我が家の累代戦争記憶，医局・学会旅行等近況
北区・上町支部 （森口病院） 有馬 榮德 |
私ども夫婦が新婚旅行（1964）と金婚旅行（2014）で宿泊した伊勢志摩・賢島のホテルでは2016年5月のサミット（G7首脳会議）が予定されており厳重な警備体制がしかれるでしょう。
終戦後70年を機に我が家の祖先と私自身の戦争記憶・記録をたどるとともに，筆者の母教室の一つ九大麻酔科新入局14人の歓迎医局旅行参加時に披露した少年時空爆被災の記憶・記録1）や九大生体解剖事件の近著紹介2），学会参加など近況，私見を記します。
Ⅰ．我が家の3戦争体験と余話
1．曽祖父・彦太夫：薩英戦争
（まえんはまいっさ=前の浜のいくさ，Anglo-Satsuma War，Bombardment of Kagoshima，1863.8.15-17，文久3年7月2-4日）：生麦事件賠償金請求を薩摩藩が拒否，英国の最新鋭軍艦6隻が鹿児島湾に侵攻，砲撃戦となった日本で最初の外国との近代型戦争。藩下全域から10万の武士が召集され3），この戦役に筆者の曽祖父にあたる彦太夫も駆けつけており，いちき串木野市上名，西之口共同墓地北端の有馬家之墓碑銘に「第八代戸主 有馬彦太夫 文久3年（1863）7月薩英戦争に串木野城より28歳で出陣。明治21年（1989）11月3日53歳没」と記され，当時着用していた陣羽織が拙宅に保存されています。
2．父・勇二郎：終戦後中国内内戦で軍医
国民党対共産党（八路軍）の八路軍側の留用軍医として7年半（前半：東北地区10軍管区外科系統括者～後半：解放軍天津第一軍医大学外科講師）。帰国後鹿児島市内で開業。
父の銘碑には，肖像写真が彫られ，「有馬勇二郎医師は1904年串木野上名で出生。戦中戦後の困難な時代に40余年日中両国の医療に貢献されました。1930年東北帝大卒。関口外科入局。東北地方，串木野金山の病院等勤務。戦後帰国後は鹿児島市田上町で有馬外科開業，菊田一夫氏なども来鹿受診される盛業でした。1943年満州製鉄本渓湖支社湖山病院長就任。1945年，終戦日夜，警邏中暴漢に拳銃で撃たれ，手術で救命。さらに，進駐ソ連軍の軍事裁判・銃殺の危機，八路軍軍医に留用され最前線で同軍将校の骨折治療中背後から撃たれそうになる危機等3度の生命の危機を救われて神に感謝しつつ遼寧軍管区10病院の外科総括者を勤め，あとの3年間は天津第一軍医大学外科講師，十余年解放軍に尽くされました。当時同部隊青年将校でのち北京解放軍司令部唐凱将軍からの書簡で『有馬先生は新中国建国の功労者の一人である。機会があったら墓参をしたい』と。
前中国解放軍第一軍医大学（広州）・
遼寧錦州医学院客座（員）教授
2010.06.10記 嗣子 有馬榮德」
嗣子（第11代戸主）の筆者は，学術訪中の途次，本渓湖の病院を2回訪問。錦州医学院の肝胆外科客員教授招聘記念講演の後，東北部での国共内戦の激戦のパノラマも展示されている大きな中共軍戦勝記念館等も招待者の王 家璋教授の案内で見学し父の留用軍医・東北地区軍管区外科統括者としての奮闘ぶりが偲ばれました4）。
3．榮德少年時：太平洋戦争空爆体験
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| 写真 1 加治木空襲の爆撃機と 同型のダグラスA-20双発爆撃 |
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| 写真 2 加治木空襲（米軍機撮影，今吉氏提供）， 加治木駅付近，後方が加治木工業学校 |
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| 写真 3 空爆焼失前の旧制加治木中学校 消失前，独ヒットラー総統が来校， 戦後（1949年6月2日），昭和天皇行幸。 |
中学での剣道は道着もつけず木刀を振りかざし“突っ込め！”と講堂の端から端まで駆け抜ける「切り込み」の稽古のみ。教練は校庭での匍匐訓練で木製の短投棒（約30cm）を敵陣に這ったまま投げる臨戦訓練の毎日。
当時姶良郡帖佐村寺師の郷里の我が家鶴留家家族の軍役は生存5人中4人。残る一人も師範学校から短期軍属参戦（中国，1名戦死）。
①実父は教職在職中，熊本鎮台で兵役1年終了後は復職，尋常高等小学校長で定年退職帰郷。全9人兄弟中，長兄と長姉は夭折。六兄は旧制中学2年時，腎疾患で病死。
②二兄：戦前，中国東北部吉林市会社工場長から北鮮の同系会社転勤勤務中終戦直前に召集され戦火を交えることなく終戦。工兵隊長として吉林周辺の戦後処理にあたり戦後1年目に帰郷。
③四兄：中国東北部瀋陽（奉天）の味の素系会社勤務中，終戦直前現地召集され北鮮の中国，ソ連国境近くを転戦移動中コレラに罹患戦病死。約2年後戦友の方が郷里の自宅に四兄の遺髪，遺爪，常時携帯していたという家族の写真などを届けてくださいました－嫁（筆者の義姉），遺児たち（姪と甥）はすでに引揚げ在宅中。四兄を仮埋葬していただいた北鮮東北部の場所はほぼ分かっていながら，70年経っても遺族，兄弟が墓参や遺骨収拾に行けない厳しい現実です。
④五兄：終戦時久留米戦車隊基地駐屯中。実戦に参加することなく終戦となり除隊。
