随筆・その他

リレー随筆

脇役と呼ばれても,マイナーと言われても,それでもボクは昇り続ける。

北区・錦江支部
(猿渡ひふ科クリニック) 猿渡  浩
  11月中旬,鹿児島医療センター皮膚腫瘍科の松下茂人先生が主催する定例病理カンファレンスの後,内宮礼嗣先生(城山支部・皮ふ科内宮医院),久保秀通先生(上町支部・久保皮膚科)と鶴丸城跡のお堀沿いを歩いていた時のこと,誰かが「11月でこの格好だもんね」と薄着のシャツを差しながら言いました。少し早めの忘年会に移動中というのに全く寒くなかった鹿児島の夜も,ここにきてやっと寒さを実感するようになってまいりました。
 冬は着れば済むので私は冬の方が好きです。夏はどう脱いだって涼しくなることはあり得ませんし,どこに行ってもキンキンに冷房がかかっているものですから,すぐにおなかがダメになってしまいます。買い物の店は出れば済むことですが,食事の店はさすがに食べるまで頑張るしかありません。もっと困るのは種子島までの高速船,船酔い防止のためか夏なのに私にとっては極寒です。おまけに約2時間逃げられません。あるときはたまりかねて「冷房が寒いんですが」と訴えると,クルーの男性がエアコンの吹き出し口に手を当てながら「そうですかね~」の一言。これ見よがしに毛布を二枚借りて芋虫状態になったことがありました。大学病院時代の医局でもいつも強冷房派との戦いでした。温度調節スイッチをめぐって火花を散らしていた相手はだいたい決まっていました。恰幅のいい一つ上の先輩,現在今村病院分院皮膚科の武田先生でした。今回はこの武田先生からバトンをほぼ強制的に渡され,稚拙な文章で皆様のお目を汚すことになったわけです。凝ったことは何も書けない代わりにコンセンサスの得られていないことやエビデンスない単なる私の考えをつらつらと書き連ねます。決して鵜呑みになさらないようお願い申し上げます。
 私は鹿児島大学皮膚科で13年間教えをいただいた後,平成24年4月から父の後を継ぎ無床診療所で診療を行っています。4年近く経過しましたが,皮膚科の勉強以外で現在取り組んでいることは「事務作業の効率化」です。長年医院病院を運営されている先輩方からすると至極当たり前のことですが,大学病院時代はあまりそういったことを考える余裕がなかったので私にとっては新鮮な仕事です。まず電子カルテを導入しましたが,うちではDynamicsというマニアックな医師同士で作り上げた使用料フリーのソフトウェアを採用しました。しかもメンテナンスは委託していませんので電子カルテ+レセコン併せて完全に無料。もちろんハードウェアは別途必要ですが,いわゆる普通のパソコンでOK,高性能なものでなくても構わないのです。ただしデータの保守・保全にはそれなりの知識と経験が必要で,万が一中心となるサーバーが突然動かなくなったというような場合でも,簡単な復旧作業だけで業務が継続できるようなシステム構築や診療情報漏洩対策ができなくてはなりません。この部分に自信がない場合は業者に保守を委託しなければなりませんが,それでも年間20万円もかかりません。
 最近,マイナンバー制度が始まりましたが,これは私の目指す事務作業の効率化において必要な要素で,以前から思い描いていたシステムを現実のものとする重要な第一歩です。例のごとく各方面から様々な意見が出ていますが,しっかりと定着すれば多くの無駄が省けるシステムだと考えています。例えば健康保険情報を含んだ全国統一のIDカードを持っている患者さんなら,初診であっても!カードリーダーにサッと通すだけで!わずか2秒で!,はい,カルテ一丁!の世界が可能になるのです。これはすごいことです。受付にはありきたりな挨拶しかできないロボットでも置いておけばいいことになります。私は皮膚科ですので別の場所に移動を伴う検査や処置がない場合も少なくありません。前述したとおり当院の電子カルテにはレセコン機能もありますので,診察終了と同時に請求内容が確定します。もちろん必要なデータ入力はクラークの力を借りますが,初めての患者さんでもいきなり診察室に入り,診察終了時に診察室で!会計してしまうことも診療科や疾患によっては可能になるのです。「お大事に」の代わりにレジ付き診察机で「まいど!」が当たり前の時代が来るかもしれません。
