兼題「鏡（かがん）」
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(433) 樋口 一風 選 |
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天
清滝支部 鮫島爺児医
良か子じゃち見れば鑑の親が良し
（よか子じゃち 見ればかがんの 親が良し）
（唱）躾ん良さが所作せ表れっ
（唱）（しつけん良さが しょせあらわれっ）
郷句には最初から何を言っているのか分かる句と、下五まで読んで分かる句があります。
この句は後者の方だと思います。種明かしを下五でしています。最後まで読んでなるほどと分かります。さすがベテランの句です。中七の「見れば」を他の同義語に変えればもっと良い句になりそうです。原句は鏡でしたが、鑑に変えました。広辞苑には鑑とも書くとあります。鑑の方がこの句には合います。
地
紫南支部 二軒茶屋電停
鏡む見っ親ん顔見っ腑い落てっ
（かがむ見っ 親んつら見っ ふいおてっ）
（唱）べっさい鼻もやっぱい親子
（唱）（べっさい鼻も やっぱい親子）
年頃になるともう少し美しい顔に生まれたらと誰でも思うことでしょう。でも鏡に映った顔と親の顔を見比べて見ると、悪いところも良いところも親に似ています。その上祖父母にも似ているところがあります。やはり遺伝子は正直だと納得しました。原句の下五は「納得（なっとっ）し」になっていましたが、同義語の「腑（ふ）い落（お）てっ」と終止形に変えました。
鏡の顔と親の顔を見比べて納得した、この句の発想をいただきました。
人
上町支部 吉野なでしこ
メタボじゃち鏡の腹を引っ込めっ
（メタボじゃち 鏡の腹を 引っ込めっ）
（唱）腹ん脂肪をば抓んで溜息
（唱）（腹んしぼをば つまんでういっ）
分かります。鏡を見ないと自分はそんなメタボではないと思っているのですが、鏡は見るので正直です。我ながら醜い腹になったものだと引っ込めてみるのですが、いかんせん脂肪はそんなには引っ込みません。何気ない日常生活の中の人の行動を良く切り取ってあります。
五客一席 城山古狸庵
顔ん皺鏡が古りち婆は叫っ
（つらん皺 鏡がふりち ばはおらっ）
（唱）新け物で見ればまた増えた皺
（唱）（にけとで見れば またふえたしわ）
五客二席 上町支部 吉野なでしこ
手鏡で皺を伸ばせっカメれ向っ
（てかがんで 皺を伸ばせっ カメれむっ）
（唱）ハイチーズ言て笑れ皺が心配
（唱）（ハイチーズちゅて われじわがせわ）
五客三席 清滝支部 鮫島爺児医
鏡む見っ我がとは知たじ語い幼児
（かがむ見っ わがとはしたじ 語いちび）
（唱）まこて可愛ぜ児ち手で撫ぜっみっ
（唱）（まこてむぜこち 手でなぜっみっ）
五客四席 城山古狸庵
姿見は埃をかぶっ部屋ん隅
（姿見は ほこれをかぶっ 部屋んすん）
（唱）鏡の幅べな入いきらんこて
（唱）（鏡のはべな いいきらんこて）
五客五席 市立病院支部 甲突五差路
手で拭ぐたそこしか見えん風呂鏡
（手でぬぐた そこしか見えん ふろ鏡）
（唱）手の幅丈で用事ずば済ませっ
（唱）（手の幅ぶんで よずばすませっ）
秀 逸
川内つばめ
似らじ良かとこをば子供ま鑑みしっ
（似らじよか とこをばこどま かがみしっ）
清滝支部 鮫島爺児医
鏡割い過疎地じゃ餅も小こなっ
（かがんわい 過疎地じゃもっも ちんこなっ）
古り神社錆がきたよな御神鏡
（ふり神社 さっがきたよな ごしんきょう）
城山古狸庵
子の鏡みなろち焼酎をば少いしっ
（子のかがみ なろちしょちゅをば ちすいしっ）
作句教室
厚化粧鏡が無かや塗らんとに
（厚化粧 鏡が無かや 塗らんとに）
面白い句です。作者の意図と私の解釈が違うかも分かりませんが、顔には少々自信がありましたが、鏡を見たばっかりに化粧をせざるを得なくなったと解釈しました。発想も良いし意味深な良い句だと思いますが、少し持って回ったような句になっています。このままだと薩摩郷句の言い切る形式と違い締まりが無い気がしますので（広がりはあるのですが）、名詞か終止形にした方が句の座りが良いようです。
まだ塗れち鏡み言われっ厚化粧
（まだ塗れち かがみ言われっ あっげしょう）
添削の句は、鏡が塗らせたと擬人化するとまた違った句の味が出てきます。
割れ鏡映った顔もあやが無し
（割れ鏡 映ったつらも あやが無し）
方言辞典には「あや」①筋目、道理。②転じて気力や腹力、根気、とあります。この句の「あやが無し」は元気が無いと解釈します。鏡は映るのだから粉々に割れたわけではないと思います。多分真ん中あたりから二つに割れて少し歪に映る状態でしょう。あや「あやが無し」はどういう状態に映るのかはっきりしませんが、まともには映ってはいなのでしょう。
割れ鏡丸でピカソん絵い映ちっ
（割れ鏡 まっでピカソん 絵いうちっ）
と添削しました。左右がずれてまるでピカソの絵みたいな顔に見えます。
以上二句添削してみましたが、作者の意図と違うかも分かりませんが、たった十七音字の短詩ですから一つヒントを得たら別の視点から見てみると何かが見えてきます。それが推敲です。作りっ放しにしないで句をひっくり返してみましょう。
気になった言葉
「鏡ん在っ」鏡が在ったと言う意味の「が」を「ん」に替えるのは無理。六音字になるので苦し紛れの五です。題が鏡だから「在（あ）っ鏡」とか「○○鏡」とか遣り繰りしてみてください。「在っ」は不要にして鏡で言い切ると句が締まる事もあります。
「鏡（かが）んの子」と言うのがありました。鏡に映っている子の事でしょうが鏡には子どもはいませんので、「鏡（かが）んの子」は少し端折り過ぎです。
| 薩 摩 郷 句 募 集 ◎２ 号 題 吟 「 偏屈（へんこっ）」 締 切 平成28年１月５日（火） ◎３ 号 題 吟 「 試験（しけん）」 締 切 平成28年２月５日（金） ◇選 者 樋口 一風 ◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。 ◇応募先 〒892-0846 鹿児島市加治屋町三番十号 鹿児島市医師会 『鹿児島市医報』 編集係 ＴＥＬ 099-226-3737 ＦＡＸ 099-225-6099 E-mail：ihou@city.kagoshima.med.or.jp |
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