1.はじめに
鹿児島市医師会様ならびに会員の皆様におかれては,時下,益々ご健勝のこととお喜び申し上げます。
この度の異動により,鹿児島市消防局長を拝命いたしました木場と申します。どうぞよろしくお願い申し上げます。また,貴重な鹿児島市医報の紙面を割いていただき,ご挨拶の機会をいただきましたことに対し,厚くお礼を申し上げます。
また,私どもの消防行政の中でも救急業務は,今後,益々大きな責務を担う分野であり,医療機関との緊密な連携なくしては,遂行でき得ないところでございますが,このような中,平素から救急患者の迅速,適切な受け入れやメディカルコントロールによる救急隊員の育成指導,また活動に対する助言指導など,猪鹿倉会長様,新名副会長様をはじめ医師会会員の皆様のご協力,ご尽力に対し心より感謝を申し上げる次第でございます。
市医師会様との連携におきましては,平素の救急活動はもとより,鹿児島市医報を消防局にもご恵送いただいており,拝読させていただく中で救急医療に対する市医師会様の真摯な取り組みや,時事の救急医療情報,さらには厳しい医療業務を離れたあとの先生方の日常生活の温かい人情の一コマなどにも触れさせていただくことができ,私をはじめ消防局幹部職員の資質向上に大いに役立たせていただいているところでございます。
鹿児島市医報の今後さらなる充実をご期待申し上げますとともに,引き続きの活用をお許しいただき,市医師会様との救急医療の情報連携に役立たせていただきたいと思っております。
2.消防救急業務の現状
さて,近年の本市におきます救急業務の動向について,本市救急統計から窺える事項を少しご紹介したいと思います。
ご案内のように鹿児島市の人口は,全国的な少子化の中で,平成22年の推計人口605,846人を頂点として,現在,緩やかに減少している状況にありますが,一方,人口減少とは逆に,平成21年以降本市の救急出場件数は,22年中22,629件,23年中24,132件,24年中25,317件,25年中25,754件,26年中26,422件,27年中28,130件と,右肩上がりで増加の一途をたどっており,その増加の主な要因は,「急病」で,27年中の統計で申し上げますと全体の6割を超え,中でも65歳以上の高齢者の急病の増加が顕著で,急病の出場件数17,236件に対し55.5%を占める9,558件となっております。
これらの実態から,高齢者の救急需要対応として,これまでの発生対応型の救急業務から救急需要の抑制対応,いわゆる「予防救急」への施策強化を図っていかなければならない課題があるところでございます。このことについては,今後,市医師会様や関係医療・福祉機関のご協力をいただく中でシルバー世代の身近な生活の中での健康管理や事故防止など「予防救急」への本格的なシフトチェンジを図り,啓発広報等に努めてまいりたいと考えているところでございます。
このような予防救急と併せまして,従来から取り組んでおります急病をはじめとする救急種別,傷病程度の多様化を踏まえた救命率の向上,後遺障害の軽減などの救急業務の本旨の目的に対応するための救急業務の高度化についても,ドクターカー等による救急現場への早期医療介入と並行して,プレホスピタルケアの主要部分を担う救急業務の質を高めるため,引き続き,その充実強化に取り組んでまいりたいと考えております。
このことに関しましては,これまで市医師会会員の皆様の温かいご配慮とご協力により,救急救命士養成や生涯学習に欠かせない病院実習,専門的なカンファレンスへの参加,また事後検証などが滞りなく推進されており,平成28年4月現在64人の救急救命士,4人の指導的立場の救命士などが育成され,鹿児島市民に良質な救急サービスを提供することができているところでございます。
さらに,平成26年10月から運用(暫定)を開始しましたドクターカーについても,365日24時間の本格運用におきましては,救急医の確保など,課題を残しているところでございますが,基地病院である市立病院をベースに,市医師会会員様の救急告示病院が協力医療機関として,積極的な受け入れをいただき順調に運営されており,月曜から土曜日の昼間について運用しているところでございます。
平成27年中の運用実績は,出場770件,搬送人員470人,一日当たり3.2件の出場を数え,通常救急の場合の約32分に対し約13.5分と半分以下の時間で医師が医療介入をしており,このことによる効果としまして,救命率約50%(通常救急は約29%),後遺障害軽減の効果11.4%と,大きな救命効果を挙げているところでございます。
市医師会会員の皆様におかれましては,さらに,より高度な救急医療に応えるドクターカーの本格運用において,各面からのご協力をいただければと思っているところでございます。
3.市医師会と市消防局との連携の現状
話を一変し,私ども消防局と市医師会様との救急現場等での連携の現状でございますが,消防局が救急業務を開始しました昭和33年以降,早い時期に交通事故や労災事故などの救急現場における負傷者救出や現場救急医療処置にご協力をいただく連携体制が確立されており,さらに昭和45年から集団災害救急事故(現在は多数負傷者救急事故)対応として取り組んでいる救急訓練に,市医師会様におかれては昭和52年からご参加をいただき,さらには,これらの業務応援体制を堅固なものにするため,平成18年12月には「鹿児島市と鹿児島市医師会との救急業務に関する協定」を締結させていただき,救急訓練や研修会等を数多く重ね,力強い救急現場の協力体制が整っているところでございます。これらの体制整備におきましては,熊谷,年永,米盛救急医療担当理事様,また有村市医師会病院副院長様をはじめ,救急医療担当理事の皆様などのご尽力の賜物であり,改めて感謝を申し上げますとともに,これまでの連携の背景や積み重ねられてきた実績を,さらに今後につなげられるよう努力してまいりたいと考えております。
