緑陰随筆特集 2012上海第45回太平洋小児外科学会議（PAPS）の印象と 第５回東京大会以降の想い出

東区・紫南支部　有馬　榮�ｺ

写真 1　2012上海 第45回PAPS学会風景 写真 2　張 金哲先生（左）と筆者 写真 3　右から筆者，張 金哲先生，岩中 督教授（東大） 　2012年6月3日〜7日，初めて中国で開催された第45回太平洋小児外科学会議（The 45th Annual Meeting of Pacific Association of Pediatric Surgeons, Shanghai：写真1）に参加し，老朋友で91歳の現在も現役で活躍され,日本の故 福田 保（順天堂大学）・故 若林 修（日本大学）先生などとともに，同学会名誉会員（13人）の1人でもある北京児童医院院長の張 金哲先生（写真2, 写真3）はじめ日本，中国，台湾，韓国，米国，インドほかヨーロッパなどからも参加した旧知の小児外科医と旧交を温め，新進の小児外科医とも接触する機会を得ました。 　日本で初めてのPAPS会議（第5回）は1972年6月，東京品川のプリンスホテルでLocal chairman順天堂大学の駿河敬次郎教授により開催されました。当時，筆者は鹿児島大学第二外科助手。会議の半年前に同二外科文部教官籍で鹿児島県育英財団の奨学金を得て，UCLA（米国カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校）外科，小児外科部門（Fonkalsrud教授）に留学，半年で一時帰国，東京会議の進行係と2題口演発表（Arima, E. & Sakoguchi, Y.; Arima, E. & Fonkalsrud, E.W.）。引き続き計30数題の演題を同第6，7，8，9，10，11，12，16，17，22，23，24，26回会議で口演，一部展示発表し，座長も勤め，大阪1978年（故 植田 隆先生主催），福岡1983年（故 池田恵一教授主催）大会等でも会議の運営のお手伝いもしました。大学病院停年退官後も第41回（米国中部ワイオミング州ジャクソン湖畔）と今回の上海大会に非会員の1人とてして参加，往時を偲び，旧知の各国の小児外科医とも旧交を温めることが出来ました（鹿児島大学医学部外科学第二講座開講記念会報第16号；1974−第21号；1984，鹿児島大学小児外科医局年報創刊号；1981，鹿児島大学医学部附属動物実験施設年報創刊号；1975−第19号；1994等参照）。 　過去40年余のPAPS例会の中から筆者の記憶に残る幾つかの想い出を記します。 1．LA道場柔道師範手伝い中右腰部受傷，日本初の東京PAPS（1972年6月）参加発表が危機に！ 　中途帰国前年の12月に公用旅券2冊を取得，当時ハワイでの出入国手続きを経て前記UCLA外科へ留学。講道館柔道5段の筆者は大学在学中に稽古をつけていただいていた旧知で，当時LA郊外の道場師範の田畑 実5段やUCLAキャンパスに近いソーテル柔道クラブの日系道場主，さらにレドンドビーチ柔道クラブ師範で枕崎出身の道場主，中渡瀬6段に格別のお引き立てをいただき，週3回夕刻に道場通いの青少年の乱取り稽古の非常勤師範を担当し，さらにほとんど毎週日曜日に催される道場間の対抗試合や南カリフォルニア柔道会の定期地区別大会でのRescue doctor（試合に必須）も依頼され, ときには1回100ドル（当時1ドル＝360円）の謝礼をいただくこともありました。UCLA単身留学後5ヵ月目のある日，レドンドビーチ道場の夕刻の乱取り練習中, 屈強の黒人の大男を筆者が膝つきの背負い投げで投げた瞬間，“ブツッ！”と鈍い音がして筆者の右腸骨部附近の筋腱の痛みが出現, 以後2週間ほど，UCLA Harbor General Hospitalの研究室に蟄居してマウスを用いた小児がん実験を続けながらしばし療養を続け，やっと東京PAPSの1週間ほど前に軽快しました。UCLA本院に帰り，ある日廊下で外科学教室主任のLongmire教授とすれ違い,「なんでびっこを引いているの」と尋ねられ，赤面しつつ「柔道の稽古で」と弁明する始末。