緑陰随筆特集

夏の思い出−薩摩狂句初心者への教え−
元鹿児島市医師会職員 武岡 志郎


 今年もまた暑い夏を迎えたが,この季節になると今でも忘れられない思い出がある。
 平成9年8月,私は鹿市医郷壇(当時は鹿市医狂壇)二代選者の実方天声先生に手紙を出した。
 それまで,初代選者の古藤雪尾先生の下で「鑑 至朗」・「小野蔦蔓」として薩摩狂句を投句したことはあったが,平成8年から本格的に投稿を始めたところ,1年を経過した頃,大きな壁を感じるようになった。果たして自分の句に狂句味があるか不安があった。また,選者の添削を受けた作品が自分の句として掲載されることに面映さを覚えていたこともあり,残暑見舞いも兼ね,その当時の心境を狂句にして吐露したものであった。
 今思うと,初心者ならではの心安さで失礼も省みずぶしつけな手紙であったが,数日後には思いがけず実方先生から返書をいただいたのであった。

 「暑中見舞い有難う御座いました。
 何時も素晴らしい句を見せて頂き感謝致して居ります。
 自分の作句に随分御謙遜のようですが,何時も着想の良さや,視野の広さに感心して居ります。最初のうちは,誰でも添削はつきもの,決して恥ずかしいことでは有りません。

 ○天が付っ 嬉しが恥んね 添削句
 (てんがちっ うれしがげんね てんさっく)
  △お答え
   添削が あろと良か句は 天な天
  (添削が あろとよかくは てんなてん)

 ○褒められっ 三日坊主ん 狂句が続っ
 (ほめられっ 三日坊主ん くがつづっ)

  △お答え
   三日坊主 ちゅどん磨けば 光い玉
  (みっかぼし ちゅどんみがけば ひかいたま)

 僅かな間に,見事な成長をとげられたことに,感心致して居ります。これからも一層御勉強され,益々輝きを増されますように,御期待申し上げまして,御礼の御挨拶と致します。」

 この手紙は私の宝物であり,薩摩狂句作りの励みとなっている。また,何度かの中断はあったものの現在も鹿市医郷壇への投稿を続けてこられた拠りどころにもなっている。
 あれから15年,実方先生も今は亡く(平成10年11月27日逝去),隔世の感があるが,近頃やっと「私の趣味は薩摩狂句です」と言えるようになった気がする。
 生来の不精者で締切日が迫るまでは腰を上げずに反省しきりであるが,先生の期待に沿えるよう原点に返って頑張ろう!

 締切日 間近け 慌こて 狂句を 捻っ
(しめきいび まじけ せしこて くを ひねっ)




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