緑陰随筆特集
鹿児島大学大学院保健学研究科(博士前期課程)での助産師養成
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鹿児島大学医学部保健学科
母性・小児看護学講座 教授 吉留 厚子
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大学院生4人
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保健師助産師看護師法及び看護師等の人材確保の促進に関する法律の一部を改正する法律
保健師助産師看護師法及び看護師等の人材確保の促進に関する法律の一部を改正する法律が平成21年7月に法制化されました。助産師国家試験の受験資格について,「文部科学大臣の指定した学校における修業年限を六月以上から一年以上に延長すること(第二十条関係)」になりました。この法改正に伴い,医学部保健学科の教育の見直しを行い,助産師養成を大学院保健学研究科(博士前期課程)に変更し,自立した助産実践が遂行できるリーダー的助産師を養成することを目指しました。
助産の実践力を持ち,地域の周産期医療や母子保健をマネジメントできる助産師の必要性
鹿児島県では,助産師を必要としている地域に必要数の助産師がいない現状に対して,助産師派遣の取り組みが始められており,助産師としての高い実践力と地域のニーズに応じた周産期医療や母子保健のマネジメントができる人材が求められています。しかし,既存の学部教育では,助産師としての基礎的能力の習得が目的となっており,実践能力を高める教育が行えていません。また,周産期医療や母子保健という視点の広がりを持った助産師の教育を行っていますが,助産師の視点でのマネジメントの方法論や地域のニーズ・課題を探究するために必要な教育が十分とは言えません。
そこで,大学院教育では周産期医療や地域・離島マネジメントに関する科目を組み込んだカリキュラムを用いて助産師教育を行い,実践力を持ち,地域の周産期医療や母子保健をマネジメントできる基礎的な能力を有した人材の育成を目指します。
鹿児島大学が養成を目指す人材像
大学の中期目標の中で,教育内容および教育の成果等に関する目標として,大学院課程において「高度専門職業人,研究者の養成をめざした大学院教育の質を向上する」,さらに「地域社会の諸問題の解決に向けて,幅広い観点から取り組む人材を育成する」を掲げており,助産学コースが目指す助産師像も本大学が大学院教育で目指す人材と合致しているのです。
助産学コースの理念
鹿児島県の助産師不足・偏在化,地域の助産・母子保健のマネジメントの必要性などの現状を受け,助産の実践力を持ち,助産・母子保健をマネジメントできるリーダーとして,将来鹿児島県の助産・母子保健に貢献できる人材を育成することを理念とします。
この理念を実践するためにアドミッションポリシー,カリキュラムポリシー,ディプロマポリシーを設定しています。
助産学コースのアドミッションポリシー
1.助産学の専門職業人を目指す人
2.助産学の発展に貢献できる研究を目指す人
3.保健医療への貢献を目指す人
4.地域の保健医療活動を目指す人
助産学コースのカリキュラムポリシー
博士前期課程では,2年以上在学して教育理念・ディプロマポリシーに沿った授業科目を履修して58単位以上を修得し,研究指導を受け学位申請書(特定の課題についての研究の成果)を提出し,所定の審査および最終試験に合格することが学位授与の必要条件です。修得すべき授業科目は,助産学の基礎となるもの,助産学実践の基礎となるもの,助産学の実践となるものに大別し,講義,演習,臨床実習を通して体系的に学習できるカリキュラムを編成しています。
助産学コースのディプロマポリシー
1.母子保健の課題解決に必要な研究を行うための基礎的な能力を有している
2.助産学に関する高度な専門的知識と技術を修得している
3.地域の保健・医療において助産学の高度専門職の果たす役割を理解している
助産学コースの開設
