緑陰随筆特集

「新人助産師を育てる会」が新人助産師合同研修事業を立ち上げて
鹿児島大学医学部保健学科
母性・小児看護学講座 教授 吉留 厚子
 
研修会風景



はじめに
 医療の高度化や在院日数の短縮化,医療安全に対する意識の高まりなどの国民のニーズの変化を背景に,臨床現場で必要とされる臨床実践能力と看護基礎教育で修得する看護実践能力との間には乖離が生じています。看護基礎教育においては,臨地実習で看護技術を経験する機会が限られる傾向にあり,新人看護職員の中には,就職後,リアリティショックによって早期に離職する者もいます。こうした状況を踏まえ,良質な医療の提供体制の確立に向けて,看護職員の資質及び能力の一層の向上を図ることが急務1)と指摘されています。鹿児島県でも新人看護職の離職率は10%を超えているのは2),大きな課題であると感じています。看護職が長く働ける環境を整えることが必要であると思われます。対策の一つとして,看護教育の基礎と臨床の乖離を埋めるためには,卒業後の教育が重要であると認知されるようになりました。平成21年7月の保健師助産師看護師法及び看護師等の人材確保の促進に関する法律の改正により,平成22年4月1日から新たに業務に従事する看護職員の臨床研修等が努力義務となり,厚生労働省の補助金を得て,各施設において新人看護職研修が実施されるようになりました。

「新人助産師を育てる会」の立ち上げ
 助産師の新人研修に関しては,各施設とも就職する助産師数が少なく,教育を行う人材の確保も難しいため,助産師に特化した研修はなされていないのが現状です。そこで,私たち助産師教育に携わっている者,臨床で助産活動をしている助産師が一丸となり,後輩助産師の育成のため「新人助産師を育てる会」を立ち上げました。新人助産師合同研修を平成24年より実施するために,平成23年12月より研修プログラム内容の検討,講師をどのようにするかなど話し合いました。県下で勤務する新人助産師数を知るために,助産師教育をしている県下3校より,県内就職予定の助産師学生数を把握し,受講予定数を算出しました。平成24年2月の終わりに研修プログラムと日程,講師が決定しましたので,3月の中旬に募集の案内を鹿児島県の産科を標榜する施設に郵送しました。受講要件を助産師経験2年目までとしていましたが,3年目も受講させてほしいとの問い合わせが寄せられたので,3年目までの助産師が参加することとしました。


新人助産師だけでなく中堅助産師も受講の希望
 この研修の案内を施設に送付した結果,思わぬ申し出がありました。新人助産師はもちろんのこと中堅助産師からも,この新人助産師合同研修に参加したいという希望が寄せられました。申し出を受けて,「新人助産師を育てる会」で検討し,講義・演習の内容は新人助産師に合わせることに変わりはないですが,それでも希望する助産師がいれば受講を可能とすることにしました。このように今回の研修は完全にオープンではありませんが,セミオープンで実施することとしました。

第1回「母体・胎児の健康診査に必要な検査・妊産婦の助産診断技術」の研修会
 6月16日,鹿児島大学医学部保健学科601号室で研修会が開始され,新人助産師41人,その他の助産師3人が参加しました。講義の後,内診・外診の演習がありました。受講生が多かったので,演習グループとグループワークの2つのグループに分け,一方は演習を行い,その後交代し全ての受講生が両方体験できるようにしました。予定時間を過ぎて終了しましたが,受講生全員が「大変満足」「ほぼ満足」とし,「実際に仕事をするうえで活用できると思った」「他の病院の助産師の思いを聞くいい機会となった」「先輩助産師の講義なので何気ない一言がとてもためになった」「いろいろな病院の方と話す機会ができ,経験年数の異なる人の話が聞けてよかった」と施設を超えた合同研修の利点も認められました。さらに,助産師として3年目までの助産師も参加したことで,先輩助産師の話も聞くことができ,経験を伝えることにより,新人助産師によい影響を与えたようでした。また,同じ学校の卒業生が顔を合わせた様子も垣間見て,楽しそうな雰囲気も見ることができ,施設を超えた今後のつながりに期待ができそうで,実施主体者も嬉しくなりました。この研修は,助産師同士のつながりや就職してからの体験を見直すうえでも有効であると感じられ,若い助産師たちに将来の希望をもつことができると感じさせられました。

おわりに
 今回の新人助産師研修は,何らかの組織があって始めたわけではなく,私たちの手で新人を育てたいという気持ちにかられ,助産師の仲間が団結した結果でした。しかし,まだ1回目が終わっただけで,2,3,4,5回と10月まで続くので,気を引き締めて臨みたいと思います。研修が終わる毎に評価をして,来年につなげたいと私たちは思っています。

 最後に「新人助産師を育てる会」のメンバーを紹介します。
 鹿児島大学医学部保健学科 吉留 厚子
 愛育病院 片平久美子
 バルンハウス上野助産所 上野ひとみ
 鹿屋医療センター 野元 美穂
 今村病院 松下加代子
 鹿児島大学医学部・歯学部附属病院 鎌賀  愛
 鹿児島市立病院 濱崎 清歌

〔参 考〕
1)新人看護職員研修に関する検討会 報告書,厚生労働省,p1, 2011年2月14日
2)「2011年 病院看護実態調査」結果速報,公益社団法人日本看護協会 協会ニュース3月号,vol.536,p3,2012年3月15日



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