NHK鹿児島の局長として今年4月に着任しました。鹿児島には15年ぶりの勤務です。
鹿児島市医師会の皆さま,何とぞよろしくお願いいたします。
趣味はスポーツ観戦です。私自身,中学時代はサッカー部に,高校ではアメリカンフットボール部に所属していました。極めて無器用で体が硬く動きが鈍かったため,選手としては中学でも高校でもチームのお荷物的存在でした。それだけにスポーツ観戦では,試合中のミスや凡プレーに感情移入しながら見ています。
今回,鹿児島に着任してからは早速,J3の鹿児島ユナイテッドに関心を持ちました。15年前の鹿児島勤務時にはまだ誕生していなかったチームですが,ラッピング広告などを見ると地元の応援にも気合が入っていることが感じられます。5月29日には鴨池陸上競技場に足を運んで,ガンバ大阪U-23との試合を観戦しました。当日はあいにくの雨降りにもかかわらず入場者は2,024人。チーム3年目とは思えない地元への浸透ぶりです。ゲームそのものも先制された鹿児島ユナイテッドが後半に逆転するというスリリングな展開で,スタンドは盛り上がりました。
当日のガンバ大阪U-23との試合結果は,テレビ局の鹿児島ローカルのニュースでも扱われていました。この放送を見ても分かるようにサッカー人気は鹿児島でもしっかりと定着しています。しかし私の中学時代には,サッカーの人気は今のようではありませんでした。例えば私が2年生の時に開催されたサッカーW杯の試合でさえ,テレビでの放送は少なかったように記憶しています。当時はやはり野球の人気が絶大だったのです。私が生まれ育った滋賀県彦根市の小学校でも休み時間や土曜日曜になると男の子たちはソフトボールに熱中したものです。ソフトボールの上手な子がクラスのイニシアチブを取る時代でした。なぜソフトボールかと言いますと,小学校のグラウンドや施設の整備が十分でなく,本格的に野球をできる環境でなかったからです。
男の子たちの話題もまたプロ野球でした。クラスでは巨人と阪神のファンの数が拮抗していたように思います。巨人はV9の街道を快走中で,全盛期のON=王・長嶋が少年達を惹き付けました。一方の阪神も村山,江夏,田淵といったスター選手が揃っていたことに加えて,滋賀県では「地元のチーム」という意識もあって人気を集めていました。実際には彦根から国鉄と阪神電鉄を乗り継いで兵庫県西宮市にある甲子園まで行って,阪神のナイトゲームを見るというのは容易ではありませんでした。クラスでも観戦した経験のある子どもは少なかったように思います。とは言え滋賀県は近畿地方ですし,私自身当時は一度も行ったことのない街・東京のチームよりは,年に1〜2回は訪れる京阪神地区の都会に根づいたタイガースに親しみを感じてファンとなりました。
私がファンの時代,この阪神タイガースはなかなか優勝してくれませんでした。2位まではこぎつけるのですが,結局は巨人の引き立て役のようになってしまいます。惜しかったのは昭和48年のペナントレースです。最後の2試合,中日戦と巨人戦のいずれかに勝てば9年ぶりの優勝そして巨人のV9阻止だったのですが,残念ながら連敗して阪神ファンの夢は潰えました。その後,低迷期もあり,私が高校生の頃にはついに最下位になってしまいました。こうなると関西版のスポーツ新聞が黙っていません。ストーブリーグ(シーズンオフ)になると連日のように1面でトレード情報や,球団の内部事情が大きな見出しで報じられます。私がストーブリーグの記事に興味を持ち始めたのは,江夏が阪神から南海にトレードされた頃からでしょうか。高校は列車通学でしたので,スポーツ新聞を駅の売店で買ったり仲間で回し読みをしたりしていました。
ストーブリーグの記事の面白さはプロ野球選手の人間臭さが分かることだと私は思います。チームに厳しいことも書かれますが,ファンとしては選手の生き様も知ることができ,ペナントレースの試合をより興味深く見られるようになるのです。大学受験に失敗して浪人となり京都の予備校に片道1時間かけて通っていた時には,電車内でじっくりとスポーツ新聞を読み込みました。掛布や小林,真弓らの活躍が自分自身の励みともなり毎晩,大阪のラジオ局の阪神戦の中継を聞いては気持ちを鼓舞したものです。
その後,首都圏の大学に進学し,NHKに入局して関西以外の各地を転勤するようになってからは,阪神の1面トップの記事を目にすることも少なくなりました。現役選手への関心も薄れていつの間にやらファンも卒業してしまったようです。その一方で近年はプロ野球選手史とも言うべき単行本を好んで読むようになってきました。江夏,田淵,掛布あるいは古沢,江本などといった私がファンだった頃の阪神の選手を主人公にしたノンフィクションです。かつてのペナントレースのヤマ場やトレード劇で,チームや球団内でどのような事が起きていたのか,などを描いています。本に書かれた選手達の生き様の中には,中高年の私にとって人生訓にもなり得るものがあります。
鹿児島ユナイテッドの選手にも是非,人間的な魅力をアピールしていただければと思います。鴨池陸上競技場に行って感じたのは,ファンと選手との距離が近いことです。私はスポーツ新聞を通じて阪神の選手に親しみを持ちましたが,鹿児島ユナイテッドの選手達はこの距離の近さを大切にしているように思えます。そしてファンの子ども達が選手に抱いた夢や憧れが,成長するにつれて自身を激励する存在に発展すれば素敵だと思っています。6月26日現在で鹿児島ユナイテッドはJ3で堂々の1位! J2昇格にはライセンスの取得という課題もあるようですが,今後が楽しみです。
ところで今夏の8月1日からはスーパーハイビジョンの試験放送が始まりました。リオデジャネイロ五輪の放送も盛り込まれています。NHK鹿児島放送局は1階のロビーで試験放送を一般公開させていただいています。ちなみに実用放送は2018年に予定されています。このスーパーハイビジョンの放送で鹿児島ユナイテッドの試合が見られる日が来るのを楽しみにしています。

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