緑陰随筆特集
社会保障・税の一体改革と医療改革について |
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消費税法案が6月26日に可決され,2年後に消費税が8%に,3年後に10%に引き上げられることになった。消費税に関しては医療機関の損税問題があり,無関心ではおれないが,消費税増税が声高に議論され始めたのは,社会保障と税の一体改革が基である。社会保障と税の一体改革について厚生労働省はホームページでPRしているが,年金については,財源の確保のみであり,現在の年金制度の抜本的な見直しについては言及していないなど,どうも机上の計画のような性格が強く感じられる。年金は本当に大丈夫なのだろうか,少子化対策は上手くいくのだろうか,国が報酬を決められる医療改革のみ進められるのではなかろうかなどと考えてしまう。識者の言によれば,消費税10%では,とても足りず,さらに10%の増税が必要であるとのことであるので,なおさらそのように考えてしまう。
野田内閣にすれば,社会保障と税の一体改革を実現するのは財源の確保からということだろうと思うが,社会保障と税の一体改革が,財務省の主導であれば,増税が決着した後,
社会保障部分がおざなりになることも考えられ,そうならないことを願っている。
さて,社会保障と税の一体改革の素案骨子の段階から大綱の閣議決定までの間に,社会保障の改革を必要とする根拠となる多くのデータが示された。全ての資料の基礎になっているのが今後の高齢者の増加である。そして目標年を2025年にしている。増加する高齢者の医療・介護をどうするかは,喫緊の課題であるが,今回の診療報酬と介護報酬の同時改定は,消費税論議が先行する中,社会保障と税の一体改革に向けて政府から医療・介護の面での改革開始のメッセージであったと考える。
今回の改定を概括すれば,「医療から介護へ,入院・入所から在宅へ」である。その端的な表れが次の図である(図1)。
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図 1 医療・介護サービスの需要と供給(必要ベッド数)の見込み
中医協資料(平成23年11月25日開催)より
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この図は,一般病床では,2011年は107万床であり,現状投影シナリオ(このまま推移すれば)では129万床必要になるが,2025年には高度急性期22万床,一般急性期46万床,亜急性期等35万床の合計103万床にする。地域一般病床を創設するとした場合,これらの中から24万床を地域一般病床に振り向ける。長期療養28万床,精神病床27万床にし,必要と見込まれる病床数より少なくする。介護施設や居住系事業所も同様に収容数を必要数より少なくするという図である。つまり,医療機関や介護施設等に入院・入所できない方々が生じるが,その方々は在宅で療養サービス,介護サービスを受けるということをこの図で明確に示しているのである。在宅での療養・介護の推進は,増大する医療費・介護費を施設の抑制により抑え,一方で増大する医療・介護の需要を在宅で供給しようとする一石二鳥を狙っての施策である。
そして,在宅での療養・介護を支えようとする仕組みが,厚労省が提唱している地域包括ケアシステムである。
この図で,疑問に思うことは,マンパワーも移動しなければならないが,医療機関の資格者が,そのまま介護事業所に移らないのではないかということ。そのため,介護事業所は,業務の中心を担う介護職員を新たに確保しなければならないが,介護職員の確保が厳しい現状の中で果たして確保できるのだろうかという点である。
一般病床については,次の図で,入院基本料ごとに,より鮮明に説明されている(図2)。
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図 2 現在の一般病棟入院基本料の病床数
中医協資料(平成23年11月25日開催)より
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2025年の病床イメージに合わせるには,現在,最も病床数の多い7対1病床を大きく減少させることを示している。今回の診療報酬改定で,7対1病棟の入院基本料については,平均在院日数が19日以内から18日以内になり,看護必要度の高い患者の割合が1割以上から1.5割以上に要件が厳しくなった。2025年までに診療報酬の改定が6回,介護報酬の改定が4回あり,うち診療報酬と介護報酬の同時改定が2回ある。その度ごとに要件が厳しくなっていくのではないかと考えられる。
他に,施設から在宅への誘導は,今回の改定で数多く見られる。介護報酬では,複合型サービス,定期巡回・随時対応型サービスの新設,老人保健施設の在宅復帰率や平均在所日数の設定,訪問リハビリテーションの要件緩和,医療連携加算や退院・退所加算の見直しなど,診療報酬では,「医療と介護の役割分担の明確化と地域における連携体制の強化及び在宅医療の充実」を重点課題とし,強化型の在支診・在支病の創設,訪問看護ステーションの各処遇の評価引き上げと介護保険との整合,ターミナルケア加算の見直し,退院調整加算の新設,総合評価加算の引き上げ,維持期リハビリテーションの引き下げなどがある。中でも維持期リハビリテーションについては,「要介護被保険者に対する維持期リハビリテーションは原則として平成26年3月31日までとする(次回改定時に介護サービスにおける充実状況等を確認する)。」となっており,医療機関で,要介護者に対する維持期リハビリテーションが2年後にはできなくなることが明記された。それに呼応するように通所リハビリテーションの2時間以上3時間未満の基本点数が引き上げられるとともに,リハビリテーションマネジメント加算の算定要件が緩和された。