 マイナンバー制度といえば,固有のID番号が付与されることにより戸籍制度が必要なくなると言われています。正式な識別子はID番号だけとなり,氏名はネット上でのハンドルネームのような存在になっていくのでしょうか。まあ今でも氏名だけでは個人を特定することはできないので既にそういう側面がありますが,あまり軽視されると「なりすまし」が横行してしまうかもしれません。戸籍制度がなくなることで促進が予想されることの一つに夫婦別姓があります。個が重視される現代では歓迎される傾向にありますが,私個人としては夫婦別姓どころか逆に女性の姓に統一することに興味があります。何故か?それは遺伝子情報に基づく「その人のルーツ」に関係します。
 人類はおよそ35人(更に辿ると7人!)の母親の子孫だと言われていますが,これはミトコンドリアDNA(以下mtDNA)の配列をある規則で分類した時のパターン数に基づいています。mtDNAはその名の通りミトコンドリアが独自に持つ環状DNAですが,非常に変異しにくく,また母親からしか遺伝しないという性質を持っています。そのためその部分の配列を解析することによりどの母親の子孫なのかが分かるという仕組みです。天皇家の跡継ぎ問題でも話題になったとおり一般的には男系がその家系と考えられますが,女系を辿った方が生物学的な真のルーツを遡れると私は考えています。天皇陛下は男系男子であるべきとなっており現状では愛子様は継承できません。しかしmtDNAで考えるとそもそも現在の皇太子も正田家の子孫ということになり,とうの昔にルーツはひとつではなくなったことになります。もし大昔から名字(苗字)制度が継続的に存在し, かつ女性の姓に統一していれば名字を聞いただけでルーツが分かるわけです。あるいは自分の持つmtDNAに名前をつけ,それをミドルネームにするといいかもしれません。そんなことを考えているからでしょうか,妻と娘が(妻の)母親と(妻の)祖母と4人で写っている写真を見て何とも言えない強い絆を感じましたが,そうこの4人全員mtDNAが同じなのです。よく男が親子三代で写って「受け継がれる伝統・・・」なんてカッコいいキャッチコピーの広告を見かけますが,なんてことはない,彼らみんなmtDNAつまりルーツはバラバラです。ちゃんとそのキャッチコピーの下に小さくでいいから「※ミトコンドリアDNAは受け継がれていません」と書いててほしいものです。ん?私も男,ということは私が何人子どもを作ろうが誰一人自分のmtDNAを引き継ぐものがいないということになりますね(泣)。せっかく私の母が持ってきてくれたmtDNA,私の兄弟は男3人なので誰もその先に残せないのです。幸い,母の妹が女の子を産み(私の従姉妹),その子も既に女の子を産んでいますが,近い親戚の中ではその子だけが私と同じmtDNAを引き継いでいける人ということになります。
 メインのDNA以外に存在する環状DNAといえば大腸菌のプラスミドが思い浮かびます。ヒトmtDNAと同様,増殖しても変異が非常に少ないので研究用の遺伝子増幅に今でも利用されることがあります。大腸菌には性別はありませんが,プラスミドがmtDNAと同等のものだと考えると大腸菌は全てが雌と捉えることもできます。チョウチンアンコウ類では雄が雌のおなかに寄生し単なる腹びれになってしまうという例もありますし,やはり地球上の主役は女性なのかもしれません。女王バチ,女王アリ,母なる大地,母なる海,母国,母船,母屋・・・,なるほど,主たるもの,大きなものは大体女性ですね。ただし決して男性が不要というわけではありません。NASA(アメリカ航空宇宙局)が行った研究では新しいことを成し遂げるには男女ともに必要なことが分かったそうで,それ以降の宇宙プロジェクトチームは男女で組まれています。男性だけだと挑戦的でリスクが大きく,逆に女性だけだと保守的でリターンが少ない傾向にあるらしいです。
 今では日本の映画やドラマに絶対不可欠な俳優となった大杉 漣や生瀬勝久。彼らは主役以上のインパクトで主役級の重要な脇役をこなしています。生物学的に男性が脇役だろうが,皮膚科はマイナーと言われようが(実際に大学病院の食堂で隣の席から「病院にまず皮膚科は不要だよな・・・」という声が聞こえたことがあった!),どんな役であろうとも必要とされることがあるはずですし,必要とされればアドレナリンが出るはずです。やっぱり「オトコ」はリスクを恐れず,性懲りもなく,いつまでも必要とされるようせめて自分の得意分野だけはいつまでも磨き続けながら我が道を昇り続けたい,そういう思いでそろそろ来年の目標を立てたいと思います。

次号は,鹿児島医療センターの松下茂人先生のご執筆です。(編集委員会)




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