 |
図 1 痔 核
|
 |
図 2 見張り痔
|
 |
図 3 直 腸 脱
|
 |
図 4 子どもの痔瘻
|
 |
図 5 瘻孔の走行は大人とは異なる
|
混雑する外来待合室で赤ちゃんがいるのを見て,「あんな子どもでも痔になるのか,痛いでしょう,可哀想に!」と心配してくれる人がいる。赤ちゃんでも結構痔の悪い児はおります。赤ちゃんの肛門疾患につき簡単に説明してみます。
*痔核,肛裂
赤ちゃんにも案外多いものです。かねて排便の正しい癖をつけておくこと。子どもが排便の気配が見えたら率先してトイレに連れて行き姿勢を取らせ,力ませる。子どもが幼稚園とか小学校に行く前に排便の癖をつける。次に繊維食の多い野菜・果物などバランスの取れた献立を立て,調理,味付け,盛り付けを工夫して偏食させない。それには長子を上手くしつけておけば,次子らは見習うものだ。
痔核(図1)が出たらなるべく早く坐薬なり軟膏なりを使用して押し込んでおく。長く放置すると括約筋が緩んでくる。しかし,子どもは成長するに連れて括約筋が閉まり自然に治癒してゆくものだ。肛裂に伴って“見張り痔”(図2)という突起が出るが,これが意外に大きくなってくると特に祖父母達は奇形かと思って非常に心配する。しかし,便秘しなくなれば突起も収まるようになるものだ。人間の自然治癒力は強い。
*お尻かぶれ(肛囲湿疹)
最近は子どもの栄養が良くなったので昔ほど見掛けない。オムツの化学物質に注意。また,子どもはかくれんぼなどでどんな藪の中でも入り込んで遊んでくる。昔は漆とか蝦蟇蛙などがいるし,腸管寄生虫として蟯虫を痒がったりもした。今までは祖父母が注意していたが,核家族が多くなった現在では親は知らずに過ごすこともあるようだ。
*鎖 肛
腸管の発育途中で直腸が肛門と繋がらなくなった場合もある(口側の兎唇に似た現象)。両親,祖父母達は赤ちゃんの尻を見て仰天するが,現在小児外科も麻酔科も非常に技術が進歩しているから早く専門科に連れて行けば痕跡も残らないように手術ができる。
*直腸脱(図3)
脱出したら早めに完納する。子どもが成長するうちに排便管理により自然に治癒する。麻酔科,小児外科の進んだ現在,勿論手術もやりやすい。
*痔 瘻(図4,5)
赤ちゃんの痔瘻は私の一番興味を持つ病気だ。判らない点が非常に多い。まず男児のみで女児には絶対に見られない。また,2〜3週間ぐらいで必ず左右対称にできる。大人と違って複雑痔瘻までに進行しない。これらの原因についてはホルモン説,遺伝説,男女の肉体構造説など色々あっていまだに定説がない。不思議な病気だ。
まず尻が腫れて痛がる。おしめを替える時,左右の大きさ,色が違う。おんぶした時やお尻のある部分を触った時,急に泣き出す。赤ちゃんはお尻が痛いとは言わないから,暢気なお母さんはそれに気付かずにお腹が空いたのかとお乳を与えるだけで誤魔化す。注意深いお母さんが異常に早く気付くことが大事だ。此処で早めに切開すれば途端に泣き止んで機嫌が良くなる。生まれたばかりの赤ちゃんにメスを当てることはご両親にとっては大問題だ。意外に出血する。しかし,膿汁が大部分だから心配はない。抗生剤より切開がベターだと思う。ただコツは痔瘻が両側にあることを注意しなければならない。若い両親にとってはお尻の両側にメスを入れることは耐えられない苦痛だろうがとにかく早い方が良い。
後でまた化膿することがあるが,次第に間隔が伸びて程度は軽く小さくなり,そのうち消えてしまう。
子どもを発育途中に大病させて発育を障害させたりしないこと,かかりつけ医と相談して順調な発育に心掛けることだ。
赤ちゃんにも肛門病は意外に多いものだ。偏食の注意,排便のしつけ,順調な発育などに気を付けていただきたいものだと思う。

|