第４回中国内モンゴル医療事情視察から第17回鳥取三朝温泉学会へ
東区・紫南支部 有馬 榮德 |
2012年8月8日から12日まで標記訪中団(30余人）の一員として内モンゴル自治区の首都，フフホト(呼和浩特）市の2012年度笹川医学奨学金進修生同学会内科与基礎医学学術交流会－中国西北，華北地区会議(全百数十人参加 写真1）に出席，近郊の史跡や草原巡遊に参加しました。
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| 写真 1 内モンゴル自治区フフホト市，蒙古水木年華（陽光）大酒店で日中学術交流会 |
この旅で思い出すのは，17年前筆者が大学病院講師時代の1995年7月前半，中国内モンゴル自治区の北側に接するモンゴル国の最大年中イベント，ナーダム期間中に行われた日蒙オートバイレース，ウランバートル発着の“5,000km Rally Raid Mongol, 1995”2週間の委嘱救急医の一人として参加，早朝テント村で選手のメディカルチェックのあと大型ヘリコプターやジープで追走行，転倒で大腸が2ヵ所破裂した日本人ライダー（翌1996年10月，第24回日本救急医学会総会，横浜で有馬他3医師名で発表。ほか同ラリー風景，筆者らの選手モーニングチェック，ヘリでの緊急搬送状況などは1995年と1996年の2回NHKテレビで放送済み）をウランバートル第二病院にヘリ緊急搬送，手術も一部見学するなどの職務のほか，ヘリの操縦士が私ども救急班の希望でチンギス・ハン帝国時代の首都ハラホリン(カラコルム）エルデニゾーの城郭跡の真上を超低空で俯瞰眺望，13世紀のモンゴル帝国最盛期を身近に偲ぶことができました。
今回，8月9日午後に訪問したフフホト市北方郊外のシラムレン （希拉穆仁）草原では，17年前にナーダム3行事の1つウランバートル国立競技場での相撲競技や，少年たちによる草原競馬の終着場で競走馬が倒れて急死する壮絶な場面も見ている筆者にはやや物足りない感じもありましたが，快晴の草原ツアーで小セレモニーとしてのモンゴル相撲，競馬数頭のデモンストレーションを見学，パオ内でのモンゴル料理，馬頭琴演奏，民族舞踊を鑑賞しました。帰路夜行バスから降り，久しぶりに澄んだ大陸の夜空に輝く満天の星，天の川を仰ぎ感動しました。
傘寿を半年後に控えた筆者の29回目の日中学術交流が無事終わり，さらに2013年8月にハルビン市に予定されている第五回視察団にも1997年に初めてハルビン医科大学小児外科の招待講演でお世話になった老朋友にも再会できるかもしれないという希望を秘めて，筆者の傘寿記念の中国再訪問をと念じております。
8月末には第45回九州小児外科研究会(於九州大学病院研究棟，名誉世話人），9月初めは第3回日本プライマリケア連合学会(福岡国際会議場他，筆者認定医）に出席，さらに第35回日本膵・胆管合流異常研究会(東京，特別会員），温泉学会第17回鳥取三朝温泉大会と恒例の学会参加が続きました。心に残る印象や所感を記します。
Ⅰ．第4回中国医療事情視察団，内モンゴル自治区フフホト市内2病院視察と学術交流会
内モンゴル自治区は中国北方，モンゴル国，一部ロシア連邦と接する東西に細長い日本の3倍の面積で中国第3位の広さで人口約2,500万人。漢民族が80％を占めますが，街の案内板等の表示はモンゴル語が併記されています。
1．2012年度笹川医学奨学金進修生同学会学術交流会，フフホト市内蒙古水木年華(陽光）大酒店
日本財団の助成事業の1つで笹川記念保健協力財団と中国衛生部，日中医学協会の三者が協力して実施している奨学金制度で，中国の医学・医療分野の指導者となり得る人材育成を目的に中国在留の保健医療に従事する専門家を日本に1年間招請しており，1987年第1期生以来延べ2,100余人が日本に留学，帰国した研究者の多くが主要大学の学長や病院長，主任教授に就任し，2人は中国科学アカデミー会員に選ばれるなど，中国の医学・医療分野で中心的な役割を担っています。同学会はこの留学生の同窓会組織。2008年5月の四川大地震ではこの研究者たちが日本の国際緊急援助隊医療チームの通訳や中国国内の救急援助チームに参加，被災者の治療など行い，また2011年3月の東日本大震災では，自主的に義援金活動を行い，日本財団を通じて50万元を寄付，義援金活動は現在も行われています。
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| 写真 2 学術交流会議開会式風景 |
①中国医学科学院基礎医学研究所長 張学教授(北京，11期生）：Molecular Genetics of Hair Follicle Disorders。－先天性毛髪異常の分子遺伝学的研究。
②順天堂大学大学院認知症診断・予防・治療学河村病院認知症診断・予防・治療センター田平 武教授：アジア人の多発性硬化症(MS），1）欧米白人に多い古典的MS，2）アジア人に多い視神経，脊髄炎，3）フィリピン人に多かったが現在ほとんど見られなくなった急性MS(同心円硬化症Bal）等の症例提示。
