鹿児島市医師会の皆様には,日頃から検視業務をはじめ警察行政全般にわたり,多大なるご理解とご協力を賜り,深く感謝申し上げます。
県警察では,平成17年以降,地域社会との連帯を基本理念とした治安対策プログラムを策定・推進し,現在,平成24年に策定した「新『あんしん・かごしま』創造プログラム」に基づき,地域や関係機関・団体の皆様方と協働した様々な施策に取り組んでいるところであります。
その結果,鹿児島県下における昨年の刑法犯認知件数は,4年連続で最少,戦後初めて1万件を下回ったところであり,当鹿児島中央警察署においても,管内で発生した殺人や強盗等の凶悪事件のほか特殊詐欺グループを検挙するなど,一定の成果は上げられたものと考えております。
しかしながら,依然として高齢者が当事者となる交通死亡事故が高い比率で発生し,特殊詐欺事件の認知件数や被害額は増加している状況にあるとともに,全国的にも,子どもや女性,高齢者が被害者となる犯罪が発生し,サイバー空間における脅威の急速な増大,暴力団情勢の深刻化など,治安に関する様々な課題に直面しています。
当署においても,地域の皆様の「あんぜん・あんしん」を確保するため,これらの課題に地域の特性を踏まえながら,事件・事故の予防や日々発生する事件・事故への迅速・的確な対応に努めているところであります。
特に,社会の高齢化は著しく,「交通事故による死者」の半数以上が65歳以上の高齢者であること,さらに被害の拡大を見せる「うそ電話詐欺」の被害者の多くが高齢者であることから,高齢者が事故の当事者や犯罪の被害者となる事件・事故を未然に防止し,高齢者の安全・安心を確保することは,私たちにとって最も重要な課題の一つになっています。
そこで,今回は,高齢者に関わる治安情勢や当署における高齢者の安全対策等について紹介させていただきます。
1.高齢化社会の実態と予測
平成25年の本県の人口約168万人のうち65歳以上の高齢者は約46万6千人で,人口に占める高齢者の割合は約27.8%となっています。
この高齢者の割合は,全国平均の約25.1%に比べ約2.7ポイントも高く,高齢化社会の先進県ともいえます。
これに並行して,運転免許を保有する高齢者(以下「高齢ドライバー」)も増加傾向にあり,平成25年の高齢者の運転免許保有者数は約24万6千人と前年に比べ約1万4千人増加しております。
今後の見通しとしまして,平成47年は,県内人口は138万9千人で現在の8割近くまで減少するものの,高齢者人口は49万9千人と1.07倍に増加し,高齢化率も35.9%に達すると予想されています(鹿児島県高齢者保健福祉計画「鹿児島すこやか長寿プラン2012」)。
また,県警察の調査では,高齢ドライバーも約1.7倍に増加し,免許を保有する3人に1人は,65歳以上という時代がすぐ目の前に迫ってきている現状にあります。

2.交通死亡事故抑止対策
(1)三師会活動のさらなる発展
高齢者の交通事故防止を目的に,平成22年12月に県医師会・県歯科医師会・県薬剤師会(以下「三師会」)と警察本部の間で「高齢者交通事故防止に関する協定」が締結されました。
この協定は,高齢者の多くが医療機関を利用することに着目し,三師会会員の皆様に
○ 医療機関の方々から施設を訪れる高齢者への「交通安全一口アドバイス」
○ 窓口等の施設におけるポスターやチラシの掲載
○ 待合室での交通安全に関するDVDの放映
等をお願いしていただくという内容になっております。
協定の締結以来,皆様にはご多忙の中,ご協力をいただき,平成25年中の通院中の交通事故が前年に比べ約13%減少するなど高い効果が認められております。
本年6月には,この協定をさらに発展させ,交通事故の防止に限らず,高齢者の被害が増えている「うそ電話詐欺」等の防止も含めた新たな協定を締結したところであります。
(2)交通安全一口アドバイス
高齢者の交通死亡事故を分析しますと,県内における平成25年中の死者数は91人で,そのうち65歳以上の高齢者が48人と全死者数の約52.7%を占めております。
その中でも歩行中の死者数が22人と最も多く,次に自動車運転中の16人となっております。
この傾向は,当署も同様で,昨年は80歳代の高齢者2人が早朝の暗い時間帯に車にはねられ死亡する交通事故が発生しており,今年も既に3人の高齢歩行者と1人の原付運転中の高齢者が亡くなられております。
これら高齢者の交通事故を防止するため,一般ドライバーへの啓発活動はもとより,高齢者を対象とした各種交通安全教室や居宅訪問による交通指導を実施しているところですが,繰り返し繰り返し,高齢者の方に交通安全に関する声掛けをして,ご自身に「自分の身は自分で守る」という意識を持っていただくことが大事と考えております。
医師会の皆様には,このような高齢者の交通事故実態をご理解いただき,今後とも診察などで訪れる高齢者への声掛け,「交通安全一口アドバイス」を継続していただければと願うところです。
(3)道路交通法の改正
