=== 随筆・その他 ===

ロコトレにノルディックウォーキング

南区・谷山支部
(仁愛会病院) 平田 宗興

はじめに
 国際連合が誕生し70年が過ぎました。高級者会合で健康問題が話題に上げられたことが2回あります。初めは2001年当時世界中で蔓延していたエイズについて,二回目は2011年働き盛りの人を侵す慢性非感染疾患(慢性疾患)についてです。世界の慢性疾患による死亡の80%は途上国です。その規模は地球規模で拡大,大きな社会問題となっています。モータリゼーションの普及により歩く機会を失い,ジャンクフードなど貧しい食生活の結果であり,これから益々不健康な高齢者が増加してきます。
 我が国では「健康日本21」の中で厚労省は国民の健康増進をはかり健康寿命の延長を目指しています。一週間に23エクササイズ,すなわち3メッツの運動(ウォーキングなど)を毎日1時間することを推奨しています。

健康寿命と介護予防を阻害する要因
 それは内蔵脂肪症候群(メタボ)と運動器症候群(ロコモ)それと認知症です。2007年日本整形外科学会は健康寿命のために運動器疾患の予防を図るべくロコモティブ症候群を提唱しました。海外ではフレイルやサルコペニアなどの概念があります。これら3大要因を健診でチェックして疾患を未然に防ぎ,軽症にとどめるために予防医学を地域で推し進める必要があります。
 要介護となる原因疾患は脳溢血,認知症,老衰に続き骨折転倒,関節疾患とあり,運動器疾患が23%に達しています。

ロコトレ
 平成27年6月,日本医師会雑誌第144巻特別号「ロコモティブシンドロームのすべて」が皆様のお手元に届いていると思います。そのなかで第5章ロコモティブシンドロームの対策,中村耕三先生は概説の中で「運動器を長持ちさせ,生涯にわたり立ち,歩き続けるための対策」が必要と述べており,石橋英明先生はロコトレとロコトレプラスを紹介,鳥居俊先生はロコモ対策としての柔軟体操とストレッチングの実際,ウォーキングとジョギングの実際を紹介しています。特にウォーキングについて最低限,立位でのバランス,速やかな前進のための片脚起立でのバランスが求められる。変形性膝関節症,腰椎症や脳血管障害などで立位荷重のバランスが不十分な場合,両手に「ポール」と呼ばれるスティックを持ち,これで荷重を補助しながら前進する「ノルディックウォーキング」という方法がある。と述べています。

ウォーキングの効果
 古代ギリシャの医聖ヒポクラテスは「歩くことは人間にとり最良の薬」と述べています。ウォーキングの健康の改善は運動器だけにとどまりません。日本ウォーキング学会前会長の宮下教授は1.体力の向上,歩くスピード,粘り強さ,力強さ。2.心の健康,認知症,うつの改善。3.代謝系,脂質異常症,2型糖尿病,メタボの改善。4.循環器系,高血圧,心筋梗塞,狭心症,閉塞性動脈硬化の改善。5.免疫力の改善。6.転倒予防。などあげています。

ノルディックウォーキング
 1930年ごろからフィンランドではクロスカントリー選手の夏場のトレーニングとして2本のポールを使用したウォーキングが始められました。現在は世界中に広まっています。
 通常のウォーキングに比べ多くに利点を持っています。まず運動効率の良さです。ポールを使用するため楽に歩けますが運動強度は5.2メッツあります。1日40分で3エクササイズの運動が達成できます。有酸素能力,筋力,柔軟性と3つの要素をバランスよく向上させます。厚労省の「健康日本21」でもロコモ対策として期待されています。ポールを持つ上肢も動かしますので90%の筋肉を使います。肩こりの解消,姿勢の改善など期待できます。膝や腰の負担も軽減されますし,ポールを使用すると歩幅がアップします。また手軽で簡単で子どもから年配者まで誰でもできるし,スポーツ選手のトレーニングにも役立ちます。
 歩行のスタイルは運動強度の低いディフェンシブ,中程度のスタンダード,強いアグレッシブがあり,それぞれ適応目的が異なります。リハビリには運動強度の低い方が有効です。ウォーキングの前後には必ず準備体操を行うようにしてください。

普及活動
 毎年1月に開催されるいぶすき菜の花マーチは3年前からノルディックウォーキングコースも用意しています。徐々に全国からや一部海外からの参加者が増えつつあります。
 我が国の指導体制はいくつかの団体があり,独自に活動しています。
 私たちは全日本ノルディック・ウォーク連盟に所属,2013年鹿児島県支部を設立しました。菜の花マーチなど各種イベントへブースを出し,参加者を募り日帰りバスツアーを行っています。また定期的に体験会を開催,加治屋町本部,鹿児島ふれあいスポーツランド(中山町),南記念クリニック(指宿市),仁愛会病院で月1回または2回行います。公認指導員の養成講座を年に1回行い新たに15人が誕生しています。最近は南日本新聞,KTS鹿児島テレビなどに取り上げられて,さまざまな機関,団体からの指導要請も届いており担当の指導員がその都度対応しています。
 4年前は日本ウォーキング学会から分かれて日本ノルディック・ウォーク学会を発足しました。各団体の情報発信を集約するために学会活動や共同情報誌の作成を通して地域の介護予防事業へのコミットメントが始まっています。

運動強度別ウォーキングスタイル






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