はじめに
わが国は,急激な少子高齢化の進行,地域コミュニティーの衰退,グローバル化によるボーダレス化の進行,新興国の台頭による競争激化と社会の急激な変化,さらに東日本大震災による国難など多大な課題を抱えています。
このような状況の中で,鹿児島大学は,南九州の総合大学として,地域活性化の中核的拠点とともに,世界に開かれた教育拠点の形成を目指しています。特に,人材養成の面では,社会の変革に貢献する人材,グローバル社会で活躍する人材,また,イノベーションの創出に貢献する人材等の養成を行い,これらのミッションを達成するために,教育の質保証を中心とした全学的教育改革と国際水準の教育体系の構築に向けての作業を進めつつあります。
国立大学が法人化され,大学の透明化と説明責任が強く求められていることから,この場をお借りして,鹿児島大学の人材養成の取り組みについて,述べさせていただきます。
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写真 北辰通り
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写真は郡元キャンパスに聳える椰子並木です。昭和37年,
当時の学友会の学生達が大学に寄贈した並木です。
植裁当時は30センチ程度の苗木でしたが,52年の風雨に
耐え,今では鹿児島大学のシンボルであり,愛校心の
シンボルとなっています。この通りの真正面には北極星が
瞬き,北斗七星とカシオペアの天体ショーが繰り広げられる
ことから,ここは北辰通りと名付けられています。 |
1.鹿児島大学の教育目標
鹿児島大学は大学憲章(平成19年制定)において,“自主自律と進取の精神を尊重し,社会の発展に貢献する総合大学をめざす”ことを謳い,@学生の潜在能力の発見と適正の開花につとめること,A地域の要請に応え,21世紀を先導する研究の推進,B地域振興・人類の福祉・世界平和の維持・地球環境の保全への貢献,を掲げています。
また,夢を描いて入学してくる学生達が“社会の課題に真摯に取り組む姿勢”を培うことができるように,表1の教育目標を掲げています。

このような教育目標を達成するために,本学の共通教育では自立した社会人として力強く生きていくための総合的な力を「人間力」と定義し,「人間力」の基本要素である,実践力,判断力,精神力,知力,身体力,コミュニケーション力を養成する人間力養成プログラムを実施しています。また,専門課程に進んだ際に必要となる生命科学,化学,物理学などの基礎学力を養成する専門基礎力養成プログラムも併せて開設しており,この2つのプログラムから共通教育のカリキュラムが編成されています(図)。
人間力養成プログラムの一例を示すと,実践・判断・精神力を養成する授業の中で,保健を学ぶ科目として医学に関連のある「ヒトの病気の成り立ちと予防」,「ガンはなぜおこるのか」,「健康を創り,守る」など多数の科目を開設しています。これらの授業では基礎的な医学知識のない学生にも理解ができるよう専門家が分かりやすく解説することにより発生頻度の高いありふれた病気,最近注目されている病気,大学生が気をつけなければならない病気等の原因や症状,経過,治療,予防についての基礎的知識を身につけさせ,医療と社会との関連を理解し,自分の健康管理に役立てることを学習目標としています。
このように共通教育では,社会人としての基礎力および専門基礎力の養成を全学の教員の協力のもとで行っています。
2.グローバル化教育
前述のとおり,本学の教育目標の一つとして,「グローバルな視野を持ち,国際社会の発展に貢献できる実践的な能力を育む」ことを掲げています。国際的な広がりをみせる問題を解決するためには,若い世代の人々が,異なる価値観が交錯する状況で幅広く多様な知識と経験を積み,国内外を問わず他者と協力して柔軟に行動できる力を身につけることが望まれています。
1)留学への支援
鹿児島大学は,アジア,北米,南米,ヨーロッパ,アフリカの27カ国110の大学と学術交流協定を結び,研究者ならびに学生の相互交流を行っています。授業料の免除や単位互換協定を結んでいる大学もあり,協定校へ留学を希望する学生に対しては,学長裁量経費から渡航費用の一部を支援しています。
2)海外研修への支援
できるだけ多くの学生に海外での研修の機会を与えることを目的として,共通教育カリキュラムとして,“学生海外研修プログラム”を実施しています。引率教員の綿密な企画とスケジュール管理の中で実施され,平成25年度は28のコースに約300人の学生が参加しました。ほとんどのコースが夏期,冬期,春期の休暇時に1〜4週間の短期間で実施され,学生達は専門性にかかわらずどのコースにも参加できます。コース参加者に対しては渡航事前指導と事後学習が組まれ,特に事後学習では,英語コミュニケーション力の継続的学習とグローバル・イニシアチブ講義がセットされています。また,コース参加者に対しては,学長裁量経費から旅費の一部が支給されます。いくつかのコース事例を以下に紹介します(表2)。

