5月31日午後9時から70分間,NHKスペシャル「シリーズ日本新生 日本の医療は守れるか 〜2025年問題の衝撃〜」という番組が放映されました。会員の先生方でご覧になった方も多かったのではと思います。
1)誰もが,いつどんな時でも自由に病院を利用できる日本の医療が今,深刻な危機に直面しています。原因は,団塊の世代が75歳に達する“2025年問題”。患者が増え,医療費が急増すると予測されている
2)この危機をどう乗り越えるのか?今,「病院から在宅への転換」など,これまでの日本の医療を見直す,さまざまな改革が議論されようとしている
3)財政面の視点ばかりに重きがおかれ,患者や家族が置き去りにされるのではないかと不安視する声があがっている
等の問題点を取り上げ,横倉日本医師会長をはじめとする医療関係者,水田元厚生労働次官をはじめとする行政関係者,団塊の世代,家族会,いくつかの地域住民代表等からなる出演者の間で討論するという番組でした。2025年に向けて団塊の世代が75歳以上となり,医療需要が今に増して増加,同時に多死社会となっていくことが想定されています。かかりつけ医の問題,基幹病院への患者集中の問題,救急体制,リハビリテーションに加え,医療・介護を含む地域連携などの問題が提起されたものの,この番組を見終わって感じたのは,医療者と医療を受ける側との間の意見のずれが大変大きいということでした。
鹿児島県は国内でも高齢化の進んだ地域の一つです。鹿児島県の急性期医療の概要を知る上で,参考になるデータの一つとして厚生労働省が公表するDPC(診断群分類包括評価)対象病院の診療データがあります。DPCの場合,18の主要診断群に分類されたデータが提出されるため,どの病院でどのような診療が行われているか明らかになります。図1は平成24年度における退院患者調査に基づき,県内DPC対象病院の1カ月あたりの退院件数と各病院でどのような患者を対象としているかをグラフ化したものです。鹿児島医療センターと他の医療機関を比較してみると,DPC対象病院の中では循環器疾患が最も多く,神経(脳卒中),耳鼻咽喉科疾患,血液疾患などが多いことがわかります。またそれぞれの病院の診断群別件数を見ると,一部重なりはみられるものの,各病院の診療の特徴(機能分化と言うこともできます)がみられます。


表1に示すようにDPC対象病院の退院件数の58%を,鹿児島保健医療圏で占めています。がん,心筋梗塞,脳卒中の3疾患についてみると,救急対応を要する心筋梗塞の場合,退院件数の約60%を鹿児島保健医療圏のDPC対象病院が占めるものの,肝属保健医療圏や出水保健医療圏のDPC対象病院も10%以上の件数を占めています。一方,治療開始まで比較的余裕のあるがんの場合,73%を鹿児島保健医療圏のDPC対象病院で占めており,他の保健医療圏のDPC対象病院の占める割合は,10%未満です。脳卒中はこの中間くらいとなっています。DPC対象病院の多くが鹿児島保健医療圏に集中していること,曽於保健医療圏にはDPC対象病院がないことなど,このデータが鹿児島県の急性期医療全体を反映しているとは言えませんが,県内の急性期医療の対象患者のかなりの部分が,鹿児島医療圏の病院に集中していることを示しているデータと思います。また図2に示しますように,高齢化が進んでいる鹿児島県全体に比べ,鹿児島市では今後高齢化の問題が顕著となってくることが予想されます。鹿児島保健医療圏以外の保健医療圏では患者数は徐々に減少していくのに対して,鹿児島保健医療圏では,高齢化の進行とともに循環器,脳卒中,がんの患者さんの増加に加え,高齢化に伴う呼吸器疾患(誤嚥性肺炎),整形疾患(転倒・転落による骨折など),認知症の患者さんの増加も予想されます。NHKスペシャルの中で取り上げられたことが,鹿児島でも同じ問題となってきます。国の医療政策も大きな転換期を迎えようとしています。県民への周知,医療連携のみでなく介護を含めた地域連携など,鹿児島県全体で取り組んでいかねばならない時期にきていると思います。

このような時期に,日本医療マネジメント学会第13回九州・山口連合大会を当院でお世話することになりました。日本医療マネジメント学会(理事長 宮ア久義 国立病院機構熊本医療センター名誉院長)は,医療マネジメント手法の開発と普及をはかり,医療の質の向上に寄与することを目的として1999年に発足し,クリティカルパス,医療安全,医療事故,地域連携,医療経営など医療現場に向き合った学会で,病院関係者全てを対象とした学会です。医師のみでなくコメディカルスタッフの参加も多く,1,500人規模の参加者が見込まれます。病床の機能分化・連携および在宅医療・在宅介護の推進への対応が,各医療機関に求められている折から,第13回連合大会のテーマは,「病院・病床機能分化と地域医療連携」といたしました。鹿児島県内の医療機関からなる学会実行委員の方々のご協力により,下記のようなプログラムが決定しています。今後の地域連携を考える機会となれば幸いと思います。皆様のご参加をお待ちしております。

大会パンフレット


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