ともかくぎりぎりまで約1週間の東京PAPS会議参加と家族3人（女房と小1の息子 〔現在心療内科医〕，幼稚園の娘；のち子供たちは，LA国際空港近くのイングルウッド小学校と幼稚園入学）同伴再渡米の見通しがつき，無事一時帰国することが出来ました。2年間のUCLA外科留学中に柔道関係で知り合った日系人を含む米国人は百人を超え，40年以上経った今でもお付き合いしている方もあります。筆者の卓上に置かれた柔道着姿自然体の金色金属製人形の下にLA柔道クラブからの筆者への感謝状が彫り込まれた同色金属板を組み込んだ電球式の和式寝室用の行燈。これを見る度に半世紀近く前のUCLAやLA柔道界へのもうひとつの留学, 講道館柔道の普及活動とRescue doctorとしての活動も, 全国の中学校体育必修科目に柔道が組み込まれる現況を見て，私なりに意義のある留学だったのではと思っています。 　UCLA外科留学の後輩でUCLAの学生に柔道を教えていたという前名古屋大学第一外科教授，前愛知県がんセンター総長の二村雄次氏（当時5段，現在6段）は今も柔道界の現役で，日本医師会の年齢別大会では毎年優勝されています。 2．あと1人，目前でPAPS懇親祝賀会で皇太子謁見を逃す！宮内庁病院見学体験 　1983年6月の第16回福岡PAPSでは会議の運営もいろいろお手伝いしながら, 4演題を発表。皇太子をお迎えして盛大な歓迎祝賀会が宝塚歌劇団のショーの後に催されました。皇太子も舞台に出られ, 壇上にいた来賓，評議員等で混雑する中, 一部が列を作ってご挨拶をしましたが，丁度筆者の前で皇太子ご案内係が腕で遮って「これまでです」と。無念。それも, 筆者が皇太子にお話ししたいと願っていたのは, 筆者の家内の母方伯父が目黒で産婦人科医院を開業しながら宮内庁病院の産婦人科医長を務めており，丁度皇太子の宮内庁病院でのご出産に東大産婦人科の小林 隆教授と立ち会っていたこと。その伯父，故 目崎鉱太は昭和医大出身で鹿児島市にある今給黎総合病院の創設者で元理事長今給黎満幸氏と同級生。来鹿時, 時折同病院を訪ねていました。家内との結婚早々，40数年前にその伯父に宮内庁病院の病室など案内してもらい，天皇，皇后両陛下のベッドが電動式で動く様子など見学していたのです。 3．中国小児外科国際会議の始まり，張金哲北京児童医院院長との再会 　PAPSの中国本土での開催は本年6月の第45回が初めてですが，小児外科の国際会議は筆者が初めて参加した1984年天津で催された韓茂棠氏主催のInternational Symposium on Pediatric Surgery（ISPS）では, 亡父有馬勇二郎が中国東北部で1945年に八路軍軍医として留用され, 1952年帰国を許されるまでの3年ほど，天津第一軍医大学の外科講師として勤務した土地でもあり，その跡地の解放軍栄養研究施設も訪れることができました。 　その同じ天津第一軍医大学の附属病院に亡父（外科講師）と同じ時期に前記張 金哲先生が麻酔科レジデントとして勤務中だったということを本年2月, 小生の誕生祝い（79歳を傘寿と勘違いされて）に自筆の祝いの書幅を送っていただいた時のメールで初めて知り，驚いています。 　第1回ISPSでは2題口演発表。歓迎宴の後のダンスパーティーで故 葛西森夫先生（東北大学）の優美なワルツのステップが印象に残っています。筆者も日本人の英語が分かりやすいからと，英会話の勉強に来たという女子学生と2，3曲踊りました。学会後は北京児童医院（張 金哲一般外科主任）見学後, 上海, 西安，桂林，広州を韓主任医師の案内で周遊し，中国の歴史の壮大さを実感，感動しました。 以下, 小児外科関係の訪中を略記します。 1）1984年10〜11月 第1回国際小児外科シンポジウム（ISPS）天津，上記。 2）1988年10月 第2回ISPS：天津，座長2，口演2，手術映画1，天津児童医院視察。 3）1991年5月 第23回アジア小児外科学会議（AAPS；Asian Association of Pediatric Surgery），香港，手術映画1，示説口演2。 4）1991年5月 北京アジア小児外科学会議，1991年国際カンファレンス, 座長1, 口演4。 5）1992年11月 北京日中医学大会，'92日中小児外科学術交流会議，座長1，口演1，手術ビデオ1。 6）1993年7月 北京ISPS'93，座長1，口演，手術ビデオ1。 