3)実践語学教育
コミュニケーション力を高めるための,本学の実践的取り組みの一部を紹介いたします。
(1)進取の精神グローバル人材育成プログラム
平成26年度から「進取の精神グローバル人材育成プログラム」(Educational Program for Spirit of Enterprise in Global Contexts)をスタートさせました。このプログラムは,本学における入学から卒業までのグローバル人材教育に関わるプロセスを明確化し,グローバル化に向けた教育目標を実現するための総合的国際教育カリキュラムです。前述の海外研修(1〜4週間),事前指導,事後学習,語学学習,短期派遣留学等がセットになっており,継続的な学びによってグローバル人材の育成を目指します。現在,約180人の学生が登録しており,学習交流プラザにグローバル・ランゲージ・スペースを設け,国際交流に関する情報を一元化して,効率的で的確な情報提供を行っています。
(2)学部レベルで実施されている実践語学教育の取り組み
@医学部医学科では,アメリカのマイアミ大学医学部での1年間の臨床実習に毎年5年生を4〜5人参加させています。1995年から2013年までに総数53人の学生が留学し,最近5年間では希望者多数のため,学内で選抜が行われている状況です。
A法文学部では,カリフォルニア州サンノゼのシリコンバレー一帯で,英語研修と日系企業でのインターンシップを組み合わせた短期海外研修プログラムを実施しており,英語でのプレゼンテーション研修や学生討論会,スタンフォード大学等への大学訪問などが組まれています。また,サンノゼ州立大学とのオンライン共同授業は学生達に好評です。
B水産学部では,4年生の授業科目「実用水産英語(海外研修)2単位」で夏期休暇中に16日間程度フィリピンに渡航して語学研修を行っています。
上記は一部の事例ですが,実践語学教育はすべての学部で実施されています。
3.地域を担う医師の養成
鹿児島大学のミッションのひとつに“地域振興と地域社会への貢献”があります。地域を担う医師の養成は,本学の重要な役割であり,医学部の理念の中には「地域貢献する医学・医療を担う人を育成する」ことを掲げてあります。
1)地域医療・離島医療教育
医学科教育のカリキュラムにおいて,鹿児島医療圏の特徴を生かし,地域医療を教育のさまざまな段階で取り入れた教育プログラムを構築しています。また,医学科教育到達目標で,卒業時には“地域および国際社会における自分の役割を認識することができる能力を習得すべき”とし,「地域医療に参加し基本的な初期診療の実施」,「離島へき地を含む地域医療,先端医療,保険・福祉制度のそれぞれの機能と連携を理解し,医師の果たす役割を自覚し行動できる」と具体的に挙げています。
鹿児島県は,28の有人離島(平成23年全国第4位)を有し,離島人口は171,652人(平成22年全国1位)と最も多い県であり,このような特性を生かし医歯学総合研究科に国際島嶼医療学講座がいち早く設置され,医学科生全員に“離島へき地医療学実習”を義務づけています。このことが評価され離島へき地医療人育成センターの設置へと繋がりました。
地域医療崩壊を防ぐために各県で地域枠学生制度が導入されています。鹿児島県でも平成18年度から,地域枠導入とともに医師修学資金貸与制度を立ち上げ,“地域枠学生の就学援助”および“5,6年生を対象とした短期就学援助”を行っています。
平成22年度からは推薦入試および学士編入学の地域枠学生は年間20人に達し,平成24年には地域枠学生の1期生が卒業とともに,初期臨床研修を開始し,26年度は後期研修に入っています。これら地域枠学生の研修ならびに専門性の選択,また,地域での配置を鹿児島県保健福祉部と綿密な相談を行いながら進めていく上で,離島へき地医療人育成センターの役割は大きいと考えられています。
2)総合臨床研修センター
平成25年秋,鹿児島大学医学部・歯学部附属病院の新病棟C棟が完成し,その8階に総合臨床研修センターが開設されました。これは鹿児島県の地域医療再生臨時特例基金により設置されたもので医師初期臨床後研修医のみならず県内すべての医療職の方々に研修の場を提供する拠点となることを期待されています。高度な医療技術の習得等に必要なシミュレーターが多数備わっており,研修の合間にも基本的,専門的な医療技術を磨き,地域医療への貢献へと繋がると考えられます。
大学病院の地域医療支援センターでは少ない医療資源の再配分(医師派遣)の相談,派遣医師の研修就業支援,医師のキャリアパス形成支援,負担軽減のためのデータベース構築などを行ってきましたが,少子高齢化と人口減少を迎える日本(鹿児島県)は経験したことがない状況を迎えます。地域医療支援センターでは各地での地域医療シンポジウムを開催し,住民(需要)・医療者(供給)・行政(経済)が参加した形での地域医療のマネージメント推進に一役買っています。
おわりに
鹿児島大学は,夢を描いて入学してくる学生に対して,社会の課題に真摯に取り組む姿勢を育て,“困難を乗りこえる力”や“粘り抜く力”,また“進取の精神”を培う教育を展開しています。地域の皆様のさらなるご支援をよろしくお願い申し上げます。

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