巷は尖閣,竹島問題で観光,製造業など多方面に損失が拡大し,この国のありかたを含めた議論が本格化している折,私見を述べてみたい気もしますが,本欄の趣旨に合わないので好きな欧米についてあれこれお話してみたいと思います。なぜ欧米が好きなのか自分でもよくわかりませんが,物心ついたときから米英発の音楽,映画,スポーツ,車,飛行機,クリスマスなどありとあらゆるものが身近にあり,それらが影響しているのは確かです。コンバットや奥様は魔女はおやじがよく見てましたし,ジョー90,トムとジェリー,スパイ大作戦,大草原の小さな家は幼少時から小学生にかけて好んでみておりました。敗戦による屈辱や戦後の苦難を知らないで育っていますので,テレビで垣間見えるアメリカの広さや豊かな生活に純粋に憧れました。米国文化に洗脳されているといえばそのとおりです。でもフランク・シナトラやナット・キング・コール,レイ・チャールズを嫌いな人などほとんどいないのではないでしょうか。戦後の統治国が東側の国ではなくて米国でよかったと思っています。そんなふうになんとなく欧米に憧れておりました。ゴルフ,野球,ミュージカル,交通マナー,仕事など日米を比較しながら好き勝手にしゃべってみます。
ゴルフ
1996年,カナダのRevelstoke G.C.が海外初ラウンドでした。それ以来米国を中心に11コースでラウンドし,PGA(プロゴルフ協会)とLPGA(女子プロゴルフ協会)コース3ヵ所(そのうち1ヵ所はプレーで2ヵ所は観戦)を見てきました。感じることはとにかくround feeが安いこと。最近こそ日本も安くなってきましたが,それでも向こうはさらに安いです。田舎であれば17ドルからでカート代込みでも22ドル。通常30〜40ドル,いいところでも日曜料金で60〜70ドル。PGA tourが開催されるような名門でもpublicならそれぐらいです。ゆったりしているので慌てる必要もなし。それでは印象に残るコースをいくつか。
カナダのRevelstoke G.C.。カナディアンロッキー西麓の小さな田舎町のコースです。氷河湖から流れ出る綺麗な川がコース沿いを流れ,グリズリーベアの足跡が残るなか秘境のコースを地元のおじちゃんと今村厚志先生とラウンドしました。樹高20〜30mの針葉樹がホール間にそびえ立ち,鹿児島のコースとはあまりに違う風景に感動したものでした。木漏れ日がすがすがしく綺麗な空気を感じながらのプレーでした。洋芝のためか7番アイアンがビシッとダウンブローに入った時,プロのようなターフがとれます。グリーンに2打目が乗ったのを確認し,ターフをゆっくり元に戻す時至上の喜びを覚えました。
Virginia州のMeadowcreek G.C.。アパラチア山脈東麓にあります。2001年にUniversity of Virginiaに留学中に何度か行きました。妻もここで初ラウンド。最安値のコース。カート代込みで22ドルとはここのことです。はじめは客も少なく大丈夫かなと思いましたが,グリーンが荒らされてないためかとてもきれい。ただティーグラウンドからグリーンが全く見えず,高牧カントリークラブに似たコースでした。ラウンド中何度か鹿を見かけました。木々の匂いを感じ,鳥のさえずりを聴きながらの癒しのコースでした。
Georgia州のProvidence G.C.。AtlantaにあるEmory University留学中に通いました(2001-2003年)。また2006年の米国泌尿器科学会のときも気が付いたら行っていました。新興住宅のなかにある美しいゴルフクラブ。40ドル台でコースのイメージは入来城山を少しフラットにした感じ。コースにバックヤードが隣接する家々がほんとに大きく綺麗でNHKのPGA tourでみる世界そのものでした。ある日かわいいゴールデンレトリバーが裏庭からティーグランドに出てきて,犬が寝そべっている中をティーショットしたことがありました。この犬は人慣れしているのかゴルフ慣れしているのか逃げもせず,なんとも平和なときでした。
Georgia州,Sugarloaf C.C.。Atlanta郊外に車で北に40分ほどのところにあります。数年前まで電話会社のBellSouth Classicが行われていたところです。当時マスターズの前週のトーナメントでコースもオーガスタに似ていると言われ,ほんとに美しいコースですがクリークが散在し距離も長い。高低差もありタフなコースです。インとアウトでは景色が様変わりし,片や林間コースでとにかく木々が多い。もう片や広々しているがラフ,バンカー,クリークと罠だらけ。Vijay Singhが好きでついて回りましたが,ロングアイアンの低くいつまでものびていく弾道は忘れられません。
