鹿市医郷壇

兼題「妬ん(しょのん)」


(428) 樋口 一風 選




上町支部 吉野なでしこ

苦労もせじ他人ん出世をやれ妬ん
(くろもせじ ひとん出世を やれ妬ん)

(唱)仕事ちゃ大概しっ偉ろなろごちゃっ
(唱)(しごちゃてげしっ えろなろごちゃっ)

 妬(しょの)ん奴(ごろ)というそんな輩がいます。自分は汗をかかずに他人の出世が気になります。出世する人は努力をしているのに、彼らは運が良かったから出世したのだと、自分の怠け癖は棚に上げて嫉妬ばかりしています。「妬(しょの)ん」の題だとこんな人物が多く出てきます。




清滝支部 鮫島爺児医

栄転ぬ家族は喜っ仲間しゃ妬ん
(栄転ぬ けねはよろくっ どしゃ妬ん)

(唱)宅は部長よち鼻ん高け妻
(唱)(やどはぶちょよち はなんたけかか)

 栄転をした本人ではなくて、家族の喜びが妬ましくなるというのは、面白い見方だと思います。仲間の家族が喜ぶのを見て自分の不甲斐無さが身に沁みます。ましてや奥さんからは仲間と私を比較されます。亭主にしてはそれが一番つらいところです。妬みたくもなりますが、次はあなたの番です。頑張りましょう。




城山古狸庵

年金な役所上いが妬まれっ
(年金な やっしょあがいが 妬まれっ)

(唱)何言てん今良た公務員
(唱)(なんちゅてん今 えた公務員)

 私の周囲にもお役所退職者がおります。国民年金の人に比べると雲泥の差があります。給料から昔、差し引かれた金額の差もあるでしょうが、老後を悠々自適に暮らしているのを見ると妬みたくもなりましょう。
 役所と限定するのもいかがなものかと思いますが、零細企業にいた人には妬まれても仕方がないでしょう。庶民派の郷句人にはさも有りなんという句でしょう。


 五客一席 川内つばめ

妬まんじ身の丈ん給料れ感謝しっ
(妬まんじ 身のたけんはれ 感謝しっ)

(唱)上をば見れば限はごわはん
(唱)(上をば見れば きいはごわはん)


 五客二席 紫南支部 二軒茶屋電停

妬んだちどげんもならん言て説教
(妬んだち どげんもならん ちゅてせっきょ)

(唱)他人ん事ちゃ良で自分が頑張れち
(唱)(ひとんこちゃえで わががきばれち)


 五客三席 城山古狸庵
弟が貰ろた嫁御を妬ん兄
(おとっじょが 貰ろたよめじょを 妬んあにょ)

(唱)わが女房と見比べっみっ
(唱)(わがうっかたと みくらべっみっ)


 五客四席 清滝支部 鮫島爺児医

宝籤じょ我があ買わんじ妬む言っ
(たからくじょ 我があこわんじ 妬むゆっ)

(唱)買もせん籤が何故が当たろか
(唱)(こもせんくしが ないが当たろか)


 五席五客 清滝支部 鮫島爺児医

麻雀で勝てば運が良ち妬まれっ
(麻雀で 勝てばふがえち 妬まれっ)

(唱)腕ん悪とあ棚ね上げっ愚痴
(唱)(腕んわいとあ たね上げっぐっ)


秀  逸

印南 本作

よかなあちどしこ妬でん得も無し
(よかなあち どしこ妬でん とっものし)


上町支部 吉野なでしこ

肥えでけっ痩せた美人ぬば妬ん女房
(肥えでけっ 痩せたシャンぬば 妬んかか)

遺伝じゃち色白肌が妬まれっ
(遺伝じゃち いろじろはだが 妬まれっ)


清滝支部 鮫島爺児医

栄転ぬ妬んでみてん実力差
(栄転ぬ 妬んでみてん 実力差)


作句教室
 今月の「妬(しょの)ん」という題は少し難しかったのでしょうか。課題の中には相性の悪い題もあるようです。みなさん苦労をされたようで秀逸に取る句が少ないでした。妬み、嫉み、というのは郷句の題材にはもってこいの題だと思っていたのですが。次の句が少し気になりました。
 「妬(しょの)ん子は親父(おやっ)に似らん顔(つら)をし」という句がありました。妬(しょの)ん子(ご)とは、子どものいない夫婦が養子を取ってから後にできた子どものことです。
 その子が、親父に似ないという事はどういうことでしょうか。なんとなく意味深な句です。唱を付けるとつい本音が出そうです。できればあまり込み入った事情の句は読まないようにしていただければありがたいです。
 「嫁尉(よめじょ)」というのがありました。「嫁御(よめじょ)」の方が良いです。「それ気張(きば)れ」は↓「それ頑張(きば)れ」が良いです。


薩摩郷句鑑賞 86

犬と猫小筋ず変えたやまた出会っ
(いんと猫 こすずかえたや またでよっ)
               今釜 三岳

 「犬と猫」というのは、「犬猿の仲」と同じ意味であろう。その不仲な人と、小さい路で出会いそうになったのである。どうも顔を合わせたくないものだから、いち早く横筋に入って行ったのであろう。やれやれと思って、ひょいと前を見ると、相手もその筋へ避けていたのである。おそらく用もない店の中へ入ったか、ショーウィンドーでものぞく真似をして、相手をやり過ごしたのであろう。


油鍋べ火ずいけ入れた長電話
(あぶらなべ 火ずいけ入れた 長電話)
               西元 虎翁

 火災の原因では、油鍋によるものが非常に多い。それも油鍋をかけたまま、ちょっと隣へ行ったり、ほかのことをしていた隙に、というのが大部分である。
 この句のように、長電話をしていたら、気がついたときには台所が燃え上がっていたなんてことはよく聞く話である。「電話に出る時は、火を止めてから」というのは、面倒のようでも、家を焼いてしまうよりましだろう。また、食事の支度をしているような時間には、電話する方も簡単に用件だけにすることが大事。
※三條風雲児著「薩摩狂句暦」より抜粋




薩 摩 郷 句 募 集

◎11 号
 題 吟 「 小言(こまごっ)」
 締 切 平成27年10月5日(月)
◎12 号
 題 吟 「 鏡(かがん)」
 締 切 平成27年11月5日(木)
◇選 者 樋口 一風
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892-0846
 鹿児島市加治屋町三番十号
 鹿児島市医師会 『鹿児島市医報』 編集係
TEL 099-226-3737
FAX 099-225-6099
E-mail:ihou@city.kagoshima.med.or.jp


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