=== 随筆・その他 ===

夏 の 終 わ り に



南区・谷山支部
(東開内科クリニック) 植松 俊昭

 盂蘭盆会を過ぎ,朝夕いくぶんか涼しさが感ぜられるようになりました。
 その上(かみ),藤原敏行も秋の立つ日に

 秋きぬと目にはさやかに見えねども
  風のおとにぞおどろかれぬる
                  (古今和歌集 秋上)
 と詠じています。
 今年もいま,夏が終わろうとしています。この夏,当クリニックの庭先にある藤棚に,クマゼミの脱け殻を数個みつけました。短い命を精いっぱい謳歌して果てたのでしょう。
 武鹿悦子さんに「ぬけがら」という美しい詩があります。

  せみが
  殻からでていった
  ひかりの網の
   ただなかへ

  せみの こころの
  おののきが
  残っているよな
   ぬけがらだ

 余談ながら,なじかは知らねどこの時期,いつもビートルズの「HERE THERE AND EVERYWHERE」を口ずさみたくなります。
 そういえば,晩夏を詠んだ吉井 勇の秀歌に

  夏ゆきぬ目にかなしくも残れるは
    君が締めたる麻の葉の帯

 ってのがありましたっけ。

 ところで,「夏の終わり」を象徴するもののひとつに赤とんぼが挙げられましょう。かつて,夏の終わりの頃,空いっぱいに辺りを赤く染め,飛び交っていた,あの真っ赤なとんぼです。精霊蜻蛉(しょうろうとんぼ)とも呼びならわし親しんだ,晩夏の風物詩でした。彼らはいま一体どこへ行っちまったんでしょう。
 ご存知のように唱歌の名曲に「赤蜻蛉(あかとんぼ)」(三木露風作詞・山田耕筰作曲)があります。
 北原白秋とともに明治詩壇の一時代を築いた三木は,当時奉職していたトラピスチヌ修道院で夕方,ふと目を上げた窓ガラスの外,「静かな空気と光のなかに,竿の先に,じっととまっている」一匹の赤とんぼを見て想を得たのだそうです(「ふるさとの歌がきこえる『季節の歌』春の小川はさらさらいくよ」ピエ・ブックス)。
 「夕焼 小焼の あかとんぼ 負われて 見たのは いつの日か」(『真珠島』所収)
 子どもの頃,「追われてみたのは」と勘違いして,なんか変な歌詞だなと思いつつ,うたってましたっけ。
 ついでながらこの時期になると,遠い日の夏の終わりに観た仏映画「さらば夏の日」(ルノー・ヴェルレー主演)が懐かしく思い出されます。
 その哀愁をおびたメロディの主題歌を昨年来欧米で大ブレークした由紀さおりがうたっています(「由紀さおり&ピンク・マルティーニ1969」)。ご一聴をおすすめします。
 それにしても,「ピンク・マルティーニ」ってどんなレシピのカクテルなのでしょうね。
 ジンとヴェルモットをステアするまではわかるけれど。



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