Louisiana州,English Turn G.C.。1997年4月,ニューオーリンズで学会の際,ちょっとおでかけしました。川原元司先生とちょうどマスターズの決勝日に回りました。前の週にこのコースでPGAトーナメントがあって,settingはそのまま,つまり異常に狭いfairway,長いラフ。PGAコースなのでほんとに綺麗ですが生涯で最も難しいと感じたコースでした。スコアは除夜の鐘でした。ラフが深すぎてfairwayを外れたら,ロストボールを覚悟。ボールは真上からでないと見つかりません。球探しで大変疲れました。それと池にはアリゲーターいるかもと言われ,ほんとにビビリながら球を探した覚えがあります。
野 球
米国からやってきて日本の精神風土に深く影響したスポーツは野球をおいて他にないでしょう。小学生のころは竹バットにゴムボールで野球ごっこ,暇さえあればキャッチボールをしていたような気がします。おやじがなぜかカープファンで(きっとマツダのファミリア・プレストに乗っていたからだと思います),それで自分も昭和40年代からカープファンでした。外木場義郎,北別府 学と県出身のピッチャーが当番のときには,ブラウン管越しですがそれは気合を入れて応援したものでした。時代は飛びますが,黒田博樹です。カープと同じで打てないドジャースで辛抱強く投げ,今年はヤンキースで右のエース。ひたむきに文句言わずに投げる姿は尊敬に値します。ポストシーズンで是非活躍してほしいです。がんばれ黒田。
黒田続きでメジャーリーグに思うことを少し。2001〜2003年にAtlantaに住んでいた関係で必然的にブレーブスファンです。どことなく阪急ブレーブスのユニホームを彷彿とさせるところもあって懐かしい感じ。球場はCNN(本社はAtlanta)の創業者テッド・ターナー(ジェーン・フォンダの元夫)を冠したターナー・フィールド。駐車場代が10ドルと高いが,堀炬燵みたいな球場で入場門をちょっと歩けば同じレベルでセンター付近の外野席に到着。福岡ドームがかなりの階段を上らねばならないのに比べると大違い。それに外野席近くにはコンサートスペースもあってなにやら楽しそうな音楽をバンドが奏でています。子供がいっぱいいてほんとに平和な時が流れています。Braves official storeをはじめ観客席後方の各階のフロア(確か4階建て)にいろんなお店が並んでいて計200店ぐらい(もっとあるかも)はありそうです。かといってごちゃごちゃ感は一切なく,整然としています。観客席よりその後ろの通路やshop spaceのほうがはるかに広いです。
当時のブレーブスは大変強くてマダックス(355勝投手,現在はテキサスレンジャースでダルビッシュのコーチ),スモルツ,グラビン,アンドリュー・ジョーンズ,チッパー・ジョーンズ,カルロス・フランコ(元ロッテ),シェフィールド(のちにヤンキース,バットをブルンブルン揺らして構える),などスターが沢山いました。感動したのはスモルツの速球。97〜99マイル (156〜159キロ)を常時投げていました。向こうはうるさい鳴り物の応援がないので内野席だとボールがミットに収まる音がよく聞こえます。しびれるようないい音。国内でも野茂英雄,与田 剛,渡辺智男,伊良部秀輝,村田兆治らを見てきましたが,僕の中ではスモルツが一番です。ハンマーチョップを振りChargeと叫びながら観戦していたのが懐かしいです。何もかもが素晴らしいメジャーのボールパークですが,席の前列が大きい男のときは苦労します。興奮すると立ちっぱなしでこっちは見えません。「こら,すわらんか,みえんど」と鹿児島弁で言っても通じません。わたしゃもっと背が欲しいとこのときばかりは切に思いました。
野球チームのある町はいいですよね。鹿児島にもプロ野球チームが欲しいです。
ミュージカル
男たるものミュージカルなんぞ軟弱なもん観れるか,と思っていました。でも今は大好きです。せっかくアメリカにいるんだからBroadway musicalを観ましょうと妻に勧められAtlantaのFox theatreにやってきたDream girlsを観に行きました。最近映画化されビヨンセやジェニファー・ハドソンが有名になったのでご存知の方も多いかと思います。初めてのBroadway musicalです。腰が抜けました。泣いてしまいました。それほどに主役のJennifer Hollidayは素晴らしく,この世のものとは思えないほどの美しく力強い魅力的な声を聴かせてくれました。その歌声は私のおなかと背中と尻と足を通して体全体にしみわたり揺さぶります。フィナーレでは背筋がぞーっとするほどの静寂の後,4,000人の拍手がホールに割れんばかりに響き渡ります。米国のshow businessの素晴らしさを感じた瞬間でした。