午後は同学会会員の基礎医学，内科系発表6題：1）韓晶岩(9期生），2）汲娟娟(5期生），3）康熙雄，4）孟召偉(30期生），5）賽力克，対山拜(28期生），6）林穎(32期生）も活発な討論がありました。
閉会式のあとホテル3階の宴会室で催された晩餐会ではモンゴル料理，中華料理の美味を味わいながら，モンゴルの歌，馬頭琴演奏，カラオケなども交え宴たけなわの内に来年のハルビンでの再会を期待してお開きとなりました。
2．市内2病院視察
1）内蒙古医科大学附属医院(写真3）
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| 写真 3 内蒙古医科大学附属医院 |
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| 写真 4 内蒙古国際蒙医医院 |
1958年設立の三級甲病院，850床，外来延べ50万人，入院2万人，救急治療1千人以上の年間診療患者数を誇り，肝胆外科，泌尿外科，婦人科，口腔矯正科が重点専門医療。漢方の伝統医療なども見学しました。
2）内蒙古国際蒙医医院(写真4）
2012年4月に開業した中国初の三級甲等モンゴル医学総合病院，800床。モンゴル医学を基軸に現代医学と融合し，26のモンゴル医学一般臨床診療科が病院全体の76.5％を占めます。国家級モンゴル医薬の重点実験室と薬用植物研究室，分子腫瘍・細胞生物研究室，生物化学研究室があり，薬物の抽出・純化・分析にかかわる完全な実験装置を備え，米国・日本・インド・ロシア・モンゴル国等，外国や国内名門大学数校との間に協力関係を結んでいます。
3）モンゴル医学とは
モンゴル国(中国・内モンゴル等を含む）で行われている医学。モンゴルは文化的に中国と縁が深く，基本は中国医学。しかし，気候風土や遊牧という民族的特異性から，使用される薬物などに厳しい制約があるため，行われる医療は非常に特殊で家畜由来の薬や，厳しい環境でかろうじて入手できる数少ない薬物を用い，灸法もヨモギではなく馬糞を乾燥させた馬糞灸。他に温石－冷えた手足や患部を温めるという方法を行っています。
モンゴル医学の伝統療法の五療(医学療法・薬物療法・食事療法・理学療法・対話療法），整骨，ツボ按摩，心身医学的療法は，各種の複雑な難病症状に特殊な医療効果をもたらしています （第4回中国医療事情視察団 資料集，2012年8月，〔財〕 日中医学協会より）。
これらの治療の現場を国際蒙医医院の外来，病棟での質問も混じえて視察し，患者さんへのビデオによる心身医学的治療効果説明会会場にも視察団は一時臨席しました。
3．五塔寺(金剛座舎利宝塔），内蒙古博物院，王昭君陵墓等見学
1）8月9日市内見学。五塔寺(写真5）の塔は清の雍正年間(1723-1735年）に建てられた高さ13mの塔，1,560もの仏像が彫り込まれ別名千仏像。塔の土台側面には金色夜叉明王や，獅子，象，菩提樹などが精巧に彫刻されており，興味深く拝見。
2）内蒙古博物院は自治区成立60周年を記念して2007年の夏オープン，12万点超の収蔵品を8棟の基本展示室と6棟のテーマ展示室に収納する広大な施設で，その中のマンモス館で恐らく東洋一と思われる巨大な恐竜の全身骨格の実物(写真6）などを参観しました。
3）西漢・王昭君 〔王〕 之陵墓（“青冢”，自治区重要文物 写真7）33m高の丘登頂参詣，王昭君博物院等見学。
中国四大美女(王昭君，西施，楊貴妃楊玉琳，貂蝉）の中の王昭君をご存知でしょうか？
内モンゴル重要文化財の1つ昭君陵墓には，紀元前33年(前漢の竟寧元年）匈奴の王，呼韓邪単于(ぎかんやぜんう）が和親を求めて入朝して来た時，皇宮にいた王昭君は漢民族と異民族の和平のため，自ら志願して嫁いで行ったという彼女の陵墓は高さ33m(写真7）。これを膝を庇いながら登頂。頂上から見る墓，周辺の景色が三変する様を眺め，精巧な白色の立像等を参観しました(写真8）。
曰く，民の間に昭君墓あり，“朝は峰の如く，昼は鐘のごとく，夜は圦(布団）の如し”と。
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| 写真 5 内モンゴルフフホト市郊外の五塔寺 |
写真 7 内モンゴルフフホト市郊外の丘陵上の 昭君陵墓 |
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| 写真 6 内蒙古博物院の巨大恐竜全身の骨格 |
写真 8 王昭君陵墓公園内の昭君像・中国美人ら と共に |
1．温泉学会9月8日午後－9日午前：84人が参加。プランアールみさき4階会場で熱心な討議が行われました。印象に残った演題は，
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| 写真 9 三朝温泉大会シンポジウム風景 |
