鹿市医郷壇

兼題「指(いっ)」


(415) 永徳 天真 選




 川内つばめ

赤子が指ぶギュッちすいたび頬が緩ん
(ちんがいぶ ギュッちすいたび ふがゆるん)

(唱)幸せ運っ天使ん笑顔
(唱)(幸せはこっ 天使ん笑顔)

 私は赤ん坊が大好きで、公園などで出会ったりすると、時には声掛けをします。その小さな掌に指を当てると、こちらをじっと見つめて、強く握りしめてくれるので、とても可愛いです。
 両親や祖父母の家族は、尚更のことでしょうが、赤ん坊との触れ合いの場面を捉えた、幸せいっぱいの温かい句です。




紫南支部 紫原ぢごろ

節くれん指が苦労の道つ語っ
(節くれん 指が苦労の みつかたっ)

(唱)どいもこいもが全部思い出
(唱)(どいもこいもが ずるっ思い出)

 人生の年輪が刻み込まれた顔の皺と同じように、指もその人の人生を物語っているといってもよいでしょう。
 その中でも特に、農業や漁業に従事してきた人の指は、自然の中で揉まれてきているので、節くれも年季が入っています。そんな指を見て、これまでの苦労を回想しているのかもしれません。




紫南支部 二軒茶屋電停

指先が触れてん恥ね初心な恋
(いっさっが 触れてんげんね うぶな恋)

(唱)そん瞬間な電気が走っ
(唱)(そん瞬間な 電気が走っ)

 恋をしてしまった、思春期の真っ只中です。勇気を出して、「僕と付き合ってください」と告白してから、今日は初めてのデートかもしれません。
 一緒に並んで歩いていると、互いの指が触れてしまって、ドキッとしたことでしょう。初々しさが伝わってくる、ほのぼのとした句です。


 五客一席 上町支部 吉野なでしこ

美人の指今じゃ節くれ影も無し
(シャンの指 今じゃ節くれ 影ものし)

(唱)白魚んよな頃もあったて
(唱)(しらうおんよな 頃もあったて)


 五客二席 清滝支部 鮫島爺児医

指で書た好っの砂文字じ貰ろた運
(指でけた すっのすなもじ もろた運)

(唱)ロマンチックな演出ちほろっ
(唱)(ロマンチックな えんしゅちほろっ)


 五客三席 城山古狸庵

約束ち言かてそろいと指ぶ出せっ
(やっそっち ゆかてそろいと いぶだせっ)

(唱)何か知れんが怪し態の匂
(唱)(ないかしれんが あやしふのかざ)


 五客四席 小石 助六

久振い付けた指輪抜けじ騒動
(さしかぶい 付けたいっがね ぬけじそど)

(唱)何時浮腫んだか我で驚っ
(唱)(いつむくんだか わがでたまがっ)


 五客五席 紫南支部 二軒茶屋電停

指先もおてちき舞うた羽生ん金
(いっさっも おてちきもうた はにゅんきん)

(唱)躍動感に観衆あ見惚れっ
(唱)(やっどうかんに みてあみとれっ)


   秀  逸

清滝支部 鮫島爺児医

郷句作いにゃ指を折い折い要い計算
(くづくいにゃ 指をおいおい いいさんにょ)

不足ん指び計算ん孫は足しょ足せっ
(たらんいび さんにょん孫は あしょたせっ)

指ぶ立てっトンボを釣った小け頃
(いぶたてっ トンボを釣った ちんけ頃)


 川内つばめ

指の先くちっと踏まれっ出い涙
(指のさく ちっとふまれっ でいなんだ)

指ぶ挙げっラスト一分気合入れ
(いぶあげっ ラスト一分 気合入れ)

盤の目ん指が指す音て息くば呑ん
(盤の目ん 指がさすおて いくばのん)


紫南支部 紫原ぢごろ

写真撮い指でVの字決めたごっ
(写真とい 指でVの字 決めたごっ)

競市場ば指一本で値が決まっ
(せいいっば 指一本で ねがきまっ)


 城山古狸庵

指ぶ立てっ一位んアンカゴールイン
(いぶ立てっ 一位んアンカ ゴールイン)


上町支部 吉野なでしこ

長か指ピアニストいち気張い親
(ながか指 ピアニストいち きばい親)


上町支部 小石 助六

赤子抱っ派手か指先先き診察
(あかごだっ けばかいっさっ さきみたて)


 薩摩郷句鑑賞 75

飲ん時きな堅て事つ言なち下戸を叱っ
(のんときな かてこつゆなち 下戸をがっ)
                   松浪 乙女

 花見だとか、歓迎会だとか、左党にとっては誠に嬉しい時期。花があろうとあるまいと、五分咲きだろうと七分咲きだろうとお構いなし。大いに飲んで、大いに騒げばよいのである。
 ところがその中に下戸がいて、生真面目な職場の仕事の話だとか、物価の問題や教育の話などを始めたのであろう。
 「飲む時ぐらいは、そんな堅い話はやめろよ」といった上戸の気持ちもよく分かるし、どうして真面目な話をして悪いのか、納得のできない下戸の気持ちも分かる。


残い飯す家族中ん鼻で嗅んみっ
(のこいめす けねじゅん鼻で かずんみっ)
                   川崎てい女

 今はどこの家庭にも冷蔵庫があるし、ご飯も炊きたての状態が保てる時代であるが、昔は笊などに入れて、涼しい「そどんくっ」や、井戸などに吊るしたものである。「腐っちょらせんか、嗅んみれ」というわけで、代わるがわる嗅いでいるというわけである。それを「家族中(けねじゅ)ん鼻で」と表現したところが面白い。風邪でも引いているのか、鼻のきかない者の揃いなのか、滑稽。


毛は生えじ薬いな負けっ捨せ金
(毛はおえじ くすいな負けっ うっせぜん)
                   吉崎しづか

 たしか「白髪なら染めでんすどんつるっ禿」という句があった。なるほど白髪は染めれば黒くなるが、禿げた頭はどうしようもない。
 そこで、効くという話に乗せられて、毛生え薬を塗ったのだが、毛が生えるどころか、薬にかぶれてしまって、全くいいところがなしだったのである。「捨(うっ)せ金(ぜん)」というのは、使った金が無駄になること。
 ※三條風雲児著「薩摩狂句暦」より抜粋


薩 摩 郷 句 募 集

◎6 号
 題 吟「傘(かさ)」
 締 切 平成26年5月7日(水)
◎7 号
 題 吟「可哀想し(ぐらし)」
 締 切 平成26年6月5日(木)
◇選 者 永徳 天真
◇漢字のわからない時は、カナで書いて応募くだされば選者が適宜漢字をあててくださいます。
◇応募先 〒892-0846
 鹿児島市加治屋町三番十号
 鹿児島市医師会 『鹿児島市医報』 編集係
TEL 099-226-3737
FAX 099-225-6099
E-mail:ihou@city.kagoshima.med.or.jp


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