=== 年頭のあいさつ ===

年 頭 の ご 挨 拶
会  長

     猪鹿倉 忠 彦

 新年明けましておめでとうございます。
 会員の皆様方におかれましては,ご家族はじめ医療施設の職員の方々ともども,晴れやかなお気持ちで,新しい年をお迎えのことと,お喜び申し上げます。
 本年も何とぞよろしくお願い申し上げます。

 鹿児島市医師会長2期目も,残すところあと半年となりました。あまりにも月日の移り変わりが早く感じる今日この頃です。昨今,日本の医療状勢はさらに一段と厳しくなり,それらは鹿児島市医師会へはむろん,地域医療へも複雑な影響を及ぼしています。しかしながら,新年のあいさつに際し,昨年の鹿児島市医師会を振り返りつつ,今年の抱負につなげたいと思います。
 昨年は,例年以上の長雨と豪雨,大型台風に加え,特に桜島の火山活動の活発化により,一時噴火警戒レベル4(避難準備)まで引き上げられましたが,折からの大型台風と重なり,2重災害が大きく危惧され,今後の課題とされました。また,川内原発が営業稼働しはじめて間もないころ,薩摩半島西部エリアで起こった地震は,鹿児島市でも震度4を記録し,幸い,大きな被害の報告は聞かれませんでしたが,震源地が川内原発近海でもあり,多くの方が,津波などの不安を感じたのではないかと思います。いずれにせよ,予断は許せませんが,自然災害の不安の募る1年でした。
 鹿児島市医師会の昨年は,待望の新鹿児島市医師会館での年始会でスタートいたしました。森 博幸鹿児島市長はじめ,100人を超える会員の先生方に多数ご参加いただき,華やかに行われました。つい先日のように感じられますが,その節はたいへんありがとうございました。新医師会館はご好評をいただいておりますが,今後も,地域医療の活動のために,皆様方にさらに幅広くご活用いただきたいと願う次第でございます。しかしながら,不意に悲しい出来事もおこりました。昨年も残念で悲しい会員の先生方のご訃報を度々お受けいたしましたが,2月には当市医師会の顧問であった太原春雄先生がお亡くなりになり,驚愕いたしました。多くのご功績は勿論ですが,「会員のためにどうあるべきか,どうあるのがベストか」「迷ったら“会員のため”を考えろ」と常に我々執行部を叱咤激励し,そして,医師会を司るには「周囲への配慮を忘れるなよ」と温かい訓示をいただき,威厳のある大いなる先輩でございました。追悼の意をこめて,あらためてご冥福をお祈り申し上げます。
 さて,5月には鹿児島市立病院が,旧たばこ産業跡地に新しく生まれ変わりました。広い敷地に公園や十分な駐車場を備え,近代的な建物には先進の医療システムを取り入れ,診療科や診療体制の充実がはかられました。そしてドクターカーの運行やドクターヘリのヘリポートを備えるなど,鹿児島県全体をカバーする二次〜三次の救急医療体制としてもさらに前進した年でもありました。それだけに,我々医師会会員の施設や医師会病院が,地域医療としての前線で,さらに工夫し活躍せねばならないと思う次第です。一方では,年々救急活動は増加しておりますが,中でも各地で起こった認知症高齢者の自動車事故は,進みつつある超高齢社会での由々しき問題として取り上げられました。今後は,さらに予想しえないような事件や事故も懸念され,地域医療でのサポートも大きな役目を担うと思われます。
 また昨年は,一昨年から義務化された病床機能報告制度をふまえ,地域医療構想の具体的な協議がスタートしました。鹿児島保健医療圏では,10月に第1回の地域医療構想懇話会が開催され,データの開示や状況の分析を基に協議が行われました。また,11月に鹿児島市医師会の担当で開催された九州首市医師会連絡協議会(福岡市,大分市,長崎市,佐賀市,熊本市,宮崎市郡,那覇市,下関市,鹿児島市)では,地域医療構想をメインテーマに取り上げ,各首市の抱える諸問題や状況について,全体討議でパネルディスカッションされました。地域の実情に応じた地域医療構想策定のためには,「将来のあるべき医療提供体制」を,我々が自らの考えを地域とともに一体となって創造していくことが重要であり,そのためには,地域の医師会が中心となって構築することが必要不可欠であるという決議に至りました。地域医療構想の策定に際し,先に新聞で興味本位の報道がなされた病床数削減ありきにならぬよう,諸関係機関との話し合いの場で地域の状況や医療の必要性を十二分に主帳し,地域医療の安定と充足をはかるよう臨んで参る次第です。同じく,地域における適正な医療提供体制という観点から,谷山の農業試験場跡地の有効活用の問題は目下保留中といえ,今なお活火山です。次年度の県政の動き,地域の動きに十分な注察が必要と思われます。
