緑陰随筆特集

「日本一安全で安心な鹿児島」の実現をめざして
鹿児島中央警察署 署長    町田 昇二

はじめに
 鹿児島市医師会の皆様には,日頃から検視業務をはじめとして警察業務の全般にわたり,ご理解とご協力を頂き,深く感謝申し上げます。
 県警察では,県民の治安に対する不安を払拭して治安の更なる向上を図るため,平成24年から「新『あんしん・かごしま』創造プログラム」に基づく治安対策を策定し,地域や関係機関・団体と連携して「犯罪の起きにくい社会づくり」に取り組んでまいりました。その結果,県内における平成24年中の刑法犯認知件数は,目標とする10,000件未満の達成には至らなかったものの4年連続して減少したほか,交通事故の発生件数,負傷者数も減少するなど,一定の成果が見られました。
 しかしながら,一方では,殺人,強盗等の重要事件や振り込め詐欺,女性に対するわいせつ事案等が発生し,また,高齢者が当事者となる交通死亡事故が多発するなど,極めて厳しい状況にあります。
県警察では,県民の皆様が安全で安心して生活できるよう,地域の特性を踏まえながら,更なる治安の向上に向け,各種施策に取り組んでいるところであります。
 私ども鹿児島中央警察署における安全で安心な鹿児島の実現に向けての取り組み状況について,ご紹介したいと思います。

1. 犯罪の発生状況と抑止対策
(1)刑法犯の発生状況と対策
  平成24年中の県内における刑法犯の認知件数は1万503件で前年に比べ101件減少しました。罪種別では,窃盗犯罪が8,485件で刑法犯の約8割を占めており,以下,暴行,傷害等の粗暴犯,知能犯,風俗犯,その他の刑法犯となっております。
  鹿児島市内における認知件数は5,065件(前年比177件減少)で,当署管内が1,820件,鹿児島西署管内が1,350件,鹿児島南署管内が1,895件となっております。
  鹿児島市内における刑法犯の約8割(4,131件)が窃盗犯罪であり,その中でも自転車盗,万引き,車上狙いが6割を占めております。被害に遭った自転車盗の約7割が無施錠であることから,自主防犯ボランティア団体の皆様と連携して鍵掛けや二重ロックの呼びかけなどを重点に犯罪抑止に取り組んでおります。
(2)ストーカー・DV事案の被害状況等
  平成24年中,全国警察が把握したストーカー被害の認知件数は1万9,920件で前年に比べ5,302件(36%)増加し,平成12年の法施行後最多であります。これは被害に遭った人が泣き寝入りすることなく警察に対し積極的に相談する人が増加したためとみられます。
  県内において把握したストーカーの被害者は244人(前年比5人減)であります。
  ストーカー事案の多くは,被害者の意向,要望に沿って警察から警告し,禁止命令を発することでその多くが解決しております。
  また,配偶者等からの暴力等事案の認知件数は4万3,950件で前年に比べ9,621件(28%)増加し,平成13年以降最多となっております。
  県内の認知件数は441件で前年に比べ22件増加しており,夫婦間でも暴力は犯罪であるという意識が高まってきた表れとみられます。
  これら事案は,事態が悪化する前に警察署等に相談されるようお願いします。
(3)振り込め詐欺等の被害防止対策
  振り込め詐欺とは「架空請求詐欺」,「融資保証金詐欺」,「オレオレ詐欺」及び「還付金等詐欺」の4種類です。「振り込め類似詐欺」として,未公開株や社債などの金融商品等の取引名目やギャンブル必勝情報提供名目に金を振り込ませ騙し取るものがあります。
  県内の振り込め詐欺及び振り込め類似詐欺の被害状況は下表のとおりです。
  最近の振り込め詐欺の傾向として,宅配便,手渡し,レターパック,ゆうパック,現金書留など現金を直接要求するケースが増えております。また,わざわざ電話口で「口座振り込みは詐欺と勘違いされる」などと相手を信じ込ませ,送金を指示しております。
  大事な現金を振り込む前に,先ず,家族や警察に相談することです。また,家族だけがわかるサイン,合い言葉,鹿児島弁で相手方を確認することなどで被害を防止できます。
  県警察では,金融機関防犯協議会等の皆様に対し,ATMの前で「携帯電話を見ながら操作している客」など,不審な人を見かけた際の積極的な声かけをお願いし,併せて警察への通報等をお願いするなど,あらゆる機会を利用して被害防止の広報活動を展開しています。



2. 天文館の環境浄化と活性化対策
 天文館は,県都鹿児島市の中心であり,憩いの場,触れ合いの場であります。
 天文館においては,町内会,通り会,社交業組合等の各種団体や機関等によるボランティア団体「天ちゃん会」が結成され,毎月10日を「天文館の日」と定め,各団体が独自に,或いは警察等行政機関と協働して,ナイトパトロールや清掃活動等を通じて天文館の活性化とマナーアップに取り組んでおり,更なる活性化が期待されております。しかしながら,一部にあって,客引きや客寄せ等で通りにくく,不快感を覚えるなどの苦情が寄せられており,市民や観光客の足が遠のけば,事業者の損失のみならず,環境や治安悪化も予想されるところです。
 当署としましては,関係機関,団体,地域の皆様とより連携を強化し,知恵を拝借しながら,意識改革を図るとともにマスコットである「天ちゃん・天子ちゃん」や腹話術人形「あんちゃん」によるマナーアップや自転車等の盗難防止等,幅広い広報活動を展開しております。
 また,地域ぐるみでの防犯意識の高まりを受けて,街頭防犯カメラの設置も増え,天文館の犯罪抑止に繋がるものと期待されております。