7）1994年11月 第12回AAPS，香港，口演2。 8）1995年8月 中華医学会小児外科招待シンポジウム，昆明，講演1，児童医院等視察。 　次に単身訪中の招待講演，手術供覧等を略記します。 1）1986年 遼寧 中国医科大学第二医院，招待講演2，手術映画1，病院等視察，王慧貞小児外科教授案内。 2）1988年10〜11月 ウルムチ新疆医学院，招待講演6，手術映画供覧1，手術供覧（鎖肛他小児2，成人胆道拡張症等根治術など計4例/日）, 病棟回診，王 士平教授・徐 徳生先生案内。 3）1988年11月 済寧医学院，招待講演4，手術映画1。第1人民医院招待講演1，病棟回診，希 賢先生案内。 4）1992年11月 大連大化医院，招待講演2，手術映画1，手術・術後管理ビデオ1，王興国先生案内（旅順等）。 5）1993年11月 長沙湖南医科大学，招待講演1，手術映画1，病棟回診，晏 仲舒教授案内。長沙第四医院，招待講演1，手術映画1，病棟回診，陳 斉国先生案内。 6）ハルビン医科大学，招待講演2，陶 文芳教授・江 啓俊教授（小児外科），鄭 方教授（麻酔科）案内。 　（鹿児島大学医学部附属動物実験施設年報第9号；1984，第14号；1989，第17号；1992，第18号；1993，第19号；1994。有馬榮�ｺ：幾度か生命の危機に直面して−終戦後まで中国東北部の病院長，その後八路軍医流用の父の遺稿より−，‘戦争の記憶−問われているのは何か’文教図書出版株式会社刊，2004等参照）。 　すべて筆者単独訪中であり, 文部教官現職のタイトな日程のため招聘先にはご迷惑をお掛けしたこともあると思いますが, ご招待いただいた中国の小児外科医の方々に深く感謝しています。私自身も日本だけでなく，先進国の当時の状況をBAPS（British Association of Paediatric Surgeons：英国小児外科学医会，筆者海外正会員）やAAPS（American Association of Pediatric Surgeons：米国小児外科医会, UNLA留学時口演発表），前記PAPSなどの学会参加, 発表などで積極的に吸収しつつ勉強させていただき中国との学術交流時に紹介しました。 　大学病院を1998年に定年退官してすでに14年，今回の上海PAPS会議での発表内容には格段の進歩が見られ，映像供覧も近代化されていました。特に，長年中国の小児外科を観てきた筆者にはその劇的な進歩に驚いています。中国固有の伝統医学を小児外科へ活用するより進歩した導入を垣間見ることも出来ました（筆者は日中医学協会維持会員として中国伝統医学視察にも参加中）。益々の発展を期待しています。 　本会議出席の目的の1つでもあった筆者の本医報第51巻第2号拙著「中国海南島…南方医科大学視察訪問」の抜刷り（邦文）や，英訳，中文訳別刷りを老朋友を含む各国の参加会員の方々に贈呈し，1987年以来延べ2,100人の中国医学・医療分野の日本留学（1年間，笹川医学奨学金，中国衛生部，日中医学協会協力）で中国科学アカデミー会員，主要大學の学長，教授などとして活躍，毎年中国の地区毎の同窓会で研究発表会の進修同学会交流会議が開催されていることを紹介出来たのも幸いでした。本年7月18日の富山での日本消化器外科学会の定時社員総会，振興会評議員会（筆者特別会員，永久専門医）等に参加，8月には内モンゴルの上記の2012年笹川医学奨学金第4回進修同学会学術交流会に参加予定です。 写真 4　上海旦大学附属児科医院副院長， 本会議のChair person鄭 珊先生（左）と筆者 　終わりに2012上海PAPS（会場：富豪環球東亜酒店）を担当された上海Children's Hospital of Fudan University（旦大学附属児科医院）副院長のLocal Organizing Committee Chair Person. Dr. Shan Zheng（鄭 珊先生，写真4左）はじめ関係者の皆様方に本会議のご盛会，ご成功を慶賀申し上げ，皆様方のご健勝，ご多幸を祈念いたします。（2012.06.27）

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