=== 新春随筆 ===

       顔 写 真 の 悩 み
(昭和19年生)



東区・紫南支部
(鹿児島市医師会病院) 入佐 俊昭

 2015年1月「医師であることの証明書」として,医師資格証に関する説明会を聞き,早速医師資格証の申請をした。身分証としての活用やIT環境下での電子署名も可能とのことで,医師免許証原本,身分証,住民票の写しに顔写真を添えて提出するものだった。顔写真は運転免許証や日医会員証,日本内科学会会員証などに本人確認として貼付してある。5年ごとに更新するものもある。私も現在の顔写真を提出した。この写真の人以外は無効で,写真以外の「私」は偽医者である。困った。医師として活動はできず,学会出席も難しい。趣味の写真撮影や園芸作業その他,収入の無い世界では「顔写真」以外の私でも大丈夫なのだが,生活はとても厳しくなる。
 2015年9月新居を旧医院跡に建てた。洗面所には三面鏡付き洗面台を設置してもらった。とても便利である。これまでは照明付きの自家製三面鏡を作り,かなり重宝したものである。今現在の顔写真を表現しようとするには大変な必需品である。今しばらくはこのままで生活し,もう既に多くの方々の疑いが晴れ,知っても知らないという優しい眼差しを感じ,毎日無事に過ごさせてもらいありがたい。
 子どもたちの結婚式は,はらはら,どきどきの連続であった。新郎,新婦の紹介ビデオが流れる場面では,そっと席を外し酌して回り,ビデオ画面の「人」がどこにいるのか?不思議な披露宴となるよう気配りもした。無事にご出席のお客様をお送りし,新郎,新婦両家ともども健やかにお開きできたのは,なによりのご褒美と感謝している。
 「顔写真」悩みは,まだまだ多くあると思われるも,その中でも私の知らない私の通夜式場。祭壇に飾られる顔写真と流れるビデオ画面。「もうやめて」と言いたいが言えない。会場ではよく「何歳の時の写真ですか?」等耳にする。妻や子どもそして葬祭屋の専門家なる人による,私の在りし日の写真(できたら今現在に近いものが良いのだが),ビデオ画像を選ばれる訳で,ビフォー・アフター混在では,悲しさ?も笑いをこらえるのにとても大変かと,複雑な気持ちになる。できたら「顔写真」やビデオ画面は見ないで,住所と名前の確認を来ていただける方にはお願いしたい。
 年男を重ねる度に,悩みを作るのは身体に良くないと考えて,「なるようにしかならない」と世渡りを続けていきたい。

ご寄稿ありがとうございました。
 新春随筆掲載は,「年男・年女」そして原稿到着順とさせていただきました。
『鹿児島市医報』編集委員会



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