天
城山古狸庵
小言の言過ぎ思たか焼酎が出っ
(小言の ゆすぎともたか しょちゅが出っ)
(唱)俺が奢いち 注だ森伊蔵
(唱)(おいがおごいち ちだ森伊蔵)
意外性と言うか、座五の「焼酎が出っ」が意外で面白いでした。小言を言われてしょんぼりとしています。そうなると小言を言った側も少し言い過ぎたかなとすっきりしないので、まあ一杯行こうかと言うことになりました。この句から人間関係の機微が窺がわれます。
作者はこのように部下の気持ちを掴んでおられるのでしょう。小言を言いっ放しにしないところに句の深みが出ています。
地
清滝支部 鮫島爺児医
大て鼾小言つ言てん同罪で終了
(ふていびっ こまごつゆてん ぐゎいでちょん)
(唱)汝も掻ちょった言て笑れ話
(唱)(わいもけちょった ちゅてわればなし)
そうです。よくあることです自分の鼾には気が付きません。日常の事をすなおに詠まれています。座五の終了(ちょん)が効いています。
「ちょん」は標準語ですが、鹿児島弁でも使われています。漢字に当てないと、別の意味もあるので気を付けましょう(愚かな人のことにも)。もともとは芝居の幕切れの拍子木のことと広辞苑にあります。「同罪(ぐゎい)で終了(ちょん)」が簡単で明瞭さすがベテランの句です。郷句は座五が良いと句が締まります。
人
上町支部 吉野なでしこ
嫁と姑小言の数じゃ良か勝負
(よめとしゅと 小言のかじゃ よか勝負)
(唱)どっちもどっち亭主す困らせっ
(唱)(どっちもどっち てす困らせっ)
別に仲が悪いわけではないのです。
二人とも主婦として生きてきた自負心もあります。自己主張もあります。お互いの一言に二倍も三倍も言葉を返します。長く家族として暮らしてきましたので、気心は分かっています。お互いのストレスを発散しているのでしょう。
中に挟まったご主人はどちらの肩も持てませんので困ります。
五客一席 清滝支部 鮫島爺児医
金婚も過ぎたて減らん女房ん小言
(金婚も 過ぎたて減らん かかんぐぜ)
(唱)喧しかどん聞かな心配うぇなっ
(唱)(やぜろしかどん きかなせうぇなっ)
五客二席 城山古狸庵
小言が効たか奇特な挨拶つしっ
(小言が きたかきどっな えさつしっ)
(唱)痛か所ゆば突かれっ反省
(唱)(いたかとこゆば つかれっはんせ)
五客三席 紫南支部 二軒茶屋電停
小言ば言なち仕付けた親ごころ
(こまごつば ゆなちしつけた 親ごころ)
(唱)可愛か子供の将来が心配うぇなっ
(唱)(むぞかこどんの さっがせうぇなっ)
五客四席 川内つばめ
焼酎飲んの諄か小言ち大概疲れっ
(しょちゅ飲んの くどかこまごち てげだれっ)
(唱)今日もまた部長ん長げ説教癖
(唱)(きゅもまたぶちょん なげせっきょぐせ)
五客五席 上町支部 吉野なでしこ
小言もまこて可愛こっ三歳ん児
(小言も まこてもぜこっ みっつんこ)
(唱)爺はハイハイち何もけん聞っ
(唱)(じはハイハイち ないもけんきっ)
秀 逸
城山古狸庵
茶髪娘婆ん小言ちゃ聞こたせじ
(ちゃはっおご ばばんこまごちゃ 聞こたせじ)
新婚当初もへ小言が出始めっ
(といえはな もへ小言が 出始めっ)
清滝支部 鮫島爺児医
親方ん小言が効っ幕き上がっ
(親方ん 小言がきっ まき上がっ)
小言つば言なち叱られた戦時中
(こまごつば ゆなちがられた 戦時中)
小言も言わじ特攻い飛で行たっ
(小言も ゆわじとっこい つで行たっ)
川内つばめ
今めなって親ん小言が身い染みっ
(いめなって 親んこごっが 身いしみっ)
小言つば吐やす割にな仕事ちゃせじ
(こまごつば かやすわいにな しごちゃせじ)
作句道場
今月の「小言(こまごっ)」は良い句が多いでしたので特に書く事もありませんが、「国会じゃ小言ちゃ言(ゆ)わじ議論せにゃ」と言う句がありました。その通りです。
川柳や郷句などの文芸は標語ではないので教訓や説諭は詠まないほうが良いと言われています。正義感のある作者さんだろうと思いますが、郷句には狂句味が必要なのです。ユーモア・穿ち味・皮肉味など。
薩摩郷句鑑賞 88
妙円寺詣い休えば土堤で鼻が鳴っ
(いじんめい よくえばずべで 鼻がなっ)
田上 育子
関ヶ原の合戦で、石田三成側についた島津義弘が大敗北をしたのが旧暦九月二十四日、つまり今日であったという。
その霊を慰めるため、義弘の菩提寺まで二十キロあまり、甲冑を付け、夜を徹して詣るのが妙円寺詣りである。今は昔とずいぶん変わって、昼間しかも片歩いて、帰りは車が多いようだからこの句のような場面は少なくなったようである。
人ん声へ裏口ち回えた男下駄
(人んこへ うらぐちまえた 男下駄)
古藤 雪尾
男出入りがあるということを、人に見られてはどうもまずい女の一人暮らしとか、未亡人の家ではないかと思う。それも、単なる男客なら、別にどうと言うこともないはずだから、恐らく情を交し合っているような。特別親しい間柄ではあるまいか。
そこへ人声が近づいてきたのである。あわてて玄関の下駄を裏口へまわし、こっそり逃がそうという魂胆であろう。裏口では、委細心得た飼い犬が、尻尾を振って見送ったことだろう。
五十万の街道がオハラい湧っかえっ
(ごじゅまんの けどがオハラい わっかえっ)
川崎とろろ
今日から明日にかけて、鹿児島市恒例のおはら祭がくりひろげられる。昨年より、連の数は五つほど減ったらしいが踊り手の数は二万一千人余で、これまでの最高だということである。
これを見物した人が、昨年は五十万人だったと言われていうから、今年も文字通り、五十万都市鹿児島の街道が湧きかえるような祭りになることだろう。
※三條風雲児著「薩摩狂句暦」より抜粋
薩 摩 郷 句 募 集
◎新年号
題 吟 「 優し(しおらし)」
締 切 平成27年12月1日(火)
◎2 号
題 吟 「 偏屈(へんこっ)」
締 切 平成28年1月5日(火)
◇選 者 樋口 一風
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892-0846
鹿児島市加治屋町三番十号
鹿児島市医師会 『鹿児島市医報』 編集係
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FAX 099-225-6099
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