平成26年度より,第1期生が4人入学してきました。学部からの学生が2人,臨床での看護の経験がある学生が2人であり,いずれの学生も目をきらきらと輝かせながら学業に取り組んでいます。ここで,彼女らが,入学してから感じていることを以下に掲載します。
盛満あゆみ
わたしは,8年前に看護師免許を取得し,看護師として病院に勤務していました。5年間重症心身障害児病棟にて勤務し,その経験が助産師を目指す大きなきっかけとなりました。重症児看護をしていくなかで,障害を未然に防ぐことや,障害児を取り巻く家族ケアのことなど何ができるのか考えることがありました。そこで,出生前から母子に深く関わることができる助産師として,専門的な知識を習得し看護を提供したいと考え進学を決意しました。入学して,学習に関しては先生方から事例も交えた専門的な講義をしていただき,助産学への関心が高まっています。また,参加型の授業であり不明な点も明確になり意欲的に学習することができています。助産学コースの仲間とは,お互いの思いなどを共有したり,同じ目標を持つ仲間として共に学習でき,とても支えとなっています。今後地域に貢献できる助産師となるために,学びを深め自らの役割を見出していきたいと考えます。
吉本 明子
わたしは鹿児島大学の保健学科看護学専攻を卒業し,大学院に進学しました。入学前は,1期生という未知の不安と,臨床を経験せず進学することに迷いがありましたが,助産師の夢を諦めきれず決意しました。離島実習や妊娠全期間をみて学ぶことができる実習などの魅力的なカリキュラムに加え,あたたかく素敵な先生方であることを知っていたため,ここで学びたいと考え鹿児島大学を選択しました。今ではその選択は大正解であったと強く思います。現在は1期生4人で同じ目標に向かい,共感し支えあう環境の有り難みを感じながら,勉強も日常も本当に充実した日々を送っています。課題に追われることもありますが,笑い語り合える仲間からやる気をもらって頑張ることができています。将来につながる興味のある分野を学び,新しい知識を身につけることがこんなに楽しいのだと知ることができました。今後は先生方のご指導のもと,1期生として新しい道を築く手助けができたらと思います。
津留見美里
わたしは,母性看護学の講義や実習を通して,妊娠・出産・分娩を中心とした女性の援助を行う助産師になりたいと思いました。進路を選択するにあたり,大学時代にお世話になった先生方からの学びをより深めたいと考えたこと,鹿児島県の特色を生かした離島実習などカリキュラムに魅力を感じたことなどから,鹿児島大学大学院への進学を決めました。不安もありましたが,同じ目標を持った仲間と先生方に出会い,切磋琢磨しながら,楽しくとても充実した日々を過ごしています。さまざまな経験を積んだ仲間や先生方とディスカッションすることができ,さまざまな視点から物事を考えられるようになりました。今後,研究活動や実習で壁にぶつかることも多々あると思いますが,仲間や先生方に相談し,助けてもらいながら乗り越えていきたいです。そして卒業後は,対象者に寄り添うということを大切にして,鹿児島の母子保健に貢献できるよう取り組んでいきたいと考えています。
前田亜綾香
わたしは,幼い頃,“命”の尊さを感じるでき事をしり,傷つく女性の存在を痛感しました。鹿児島大学医学部保健学科看護学を専攻し,4年間大学生活を送り卒業後に,産婦人科で勤務しました。2年間の臨床経験で感じたことは,“命の育て方”の重要性です。若年出産,未婚の出産,父親不明の出産。人生の選択はさまざまですが,生まれてくる命の未来に不安を覚えます。性教育に付随した“命を育てるための教育”に関わりたいと感じ,助産師になるため,入学を決意しました。大学院の授業では,自分で説明する責任と充実感が,さらなる意欲をかきたててくれます。先生方の経験談は刺激的で,授業をさらに彩ります。院生4人,授業中は意見を出し合い,休み時間は笑顔が絶えません。看護学生時代を過ごしたこの場所で,信頼できる仲間と,尊敬できる先生方のもと学べることに感謝しながら,“命を育てる”教育に尽力できる助産師を目指したいと思っています。

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