ない。しかし,Hb,MCVそしてMCHの血液指数はわずかではあるがMCV:90.0とMCH:30.0の正常値へむけて改善中(図2や図3の画像提供は鹿児島市医師会臨床検査センター血液検査室による。画像提供のご希望があれば,いつでも鹿児島市医師会臨床検査センター血液検査室へご相談ください)。
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| 図3 行軍血色素尿症の1例 |
まとめ
今回,夏バテの時期に来院が増加傾向にある典型的な自覚症状に乏しい鉄欠乏性貧血(症例1)と,部活で倦怠感を訴えたスポーツ貧血の一部である行軍血色素尿症(症例2)を紹介いたしました。症例2は,不足した鉄とビタミンB12を補う事で練習に復帰できております。夏バテにありがちな「倦怠感」の一部に貧血が隠されている事を知らされた症例でした。
文 献
1)武元良整:研修医時代の夏の思い出,鹿児島市医報第55巻第8号(通巻654号):48-49,2016

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