兄姉中ただ一人健在中の二姉（89歳）は終戦後70年経ったつい最近，姉が北朝鮮から引き揚げてきてから両親に聞いたという，筆者が旧中学1年，12歳時の母校空爆被災当日，裸で帽子もかぶらず，疲れ果てた姿で両親が待つ田舎の自宅にたどり着いた時の様子をはじめて話してくれました。小学校の母校三叉小も過疎で隣村の船津小と合併，校名も三船小学校となり場所も変わっていますが，戦後その合併後の母校を訪ね卒業生の戦没者を調査したとき，高等科（7，8年生）卒の数年上の上級生男子は1/3前後が名簿に“戦死”と記されているのに驚き，その場で黙祷，鎮魂の祈りを捧げたことを思い出します。
母校加治木高校にある殉難学徒15柱（うち1人は終戦の5カ月前通学中大隅横川駅で退避中の汽車がグラマンの機銃掃射を受け即死）の記念碑には毎年8月11日早朝，出勤前に参詣，献花焼香を続け，終戦後50周年には当時母校同窓会の幹事（会長・故佐藤八郎先輩時代）の筆者が担当，被災学年全4期の卒業生中米国より帰郷の先輩を含む百人余が参集，50年目の記念慰霊祭を母校で挙行しました。
この祈りは二◯三高地，南京などを含む16回の学術訪中時や，10年ほど前，地球一周の船旅で世界遺産（マチュピチュ，ピラミッドなど）など視察・観光と同時に，自宅から黒の炒りゴマ40万余粒とさつまのいも焼酎小瓶1ダースを持参，ラバウルを含む戦跡，海域では敵味方の戦没者の鎮魂を祈り，スマトラ・インド洋では1年ほど前の大地震犠牲者20万人余の慰霊のために，ひとり船の甲板等からゴマ・焼酎等を撒布，献杯した筆者の‘もう一つの戦後巡礼の旅’にもつながっています。
Ⅱ．九大麻酔科新入局歓迎旅行2015参加
戦争体験伝達，九大生体解剖事件近著紹介等
2014年に続き昨年6月も九大病院麻酔・蘇生科医局の新入局（14人）歓迎旅行に参加（写真4，5），筆者の少年時空爆被災体験（前記）と最新刊‘九州大学生体解剖事件70年目の真実，熊野以素著の書評など紹介しています（写真6）2）。
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| 写真 4 上：宿泊地つくの温泉付近地図。 下左：絵葉書表・角島と角島大橋。 右：同上裏，ホテル総支配人挨拶状。 |
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| 写真 5 九大麻酔科新入局歓迎医局旅行ご一行様， 宿泊ホテル前で最前列右4番目筆者，5番目は外教授。 |
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| 写真 6 「九州大学生体解剖事件」近著の表紙カバーより。 |
Ⅲ．主要学会参加の近況（2015年1月～10月）
①第68回鹿児島県臨床外科学会総会・医学会，第54回日本臨床外科学会地方会，1月。②第3回温泉学会関西支部温泉情報交換会，亀岡市，3月。③第29回日本医学会総会2015関西，京都ほか，勤務先病院出張命令-1，4月。④第115回日本外科学会定期学術集会（元専門医，認定医），名古屋，4月。⑤鹿児島市外科医会春季例会，市医師会館，4月。⑥第31回鹿児島小児外科研究会（顧問），鹿大病院総合臨床研究センター，家入教授就任祝賀会・同門会（市内ホテル），4月。⑦第52回日本小児外科学会学術集会（特別会員，指導医，認定医），神戸，招待2泊，5月。⑧第27回日本肝胆膵外科学会・学術集会（特別会員），東京台場，招待1泊，6月。⑨第70回日本消化器外科学会総会（特別会員），浜松，招待1泊，7月。⑩第45回九州小児外科研究会（名誉世話人），福岡，9月。⑪第38回日本膵・胆管合流異常研究会（特別会員），新潟，招待1泊，9月。⑫JDDW 2015 TOKYO（第23回日本消化器関連学会週間，特別会員）/第57回日本消化器病学会大会（元専門医），第90回日本消化器内視鏡学会総会，第19回日本肝臓学会大会（元会員），第13回日本消化器外科学会大会（特別会員，元専門医），第53回日本消化器がん検診学会大会等5学会合同会議－グランド プリンスホテル新高輪ほか，東京，招待1泊，勤務先病院出張命令-2，10月。⑬第43回日本救急医学会総会・学術集会（元専門医），東京，10月。
以上，近況とともに，少年時戦争体験者の一人として，筆者の先祖，家族係累のお話等を国内外，大洋を含む戦争・テロ等犠牲者の鎮魂と不戦・平和への祈りをこめ記しました。
参考資料
1．創立90周年記念誌別誌Ⅰ（随想編）「龍門」，1987年9月，鹿児島県立加治木高等学校・鹿児島県立加治木高等学校同窓会，1987．
2．有馬榮德：終戦後70年の近況雑感：新入局歓迎医局旅行，医学会リハビリ旅行など．九州大学麻酔・蘇生学教室同門会報，第26号，2015．
3．有馬榮德：2010年喜寿の新春に想う；戦争体験と追悼地球一周船旅余話．鹿児島市医報，第49巻第1号，2010．
4．有馬榮德：幾度か生命の危機に直面して－八路軍軍医留用亡父の遺稿より．鹿児島市医報，第49巻第8号，2010．
(C)Kagoshima City Medical Association 2016