平成23年4月,栃木県において,意識障害を伴う持病を有する者がクレーン車を運転中,登校中の児童の列に突っ込み,6人の児童が死亡する痛ましい交通事故が発生いたしました。
このような事故を受け,道路交通法の一部を改正する法律が昨年6月に交付され,同年12月から順次施行されております。
主な改正点の一つとして「一定の病気等に係る運転者対策」があります。
具体的には,統合失調症やてんかん,認知症など一定の病気等に該当する者を診断した医師は,その者が免許を受けていることを知ったときは,公安委員会にその診断の結果を届け出ることができるとしています。
法改正の趣旨をご理解いただき,ご協力をお願いいたします。
3.うそ電話被害防止対策
(1)うそ電話詐欺の発生状況
高齢者が被害に遭いやすい犯罪の一つに「うそ電話詐欺」があります。
県内では,振り込め詐欺をはじめとする特殊詐欺の被害が急増しており,広く県民の皆様に特殊詐欺の手口等を理解していただき,被害を防止するため,平成26年2月から「うそ電話詐欺」という分かりやすい名称にして各種被害防止対策を進めています。
従来,オレオレ詐欺・架空請求詐欺・融資保証金詐欺・還付金等詐欺の4つを振り込め詐欺と呼んでいましたが,これに類似する金融商品等取引名目・異性との交際斡旋名目・ギャンブル必勝情報提供名目など新たな手口が増え,これらを総称して「うそ電話詐欺」と呼ぶこととしました。
県内のうそ電話詐欺の認知件数は,振り込め類似詐欺を計上するようになった平成23年が36件,平成24年が35件と横ばいでありましたが,昨年は45件と一昨年より10件増加しています。
また,被害総額は平成23年が約2億7,500万円,平成24年が約2億1,400万円でありましたが,昨年は約3億840万円と前年より約1億円増えています。
当署管内においても,平成25年中9件(被害総額約4,958万円)の発生を認知し,本年も既に3件(被害総額約2,756万円)の発生を認知しています。
しかしながら,「うそ電話詐欺」は被害届を出さない人も多く,被害が潜在化しやすい犯罪であり,これらの認知件数も「氷山の一角」に過ぎないと思われます。
(2)うそ電話詐欺の被害実態
多額の現金を善良な市民から一瞬にしてだまし取る犯人は,グループをつくり,だまし役や受け取り役,見張り役など役割分担をして犯行に及んでいます。
まさに,だましのプロ集団であり,人をだましてお金を奪うことを仕事とする会社といえます。
その手口のほとんどは,顔を合わすことなく電話を使って,警察官や市役所職員,銀行協会職員等をかたるなどして
○ あなたの通帳が偽造されて口座が使えなくなる
○ 儲かる話がある。ダイヤモンドを購入しないか
○ ロト6の当選番号を教えます
○ 保険金の払い戻しがあります
等と言葉巧みに話を持ちかけ,相手を信じ込ませて,
○ 指定された口座への振り込み
○ レターパックや宅配便による現金の送付
○ 場所や時間を指定しての受け取り
で,多額の現金をだまし取り,犯人は平然と暮らしているのです。
被害者の多くが高齢者で,誰にも相談しないまま言われたとおりに振り込み,その後,心配になり警察に届け出ております。
被害に遭ったお金は,自分の老後や家族のためと思い苦労して,貯めたものばかりです。そのような大切なお金が一瞬にして犯人に渡ってしまうばかりか,人の心まで奪ってしまうのが,この犯罪の本質といえます。
一度犯人の手に渡ってしまったお金は,取り返すのが非常に困難であることも「うそ電話詐欺」の大きな特徴の一つです。
(3)うそ電話詐欺の防止対策
ア 声掛けによる被害者の抵抗力強化
警察としては,「うそ電話詐欺」の撲滅に向け犯人検挙と予防に努めているところですが,これらの犯罪を防止するためには,被害者の抵抗力を高めることも重要です。
そのためには,金融機関や自治体からの声掛けに加え,医療に携わる皆様からも声掛けを行っていただくことは極めて効果的であり,被害者となりやすい高齢者に警戒心を与え,安易な振り込みを思いとどまらせ,被害防止につながるものと考えております。
イ 振り込んでしまった場合の素早い通報
万が一,振り込んだとしても,早い段階であれば,口座凍結などにより,現金を引き下ろせなくする方法もとることが可能になります。
患者さんとの会話の中で「もしかしたら,だまされているのでは?」と感じられましたら,ぜひ,患者さんに声を掛けていただき,できるだけ早い警察への通報にご協力をお願いします。
4.おわりに
鹿児島中央警察署では,地域の皆様の立場に立って職務を遂行することはもとより,各種治安対策を強力に推進し,「日本一安全な鹿児島」を実現するために,職員が一致団結し全力で努力してまいりますので,鹿児島市医師会の皆様のご支援・ご協力を賜りますようお願い申し上げます。
最後になりましたが,貴会のますますのご発展と会員の皆様のご健勝を祈念申し上げます。

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