(はじめに)
鹿児島市医師会の皆様には,かねてから検視業務をはじめとして警察業務の各般にわたりご理解とご協力をいただき,深く感謝申し上げます。
鹿児島県警察では,これまで,地域住民,自治体,関係機関・団体との協働による「犯罪を起こさせない・犯罪の起きにくい社会づくり」に取り組んでまいりました。その結果,県下では,ほとんどの自治体で「安全・安心まちづくり条例」が制定されたほか,県内各地で自主防犯ボランティア団体や青パト隊が結成され,自主的な防犯活動が活性化するなど県民の防犯意識の高まりが見られ,刑法犯認知件数は平成22年に戦後最少を記録し,平成23年もこれを更に更新するなど,いわゆる「指数治安」については一定の改善が見られるところです。
しかしながら,県下では,殺人,強盗等の県民に不安を与える重要犯罪が発生しているほか,高齢者が当事者となる交通死亡事故も高い割合で発生しており,また,本年1月に実施した県政モニターに対する「治安等に関するアンケート調査」では,県民の4人に1人が犯罪に遭うかもしれないと不安を感じているなど,「体感治安」は依然として厳しい水準にあります。
そこで,県警察では,平成24年を「治安向上元年」と位置づけ,「日本一安全で安心な鹿児島」を実現するため各種の施策を推進しており,県下に28ある警察署においても,それぞれの地域の特性を踏まえながら取り組んでいるところです。
私ども鹿児島中央警察署は,鹿児島市の天文館などの中心部及び桜島,三島村並びに十島村を管轄していますが,当署として「日本一安全で安心な鹿児島」の実現に向けて取り組んでいる状況についてご紹介したいと思います。
1.犯罪抑止対策
○自転車盗対策
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写真 振り込め詐欺被害防止総決起大会の様子
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昨年1年間の県内での刑法犯認知件数は約1万件ですが,その約2割(約2,000件)が当署管内で発生しています(表)。また,当署では自転車の盗難事件が発生件数の約3割を占めています。こうした状況から,自転車盗難の発生が特に多い上荒田,下荒田,天文館,鴨池の各地区において,青パト隊などの自主防犯ボランティア団体の皆さんと連携してパトロール活動を集中的に行い,犯罪の抑止に取り組んでいます。
○振り込め詐欺防止対策
鹿児島県内における本年5月末現在の振り込め詐欺は認知件数5件,被害額は約800万円です。前年と比べ件数,被害額共に減少してはいるものの,今なお被害が発生しています。
当署ではこの抑止策として,各金融機関の窓口において振り込め詐欺防止訓練を実施するとともに,当署の「安心・安全大使」として委嘱している人気の地元ヒーロー「薩摩剣士隼人」などが出演した,「そん振り込み,いっとっ待て!」と題する振り込め詐欺防止広報DVDを作成し,広報活動に活用しています。
また,本年5月には鹿児島市内のホテルにおいて,老人クラブや各種関係機関など約400人による「振り込め詐欺防止総決起大会」を開催し,ここでも「薩摩剣士隼人」が参加して被害の防止を訴えるなど,工夫を凝らした広報活動を展開しています(写真)。
2.天文館対策
○天文館対策課の設置
当署には,南九州随一の繁華街である天文館地区の治安対策を担当する天文館対策課がありますが,このように特定の繁華街の対策を担当する課を設置している警察署は全国でも当署だけです。平成17年の設置以来,天文館地区における防犯対策,暴力団対策,暴走族対策などを推進するとともに,客引き行為など違法な風俗関連事案の取締りを行ってきています。
○天ちゃん会
平成20年に,地元町内会,通り会,社交業組合等の各種団体,金融機関,行政機関などによる「天ちゃん会」が組織され,当署との連携の下,天文館地区の環境浄化(清掃活動など)とマナーアップに取り組んでいただいております。
この天ちゃん会の活動には,署員はもちろん,天文館対策のマスコットである「天ちゃん」「天子ちゃん」や,署員で結成している「天ちゃん劇団」も随時参加し,官民一体となった活動を展開しています。
○街頭防犯カメラの設置
このように,地区ぐるみでの防犯意識の高まりを受けて,最近では,街頭防犯カメラを設置される通り会が増えており,天文館地区全体の犯罪抑止力が大幅に向上してきています。
3.暴力団対策
○暴力団事務所撤去運動を踏まえた暴力団排除活動の推進