3. 暴力団情勢と更なる暴排活動
 暴力団対策法に基づく指定暴力団は,全国に21団体があり,県内では四代目小桜一家が第8回目の指定を受けております。
 昨年改正された暴力団対策法に基づいて,対立抗争事件を繰り返す道仁会,九州誠道会が特定抗争指定暴力団に,また,民間事務所に対する襲撃事件などを敢行した工藤會が特定危険指定暴力団に指定されております。その暴力団の1つが,今年初めに,県内で新年会を開いた事案がありました。
 暴力団を県内に入れさせず,また,暴力団を排除していくためには,公共工事や公営住宅からの排除はもとより,ホテルなど施設の約款等に暴排条項を導入してもらい,また,暴力団に関する情報提供を広く市民にお願いし,暴力団排除気運の醸成による更なる暴排活動を積極的に推進しています。
 当署におきましても,暴力団については広く経済活動の場から排除するため,市民,各種事業者,関係機関・団体と一体となって暴排活動に取り組んでおります。

4. 交通事故防止対策
○高齢者への一口アドバイス
  昨年,県内の交通事故による死者の約7割が高齢者で,全国平均の約5割を大きく上回っています。鹿児島市内においても21人中14人が,当署管内では6人のうち5人が高齢者であります。
  県警察では,高齢者の交通事故を防止するため,「シルバーサポート作戦」と銘打って,交番・駐在所員による高齢者に対する個別指導とともに,夜光反射材の着用促進や世代間交流による安全教育を行っております。
  また,平成22年11月,県警察と県医師会,県歯科医師会及び県薬剤師会と協定を締結しております。引き続き,医療施設等を利用される高齢者への交通安全一口アドバイスをお願いいたします。
○生活道路対策「ゾーン30」
  「ゾーン30」対策は,一定区域内の速度規制を原則30q/hとし,歩行者の安全性の向上を図ろうとする生活道路対策の一つであります。
  鹿児島市内においては,天保山や八幡地区の12箇所を選定し,今後,地域住民のご理解,ご賛同を得ながら,道路管理者等と連携して,順次,安全対策を推進して参ります。
○街頭監視活動の強化
  交通死亡事故の主な原因は,運転者の前方不注視や安全不確認など緊張感の欠如によるものであります。道路利用者の安全意識の醸成を高めるために制服警察官による街頭立哨や白バイやパトカー等による朝夕のレッドラン走行等とともに主要交差点や児童・生徒の通学路等での安全誘導活動や警戒活動の街頭監視活動をより強力に推進しています。

5. 地域警察の機能充実
 警察署にあって,最も地域と密着しているのが交番や駐在所に勤務する地域警察官であります。地域警察の機能充実を図るため,平成23年6月,市内の3警察署では,従来の地域課を「地域企画課,地域一課,二課,三課」の四課に改編し,各課長に警部を配置しております。
 各課長は,交替制で自ら当番勤務に従事し,事件・事故の発生に際し,適切な現場指揮とともに現場における実戦的な現場指導・教養に務め,個々の地域警察官の実務能力の向上を図っております。
 今後とも地域住民との連携を緊密にしながら,地域住民の不安の解消と危険の排除に向け,迅速・的確な初動警察活動を推進して参ります。

6. 災害対策
 昨年,県内では,梅雨期の大雨や台風の通過等に伴い,死者,負傷者など人的被害のほか,住家の建物被害が発生しております。
 火山活動につきましては,桜島が昨年1年間で885回,本年5月末現在で348回の爆発的噴火を記録するなど,依然として活発な火山活動が続いております。
 また,過去に大雨による甚大な被害が発生した竜ヶ水地区をはじめ,崖崩れ,地滑り,家屋浸水等の災害が発生するおそれがある地域について,重点的な警戒を行うとともに,地域住民に対して,災害発生時の前兆や日頃の備え,避難場所,避難路の確認,早めの避難等についての広報活動を行い,防災意識の醸成に努めております。
 今後とも,自治体や関係機関等と連携を強化しながら,災害等発生時に迅速・的確な警備活動が行えるよう各種訓練等を行っているところです。

おわりに
 今後とも署員一同,国家と国民に奉仕するという警察の原点を忘れることなく,「国民のために尽くす」という熱い使命感と誇りを持って,市民の皆様が安全で安心して生活ができるよう,犯罪の起きにくい街づくりを目指し各種対策を強力に推進することとしておりますので,引き続き,鹿児島市医師会の皆様のご支援,ご協力を賜りますようお願い申し上げます。



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