以上のことから,今回の同時改定は,診療報酬は中医協(中央社会保険医療協議会)で,介護報酬は社会保障審議会で決定という従来の形式を取りながら,実に多くの点で連動しており,これまで,個々の項目の改定を行い,その積み上げが改定結果であったことと異なり,ひとつの目的,つまり地域包括ケアシステムの構築に向けて改定されている点に大きな特徴がある。
また,この特徴故に,問題点も内包している。第1の問題点は,在宅療養・介護は家族の大きな負担を前提としていることである。現在の制度では,在宅療養や在宅介護は,施設サービスに比べ費用が安価である。それは,@在宅であれば大きな施設を建設する必要がないこと=施設・設備費が少ない,A介護サービス事業所のサービス提供時間は全ての利用者に対して24時間対応していないこと=人件費が少ない,Bその分を家族介護によりカバーしていることである。家族に負担を強いる制度をセットしようとしていることは,介護の負担が十分にできる家族がいることを前提にしている。
先程の図1での現状投影シナリオは,介護施設161万人分,居住系52万人分の合計213万人分が必要とされながら,改革シナリオでは合計192万人分とされており,その差である少なくとも21万人の方々は,在宅で介護サービスを受ける必要があり,家族介護と介護サービスがセットでなければならないことになる。その21万人分は,今回の社会保障と税の一体改革や介護報酬の改定において示された資料の中にある2025年の介護サービス受給者数の予測数値によると,小規模多機能施設(現状投影シナリオ8万人分,改革シナリオ40万人分)が受け入れるとの数値になっている。しかしながら,小規模多機能施設がショートスティの機能を十分に発揮したとしても家族介護と介護サービスがセットでなければならないことに変わりはなく,現状から見て,在宅での療養や介護の負担を多くの家族が受け入れられるだろうかという疑問は払拭できない。家族介護を前提に介護サービスを受ける仕組みは,その点にもろさがあると考える。
ちなみに,厚生労働省と国土交通省が推進しているサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)について,高齢者に対する住まいの提供という点と介護サービスが同一建物内にあるので,サービス受給の利便性は高いが,介護サービスは24時間誰かが身近にいるわけではないので,家族の代わりをする者の配置とその費用を考慮しなければならない。建設に対する補助制度があるが,運営面でも,その点を考慮していただきたいものである。
第2の問題点は,2025年を目標にした今回の改定も,今後行われる改定も都市部のための改定であることである。2025年問題は都市部において急増している高齢者の問題であり,
このため,郡部にそぐわない改定内容になっている。
例えば,強化型在支診(在宅療養支援診療所),在支病(在宅療養支援病院)である。医師不足が深刻な郡部において医師が3人もいる診療所は,ほとんど存在しない。医師が1人の診療所が連携すれば要件を満たすが,それぞれの地域でそれぞれの患者の通常の診療を行った上に,在支診としての診療を行うことは大きな負担である。病院との連携でも要件を満たすが,病院としても医師1人を在宅に回すには医師の確保が困難である。結局,郡部において,強化型在支診,在支病として機能する医療機関は限られたものになる。
もうひとつ例にあげると,訪問診療料が,都市部を前提に定められている。都市部の大型集合住宅で移動時間をさほど要せずに数件を訪問できる場合は,2件目以降が200点であることは理解できる点がある。しかし,郡部において,距離のある自宅まで長い時間をかけ訪問し,高齢者夫婦を診療した場合は,本当に妥当な設定だと言えるだろうか。
以上のことから,今回の診療報酬と介護報酬の同時改定から地域における医療機関が今後どうあるべきかを考えた時に,ひとつの形態として,医療と介護の複合体がますます重要な意味を持ってくると思われる。
国が進めようとしている地域包括ケアは,中学校区を単位とした範囲で,高齢者に対する見守りや医療・介護サービスを切れ目なく提供しようとする仕組みであり,そのために医療と介護の連携を重視している。現在,医療と介護の複合体は,かなり存在してきているが,医療・介護の各事業を併設し,同じ利用者に対し,医療が必要な場合は医療サービスを提供し,介護が必要な時は,その方の状態に応じた適切なケアプランを立て介護サービスを提供し,住まいの利便性も提供する。ひとつの事業体であるので,事業所間の連携は十分に行え,高齢者が必要な医療・介護サービスを必要な時に受けられる。このように,地域包括ケアを先取りした形態が今後のひとつの方向であろうと考えているし,地域の医療機関として,地域に大きな貢献ができるので,医療と介護の複合体が,今後の医療・介護における新たな枠組みのひとつではなかろうかと考えている。

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