=== 随筆・その他 ===
「医師法第21条による届け出義務について
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中央区・清滝支部
(小田原病院) 小田原良治
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本年3月8日,鹿児島で開かれた「医療を守る法律研究会講演会」での,大坪寛子厚労省医療安全推進室長の発言は,評価すべきものがあった。一点は,医療事故調に関して,「第三者機関へのスイッチを押すのは管理者のみ」と明言したことであるが,他の一つに,医師法第21条の異状死体等の届け出に外表基準説(大坪室長は外表異状説と説明)を明言し,2012年10月26日の田原克志医事課長発言を補強したことである。大坪室長は,「医師法第21条というものは,全ての診療関連死を届け出ろと言っているものではありません。最高裁の判例を踏まえて,『外表異状説』というものを,医師法の担当の医事課長から今一度お話させていただきました」と述べている。また,同室長は,本年4月3日,京都で開催された第114回日本外科学会定期学術集会のシンポジストとして,その講演のなかで,警察への医療機関からの届け出の増加を分析しつつ,これは,医師法第21条による届け出ではなく,医療機関の先生方の自主的な届け出であると説明した。整理をすると,「判例による医師法第21条の届け出義務は,外表基準(外表異状)によるものである。厚労省からの通知(リスクマネージメントマニュアル作成指針)は,国公立病院に対し,マニュアル作成時の指針として示されたものに過ぎず,届け出を指導したというのは誤解である。この間に出された届け出は,各医療機関から自主的に出されたものであり,厚労省が指導したものではない。厚労省としては,医師法第21条に基づく異状死体等の届け出は,判例にあるように外表基準(外表異状)にあると認識しており,田原課長発言はそれを確認したものである。いまだに,一部に誤解があることから,今回,医療安全推進室長発言として,再確認した」ということであろう。この時期に,歯切れのよい発言で,田原課長発言を補強した大坪寛子室長に敬意を表したい。
さて,外表基準説は,都立広尾病院裁判の判決の解釈として,田邉 昇氏,佐藤一樹氏の詳細な説明がなされている。重要な論説であるので,ぜひご確認いただきたい。黙秘権とのすり合わせの中で出された判決(東京高裁,最高裁)(合憲限定解釈)として知られていたが,厚労省の態度が現場に不安を与えていた。その意味で,医師法第21条による届け出を,外表基準と明言した田原課長発言,大坪室長発言の意義をあらためて評価したい。
最近,自主的な届け出を医師法第21条による届け出と錯覚し,届け出時期を云々する報道があるようであるが,医療機関による自主的な届け出に期限などあるはずがない。万一の場合,念のために届け出をするという場合には「医師法第21条による届け出ではない」ということを認識した上で,自主的対応として,届け出るべきであろう。ただし,「相談」との軽い思いの届け出が,法に基づく届け出と解釈される危険性については十分認識しておく必要がある。場合によっては自白とみなされるからである。
脱稿後,6月10日参議院厚労委員会の答弁で田村厚労大臣が医師法第21条の解釈について「外表異状」に基づく旨,明言した。これで,医師法第21条は「外表異状」に基づくことが確定したと言えよう。
本論文は,日本医療法人協会ニュース第359号(平成25年5月1日)「再び医師法第21条を考える−届出義務は外表基準による−」を一部改編したものです。

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