また,近年におきましては,救急の日の行事反省会などにおいても,活発な論議がなされ,今後の現場連携に反映すべき事項の洗い出しや共通認識の醸成など,良好な連携を重ねてきており,特に,「顔の見える関係の構築」ができ,私を含め関係消防職員の意識や活動力の向上などに大きな力となっており,ありがたいことだと感謝をしているところでございます。
このように消防と医療の連携を安定的に,かつ継続的に維持することは,今時の多様化する平時の救急医療活動から,さらに非常災害時の救急医療活動へと引き継がれるもので,本市の救急医療において益々重要な力になってくるものと考えており,今後におきましても,市医師会の皆様との平時から,相互連携に欠かせない情報の共有,また現場連携においては活動に係る情報の迅速な相互提供体制の充実強化に努めてまいりたいと思っているところでございます。
4.平時における救急医療における連携の課題と今後の取り組み
申し述べましたように,本市消防局と市医師会様との連携は,着実に進展しているところではございますが,ご案内のように社会経済の進展とともに,求められる連携の質・量の変化も生じてきております。そこで,今後の消防・医療の連携の在り方も時代の社会ニーズに応えていかなければならない側面から,以下,消防局側の施策としてその主なものについて少し触れさせていただきたいと思います。
まず,平時における連携の課題でございますが,その一つに高齢化社会の進展に伴い増え続ける高齢者の救急需要への取り組みとして,先に述べました予防救急対策における市民啓発の協力体制を構築し,強力に推進しなければならないと考えております。
消防と医療機関が啓発広報や医療指導による連携に取り組むことで,高齢者の急病や一般負傷(ケガ)の救急需要が抑制できるものと期待しているところでございます。
二つ目に,不安定の救急現場活動に従事する救急隊員においては,救いを求める市民の側からは,より的確で迅速な活動や救命処置活動に対するより丁寧で分かり易いインフォームドコンセントなど,質の高い救急サービスが求められる時代に突入しております。このようなことから救急隊員の活動について,今まで以上にきめ細かなメディカルコントロールによる活動の検証や育成支援の充実をお願いしたいと考えております。
三つ目として,現在,本市は救急現場への早期医療介入を目指したドクターカーの運用を行っているところでございますが,これは,1対1の救急対応であり,多数傷病者救急事故等においては,これまでどおり地域医療機関の医療支援の充実が欠かせません。
このことについては,毎年実施しております救急の日の合同訓練の中で,さらに救出救助現場への医師の臨場支援や迅速な応急救護体制の充実,また統一的な活動に不可欠な情報共有の下での活動指揮体制の強化など,事前研修会等の充実を含め,市医師会様の支援をいただきながら,連携活動の質を高めてまいりたいと思っております。
5.非常時における救急と災害医療に係る連携課題と今後の展望
次に,今後,最も取り組んでいかなければならない救急医療活動の連携としては,本市における社会インフラ機能がダメージを受けるような大規模災害時の対応が,大きな課題であり,緊張感,加速度感をもって整備等に取り組む必要があるのではと考えているところでございます。
ご案内のように本市は桜島火山を控えており,火山噴火災害の発生は,昨年8月の噴火警戒レベル4の事態が示すように既に現実的な対応の段階にきていると言われております。桜島火山の大正噴火級の大規模災害,これに伴う都市インフラ被害の想定は,現在,国の内閣府において,火山砕下物,いわゆる大規模降灰による県都市機能への影響調査結果が近々に示されることになっており,この調査結果を受けて消防警備や救助,救急対策に大きな修正を施すことになるのではと思っております。
現時点でも確実に言えることは,大正噴火級の降灰被害においては,消防,医療のインフラ被害が伴うことは必然の事項であり,避難者をはじめ多数の負傷者の応急救護,医療機関への受け入れ,また機能喪失した医療機関などからの患者等の緊急避難措置など,これらに持ち堪えられる消防,医療機能の維持ならびに連携確保が大きな課題であろうと思っております。
このことは,いみじくも,先の熊本地震における緊急消防援助隊やDMATの広域応援の実践活動を通じ,被災地における消防救急医療を支えるインフラ機能の維持,いわゆる業務活動の継続的な維持および補完連携が大規模災害時における最大の課題となることを,体験・知見として学べたのではと思っているところでございます。
6.平時から非常時にわたる救急医療に応える
このようなことから,消防局におきましても,今後,本市で想定される身近な救急事故から現実味を帯びてきている桜島火山噴火災害など,被害想定や活動のリスクなどにしっかりと向き合い大規模な非常災害時の救急医療対策に向け,平時からの消防,医療の連携をベースに,さらに大規模災害時において,それぞれの業務機能が継続できる業務継続計画の整備を急ぎ,また,救助・救急現場等における消防救助隊とDMAT等との連携体制の構築など,活動連携の具体策の充実強化を図っていく必要があると考えており,これまで以上に救急と医療の連携について,市医師会様の医療サイドの専門的な見地からのご助言,ご指導をいただく中で,60万鹿児島市民の安心安全に応えてまいりたいと考えているところでございます。
7.おわりに
鹿児島市におきましても,全国的な動向に違わず,少子高齢化の社会動向が反映された多様で,かつ厳しい医療環境は,益々顕在化すると思われますが,鹿児島市民60万人の安心安全の根幹であります医療福祉を担われている市医師会様,また会員の皆様の益々の活躍をご祈念いたしますとともに,私ども消防機関におきましても,これまでのご指導をさらに今後の力に変え,市医師会の皆様と相互連携のもとに消防救急業務に邁進してまいりたいと存じますので,今後とも,格段のご高配をいただきますようよろしくお願いを申し上げます。

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