春の小旅行
(「東京・春・音楽祭」)
「春が訪れ 桜(はな)がひらいて 音楽が始まる 上野の森に」
10年以上の歴史を持つ「東京・春・音楽祭」は,今年も3月16日から4月17日まで上野の東京文化会館をメイン会場に開かれた。2005年に「東京のオペラの森」として,小澤征爾氏が音楽監督になり始まったこの音楽祭は,オペラ,オーケストラ,室内楽,歌曲などクラシックを中心とした多彩な音楽祭である。私は3月の末,妻と姉夫婦の4人で「東京・春・音楽祭」に行った。この音楽祭は毎年楽しみにしているものだが,今回は自由が丘にいる従兄弟が,音楽祭のあと山中湖に案内してくれるということになったので余計に楽しみにしていたのである。
私たちは,この音楽祭のたくさんのプログラムのなかから,3月23日東京文化会館で開かれた東京オペラシンガーズの「にほんのうたY」を聴くことにした。東京オペラシンガーズは「世界的水準のコーラスを」という小澤征爾氏の要請により結成されたもので,今回は男性6人女性7人の若手声楽家で構成されていたが,この音楽祭にも毎年出演しているとのこと。会場は文化会館の小ホール。ワンフロアーでゆったりとしたスロープのある洒落たつくりで,声楽のコンサートにちょうどマッチする広さ(649席)と思われた。今年はちょうど上野公園の桜も咲き始めるその時で,まさに「春が訪れ 桜がひらいて・・・・・」を実感する演奏会であった。「合唱で聴く美しい日本の歌」15曲が演奏されたが,いずれも知っている曲ばかりで大変懐かしく,いつしか満席の人たち誰もが一緒に口ずさんでいた。「美しい情景,美しい言葉を歌い継ぐシリーズ」の6回目,美しいハーモニーに心洗われるひと時であった。
どんなに時代は変わっても,歌い継いでいきたい日本の歌である。
 |
|
 |
東京・春・音楽祭
|
|
にほんのうた
|
(「逆さ富士」)
 |
満月に輝く
|
 |
逆さ富士
|
「ふみおちゃん,起きれ!起きれ!」と何度も呼ぶ声に,何事かと開かない目をこすりこすり起きると,「外に出てみれよ,早く」と言う声。ピンときてカメラを持って外に飛び出すと,まだ暗い月明かりの中に雪をかぶった富士山が煌々と浮かび上がっていた。富士山の右上には満月が輝き静かに霊峰を照らしている。我を忘れてシャッターを押し続ける・・・・。そのうち足が冷たくて痺れたようになっているのに気がつき下を見ると,浴衣の裾ははだけ,サンダルに素足の足元は凍りついた雪の上で濡れていた。
東京オペラシンガーズの「にほんのうた」を聴いた翌日,従兄弟夫婦と私たち6人を乗せた車は山中湖に向かっている。あいにくの小雨模様の中,東名高速から御殿場経由で走り続けると白いものがフロントに舞ってくる。いよいよ目的地が近いんだなと感じながらも富士山が見えないことに不安感が漂い始める。
その山中湖は山梨県山中湖村にある富士五湖のひとつで,面積は最も広く標高も最も高い(全国3番目)。晴れた日は逆さ富士で有名だが,冬は湖面が凍りワカサギの穴釣りも楽しめるとのことである。
ついにその山中湖の湖畔にあるホテルに着いた。だが目の前にあるはずの富士山は見えない。雪交じりの雨はだんだん本降りになり,諦め感が増す一方,わずかばかりの期待感も持ちながら,その夜は遅くまでゆっくりと酒を酌み交わした。
そして従兄弟の声で飛び起きると,目の前には奇跡的な情景が広がっていたのである。寒さも忘れて写真を撮り続ける。もっといい場所はないかとサンダルに素足で走り回る。少し高台にある露天風呂に上がってみると,湖面に映る富士山が・・・・・。逆さ富士である。初めて見る感動の瞬間であった。刻々と変わっていく表情をカメラに収め続ける。湖面には富士山を揺らしながら白鳥や鴨などが泳ぎ,ワカサギ漁の準備なのか青い小船が浮かんでいる。
この感動に浸れたのも一時のことであった。朝食後には頂に雲がかかりだし,あっという間に山の半分は見えなくなってしまった。まさしく奇跡としか言いようのない逆さ富士で,このような「とき」を与えてくれた山中湖に心から感謝したい。
素晴らしい山中湖を満喫するといよいよお別れである。富士山からの湧き水が美しい忍野八海をまわり帰途につくこととした。
「東京・春・音楽祭」で心洗われ,山中湖の「逆さ富士」に感動!!