 ところで,10月から医療事故調査制度が施行されました。“安全な医療の確保”が本来の目的でありますが,単に医療訴訟や刑事訴訟の道具とされ,我々の臨む地域医療において不要な脅威とならないよう,制度の正しい理解と運用が望まれます。また,マイナンバー制度も施行されました。皆様もお手元に個人の番号が案内されたと思います。目下,この制度の地域医療への影響は不透明ですが,今後,注意して見守る必要がありそうです。
 昨年来問題となっている消費税の10%増税は,平成29月4月に延期されたとはいえ,来年度の診療報酬改定の成り行きが,大変危惧されます。ちょうど,この原稿を書いている最中(11月末),診療報酬を下げることで1,700億を捻出するなど,マイナス改定の可能性が大きい旨のニュースが流れていました。診療報酬と消費税との関わりも含め,地域医療は今後ますます厳しくなると予想されますが,情報に耳を傾け,先手の対応が必要かと思います。
 さて,鹿児島市は人口60万の都市で,これは全国の市と行政区を入れても二十数番目の規模です。一方,鹿児島市医師会は年々規模が大きくなり,目下の会員数1,484人,医療施設数550もの入会を抱え,九州首市の中でも福岡市に次ぐ2番目に大きい医師会です。また地域エリアも広く,その構成規模から各共同利用施設の運営,救急,地域医療や介護保険,産業保健,学校保健業務をはじめ,市や県の保健福祉衛生業務にも多く関与しております。その中で,市医師会にとって大きな課題が尽きないのは共同利用施設です。現在,夜間急病センター,臨床検査センター,そして医師会病院の3つを運営しております。
 まず,夜間急病センターは鹿児島市の委託事業になりますが,一時期のコンビニ受診化は,幾分制御されつつあるように思えます。次年度から契約を再更新し,再び向こう5年間の運営を行うことになります。収支は市の補填により賄われますが,出向してくださる医師の確保が大きな問題です。特に小児科医師は,鹿大小児科1/2と医師会員1/4からなり,残りの1/4は他県の大学から派遣していただいております。他県依存ということもあり,不安が尽きないのが現状ですが,鹿児島市の一次救急の要として必要不可欠であり,今後は状況によっては運営の工夫が必要になってくると思われます。
 次いで臨床検査センターは,平成24年に抜本的な経営改善策にて新体制となり,会員の先生方に不便をかけることなく,検査機器の高効率化と人員削減をはかり,そして,価格サービス,精度管理,迅速対応をモットーに,利用促進のために様々な取り組みを行い,目下のところ,概ね順調な経過をたどっております。しかし,今後の安定化と活性化のためには,先生方のさらなるご利用とご活用が必要です。今年も昨年以上に,よろしくお願い申し上げます。
 共同利用施設の中で最も大きな問題を抱えているのが医師会病院です。当医師会病院は,設立以後30年もの間,会員のための医師会病院として地域医療に貢献して参りましたが,昨今の医師不足や診療の偏り,そのニーズの変遷の影響を強く受け,ここ数年の間に急激にその経営状況が不安定になっていることはご存じだと思います。開設30周年を機に昨年度から1年を通して,収支のバランスが取れるように様々な経営改善策を執り行いました。詳細は昨年の病院誌や医師会報をご覧いただきたいと存じますが,昨年1年間の取り組みは決してマイナスではありませんでした。しかし,目標とはほど遠く,このままでは医師会病院の存続にかかわる状況も危惧されます。もちろん,会員の先生方に,さらに率先してご紹介ご利用いただくことも必要不可欠です。しかしながら「今年が正念場」という意気込みで,役職員一丸必死となって起死回生を狙うべく,今年は今まで以上に精一杯の取り組みにて臨みますので,会員の先生方におかれましても,このような厳しい現状を鑑み,地域医療に臨む会員のための医師会病院として,将来においても活性化していくよう,さらなるご理解・ご協力を賜りますよう,何とぞよろしくお願い申し上げます。

 このように,鹿児島市医師会は今年も多岐にわたる問題を抱えておりますれば,新年のご挨拶としては,いささか厳しく重い内容であると,慙愧に堪えません。
 今年は申年です。地域の医師会として,少子高齢社会で地域医療に臨むには,今まで以上に連携と協力体制が重要になると思います。『見ざる・言わざる・聞かざる』ではなく,『見る・言う・聞く』のスタンスで,「会員のための医師会としてどうあるべきか,どうあるのが会員のためにベストか」という理念の下,県医師会,各郡市医師会とも情報を交換・共有し,また多方面の動向をしっかりと見据えつつ,会員のための医師会として,そして地域医療のための医師会として,恥ずることのなきよう真摯に臨んで参りたいと,あらためて決意する所存です。
 年始にあたり,鹿児島市医師会と地域医療の力強い発展,そして皆様方のさらなるご多幸とご健勝を祈念しつつ,本年も何とぞよろしくお願い申し上げます。



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