鹿市医郷壇

兼題「可哀相し(ぐらし)」


(418) 永徳 天真 選




紫南支部 紫原ぢごろ

生作い可哀相言かたで舌鼓
(いっづくい ぐらしちゅかたで したづつん)

(唱)食とかちギョロッ鯛い睨られっ
(唱)(くとかちギョロッ ていねぎられっ)

 生作りといえば海老や鯛ですが、舟盛りで出てくる鯛の刺身は、頭・中骨・尾も付いて実にリアルですし、捌きたての海老は、ピクピク動いたりしています。
 つい先まで水槽で泳いでいたのにと思うと箸も一瞬ためらいますが、口に入れば満足の味です。そんな生作りを目の前にした賑やかな食事風景が目に浮かびます。




紫南支部 二軒茶屋電停

飲ん過ぎと食過ぎで可哀相し五臓六腑
(のんすぎと くすぎで可哀相し ごぞろっぷ)

(唱)働っ詰めん胃あたんだれっ
(唱)(はたらっづめん 胃あたんだれっ)

 元気だからこそ食欲旺盛といえるかもしれませんが、暴飲暴食は禁物です。
 抑制を知らない過ぎる行為は、内臓器官を酷使して、いろいろな弊害をもたらすのは必至です。
 そんな人たちは、自分自身のことですので、体をこき使っているという自覚と改善が必要でしょう。




 印南 本作

ドカ灰いな可哀相か新車泣っかぶっ
(ドカべいな ぐらしか新車 なっかぶっ)

(唱)ボロん車といっちょ変わらん
(唱)(ボロんくいまと いっちょかわらん)

 桜島の噴火活動は休みなく続いていて、高さ三千メートル級の噴煙もたまにあります。このドカンと吹き上げた降灰の行方は風向き次第ですので、ただ「こっちへ来ないで」と祈るだけです。
 このドカ灰ばいは、あきらめ半分の生活の一部ですが、この句は被害を被る新車を擬人化して捉えた着眼がよかったです。


 五客一席 清滝支部 鮫島爺児医

拉致ん家族生死も知らじ可哀相し事
(拉致んけね 生死もしらじ 可哀相しこつ)

(唱)なんとか早よち解決つ願ごっ
(唱)(なんとかはよち かいけつねごっ)


 五客二席 城山古狸庵

可哀相しこっ焼酎を減めた消費税
(可哀相しこっ しょちゅをへがめた 消費税)

(唱)おてちき飲めじ寝付っも悪し
(唱)(おてちきのめじ ねつっもわるし)


 五客三席 上町支部 吉野なでしこ

童が可哀相外じゃ遊べん放射能
(こがぐらし 外じゃあそべん 放射能)

(唱)見通しゃ立たじ時間もかかっ
(唱)(みとおしゃたたじ 時間もかかっ)


 五客四席 紫南支部 紫原ぢごろ

可哀相し事つおれおれ詐欺が平然しっ
(可哀相しこつ おれおれ詐欺が しれっしっ)

(唱)許しちゃならん卑劣な手口
(唱)(ゆるしちゃならん ひれっなてぐっ)


 五客五席 清滝支部 鮫島爺児医

歳しゅとって一人暮らしもまた可哀相
(としゅとって ひといぐらしも またぐらし)

(唱)側い居い衆が声かけをしっ
(唱)(そばいおいしが 声かけをしっ)


   秀  逸

清滝支部 鮫島爺児医

キッナゴを可哀相ち食わん優し孫
(キッナゴを ぐらしちくわん やさし孫)

寒稽古可哀相しゅ見えてん愛の鞭
(寒稽古 可哀相しゅみえてん 愛のむっ)


 城山古狸庵

食がならん孫が可哀相ち婆は茶断っ
(くがならん 孫がぐらしち ばはちゃだっ)

可哀相かでホームにゃ入れじ親父が看っ
(ぐらしかで ホームにゃいれじ ととがみっ)


紫南支部 紫原ぢごろ

夫ん名も忘れっ可哀相し認知症
(ととん名も 忘れっ可哀相し 認知症)

年金の暮らしな可哀相し消費税
(年金の くらしな可哀相し 消費税)


 川内つばめ

女房も子も誰も起きらじ可哀相し亭主
(かかも子も だいもおきらじ 可哀相してし)


 作句教室
方言の表記について
 坂田勝著「かごしま弁入門講座」で、方言「ぐらし」の解説は次のとおりです。
 『かわいそうな。「ウグラシ」「グラシカ」ともいう。由来は仏教語「業(ごう)らしい」の訛り。「業」は「前世のおこないによって受ける現世の報い」の意』
 残念ながら「業らしい」は、国語辞典の「大辞泉」にも載っていませんでしたので、そのことばの意味を調べることはできませんでした。
 また、「かわいそう」ですが、国語辞典に載っている漢字の可哀相・可哀想は当て字と書かれています。この「当て字」の意味は次のようになっています。
 『日本語を漢字で書く場合に、漢字の音や訓を、その意味に関係なく当てる漢字の使い方、狭義には、古くから慣用の久しいものについていう』
 たまに勘違いで「可愛想」と書く人がいますが、これは誤りです。
 さて、方言でこの漢字を使った表記では、「可哀相(ぐらし)」または「可哀相(ぐら)し」と、語尾の「し」を送りがなにしなかったり、したりと、意味のある使い分けをしています。ちなみに、「可哀相」は形容動詞ですので、終止形は「だ」で終わり、連用形では「な」「に」「で」と続きます。
 共通語と対比して、方言の表記の違いを見てみます。
○可哀相だ → 可哀相(ぐらし)ど・可哀相(ぐらし)か
○可哀相だけれども → 可哀相(ぐらし)どん
○可哀相だった → 可哀相(ぐらし)かった
○可哀相だと思った → 可哀相(ぐらし)かち思(おも)た
(可哀相(ぐらし)ち思(おも)た)
○可哀相な人 → 可哀相(ぐら)し人
○可哀相になる → 可哀相(ぐら)すなっ
 したがって、今回の題「可哀相(ぐら)し」は、「可哀相な」という意味の、方言の表記での題でした。なお、「ぐらしか」で使う場合の表記は、「可哀相(ぐらし)か人」ではなく、「可哀相(ぐらし)か人」の方が、共通語と対比してもすっきりすると思います。
 ひらがなの表記であれば、「ぐらし人」「ぐらしか人」と何も問題はないのですが、漢字を伴う表記の場合は、送りがなを送るのか、送らないのかと迷います。正しい表記を心掛けていきたいものです。



薩 摩 郷 句 募 集

◎9 号
 題 吟 「 がっつい 」
 締 切 平成26年8月5日(火)
◎10 号
 題 吟 「狡じ(えじ)」
 締 切 平成26年9月5日(金)
◇選 者 永徳 天真
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892-0846
 鹿児島市加治屋町三番十号
 鹿児島市医師会 『鹿児島市医報』 編集係
TEL 099-226-3737
FAX 099-225-6099
E-mail:ihou@city.kagoshima.med.or.jp


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