税と社会保障の一体改革の一環としての県への病床機能報告制度,新専門医制度等,医療を取り巻く社会環境が大きく変化し,医療界にとってまさに激動の時代が到来したと思われます。
これらの変化に対応するためには,組織の“意識改革”が必要ですが,医療は目の前のことをこなすのに一生懸命になりがちで,変化を求めると反対勢力に裾を踏まれてしまっていると感じることがよくあります。どんな組織にもアンチがいて,ファンがいる。どんなよい組織も,だめな組織もアンチとファンはほぼ一定の割合で存在するということです。これは「2対6対2の法則」といわれ,組織は「優秀な人が2割」,「普通の人が6割」,「パッとしない人が2割」という正規分布で構成されやすいとした法則です。この「2対6対2の法則」で興味深いのは,ある層(レイヤー)の構成員が抜けても,残った構成員によって自然と「2対6対2」に再構成されるということです。たとえば「優秀な人」が組織からいなくなっても,「普通の人」から再び「優秀な人」が20%現れてくるということです。これは,「パッとしない人」が抜けても同様です。
アリの世界でも同じで,「働くアリ」を集団から意図的に除いても,他のアリから「働くアリ」が誕生してくるとされ「働きアリの法則」とも言われています。
北海道大学大学農学研究員准教授 長谷川英祐氏の「働かないアリ」がいるからこそ,アリの社会は長く存続できるという理論も興味深いと思います。これは,「働かないアリに意義がある。アリの7割は休んでいて1割は一生働かない。よく働くアリばかりのコロニーだと最初のうちは効率が良いが,疲れてやがて効率が落ち,突発事故に対処できずに滅ぶ。休んでいるアリは刺激に対する反応閾値が高いだけで,必要になればまた働くので長い目でみれば休んでいるアリがいるコロニーの方がよい」というものです。働くアリと働かないアリの差は「腰の重さ」,専門的に言えば「反応閾値」によるということです。アリの前に仕事が現れた時,まず最も閾値の低い「腰の軽い」アリが働き始め,次の仕事が現れた時には,次の閾値の低いアリが働くという形で,仕事の分担がなされている。仕事が増えたり,最初から働いていたアリが疲れて休むなどして仕事が回ってくると,それまで仕事をしていなかった反応閾値の高い「腰の重い」アリが代わりに働きだす。一方,閾値に関係なく本当に一生ずっと働かないアリもいる。これをフリーライダー(ただ乗り),またはコミュニティーをだまして寄生するので,チーターという。フリーライダーは働かずに産卵だけを行い,フリーライダーの子どももフリーライダーなので,フリーライダーがいるコロニーはフリーライダーが増えて滅びるが,滅びたコロニーの跡地に新たなコロニーが形成される。フリーライダーは別のコロニーに分散するので,アリの社会全体では,フリーライダーの数が一定に保たれている。
ここでいう「アリ」は「人間」に,「アリのコロニー」は会社や組織など「人間のコミュニティー」に例えられるということであります。
この様に考えると,そもそも「卓越した人でなければ,達成できない計画」や「有能な人がいなければ回らない仕組み」は組織の継続性の観点からは敵であり,「どのように環境を変えれば,全体のパフォーマンスがあがるか」という視点で考えるのが,意識改革なのかもしれない。

|