=== 新春随筆 ===

       九 十 一 歳 の 春




 中央区・中洲支部 川畑 平一郎

 医学部(旧制)2年生になる時肋膜炎を患い1年休学したし,その後も何度か体調を崩したが,順調に医師になれ,学位も取り,4年に及ぶ米国留学中も元気だった。しかし,今91歳を過ぎて通常運行を続けておれるのは全く想定外のことである。
 日野原重明先生は104歳で現役を続けておられ,我々の目標であるが,一昨年大動脈狭窄が見つかり,また,心房細動もあったということで,2020年の東京オリンピックまではとのご願望が叶うか心配ではある。
 臨床の一線から引いて10年が過ぎたが,常に新しい事に挑戦し,車の運転はほとんど毎日しているし,急性心筋梗塞に罹ってから休んでいたゴルフは昨年5月,2年半ぶりに再開して,気候の良い時はぼつぼつやっている。
 昨年購入したCD:スヴァトスラフ リヒテルのベートーベン・ピアノ協奏曲3番(A)および最近知人からいただいたLP:同じくリヒテルのラフマニノフ・ピアノ協奏曲2番(B)は,共にクルト ザンデルリングの指揮である。それで,以前から持っていた内田光子のCD:ベートーベン・ピアノ協奏曲全5曲の指揮がそのクルト ザンデルリングであることを思い出したが,歴史上の名ピアニスト・リヒテルの指揮をしたのが同じザンデルリングであるか(ザンデルリングの息子さん達も著名な指揮者なので)不思議な気がしたので調べてみた。
 リヒテルは1915年3月生まれ,ザンデルリングは1912年9月生まれ,Aを録音したのは1962年9月,リヒテル47歳,ザンデルリング50歳(Bを録音したのは1955年2月,リヒテル39歳,ザンデルリング42歳)である。
 内田は1948年12月生まれ,ベートーベン・ピアノ協奏曲3番をザンデルリングの指揮で録音したのは1994年11月なので,ザンデルリング82歳(内田は45歳),すなわち同じベートーベンの3番をリヒテルの指揮をしてから32年後に内田の指揮をしているのに驚いている。
 しかも,ザンデルリングは2002年高齢を理由に引退を表明,5月19日90歳目前にベルリンフィルを指揮して引退演奏会を開いているが,その時内田はモーツァルトのピアノ協奏曲24番を共演している(内田は53歳)(なお,クルト ザンデルリングは老衰の為98歳で亡くなった)。
 音楽歴史の深い因縁を思うが,多くの音楽家が高齢まで素晴らしい指揮・演奏を続けているのに感心している。
 最近知ったのだが,ハイレゾ(CDの約2.5〜6.5倍の情報量があるデジタル信号)からの音等人間の聴覚では聴こえない高い周波数を含む音が視床下部を刺激して脳波のα波が増えることが確認されているそうだ。しかし再生装置(スピーカー等)が高級なものでないと高度な再生はできないが,オルゴールの72弁以上のものだと3.7Hzの低周波から100,000Hzを超える高周波まで出ているので,癒しの力があるそうで,最近オルゴール療法が認知症などに応用されている。
 現在音楽が一番の楽しみだが,聴覚はかなり衰えているけれど,優れた音を聴くのは脳の為に良い事だと知り嬉しくなった。歳を重ねるだけでは意味がないので,生きている間は知性を持って身体能力も保っていたいと思う。



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