素晴らしい小旅行であった。
 |
逆さ富士
|
近頃思うこと
この原稿を書いている6月なかごろ,熊本ではまだ6,200人もの人たちが避難生活を余儀なくされ,600人近くの人たちが車の中で寝泊まりされているという。熊本地震発生から2カ月経ったこの現状に,地震の恐ろしさを思い知らされる。私の実家も熊本市の南区にあるが,幸いにして大きな被害はなかったようで安心した。この震災に際しては,直後から医師会病院を中心にDMATなどの支援活動を展開されたとのことで,熊本に関係する者の一人として心から感謝申し上げます。
このようなさ中,見過ごすことのできない多くの出来事が起きている。突然の消費増税延期と参議院議員選挙,舛添都知事の政治資金問題等による辞職,沖縄米軍基地の軍属による暴行殺人事件,そして忘れてはならない甘利前大臣の口利き疑惑など重要な問題ばかりである。少し前のことになるとつい忘れてしまいそうである。
(消費増税再延期と参院選)
安倍首相が参院選を前にして「新しい判断」と言って行った公約違反の消費増税再延期の決定は,アベノミクスが失敗したともいわれるなかで,その失敗を覆い隠すためにサミットまでも利用し,しかも国会でも政府与党内でも議論もさせずに決めてしまったといわれるもので,安倍一強といわれる政治体制を物語っている。このような強引な判断の裏には,参院選を前に,消費増税再延期が公約に反していても選挙に有利だとの読みがあったのであろう。そしてそのことで改憲の爪を隠し,経済問題を参院選の最大の争点にしようとしたのである。実際,世論調査によれば国民世論は公約違反を問うことはなく,増税延期に賛成しているのである。私たちも,目先の利益よりも公約違反とその決め方にもっと厳しい目を注ぐ必要があったのではないだろうか。
首相は「アベノミクスのエンジンを最大限にふかす」というが,増税を再延期せざるを得ない現実やアベノミクスの限界が指摘されていることを見ても,2年半後も増税できる経済環境になるのかどうか疑問である。アベノミクスと消費増税路線そのものが問われているのではないだろうか。消費税だけを社会福祉の財源にする「一体改革」の考え方は,見直す必要があるのではないかと思うのである。
参院選はこのような経済問題が最大の争点のようにいわれていたが,選挙中政権与党がほとんど触れていなかった憲法と安保法制問題も大きな争点だったはずである。私たちはこれまでの2回の国政選挙で,安倍首相が選挙中ほとんど触れてもいなかった特定秘密保護法や安保法制を,選挙が終わると信任を得たとばかりに強行してきたことを忘れてはならない。特に安保法制は,ほとんどの憲法学者から憲法違反といわれるなかでの強行だったのである。このような「実績」から見ても参院選後,憲法「改正」が現実のものになりはしないかと危惧する。増税延期とアベノミクスに惑わされたのかどうか,改憲に対する世論の関心の低さが心配である。
これからの安倍政権の動向を注視していかなければならない。
(舛添都知事の辞職と甘利前大臣の口利き疑惑)
舛添東京都知事が政治資金問題で都民の総批判を受け辞職したが,このこと自体は当然のこととして,政治とカネにまつわる問題はとどまる所をしらない。それは政治家の資質の問題も当然あると思うが,それ以上に法的に追及できない仕組みになっていることが問題だと思う。今回の舛添都知事の問題も,あれほど大騒ぎになり辞職に追い込まれたにもかかわらず,政治資金規正法上は違法ではないという。その事が舛添都知事の強気の姿勢に表れていたと思うし,辞職後はその疑惑の追及ができなくなっているという事ではないだろうか。甘利前大臣の問題も,市民感覚としては明らかに口利きあっせんがあったと誰もが感じていても不起訴になってしまうのは,「あっせん利得処罰法」が,よほどの場合でないと適用できないザル法になっているからだといわれている。
今回,舛添都知事の疑惑は全く解明されていないが,一方では政治資金規正法がザル法だとしてクローズアップされた。いまこそザル法といわれる「政治資金規正法」や「あっせん利得処罰法」改正の世論を高め,市民感覚にあった法改正を実現することが政治とカネの問題を正すきっかけになるのではないだろうか。
(沖縄米軍基地軍属による女性暴行殺人事件)
6月19日,沖縄では県民6万5千人の大集会が開かれた。米軍基地軍属による女性暴行殺人事件に抗議してのもので,1995年に開かれた,少女暴行事件に抗議する県民総決起大会以来の大集会であった。繰り返される米軍関係者による事件に対して沖縄県民の怒りが沸騰したもので,我々も決して「沖縄の問題」にしてはならない。これまで私たち「本土」にいる者は,基地問題にしてもこの種の事件に対しても,気持ちの上では「大変だなー」と同情する程度で,「沖縄のことだから」と逃げていたのではないだろうか。沖縄のこれまでの苦難の歴史を考えた時,私たちが沖縄に犠牲を強いている現実に真剣に向き合わなければならないと思う。安倍首相は,沖縄問題に対するとき表向きには「沖縄の人の気持ちに寄り添って」とよく言われるが,現実には県民の声を無視されているように思う。今回の事件に関しても米軍に対して再発防止,綱紀粛正は求めても,肝心の地位協定改定の要求もしない。辺野古への基地移設についても「唯一の解決策」というかたくなな姿勢に終始している。私たち「本土」にいる者が沖縄の現実に真剣に向き合うということは,このような安倍政権にたいして沖縄県民に寄り添って声をあげるということではないだろうか。
自由人閑話も6話目。やっと終わったと思ったとき,イギリスのEU離脱という大ニュースが飛び込んできました。離脱の原因は,移民流入の問題やEUの官僚的組織機構に対する不満などがあるとも言われているようですが,この結果は,世界の政治経済を混乱させ右傾化の流れを加速させるのではとの見方もあり,これから世界がどう変わっていくのか注視していく必要があります。また,国民投票後のイギリス世論の混乱ぶりを見ていると,国民投票の怖さが伝わってきます。憲法改正の国民投票が現実のものになりかねない我が国にとって,他人事ではないと思いました。
このような中で行われた参議院議員選挙ですが,選挙の結果はどうであれそれは主権者である国民が選択したことであり,その結果責任もいずれ主権者である国民に返ってきます。多くの政治課題は残ったままであり,その上にEU離脱の影響も重なり,政治的にも経済的にも大変な時代になっていくのではないかと心配です。
新聞紙上で読んだある識者の言葉が心に残っています。
“国民世論は,景気がよくなればいいといった短期的な成果に目が向きがちだが,それは有権者ではあっても主権者とは言えない”
 |
不動池
|

|