故 太原春雄先生を偲ぶ
東区・郡元支部
（介護老人保健施設ひまわり） 野元 域弘
昭和57年6月，国立南九州中央病院（現 鹿児島医療センター）に循環器科医長として赴任した際，院長の故秋田八年先生（元 鹿児島大学二外科教授）から，「医師会だけは入っていてくれよ」と言われ，それまでの大学生活で医師会の事はあまり知らなかったが，指示に従い入会した。
大学時代，若年者心疾患対策として，学校心臓検診にタッチしていたので，早速鹿児島市医師会から，「学校心臓検診委員」を依頼され受けた。
平成6年（1994）4月，突然先輩から，「今度の医師会理事選挙で推薦されたので，引き受けて欲しい」と頼まれ，断りきれない性格なので，「上司に相談の上，私みたいな若僧で役に立つのなら協力いたしましょう」と是認した。早速院長に相談すると，「医師会で役に立つのなら受けなさい」という事で新米理事の誕生となった。
何しろ医師会が何をしているのか良く理解していない新米理事で理事会の末席に座り，先輩理事の指導を受ける事になったが，早速学校検診・生涯学習・看護学校の担当業務を仰せつかった。
会合が多く，学会・講演会・研究会等自分の日常業務も多く，週末はあちこち駆り出され，2カ月に1回位しか自宅で過ごす事がなくなった。
それでも当時は余裕があったのか，いろいろ工夫して捻出されたのか，年1回，一休会と称し2泊3日の「理事懇親旅行（一部婦人同伴）」が企画されていた。この懇親旅行は，先輩理事も同席する慣例があり，平成7年（1995）2月10日，「札幌雪まつり」を観に鹿児島空港を飛び立った。太原先生は，昭和63年（1988）4月〜平成6年（1994）3月まで鹿児島市医師会会長であり，医師会の重鎮であり，私には雲の上の人だった。その人が同じ飛行機に乗り，札幌まで同行できるのに興奮した。その夜は，「すすきの雪像」を楽しみ，翌日は，小樽に足を延ばし，北一ガラス・オルゴール堂・石原裕次郎記念館等を見学し，昼に海鮮丼をいただいたが少量のご飯の上に，蟹・海老・雲丹等の海の幸がタップリ乗っており，本当の海鮮はこれだと思ったのを20年たった今も舌が覚えている。その後，あちこちで海鮮丼を食べるが，この時以上のものに出会った事が無い。
夜は札幌に帰り，大通公園の雪像を楽しみ，蟹料理のフルコースを堪能した。
翌最終日は，迎えに来た専用バスで，真駒内に移動し，自衛隊が作成した大きな雪像，雪のすべり台等を見学し，最後の昼食を「札幌ビール園」でする事になった。当然の事ながら前の2晩，先生はいつも上席で，会長・副会長・ベテラン理事らと懇談しておられ，新米理事の私は，末席から自己紹介を兼ねて，先生が良く飲まれていた日本酒をお酌しにいった。どうしたことか，ビール園で先生と同じテーブルになった。マトンの肉を食べながら，「キミはビールを大分飲むようだね」と声をかけていただいた。私がビールを飲むのを観察しておられたようだった。「はい，ビールはかなり飲みます」と答えると，「良。しっかり飲め」と私のグラスに注いでいただいた。「いやー。昼間ですし，これからバスに乗るとトイレで困りますからー」と辞退すると，「君は何を言っているのかねー。天下の鹿児島市医師会がトイレの付いていないバスをチャーターすると思っているのかね。安心して飲みたまえ」と勧められた。
「はい」とグラスを空けた。1時間ちょっとマトンのバーベキューをつつき，歓談しながら飲み，ジョッキで5〜6杯を干し，迎えに来た「千歳空港ゆき」のチャーターバスに乗り込んだ。案の定，30分もすると尿意を催した。
「トイレはどこに？」声を出すと，「このバスにはありません」と答えが返ってきた。しばらく我慢していたが，膀胱が張り裂けるように感じた。「どこかで止めてください」大声をあげた。「どこか止めてやれよ」先生の声らしきものが聞こえ，バスは左側により積雪に乗り上げるように止まった。なりふり構わず降りて排尿し，真っ白な雪の上に勢い良く放物線を描き雪を解かしていた。すっきりしてバスに戻ると，先生はいたずらそうな笑顔で見ておられた。
この時を期になぜか，雲の上の先生が地上に降りてこられたようで，親しく感じるようになった。その後，「現・旧理事懇談会」をはじめ色々な医師会の宴席でご一緒させていただいたが，いつもこの時の話題が出て「あの時は面白かったね」と，あの大柄な先生が悪戯っぽく笑っておられた。
本年2月，先生の突然の訃報を医師会のFAX通信で知り，大柄な先生が，ある時は穏やかな慈悲に富む表情でいろいろ指導いただいた日々を想いだし，改めて万感胸に来るものがありました。
どうぞ先生安らかにお眠りください。
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