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| 写真10 えびたに橋近くの双眼鏡遥拝所で間近 に拝観できます |
1）〈特別講演〉細井義夫「福島原発事故による放射性物質の飛散と健康影響」(広島大学原爆放射線医科学研究所放射線災害医療研究センター教授/原爆放射線医科学研究所 副センター長，写真9）。
2）田中敏明「馬麗山－漢詩に映る古代中国の温泉文化」
3）木原康又「バードガシュタイン･ハイルシュトーレンコードにおける温泉療養の実際」
4）竹村和花 「EUの変わり種・温泉」
2．三徳山三佛寺宿坊ランチョンセミナー 9月9日午後
1）〔神と仏の山“三徳山(みとくさん）あれこれ”より
a）三徳山：鳥取県のほぼ中央，三朝温泉から約8km東方に位置し，慶雲3年(706年）役行者により修験道の行場として開山。全山が名勝史跡指定。
b）三佛寺名前の由来：開山の後，第三代天台座主で慈覚太師，円仁(838年，唐にわたり長安，揚州など各地をまわり，天台宗や密教などを学んだ後，847年に約560巻もの経典を持ち帰り，天台密教の基礎を築いた）により嘉祥2年(849年）に天台宗三徳山三佛寺という寺号が与えられ，釈迦如来，阿弥陀如来，大日如来の三尊が安置され，昔は38の堂舎と，寺坊を三千軒，寺領一万町歩，三千石を領していた。全国森林浴の森百選の1つ。
c）国宝・投入堂：三徳山を代表する建造物の1つ。修験道(厳しい自然に身をおいて悟りを開く教えのことで，修験者を山伏ともいう）の本尊。蔵王権現を安置するお堂。正式には手前の建物を蔵王殿，奥の建物を愛染堂という。三徳山の中腹標高500mの断崖の洞窟内に建ち，千年もの間，風雪に耐えて来た。近年，年輪年代測定法で投入堂の古材を調べた結果，平安時代後期 （11-12世紀）に建立されたことが立証されており，その複雑な構造から時代とともに増築されたとも考えられる。‘投入堂’と呼ぶのは役行者が三徳山を訪れた時，麓で造ったお堂を法力によって断崖絶壁の岩窟に投げ入れたという言い伝えからと。
今回の温泉学会参加での最大の目的でもあったこの日本が誇る最古の木造建造物岩窟寺社で国宝の投入堂拝観は，好天に恵まれながら，三徳山登り口近くの道路脇に備え付けられた投入堂遥拝所の双眼鏡(写真10）で投入堂(写真11）が柱の木目も見えるぐらいにごく間近に望まれ手前の蔵王電，奥の愛染堂共にくっきりと観察できました。さらに，近くの小川の橋の向こう岸からも肉眼ではっきりと遠望することができ，感動の連続でした(写真12）。その奥の九曜・千軒原の三徳山ウオーキングセンターの高台からは重文・文殊堂，地蔵堂なども遠望でき(写真13），三徳山の古く奥深い山相の佇まいを実感，古えを偲ぶことができました。
只今，天台修験道三徳山法流，中国観音霊場第三十一番札所，伯耆国観音霊場第二十九番札所 三徳山 三佛寺は世界遺産登録運動中です。
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| 写真11 三徳山三佛寺の国宝・投入堂， 愛染堂（左奥） |
写真13 ウォーキングセンターから重文・ 文殊堂，地蔵堂などを望む |
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| 写真12 三徳山・投入堂をえびたに橋より 望んで遥拝 |
写真14 三佛寺輪光院での精進料理付き ‘宿坊ランチョンセミナー’ |
三徳山の輪光院では同寺院住職の米田良中和尚とは三朝温泉の温泉大会会議場で同じテーブルに座った御縁から三徳山拝観時も親しくご案内をいただき感謝しています。ご住職のランチョンセミナーで(写真14）のお話と同宿坊ご自慢の精進料理，お寺の三佛寺地ビールをご馳走になりながら，4列の長座卓の座敷で各列毎に十数人での‘宿坊セミナー’開始。一人ずつ，2，3分ずつ自分の推薦する温泉等紹介。
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| 写真15 三徳山宝物殿で米田良中住職の お祓いを受ける |
筆者にとって今回の1ヵ月間2回の日・中の旅は，中国の内モンゴルでは王昭君の陵墓の見学やチベット仏教の寺院でマニ車を回し，五塔寺の阿弥陀如来なども拝観。日本では鳥取山奥の三佛寺で国宝の投入堂等遥拝，宝物殿では日本一美しい木造蔵王権現立像などの重要文化財を拝観できるなど，古のロマンや歴史に想いを馳せつつ，東洋の諸仏教，日本の神仏混淆の宗教文化遺産等にも触れることができ，心に残る実り多い旅となりました。日中両国の旅でお世話になった方々に深甚の謝意を表しますとともに，皆様方のご健勝ご多幸をお祈りいたします。
(2012.09.23秋分の日）
(C)Kagoshima City Medical Association 2012