すっかり気に入った私はmusical, opera, balletなど可能な限り観ました。42nd ストリート,マイフェアレディー,マンマ・ミーア,ライオンキング,美女と野獣,アイーダ,ウィケッド,オペラ座の怪人,ナットクラッカー,ヴェニスの商人などどれも素晴らしく,とにかくvocalやdanceのレベルが信じられないほど高い。またtheatreによって音の広がりや趣が違い,それをみるのも楽しみのひとつです。加えて米国はoperaやballetはもちろんmusicalもすべてオーケストラによる生演奏です。これだけでも行く価値があります。かつて博多座で大地真央主演のSound of Musicを観ましたが,残念ながらオーケは入っていませんでした。いかにもスピーカーから音が出ているという感じで残念でした(大地さんは日本人としては破格に上手ですが)。向こうはサーカスでも生演奏が入っています。それほどに根底から音楽に対する考えが違うようです。叶わぬ夢ですが,全盛時代のJulie AndrewsのマイフェアレディーやSound of Musicを観てみたかったです。
交通マナーと道路事情
スポーツ,音楽ときましたが一転,交通マナーと道路事情についてお話したいと思います。オリエント急行のような浪漫ある列車こそありませんが,鉄道では日本は一流国でしょう。しかし自動車に関する交通マナーと道路事情はまだまだです。近年,登校時の小学生の列に車が突っ込んで痛ましい事故が起こっています。そんなニュースを聞くたびに辛くなりチャンネルを切り替えます。事故を起こしたdriverが悪いのはもちろんですが,似たような事故が頻発する交通行政,道路のつくり,国民の認識の欠落に根本的な問題があります。早急に幼稚園,小学校周囲の通学路に幹線道路であろうが小丘(hump)を設けることです。特に歩道がないところには明日にでもhumpを造るべきです。時速20km以上で走ると車のサスペンションが確実に壊れるようなhumpを20m毎に設けましょう。居眠りでもしようものなら一発で目を覚まさせるようなやつです。米国ではあたりまえ,皆文句も言わずルールに従っています。また可能であれば登下校時間は車両通行止めにすべきです。米国では黄色のスクールバス停車中は対向車線でも一般車両は停まって子供の安全を確保します。これが普通に行われます。驚いたことにショッピングモールの駐車場など徹底して歩行者優先です。イオンモールみたいに誘導員はいませんが,歩行者に優しいです。通学路の改善は急務です。政治,行政の問題です。自分の子がそのようなことになったらどうするのでしょう。多少の不便は皆我慢し子供を守らなければなりません。ごちゃごちゃ言ってできない理由を並べ何も進まないのが日本。有能な人材が企業に行って,政治や行政に人材希薄な日本では仕方ないのでしょうか。
それから自動車の一旦停止について。信号のない小さな路地の十字路。皆さんも一度はヒヤッとしたことがあるでしょう。同じような幅の道路が交差する時,米国では4way stopによく出くわします。これはとても合理的な仕組みで,信号のない交差点に差しかかったら早く停まったほうが先に進めるという決まりです。ですから皆こぞって車を停めます。結果的に事故が起こりません。日本は止まれ標識があっても守らない人が多いばかりか,同じ幅の道路に優先順位をつけていることもありややこしくなります。
交通行政に携わる行政マン,警察の方は若いうちに米国をみるべきです。カーブのRと傾斜の関係(道路の設計に関すること),車線のラインの引き方,高速道路と一般道のアクセス法,大きく丁寧な読みやすい道路標識,右折左折のレーンの設け方,信号のタイミング(間違っても歩行者は車に巻き込まれないようになっています)など事故が起こりにくいようによく考えられています。道路が広いだけではありません。
仕事について
ちなみに米国の研修医は夜も遅いし午前5時には出てきています。朝5時には通勤ラッシュが始まり,6時には渋滞です。数年前に日本人の平均労働時間は米国に抜かれました。日本人だけが勤勉なのではありません。のし上がろうとする米国人のvitalityはそのまま国力に繋がります。一方,人口も減少に転じた日本は今のままでは20年後は三流国です。出生数は増えないでしょうから働き者の優秀な移民でも入れ人口を維持しなければなりません。皆さん祈りましょう。日本がいつまでもいい国でありますように。
開業して丸5年,多くの先生方に支えられなんとかやって参りました。この場を借りてお礼申し上げます。
| 次号は,東クリニックの東 陽一郎先生のご執筆です。(編集委員会) |

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