平成4年に暴力団対策法が施行され,警察の取締りや公共工事からの暴力団排除の施策等が強化された結果,暴力団は規制から逃れるため,企業活動や政治活動を装う一方で,拳銃を使用した対立抗争事件を引き起こすなど市民生活や経済活動に多大な影響を及ぼしています。本県においては,平成11年頃から県外暴力団員の数が県内暴力団員の数を上回り,県外暴力団の進出が顕著になってきました。
そのような情勢の中,平成19年5月,当署管内である鹿児島市西千石町で県外暴力団事務所の存在が明らかとなり,この追放運動に立ち上がった市民のリーダーが刺されるという事件が発生しました。その後,この事務所は市民の皆さんの粘り強い活動により撤去されましたが,これを機に県内において暴力団排除の気運が更に盛り上がり,「鹿児島県暴力団排除活動の推進に関する条例」が制定され,平成22年4月1日から施行されています。
当署においても,こうした経緯を踏まえ,暴力団については公共工事や公営住宅からの排除はもとより,広く経済活動の場からも排除すべく,市民,各種事業者,関係機関・団体と一体となって取り組んでいます。
4.交通事故防止対策
○高齢者対策
本県の交通事故による死者の過半数が高齢者(65歳以上)であり,全国平均を大きく上回っています。また,当署管内も同様で,昨年の死者5人のうち,4人が高齢者でした。こうした傾向を踏まえ,県警察では平成22年2月から「おやっとさあ」運動と銘打った高齢者保護活動を展開しており,当署では荒田一・二丁目を「安全・安心エリア」に指定し,街頭での警戒活動や高齢者への呼びかけなどの対策を推進しています。
また,高齢者の交通事故を防止するため,平成22年11月,鹿児島県警察と鹿児島県医師会,鹿児島県歯科医師会及び鹿児島県薬剤師会との間で協定を締結させていただきました。今後とも医療施設を利用される高齢者に対し,交通安全一口アドバイスを実施していただくなど,ご理解,ご協力をお願いします。
○ゾーン30対策
「ゾーン30」という考え方は,欧米で広く採用されている生活道路対策の一種で,生活ゾーン内の速度規制を原則30q/hとし,生活環境の静穏化及び安全性の向上を図ろうとする施策ですが,歩行者が交通事故で死亡もしくは重傷化する確率が30q/hを境に急増するといわれています。このことから県警察では,生活道路や学校周辺などの一定区域内については,最高速度を30q/hとするゾーン対策を図っています。
当署管内におきましては,天保山や八幡地区の4箇所を選定しており,今後,地域住民のご理解をいただきながら,道路管理者等とも連携して,速度規制や法定外標示を組み合わせて安全対策を強化してまいります。
○自転車総合対策
自転車関連交通事故抑止対策の一環として,当署管内においても国道10号や天文館アーケード地区を「自転車指導啓発重点地区・路線」として選定し,街頭指導啓発等の取組を強化しているところですが,自転車利用者によるルール・マナー違反が依然として見られることから,市民の皆さんに,自転車は「車両」であるとの認識を持っていただくよう街頭での指導活動を強化しています。
一方,ハード対策につきましても,自転車横断帯の整備など自転車利用者の利便性を向上させるための取組も更に実施してまいります。
5.災害対策
○各種災害対策の実施と災害警備計画の見直し
当署は4つの火山(桜島,中之島,諏訪瀬島,硫黄島)をかかえており,中でも桜島の昭和火口は昨年,観測史上最多となる996回の爆発を数え,本年も7月現在で600回を超える爆発をするなど火山活動が一段と活発化しています。このような状況から,鹿児島地方気象台の協力を得て噴火活動に関する情報提供を受け,火山活動の情勢把握に努めています。
また,当署では,過去に大雨による甚大な被害が発生した竜ヶ水地区をはじめ,特に崖崩れ,地滑り,家屋浸水等の災害が発生するおそれがある地域について,重点的な警戒を行うとともに,地域住民に対して,災害発生の前兆や日頃の備え,避難場所,避難路の確認,早めの避難等について,「薩摩剣士隼人」の協力による広報活動を行い,防災意識の醸成に努めています。
なお,昨年の東日本大震災をはじめ,最近頻発している集中豪雨,火山爆発等の災害対応で得られた警察運営上の反省・教訓等を踏まえ,当署として実施すべき災害警備活動に関する計画の見直しを行っているところです。
(おわりに)
以上,鹿児島中央警察署の取組状況をご紹介しました。今後とも署員一同,国家と国民に奉仕するという警察の原点を忘れることなく,「国民のために尽くす」という熱い使命感を持って,県民が事件や事故の被害に遭わない「日本一安全で安心な鹿児島」の実現を目指し業務に取り組んでいきますので,今後とも鹿児島市医師会の皆様のご理解とご協力をよろしくお願いします。

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